新年一発目行ってみよー!
「オラオラオラオラオラオラオラ!」
「『スパイラルエッジ』!」
「しっ!」
親父さんの店を出た私達は草原を拠点にしてバルーン系統を中心に狩りをしていました。
ですが…………
「尚文さんって本当に攻撃力がありませんよね」
「言うな、自覚はしている」
なんせバルーンを一匹倒すのに5分もかかりますからね…………
「……お腹空いた」
「……あ、もう夕方みたいですね」
「……んじゃあ、帰るか」
……ん? ちょっと待ってください!?
「なんでバルーンを噛み付かせたまま帰ろうとしているんですか!?」
「いや、いざという時の為と……有効活用するためだ」
「有効活用……?」
私は尚文さんの言う有効活用がなんなのかわからずに、尚文さんの後を着いていきました。
城下町に戻ると、魔物の素材を買い取る商人の店に顔を出しました。
小太りの商人が尚文さんの顔を見るなりへらへらと笑います。
……思いっきり足元を見るつもりですね。
先客が居て、色々な素材を売っていきますが……その中に私達が売ろうと思っているバルーン風船がありました。
「そうですねぇ……こちらの品は2個で銅貨1枚でどうでしょう」
バルーン風船を指差して買い取り額を査定しています。
2個で銅貨1枚ですか……まあ、最弱の魔物ですし妥当な値段なんでしょうね。
「頼む」
「ありがとうございました」
次は私達の番なのですが……ニヤニヤと笑って私達を見ている辺り、買い叩く気満々でしょうね。
「おう。魔物の素材を持ってきたんだが買い取ってくれ」
「ようこそいらっしゃいました」
…………尚文さんが探りを入れていて、笑っているのに私達が気が付いていないと思っているんでしょうか?
「そうですねぇ。バルーン風船ですねぇ。10個で銅貨1枚ではどうでしょうか?」
「…………さっきの人の5分の1じゃないですか!? どんだけ足下を見ているんですか!」
「そうでしたかね? 記憶にありませんが?」
何分、うちも商売でしてねぇ……等と商人は言い訳を続けます。
「ふーん。じゃあさ」
尚文さんは商人の胸ぐらを掴み…………
「コイツも買い取ってくれよ。生きが良いから……さ!」
ガブ!←尚文さんがマントに隠していたバルーンが商人の鼻先に噛みついた音。
「ギャアアアアアアアアアアアアア!?」
「何やってんですか!? 『スナイプスロー』!」
私はバルーンをナイフで粉砕します。…………店の壁に突き刺さりましたが、そこら辺は後で話し合うとしましょう。
「このままお前を草原まで引きずって、買い取って貰おうか?」
尚文さんはそう言ってマントの下に隠していたバルーン5匹を鼻を押さえる店主に見せつけます。
でも…………これってただの脅迫ですよね!?
「高額で買えとは言わんよ。でも相場で買取してもらわないと話しにならないからさ」
「こんな事をして国が──」
「底値更新するような値で冒険者に吹っかけた商人の末路はどうなんだ?」
…………殴られた挙げ句、信用を失って客が来なくなり最終的に廃業を余儀無くされますね。
「ぐ……」
睨み殺さんとばかりに尚文さんを恨みがましい目で見ていた商人でしたが、諦めたのか力を抜きます。
「……分かりました」
「ああ、下手に吹っかけたりせず、俺のお得意様になってくれるのなら相場より少しなら差し引いても良い」
「正直な所だと断りたい所ですが、買取品と金に罪はありません。良いでしょう」
…………まあ、確かにお金と物に罪はありませんよね。
それでも相場より少し低め(3個で銅貨1枚)で買い取りました。
「ああ、俺の噂を広めておけよ。ふざけたことを抜かす商人にはバルーンの刑だ」
「だから、それ脅迫ですよね!? あ、これ壁の弁償代です」
「はいはい。まったく、とんだ客だよコンチクショウ!」
私は「な? 有効活用しただろ?」とでも言いたげな尚文さんに一抹の不安を覚えながらもそれでも支えていこうと改めて決意しました。
──────────────
親父さんにマントと衣服の代金を払った後、私達はご飯を食べていたんですが…………
「尚文さん、どうしたんですか? 何か首を傾げていますけど……?」
「……いや、なんでもない」
ふむ……怪しいですね、それじゃあ……
「はい、あーん……」
「? むぐ!?」
私はフォークに刺していた照り焼きを尚文さんの口の中に押し込みました。
「……何すんだよ!?」
「今の料理はなに味でしたか?」
「はぁ……? …………しょっぱかったぞ?」
……………………味覚障害ですか。
「外れです。これ、結構甘いんですよね……味覚がないんですね?」
「…………っち、まぁな」
……………………地雷女、マジ許すまじです。
「盾の勇者様ー仲間にしてくださいよー」
「ええ、お役に立ちますよ~?」
そんな事を思っていると、ニヤニヤと笑いながら冒険者と見られる男女が近寄って来ました。
…………目付きが地雷女そのものです。本気で気に食わないですね。
「じゃあ先に契約内容の確認だ」
「「はぁい」」
今、イラッと来ましたよ…………!
「まず雇用形態は完全出来高制、意味は分かるな?」
「「わかりませーん」」
…………ブッ飛ばしてしまいましょうか?
「冒険で得た収入の中でお前等に分配する方式だ。例えば銀貨100枚の収入があった場合、俺と香が大本を取るので最低4割頂く、後はお前らと女……ウィンディアの活躍によって分配するんだ。お前らだけなら俺達とお前らで分ける。お前らが見ているだけとかならやらない。俺の裁量で渡す金額が変わる」
「なんだよソレ、あんた達が全部独り占めも出来るって話じゃねえか!」
「って、言うかなんで亜人とも分け合わないといけないんですか~?」
「ちゃんと活躍すれば分けるぞ? 活躍出来たらな。ああ、ウィンディアとも分け合うのはウィンディアが香の仲間だからだ」
「そもそも見ているだけの寄生虫なんぞ養う義理もくそもないですしね」
「じゃあその話で良いで~す、装備買って行きましょうよ~」
「……自腹で買え、俺はお前達に装備を買ってまで育てる義理は無い」
「そもそも自前の武器がありますよね? なのに装備を買わせるなんて……『それを持ち逃げします!』って言ってるようなものですよね?」
「チッ!」
「下手に出てれば犯罪者とその仲間風情がいい気になって……!」
…………何処が下手に出てたんですか、何処が。
「じゃあ良いよ。金寄越せ」
「あ、こんな所にバルーンが!」
ガブウ!←バルーンが男の方に噛みつく音。
「足が滑りました」
「手も滑ったわ」
ドゲシ!←私の爪先が女の方に炸裂した音。
ガス!←ウィンディアの拳が同じく女の方に炸裂した音。
「おげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「いでー! いでーよ!」
お店が騒ぎになりますが、尚文さんは素早くバルーンを回収して食事代を払って酒場を出ました。
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…………火力が足んねぇ。
俺『岩谷尚文』はレッドバルーンを殴りながらそう思った。なんせ香達がいないとレッドバルーンも一人で倒せないんだからな。
香……北村香は変な奴だ。俺が殆ど勇者を首にされたんだからさっさと兄貴の元康の下にでも行けば良いのに、最初に着いていくって言ったからと言って着いてくるんだからな…………まあ、だからこそ信頼はしているんだが。
因みに香は今のところ食料の買い出し中で現在別行動だ。
「お困りのご様子ですな?」
「ん?」
シルクハットに似た帽子、燕尾服を着た、奇妙な奴が裏路地で俺を呼び止める。
なんていうかメチャクチャ肥満体のサングラスを着けた変な紳士。
そんな奇妙な奴だ。
中世な世界観から逸脱しており、こいつだけ浮いている印象を受ける。
ここは無視するのが良いだろう。
「人手が足りない」
……………………ち、俺の痛いところを的確に突く言葉だ。
「魔物に勝てない」
…………イラっとする言葉を続ける奴だ。
「そんなアナタにお話が」
「仲間の斡旋なら間に合ってるぞ?」
香達がいるし、何より金しか見てねぇような連中を仲間にする気はない。
「仲間? いえいえ、私が提供するのはそんな不便な代物ではありませんよ」
「ほう……じゃあ何だよ?」
ズイっとその男は俺に擦り寄ってきて声を出す。
「お気になります?」
「近寄るな気持ち悪い」
「ふふふ、あなたは私の好きな目をしていますね。良いでしょう。お教えします!」
胡散臭い奴の好きな目って事は…………かなり鋭い目付きって事だろうな。
俺がそんな事を思っていると、男はシャウトしながらこう言った。
「奴隷ですよ!」
「奴隷?」
「ええ、奴隷です」
奴隷とは、人間でありながら所有の客体即ち所有物とされる者を言う。人間としての名誉、権利・自由を認められず、他人の所有物として取り扱われる人。所有者の全的支配に服し、労働を強制され、譲渡・売買の対象とされた。
確かウィキペディアにそんな記事が書いてあった覚えがある。
この世界は奴隷の販売もあるのか。
「なんで俺が奴隷を欲していると?」
「裏切らない人材」
……………………っ! こいつは…………!?
「奴隷には重度の呪いを施せるのですよ。主に逆らったら、それこそ命を代価にするような強力な呪いをね」
「ほう……」
中々面白い話をするじゃないか。
逆らったら死ぬ。下手に人を利用しようとか馬鹿な考えをしない人材とはまさしく俺が欲している物なのは確かだな。
俺には攻撃力が欠けている。だから仲間が欲しい。けど仲間は裏切るから金を掛ける訳にもいかない。
だから仲間は増やせない。
だけど奴隷は裏切れない。裏切りは死を意味するから。
「どうです?」
「話を聞こうじゃないか」
「…………無茶苦茶怪しいんですけど?」
おっと、香が帰って来たか。
「尚文さん、この人服装的にものすっっっっっっっごく怪しいんですけど?」
「言うな、俺も思ってる。だけどな……裏切らない戦力が手に入るのは良いことだと思わないか?」
「それは、そうですが……」
香が躊躇をしているのは日本から来たからだろうし、凛の仲間であるフォウルとアトラがなんちゃって奴隷だからだろう。
「………………………………わかりました。ただし、私も着いていきます。粗悪な奴隷を押し付けられちゃ堪りませんからね」
「そういう訳だ、構わないか?」
「ええ、構いませんよ」
そう言って、奴隷商はニヤリと笑った。
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裏路地を歩くことしばらく。
この国の闇も相当に深いようだ。
昼間だというのに日が当たらない道を進み、まるでサーカスのテントのような小屋が路地の一角に現れる。
「こちらですよ勇者様方」
「へいへい」
「…………なんかサーカスのテントみたいな所ですね」
俺も思ったことをあっさりと言ったなこいつ…………
「さて、ここで一応尋ねておくが、もしも騙したら……」
「巷で有名なバルーン解放でしょうね。そのドサクサに逃げるおつもりでしょう?」
「もうそんなに噂になっているんですか…………」
ほう……そんな呼び名がつけられているのか。
まあ、たわけた連中に制裁を加えるのに便利な手段だからな。有名にもなるだろう。
香、頭を抱えても噂になっているんだからしょうがないと思うぞ。
「勇者を奴隷として欲しいと言うお客様はおりましたし、私も可能性の一つとして勇者様にお近付きしましたが、考えを改めましたよ。はい」
「…………今、すんごく不吉な事を言いませんでしたか?」
「ん?」
「あなたは良いお客になる資質をお持ちだ。良い意味でも悪い意味でも」
「どういう意味だ?」
「さてね。どういう意味でしょう?」
「…………もしや、誰かに頼まれた? 」
香はぼそりと何かを言ったが聞こえなかった。
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あれから俺達は金貨15枚という大金を必要とする奴隷と奴隷紋の効果を見せられた後、安い奴隷を見せてもらうために歩いていた。
「ここが勇者様達に提供できる最低ラインの奴隷ですな」
そうして指差したのは三つの檻だった。
一つ目は片腕が変な方向に曲がっているウサギのような耳を生やした男。見た限りの年齢は20歳前後。
二つ目はガリガリにやせ細り、反抗的な目で見る犬耳を生やした10歳位の男の子。
三つ目は妙に殺気を放つ、目が逝っているリザードマンだ。ただ、なんかリザードマンにしては人に近い気がする。
「左から遺伝病のラビット種、反抗的なヌイ種、雑種のリザードマンです」
「耳からしてヌイ種はシベリアンハスキーでしょうか?」
…………確かに、昔図鑑で見たシベリアンハスキーの耳だな。
「どれも問題を抱えている奴ばかりだな」
「ご指名のボーダーを満たせる範囲だと、ここが限界ですな。これより低くなると、正直……」
「…………死にかけだの、既に死んでるのばかりなんですね?」
香のうんざりとした問い掛けに首を縦に振る奴隷商。
…………確かに、奥からなんとなく腐敗臭もしてきている。
あそこは目に入れると心が病みそうだな。
「ちなみに値段は?」
「左から銀貨25枚、30枚、40枚となっております」
「Lvはどれくらいですか?」
「5、1、8ですね」
…………値段はラビット種、戦力的にはリザードマンか。
「……ヌイ種の子にしませんか?」
「……なんでだ?」
俺はレベルも値段も他の二人に劣るヌイ種を選ぶのかを香に聴く。
「ラビット種の人は他は大丈夫ですけど、片腕が使えないのでその分出来ないことがあります。リザードマンは言わずもがな、目が逝っているからですね。…………正直、何があるのかわからないという恐怖もあります」
香は他二人を雇えない理由を言うと、今度はヌイ種を雇うメリットを言う。
「一方、ヌイ種の子は反抗的ですがラビット種の人と違って五体満足ですし……リザードマンの人と比べて逝ってないと思うんですよね。だから、この子を選ぶんです」
「…………レベルが低いぞ」
「そこら辺は鍛え方次第でどうにでもなります。何より、私がこの子に同情しちゃったから…………ですかね?」
そう言って、照れる香を見ながら俺は熟考をする。
…………香の考察や話には一理ある。片腕が使えないのはその方向からの攻撃とかに対応できない可能性があると言うことだ。リザードマンの方は目からの考察も入っているが、心配なのは確かだ。
………………………………ふむ。
「決めた、ヌイ種を買おう」
「ええ、毎度ありがとうございます」
「………………………………」
反抗的な目だが、香の話から誉められたのがわかるのか尻尾がピコピコと動いているのがわかる。
それから、元来た道を戻り、少し開けたサーカステント内の場所で奴隷商は人を呼び、インクの入った壷を持ってこさせる。
そして小皿にインクを移したかと思うと俺に向けて差し出す。
「さあ勇者様、少量の血をお分けください。そうすれば奴隷登録は終了し、この奴隷は勇者様の物です」
「なるほどね」
「ファンタジーでは定番のやり方ですね」
俺は作業用のナイフを自分の指に軽く突き立てる。
誰かに刃物を突きつけられると盾は反応するが自分の攻撃には意味が無いらしい。
そして戦闘での使用では無い場合。盾は反応しない。
血が滲むのを待ち、小皿にあるインクに数滴落とす。
奴隷商はインクを筆で吸い取り、男の子が羽織っていた布を部下に引き剥がさせて、胸に刻まれている奴隷の文様に塗りたくる。
「う、うああああああああああああ!?」
「っ…………! 大丈夫、大丈夫ですから…………!」
悲鳴をあげる男の子を心配してか香が痛みにのたうち回る男の子の手を握る。
…………あれは、信頼を得るための演技じゃないな。本心だ。
そのうち奴隷の文様は光り輝き、俺のステータス魔法にアイコンが点灯する。
『奴隷を獲得しました』
『使役による条件設定を開示します』
メニューにはズラーっと色々と条件が載っている。
俺はざっと目を通し、『寝込みに襲い掛かる』や、『主の命令を拒否する』などの違反をした場合、激痛で苦しむように設定する。
ついでに同行者設定というアイコンが奴隷項目以外の所で目に入ったのでチェックを入れる。
『奴隷A』、名前が分からないからこう書かれている。
どうやら任意で条件を変更できるようだから、後で細かく指示するとしよう。
「これでこの奴隷は勇者様の物です。では料金を」
「ああ」
俺は奴隷商に銀貨31枚渡す。
「1枚、多いですよ?」
「この手続きに対する手数料だ。搾り取るつもりだったんだろう?」
「……よくお分かりで」
「…………クズな商売をしているだけあってガメツイんですね」
香が奴隷商に殺意の篭った視線を向けるが、奴隷商は「おおっと、これは失礼いたしました」とおどけたように言う。
…………これはガキの扱いを気を付けないと、俺もブッ飛ばされかねんな。
「ガキ、お前の名前はなんて言うんだ?」
「誰が教え…………「教えてください、これから一緒に戦うんですから」……『キール』、俺の名前はキールだ」
男の子はそう言った。これは……キールの世話は香に任せるのもありか?
俺は香にちょっとした信頼の目を向けているキールを見ながらそう思った。
次回『最初の一歩』
お楽しみに