番外~錬と凛のゲームの話~
「そう言えば、錬と凛ちゃんの世界のゲームってどんなんだったの?」
あの話し合いから数十分後。兄さんが夕食の席で唐突にこんなことを訪ねました。
「どうしたんですか、急に?」
「いやさぁ、樹と凛ちゃんが話し合ってた時に樹が『凄いクソゲーの数々ですね……』って、戦慄してたのが聞こえてな。それでどんなゲームがあるか気になったんだ」
「……なるほどな。だが、『ちゃん』付けは止めてくれ」
兄さんの言葉に凛さんは頷くもの、恥ずかしさからか顔を赤らめて目をそらしました。
「……そうだな一言で言うなら『玉石混淆』だな」
「あ、そうなんだ」
「まあな……どっちかと言うと7割のクソゲーの泥のスープに2割の普通ゲーと良ゲーの石に1割の神ゲーという宝石の玉石混淆だったけどな……」
凛さんがそう言うと、錬さんが遠い目をしながらそう言いました。
「『
「特に姉さんが巻き込まれたSAO事件の時は大変だったな。日本中がてんやわんやの大騒ぎだった」
「その事では苦労をかけたな」
「待ってください、いきなりなんか凄いキーワードが飛び出したような……」
私が事件について聞くと、凛さんと錬さんは説明を始めてくれました。
「どっちもリアリティを『求めすぎた』奴等の作品だよ。鯖癌はVRが『脳に電流を流す』、『バーチャルなリアリティ』を悪い意味で知らしめて……」
「SAOは開発者……『
……本来は『デスゲーム』にするつもりだったらしいが鯖癌事件のせいで已む無くオミットしたらしい」
「逆だったらVRその物が滅んでたんですね……」
「その後で『
「その人何をやらかしたんですか?」
私が錬さんが憎々しげな顔で言った事について聞くと、錬さんは「思い出したくもないがな、あんなクソ研究」と前置きを置いて答えてくれました。
「人の感情や意思をコントロールするっていう方法を作るための研究にSAOに囚われた人達の一部をALOに移して『実験』したんだよ。姉さんは、その『
…………そのせいで、『キリト』や『サチ』さん……SAOでの戦友や俺と詩乃みたいな現実世界での知り合いと戦うなんて真似をやらされたんだ」
「なんて非人道な……!」
「許せねえ! 人間をなんだと思ってやがる!」
「なるほど、確かにクソ野郎ですね」
「屑以外の何者でもないわね!」
「人間じゃねえな、そいつ!」
「許せない!」
私達がそのクソみたいなやり方に憤り、錬さんも「そうだな、今でも思い出す度に腸が煮えくり返るからな……」と暗い顔でそう言いました。
「…………まぁ、最終的に色々と手助けがあって誰にも後遺症が残らずに帰れて、須郷も捕まったのだがな」
「見苦しく俺やキリトを殺そうとした須郷を『くたばれ外道!』とか言いながら後ろから蹴り飛ばした姉さんは今でも記憶に残ってるよ」
「そいつが捕まったのは良いんですけど、よくVRMMOが潰れませんでしたね?」
私が疑問点を述べると、凛さん達は苦笑いをしながら答えてくれました。
「それは『ザ・シード』と呼ばれる『お手軽VRMMO製造プログラム』が配布されたからだな」
「その影響で更に混沌とした様子になったけどな……」
「そんなに混沌だったのか?」
「ああ、あえてザ・シードを使わないVRMMO……通称『チャレンジャー』もあったからな。『なんでザ・シードを使ったのにこうなるんだよ!?』なゲームや普通にクソゲーなチャレンジャー、ちゃんとしたゲームに神ゲーとも言えるようなチャレンジャー……まさにVRMMOのごった煮だったな」
「その中でも面白いものはあったけどな」
「クソゲーもありましたけどね……」
樹さんが凛さんの言葉に苦笑いをすると、凛さんは「それじゃ、それらを紹介するか」と言いました。
「最初は『便秘』……『ベルセルク・オンライン・パッション』だな」
「略称からそこはかとなくクソゲーの臭いがする……」
「実際クソゲーだしな。通称が『超次元バグゲリラリズム格ゲー』だぞ?」
「凄い通称ですね!?」
「実際……腕が伸びるだの攻撃が三倍速になるだのの人外バグがNPCにも適用されるせいでラスボスから放たれる6フレームでフィールド全域をカバーする攻撃を予備動作から予測してリズムゲーの如くカウンターしなければ勝てないからその通称なんだけどな。私をクソゲーの沼に半分引きずり込んだ
6フレーム……0.1秒!? 人間の動体視力超越してません!?
「次は『世紀末円卓』……『ユナイトラウンズ』だな」
「世紀末……略奪ゲーかな?」
「本来は『
モラルもへったくれもないですね……
「挙げ句の果てに一人のプレイヤーがNPCの王国を掌握してラスボスと化したからな……まあ、ALOの時に手助けしてくれた人の一人だからあんまり強くは言えないが……」
プレイヤーがラスボスと化した……って、どんな悪辣な事をしたんでしょうか?
「次は『ネフホロ』……『
「どんなゲームなの?」
「要約すると、ネフィリムというマネキンみたいな巨人が落ちてきてなんやかんやあって文明が滅んだ世界で武装させたネフィリムに乗って戦うというロボゲーだな」
結構面白そうですね。
「結構面白そうだな」
「操作性がクソゲーレベルで難しくなければな……」
「? どういうこと?」
「一言で言うなら操縦方法が『コックピットに乗り込むタイプ』じゃなくて『機体と融合するタイプ』だからこその難しさになったからだな。元康、お前一人でボーカル、ベース、ギター、ドラム、キーボードをやれって言ったら出来るか?」
「無理!」
「つまりそういう事だ」
…………やることが多すぎて操作が複雑になりすぎたんですね。
「次は『GGO』……『ガンゲイル・オンライン』だな」
「あ、これは分かりやすい! 銃を持って戦うんでしょ!」
「世界的には『世紀末な未来世界で』が付くがな。…………錬と詩乃が付き合う切っ掛けになった『
「……どんな事件だったんですか?」
樹さんが聞くと凛さんはしかめっ面をして話始めました。
「事件としては銃で撃たれたプレイヤーが実際に死ぬというものだったんだが……トリックとしては単純なものでゲームでの実行犯がアバターを殺害後、現実世界での実行犯がそのプレイヤーの住居に侵入して殺害というものだった。……問題はその共犯者に詩乃と錬の共通の友人がいたことだな」
「それは……大変でしたね」
「ああ、あいつは詩乃に歪んだ恋心を向けていてな…………詳細は省くが正当防衛で強盗犯を射殺してしまった詩乃を『悪を成敗した
「最終的に俺がぶっ飛ばしたけどな。…………まあ、あいつの親がくそな奴等だったから同情できる部分もあったんだけどな」
あー……歪みやすい環境にあったんですね?
「だからといって昌一……あいつの兄の言葉にも耳を貸さないのはないだろ」
「そう、だな」
「…………僕らって、恵まれてたんですね」
そうですね…………
「気を取り直して次だ。次は『シャングリラ・フロンティア』……私の一番のお気に入りのゲームだ」
「どういうゲームなんだ?」
「端的に言うなら未来的な古代人が滅んでその後に魔法もある中世的な世界が出来たゲームと思ってくれ」
つまり、魔法も機械も出せる世界観って事ですね。
「どうしてお気に入りになったの?」
「ああ、やり始めてすぐは普通のVRMMOと思っていたが……あるクエストの際に普通のゲームじゃないとわかってな。それで本格的にお気に入りになったんだ」
凛さんが照れたような顔でそう言いました。
「他には『天誅』を合言葉にログイン、ログボ果てはログアウト時にもPKを仕掛け、新人に根切りをする程の対人ゲーム『
「倫理観やモラルは一体何処へ!?」
本当にそうですよね!?
「『災獣』と呼ばれる天災を巻き起こす怪物が迫る中でのんびり農業をしろと言う内容のクソゲー『スリリングファーム』」
「馬鹿なのか、それ!?」
一体どのようなゲームなんですかそれ?
「最後は良作だが、馬が無敵なんで少し不満が残る格ゲー『キャバリー・クライシス』だ」
「まぁ、動物愛護的にはいいんだけど……」
「不満が残るのは確かですね」
私がそう言うと、凛さんは「そうだな」と言った後でこう言いました。
「と、まあこんな感じだ。他にも色々あるんだが……長すぎない方が良いと思って、数を押さえた。で、参考になったか?」
「うん、まあそうだけど……」
「2、3程社会的にもとんでもない事件の連発で大変でしたね」
「しかも内3つも巻き込まれたしな……」
「まあ、な……」
「ああ……」
私は凛さんと錬さんの『まだあるんだよなー』的な苦笑いの顔が妙に印象に残りました。
次回『論功式~たまごガチャ~』
お楽しみに!