緑谷出久がT.A.Sに目覚めたようです。 作:毎日健康黒酢生活
世界総人口の約8割が超常能力“個性”を持つに至った超人社会。
超常の爆発的増加に伴い比例するかのように増加していく犯罪率。
“個性”を悪用する犯罪者。
それを敵――<ヴィラン>と人は呼ぶ。
逆にヴィランを“個性”を発揮して取り締まる者達。
それを<ヒーロー>と人々は呼び、称えている。
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俺の幼馴染は頭がおかしい。
ガキの頃から突然うろうろし始めたかと思えば、その場をグルグルと回り始めたり、謎の儀式を始めたりする。
ぼさぼさの緑の髪とそばかすだらけの地味な見た目。それでいてヒーローや奇行のことになると急に饒舌になるから普段の行動も併せて周囲からは距離を置かれている。
ある日、不思議に思って思わず奇行の理由を尋ねてみた。
「おい!クソナード!一体テメェは何やってやがる?」
「…………。」
「あ゛あ゛ぁっ!?」
「…………。」
微妙な間の後におどおどしながらもあっけからんと答える。
「乱数調整。」
「ンだよ!?その微妙な間は!?」
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ガキの頃、俺が取り巻き共と虫取りに行くと息巻いていた時も他の連中は虫取り網や虫かごを持ち寄って裏山に集まったのにアイツだけただの空き瓶を一つだけ持ってきやがったことがあった。
この頃からナードの奇行が目立つようになってきたこともあり、取り巻き共が訝し気にナードを見て俺に視線を移すから理由を聞くと訳の分からねぇ妄言を言いやがる。
「かっちゃん、この空き瓶で虫を捕まえるとね!」
「オカリナの音色がするんだ!」
「「「……はぁ???」」」
笑顔で「どんな音だろうね~。」と笑い続けるナードの様子に思わず俺も取り巻き共と一緒に呆けた返事をしてしまう。それが悔しくなって、一番最初に捕まえたカブトムシをアイツの顔の前に持っていき息巻いて挑発をした。空き瓶からオカリナの音色なんかするわけがない。そんな常識の元におかしなことを言うナードを吊るし上げようと取り巻き共を集めてナードを囲んで実演を促した。
「おい!デクぅ!虫捕まえてやったからその瓶に入れてみろよ!何にも起こらなかったら帰りにみんなの荷物持って下りろよ!!!」
「わぁ!かっちゃん!こんなに大きいカブトムシいいの!?」
そう言って、ナードが空き瓶の中にカブトムシを入れて少しだけジャンプをして瓶を振ると、どこからともなく綺麗なオカリナの音が周囲の森に響いた。
「―――♪―――♪」
「「「すっげー!デクぅ!どうやってんだ!?」」」
「ダメだこいつ。早く何とかしないと。」
結局、荷物はそれぞれが自分の物を持って帰ることになり、帰り道の駄菓子屋でナードがまたしても奇妙なことを言いだした。
「ねぇ、みんな!今なら一本分のアイスのお金だけでみんなの分ももらえるよ!」
「えっ!?マジ!?デクがそう言うならみんなで出し合って買ってみようぜ。」
裏山での奇妙な出来事の後だったからか取り巻き共の中から誰ともなく賛同の声が上がり、一度だけならと全員でお金を出し合って当たり付きのアイスを買うことになった。
「おばちゃん!コレください!」
「はいよ~。60円ね~。」
「ありがと!また来るね!」
「はいはい。アイス当たるといいねぇ。」
おばちゃんからアイスを受け取ったナードは一目散に俺の方に向かって来てアイスを差し出す。
「はい!かっちゃん!カブトムシのお礼!」
「これで当たんなかったらみんなの分買えよ!デク!」
アイツの化けの皮を剥いでやろうとアイスを味わいもせずに貪って当たりはずれを確認するために口から勢いよくアイスから棒を抜き取り、みんなに見えるように掲げてみせる。どうせはずれていると思った俺は取り巻き共の反応が目を見開いているものだと気づいて、棒を反転させてみんなに見せていた方を確認する。
「……ウソだろ。」
そこにはナードの予言通り『あたり』と書かれていた。
それを確認したナードは俺の手から当たり棒を引き抜き、腕をブンブン回しながら奇妙なステップで駄菓子屋の中に入っていっておばちゃんに当たり棒と商品の交換をねだっていた。
「おばちゃん!当たったよ!もう一本頂戴!」
「あらあら、良かったね~。……はいよ、また当たるといいね。」
ナードは新しく貰ったアイスを取り巻きの1人に渡していく。
また一人、また一人とアイスを食べると当たり棒が出てくる。結局、そこにいたメンバー全員がアイスの当たりを引き続けて、一本分の値段でみんながアイスを食べることができた。
俺はその時からアイツの個性は「なんだかよく分からない行動をするとなんだかよく分からないことが起こる個性」だと認識した。
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「かっちゃん!またデクが訳分かんないことやってるからこっちに来て!」
ある日、中学で同級生からあいつが壁に顔面をぶつけながらひたすら歩いていると通報を受けて様子を見に行くと、教室の外の壁に向かって歩き続けるナードがいる。
いつからかこいつの奇行が始まった時はモブ共は気味悪がって俺に報告するようになり、俺は内申点の為に仕方なく問題児の奇行を止めるようになっていた。
「おい!クソナード!何、壁に向かって歩いてやがる!?お得意の乱数調整か?」
「助けて。」
「……は?」
「助けて、かっちゃん。」
「desyncした。」
「死ね!!!ボケが!!!」
エンディングだぞ、泣けよ
>ただの空き瓶で虫を捕まえるとオカリナが吹ける
ゼルダの伝説 時のオカリナ