お客様の不注意によって生じた副作用に当社は一切責任を負いません。
* 装置を稼動させるには高いエネルギーが必要なので多少の充填時間が必要です。
——とある時計の使用説明書より抜粋
◤◢◤◢注意◤◢◤◢
この話はプロローグなので、ひぐらし要素はないです。
——“
製造元の会社は今となっては分からない程古い時代に作られた時計の事だ。すでにこの時計の生産は中止されていて恐らくだがこの世で一つしかない時計だ。
『……どん底まで落ちてしまって、もうこれ以上方法が見えませんか?
あの時、他の選択をしていたら、という思いに囚われていませんか?
病気や自然、宇宙をも征服した我々人類は ついに時間までも征服しました!』
という謳い文句の元、販売されたこの時計には全人類の望みとも呼べる機能が備わっていた。
『私たちはあなたが浪費した時を巻き戻すことができます。
使い方は簡単! ただネジを回してから、目をつぶって10秒数えてください。目を開けたら、あなたの過ぎてしまったあらゆる時が待っているはずです』
真空管ランプがデザインされているこの時計はなんと時間を遡る事ができるのだ。使用には莫大なエネルギーが必要とされリスクも相当なものなのだが、それらを踏まえても十分に利をもたらす物である。
……突然だがここで私の身の上話をさせてもらおう。
私は警察官である父と図書館司書の母の間でこの世に生を授かった一人の人間である。兄弟はおらず二人は物心つく前に交通事故でこの世を去っていったらしい。私をここまで育ててくれた親戚の叔母さんからそう話を聞いた。
昔から私はどこか人とは違うのだ、そう思いながら生きてきた人生だった。
小学校の頃は飼育委員に立候補し、学校で飼っていた二羽の兎の飼育を行っていた。中学、高校になると学校単位で何かを飼育することがなくなったので、家で犬を一匹買ってもらった。
兎も犬も人と同じで生きている。それ即ちある時、突然の別れというものが訪れることがあるということだ。私が今まで生きてきた中で何かと生物を飼育しようと試みてきたのにはそれが理由だった。
小学校で飼育していた兎の内、一匹は私たちが学校を卒業するのを待たずに年を取ってこの世を去っていった。また、家で飼っていた犬も高校卒業間近の時、心臓疾患で死んでいった。
そのどのシーンを切り取っても、私は涙一つ流さず、心に何も響くことがなかったのだ。
私自身、悲しいという感情は持っているつもりだ。しかし“死”という概念に対しては関心を持たなかった。
いや、持てなかったといった方が正しいのかもしれない。
自分の中がどこか壊れてしまった原因に心当たりはあった。幼少期の両親の他界だろう。物心ついてないとはいえ、その一件で私は生き物の“生”を真っすぐ見つめることができなくなったのだと思う。自分自身のことまでも。
そんな時だった。
“
The Lobotomy Corporationは環境に優しいクリーンなエネルギーを生産する会社らしい。そしてどうやらその生産力は並大抵の電力会社を凌ぐ程だそうだ。
正直言って私はこの広告を見たとき、どこかの誰かの悪戯だろうと鼻で笑ったのだ。それもそうだろう。“The Lobotomy Corporation”なんて会社今まで生きてきた中で一言も聞かなかったからだ。試しにネットで検索してみたものの私が求めている情報は見つかることはなかった。
しかしホームページに明記されていたその会社のスローガンが私の心に大きな印象を与えた。
“
その言葉は今まさに人生の路頭に迷っていた私に必要な言葉だった。私はすぐさま記されていた電話番号をかけた。その時はもはや藁にも縋る気持ちだったと思う。
電話に出たのは少し声の低い女性だった。まるで人を人とも思っていないような無機物を連想させる声だった。
その女性曰く、貴方はこの会社で働く素質があるとのこと。あの広告も素質のある人にしか見つけることができないらしい。発達している技術と人の潜在意識に呼び掛けるカウンセリングの融合らしい。
そして私は彼女の言葉に従い、日本から遠く離れた異郷へとやってくることとなったのだ。
因みに余談だが私はこの会社が設立して以来、最年少の職員らしい。まだ大学も卒業せずこっちに来てしまったから致し方ないところもある。叔母さんには突然家を出て行って申し訳ないことをしてしまった。もう二度と会うことはないだろうが。
察しの良い人ならもう気付いているだろうが、この会社はクリーンなエネルギーを危険極まりない手段によって生み出していたのだった。具体的には怪物……というか“概念”の様なもの、“アブノーマリティ”を管理してエネルギーを抽出するのだ。勿論その行動には安全ではなく、昨日まで話していた同僚や先輩、後輩が明日には肉塊へと変わっていることなんて日常茶飯事だ。
だが、私はこの会社をとても気に入っていた。何故ならば、私は“死を感じる事”がとてもうれしいことだったからだ。ここで働いている間だけ私は“生”と向き合うことができるからだ。
……話が長くなったがこれが私がこの殺伐とした会社に勤務する事となった経緯である。ここからどうやって冒頭の話に繋がるのか。それについては偏にアブノーマリティの脱走が原因だった。
アブノーマリティの中には“逆行時計”のような生きていない置物のようなものもあれば生きているものも存在する。それらが与えられている収容部屋から脱走するのだ。それはもはやA級手配の殺人鬼が歩いているのと等しいことである。いや、たかが殺人鬼ならいくら良かったことだろうか。
そして一体でも脱走すると面倒くさいアブノーマリティだが、稀に偶然が重なり大量脱走が起こる。その日も突然のアラームが緊急の知らせを知らせ社内に緊張が走った。
私はその時既に入社して結構な日数が経つベテラン職員だったのだ。未だに身長は160も超えていなかったが。
しかしながらその日は私が入社して以来一番酷いものだった。最後に聞いた損害報告は全体の約七割がアブノーマリティによって落とされていた。これはこの会社が設立して以来の大規模な“
そんな手も付けられなくなった状況だったがここで上は一つの指令を出した。それが“逆行時計”を使用することだった。
前述のとおり逆行時計には時を遡る機能が備わっていた。これを使用することによって各アブノーマリティが脱走する前まで時間を戻そうという算段だった。
しかしながらここで一つ問題が発生した。誰がこの装置を起動するかという話だ。
実を言うとこの装置エネルギーを溜めて使用した時最後に触ったものは時空の彼方に飛ばされる……らしい。そしてもう一つ条件があり、起動させる人が十分な技能を持っていないとその時計を中心とした半径十キロの生物が死んでしまうというものだ。これらの事はこの時計の説明書に記されていいたことだった。要はこの会社を守る代わりに誰か一人が犠牲になる必要があったのだ。
当然誰が行くか、と探り合いになった。だが事態は一刻を争っていた。もたもたしている時間がない。しかし……、と部署内で沈黙が続いた中、
『自分が行きます』
私が名乗りを上げた。
仲間の制止を聞かず、急いで私は“逆行時計”が収容されている場所へと向かった。この時、胸の中に自然と恐怖は湧かなかった。この時の私は、かつて心を塞いで目を背けていたあの時の自分ではなかった。数多くの人を守り、未来に希望を託す、そんな存在となっていたのだ。
収容部屋へとたどり着いた私の前には、ごうごうと音を立てて光り輝いている古く人並みの大きさを持つ時計が置かれていた。
私はその時計に付属しているネジを躊躇なく掴み、回し始めた。
思えばこんな私だったが何かの役に立てたのか、と思いふける自分がいた。この身が消滅してしまうことに恐れなんてものはなかった。強いてあげるとすれば、遥か遠くの故郷に置いてきたここまで育ててくれた叔母さんに感謝の手紙を書けなかったことが唯一の気掛かりだった。
収容部屋に次第に光が満ちてきた。目の前の時計が熱を放つ。
そして私の視界は真っ白に染まり——
カナカナカナカナ……
キキキキキキキ……
気が付くとそこは目を見張る程美しい夕焼けが一面に広がっていた。
ひぐらしのなく頃に 逆戻り編
天国とはかくも美しい物なのか。
この光景を見るとやはりそうなのかと思えてしまうほどに目の前を沈んでいく夕日は私の心を優しく照らしていた。
「綺麗だな、響也」
そう誰かが私に話しかけてきた。
振り向くとそこには私の背丈を軽く超える身長の男性がいた。
というか私の父だった。
私は自分の両親にあった記憶は無いが、よく叔母さんが私に彼らの写真をよく見せてくれたのだ。だから目の前の男に面識がなくても私は彼の事を見間違えるはずも無く正真正銘私の父であると理解する事が出来たのだ。
なぜここに父が、とは思わなかった。何故ならここは死後の世界なのだからだ。あの日“逆行時計”のネジを回した時に私の人生は幕を閉じていたのだ。
「パパー、響ちゃーん、そろそろ行こうよー」
少し離れたところに止めてある車の傍でそう声を出して手を振っている女性も、間違いなく、私の母だった。
どこか厳しい印象を持たせる父とは逆に、写真の中の母はいつもふんわりと笑っていた。陰と陽の様な2人だった、と叔母さんは少し笑いながら言っていたが、それもあながち間違いではないと今となってはそう思う。
何故なら
私の両親は二人一緒に死ぬ時までお互いを思い、愛し合っていたのだろう。
そんな2人の事を目頭が熱くなるのを感じた。
嗚呼、こんな私にこれ程までに幸せな事が有っていいのだろうか。こんな私がこれ程までに報われて良いのだろうか。最早目なら流れ落ちる雫を抑えることは出来なかった。
困惑している父に向かって思わず私は抱きついた。私の手から感じる温もり、生命の鼓動、それらが生きているということを証明するものであった。
もしかすると私はどこか心の中で彼らに会えることを期待していたのかもしれない。死ぬことで私は父と母2人の元へ会いに行けると思っていたのかもしれない。
「どうした響也、新しい所に来て感動しているのか」
そうどこか的外れなことを言う父を見上げる。彼の言っていることはあながち間違ってない。新しいところ。新しい居場所に来ることが出来て、私はこれほどまでになく感動しているのだった。
父は泣きじゃくる私を軽く抱っこして母の待つ車へと向かった。
父と母の話を聞くに、どうやらこの車はつい先日建てたばかりの新しい家へと向かうとの事。
車に乗り込んで車の窓を落ちない程度に開けてみる。どこか懐かしさを感じる匂いがして一日の終わりを連想させるような夏の風物詩の
因みに主人公は身長150センチメートル、体重40キログラム、細身の美青年です。
……要は見た目がショタですね。
可愛らしい黒髪の子を想像していますが、皆さんはどうでしょうか。
意見などあれば是非。
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