ガールズ&パンツァー ~捨てられた男の娘~ 作:ニキ・ラウダ
ビデオ判定の結果、セナの放った砲弾がⅣ号の砲弾が当たる少し前に当たっていた事が判明し、大洗女子学園の勝利となった。観客席からは大歓声が上がり、あんこうチームのメンバーも喜んで抱き合っていた。
しかし・・・遥か後方に停車しているポルシェティーガーの車内は大騒ぎになっていた・・・何故ならセナが倒れてしまったからだ。セナの身体的事情を知ってるナカジマは、汗をかきながらハァハァ言っているセナのおでこに手を当てると、手が火傷しそうなくらい熱かった。
「凄い熱!ホシノ!私のケースから熱さまシート持ってきて!」
「わかった!」
ホシノは慌ててナカジマのケースの元へと向かい、熱さまシートを取り出すとナカジマに手渡した。
「ありがとう!」
ツチヤは用意周到なナカジマに驚いていた。
「用意周到だね。」
ツチヤにそう言われると、ナカジマは頭の後ろをかきながら言った。
「セナは昔から精神的な負担があったり、集中し過ぎたりすると頻繁に熱を出してたからね。セナと行動する時は大体持ち歩いてる。」
ナカジマはセナのおでこに熱さまシートを貼ると、スズキに向かって叫んだ。
「運営本部に救護車寄越すように連絡っ!」
「了解!」
セナはゆっくり目を開けるとナカジマの手をゆっくり掴みナカジマをじっと見つめ、涙を流しながら言った。
「ナカジマさん・・・ここで呼ばないで・・・みほさん達に見られたくない・・・せっかく優勝したのに・・・その空気を壊したくないよぅ・・・」
シクシク泣いているセナを見てナカジマはでこに手を当て、溜め息をついた。
「後々バレるよ?」
「その時・・・その時までで良いから・・・」
ナカジマは優しく微笑むと、「わかった」と言ってセナの頭を撫でた。ナカジマはツチヤに車両を動かす様に言った。
「ツチヤ!西住さん達から見えない位置までティーガーを動かしてっ!」
「オーケーッ!」
ティーガーは学校の敷地内を抜けた所で停車し、しばらくして救護車が到着した。ナカジマはセナが運ばれていくのを確認すると自分達の陣地へ帰って行った・・・
セナが目を覚ますと、そこは救護テントのベッドの上だった・・・身体はほとんど動かない。テントの入口から父親であるラウダがやって来た・・・ラウダはセナを心配そうに見つめている。
「セナどうだ?気分は悪くないか?」
セナはニコッと笑うと、ゆっくり頷いた。ラウダはセナの横に行きセナの頭をゆっくりと撫でる。
「実はセナに会わせたい人が居てな・・・」
セナは不思議そうな顔をしてラウダを見た。
「誰・・・ですか?」
ラウダは真剣な顔付きでセナに言った。
「セナがとても会いたがっていた人だ。もし今日が無理なら日を改めよう。」
セナは首を横に振った。
「いえ・・・会います。お父様がそこまでして私に会わせたい方は、きっと私にとっても重要な方なのでしょう?会わせて下さい。」
ラウダは「わかった」と言うと、テントの外へと出ていった。ラウダと入れ替わりで入ってきたのは、西住流の次期家元であり、セナの産みの親である西住しほだった。
セナは彼女を見ても熱で怒りは沸いて来ない、沸いてくるのは悲しい気持ちと甘えたいという気持ちだった。セナはゆっくりと挨拶をした。
「お久しぶりです・・・お母さん」
しほは成長し、捨てた我が子を前に何も言えないでいた。セナは微笑むとゆっくりとしゃべった。
「私は、あなたに捨てられた時・・・凄く悲しかった・・・怒りよりも悲しみが強かった・・・ただ『何で?』って気持ちが頭の中を行き来してて・・・それは最近まで続いていました・・・」
しほはセナの言葉に泣きながら、ごめんなさいと言った。
「でもね?私知ってるよ・・・お母さんが私が嫌いで捨てたんじゃないって・・・私を引き渡す時泣いてたのも・・・私が産まれた時、抱っこして泣いてたのも・・・全部知ってるよ?だから・・・泣かないで・・・謝らないで?悪いのは西住家でお母さんは悪くないんだよ?」
セナはそう言うとしほの頭を優しく撫でた。
その後、セナはしほに甘えん仿の子供のような表情をして両手を前に出した。
「お母さん抱っこ♪」
セナにそう言われたしほは、微笑みながらゆっくりとセナを抱き上げ、セナは笑いながら「お母さん」と言いながら、しほに抱き付いた。
一方大洗では優勝した喜びをを皆で分かち合っている所へ、優勝の立役者達を乗せているであろうポルシェティーガーとⅣ号が帰って来た。まずはⅣ号のメンバーが降り、皆から拍手が送られた。続いてポルシェティーガーのメンバーが降りてくるが、みほはポルシェティーガーにセナが乗っていなかったのに気付き、レオポンチームのメンバーにセナの所在を尋ねた。
「セナさんは?」
セナの所在を聞かれたレオポンチームのメンバーは罰が悪そうにしており、ナカジマがセナの所在を話した。
「セナは今救護テントに居るよ。」
ナカジマの言葉を聞いた皆は心配そうな顔をしていた。特にみほはナカジマに掴みかかりそうな勢いで顔を近付けた。
「セナさんに何があったの!?無事!?」
ナカジマはみほの肩を掴みセナの容態を話した。
「西住さん落ち着いて?試合終了後に倒れたんだけど、大丈夫みたいだよ?さっきセナの親父さんから連絡があって、熱も下がってるみたい。閉会式には出られるってさ。」
みほは、セナが無事と知るとホッと手を撫で下ろした。
閉会式が始まる直前に体調が回復したセナが合流し、セナは皆に倒れた事を何も言わなかった為に怒られた。
閉会式も終わり帰る頃・・・黒森峰のトラックの前で、まほとダージリンとオレンジペコが何やら話し合いをしていた。どうやら、セナに対し異常に執着していたマウスの砲手について話をしているようだ。
「あのマウスの砲手はどう致しますの?」
ダージリンは目を閉じて紅茶を呑みながら、まほに尋ねた。まほは表情を変えずに淡々と口を開く。
「あの砲手については、こちらも問題視している。命令無視に他校の生徒に対する侮辱とも取れる発言・・・後に色々と問い詰めた所、チームメイトに対する脅しや、チームメイトの手柄を自分の物にしたりしていたそうだ。間違いなく黒森峰には居られなくなる・・・それにセナに対する発言は戦車道連盟からも問題視されていて、厳しい処分もあるそうだ。」
オレンジペコはホッとしたような表情を見せた。
「それなら安心ですね・・・」
セナとみほが、まほの方へゆっくり近寄るとまほがこちらに気付き、笑顔で歩み寄ってきた。
「2人とも優勝おめでとう。みほの戦車道は素晴らしい物だった。」
まほにそう言われた瞬間、みほは笑顔になった。
「お姉ちゃん!ありがとう!やっと見つけたよ!私の居場所!」
みほの言葉を聞いたまほも笑顔で「あぁ」と答えた。
そのやり取りを見たセナは自然と笑顔が溢れてきた。それはそうだろう・・・戦車道を再びやろうと思ったのは、みほの居場所を守りたいという想いからで、その役目を今日果たせたのだから。セナが2人の時間を邪魔しまいとまほに背中を向けた瞬間、まほに呼び止められた。
「セナ!」
セナが後ろを振り向くと、まほが深々と頭を下げていた。
「ダージリンから、ウチの部員の発言を聞いたせいで試合中に体調を崩したと聞いた・・・ウチの部員が迷惑を掛けて本当に申し訳ない。」
セナは優しい笑みで、下がっているまほの頭をゆっくりと起こした。
「まほさんが謝る事はありません。まほさんは悪くないのですから・・・。それよりも、マウスの乗組員の方々の心のケアをよろしくお願いします。」
まほはセナの優しさに涙が出そうだった。自分も辛い思いをした筈なのに、何故こんなに他人を気に掛け、優しく出来るのだろうと・・・。まほはセナの頭を軽くポンポンと叩くとトラックに乗り込み帰って行った。
その後。凄い剣幕でオレンジペコが歩いて来た。
「セナは甘すぎます!自分の事を後回しにし過ぎなんです!たまには自分を大事にしてください!今日だって・・・今日だって・・・マウスに乗ってたアイツに何か言われた時も体調崩したのに無理やり身体を動かしてっ!あんなに辛い顔をしながらっ!」
オレンジペコは途中で言葉が詰まり、涙を流した。それを見たセナは背伸びしながら、オレンジペコの頭を撫で謝った。
「ごめんね?ペコちゃん心配ばかり掛けて・・・私もペコちゃんを不安にさせないように頑張るから。」
その光景を見たダージリンは溜め息をついた。何故なら、またオレンジペコのセナへの想いが強まりさらに過保護になってしまうからだ。そしてセナも帰る時間になったので、オレンジペコとダージリンに挨拶をすると、腰に手を当て少し怒っているみほの元へ帰って行った。
その後学園艦へと戻った少女達は、ファミレスを貸し切り祝勝会を行いました。
とある場所で、前文科省の辻大臣の一派がなにやら企んでいた。1人の男はニヤ付きながら仲間と話をしている。
「現大臣の弱みを握り、大洗を廃校にするように脅しをかける・・・やられっぱなしで居ると思うなよ?我が辻一派の恐ろしいさを思い知るが良い!」
男は高らかな笑い声を出しながら天井を見上げた。
とりあえず1章終了って感じかな?