四聖姉妹の奮闘記   作:愛川蓮

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遅れて本当に申し訳ありません!


最初の一歩

「アンタ達……」

「……何も聞かないでください」

「親父、こいつに合う武器を寄越せ。予算は銀貨10枚だ」

 私達がキールを連れて親父さんの店に来ると、親父さんが呆然とした様子で声を絞り出しました。

 ……まあ、奴隷を引き連れていたらこうもなりますよね。ウィンディアも尚文さんの事を心底から蔑んだような目で見ましたし。

 

「……はぁ。国が悪いのか、それともアンタ達が汚れちまったのか……まあ、いいや。銀貨10枚だったな?」

「国も悪いが、俺が汚れただけで香は汚れていない。それから在庫処分のマントと服、まだ残ってるか?」

「…………良いよ、オマケしてやる」

 親父さんは嘆かわしいと呟きながら数本のナイフを持ってきます。

 

「銀貨10枚だと、この範囲だな」

 グリップとかでも値段が変わるものなんですね…………

 キールは全部のナイフを数回ほど振るうと、手にしっくりきたのかその内の一本を尚文さんに差し出しました。

 

「…………これで良い」

「ホラ、オマケのマントと服」

 親父さんから服とマントを受け取った私はキールを試着室に押し込むと、今後どうするかを尚文さんに話しかけます。

 

「尚文さん、これからどうするんですか?」

「先ずはキールに魔物を刺させる。魔物を殺すのに慣れさせないと雇った意味がないからな」

「それもそうですね……それからどうするんですか?」

「そこからはキールを引き連れてレベル上げだな。そっから先はどうすっかな……」

 私達が今後について話していると、着替え終えたキールが出てきました。

 …………やっぱり、小汚ない印象が強く出ちゃいますね。

 

「さて、キール。これはお前の武器だ。そして俺はお前に魔物を殺すことを強要するわけだ。分かるな?」

「…………!」

 …………『魔物を殺す』の部分で耳を嬉しそうにピクピクと動かすのは何故でしょうか? 

 

「じゃ、ナイフを渡すから……」

 そう言って尚文さんはマントの下に噛ませたオレンジバルーンを見せて…………

 

「これを刺して、割れ」

「わかった」

 尚文さんの言葉が終わった瞬間にキールはオレンジバルーンを刺しました。

 

「やった、俺が魔物を、村のみんなの……仇を……!」

 ……魔物に大切な人を奪われたんでしょうか? 

 

「……案外、良い買い物をしたのかもな」

 ぼそりと尚文さんがそう呟きました。

 

「確かにそうかもしれませんが……」

 なんか釈然としない感じがします。

 

 ────────────────────

 

「キール、ウィンディア! 左にグリーンバルーンが3体いるので任せます!」

「わかったぜ、姉ちゃん!」

「わかったわ!」

「リオン! 上から魔法をぶちかませ!」

『はーい!』

 あれから二日後、今日も私達は草原に出てキールのレベリングを開始していました。

 ウィンディアは最初こそキールを訝しげな目で見ていましたが、キールの元気っ子的な性格から(キールが多少の強引さはあれど)仲良くなったお陰で短時間で2人で連携が出来るレベルにまでなりました。

 なお、キールの姉ちゃん呼びは昨日のお昼ご飯にお子さまランチまんまなお昼を食べさせてあげた時から始まりました。(尚文さんは兄ちゃん呼びです……最初こそ「ご主人様と呼べ」と言っておりましたが、不満そうな顔をされたので渋々許可した次第です)

 

「やった! またレベルが上がった!」

「……尚文さんよりレベルの上がりが早くありませんか?」

「……言うな、自覚はしている」

 尚文さんのレベルは現時点で10、キールのレベルは5です。レベルの差による経験値の差もあると思いますけどね。

 因みに私のレベルは現時点で18、ウィンディアのレベルは9です。

 

 ぐぅ~…………

「「……あ」」

 …………キールとウィンディアのお腹がなったので午前中はこれまでですね。

 

「そういうわけでご飯にしましょうよ」

「なんでだよ……」

 尚文さんが私の発言に呆れたような顔をしますが、私とリオンとウィンディアの期待したような顔に説得は無理だと判断したのか「やれやれ……」と言いながらお店から買い取った安物の料理道具で料理を始めました。

 キールが「???」と私達の反応に疑問符を大量に浮かべましたが、すぐに判ると思いますよ? 

 

「……旨い! 兄ちゃんのご飯、すごい旨い!」

「そうか……」

 それから十数分後、キールは出来上がった尚文さんの料理を大絶賛していました。

 本当に尚文さんの料理って美味しいんですよね。私もそれなりに出来るつもりでしたが、あまりの美味しさにorzの体勢のまま二、三時間程固まってしまいました。

 味覚障害があるのになんで料理できるかと言うと……尚文さんの料理に対する勘と、調味料や食材を私が味わって分けるっていう役割分担をして、尚文さんは気分転換代わりに料理をしているんです。

 

「食い終わったらレベリングをしつつ城下町に行くぞ、午前中とその途中で得た素材を売るからな」

「わかりました」

「はぐはぐ……わかった!」

「キール、口に食べ残し付いてるわよ」

 そう言ってウィンディアがキールの頬っぺたについていた麦(の様なもの)を取ってあげました。

 

「(……なんか、ウィンディアがキールのお姉さんみたいですね)」

 私はそんな様子を微笑ましく思いながらご飯を食べ続けました。

 

 ────────────────────

 

 私達は城下町に着き、真っ直ぐ素材屋の前に行くと……子供が複数人でバルーン風船をボール状にしたような物で遊んでいるのが見えました。

 

「…………」

 キールはそれを見て物欲しそうな顔をしていました。

 

「……欲しいんですか?」

「…………!」

 私が聞くと、キールは顔を赤くしてそのまま歩いていってしまいました。…………素直じゃないですねぇ。

 

「尚文さん、キールに買ってあげたいので買取り代から引いてもらっても良いですか?」

「別に良いぞ」

 尚文さんはぶっきらぼうながらもボールを見て尻尾をフリフリと動かしているキールを見て即答しました。

 

「はい、キール」

「え……」

 私がバルーンボール(私命名)を差し出すと、キールは目を見開いて私と尚文さん、ボールの間に目を行き来させます。

 

「……いらねぇのか?」

「う、ううん…………ありが、とうな。兄ちゃん、姉ちゃん」

 キールが私達に辿々しくお礼を言うと、私はキールの頭を撫で回します。

 

「どういたしまして、これからも困ったことや欲しいものがあったら言ってくださいね?」

「うん……あ、姉ちゃん! ボール、投げてくんねぇ!」

「はいはい……それ!」

 私がボールを投げると、キールはダッシュでそれを取りにいきました。

 

「……やっぱり、犬の亜人なだけありますね」

「まあ、ヌイ種って基本的にああなんだけどね」

 私はウィンディアの言葉に苦笑いをしながらボールで遊ぶキールを微笑ましく見つめました。

 …………その後、ガキ大将みたいな男の子とその取り巻き達と大喧嘩をして泥んこになりながらも友情を築く事になるのですが、私はそれを知りませんでした。

 

 ────────────────────

 

「見事に泥んこですね……」

「ああ……キール、服脱いで体を拭け」

「うー…………兄ちゃん、姉ちゃん。俺、汚くねぇよ…………」

 いやいや…………そんな泥んこになって汚くないなんて言えるわけないでしょう。それに……

 

「それでベッドに寝たらベッドが汚くなりますよ。ほら、私が拭きますから」

「うー……姉ちゃんがそう言うなら……」

 そう言ってキールが服を脱ぎ…………え? 

 

「…………? 香、どう、し…………た?」

「香、どうしたの…………え?」

 まさか…………キールの性別って…………私と同じ(女の子)? 

 

「まぁ、こうなりますよねぇ…………」

 あの後、キレた尚文さんにキールは部屋から叩き出され私とウィンディアの部屋で何が何だかわからないような表情でベッドに座っていました。

 

「姉ちゃん……俺、なんで追い出されたんだ? 俺……盾の兄ちゃんになんかしちゃったのかなぁ……?」

 私は捨てられた子犬のような目で説明を求めてくるキールに耐えきれず、尚文さんがキレた理由を暈しながら説明しました。

 因みにキールが男の子だと奴隷商から説明されたのはキールの顔が中性的だったのと…………キールの両親が男だと教育したのが原因みたいです。

 

「……そっか。俺にも、原因があるんだ」

「うん、まぁそうなんですけど…………」

 私はしょんぼりとするキールを見て、頭を掻きます。さて……どうしましょうか…………まあ、今は尚文さんの怒りが収まるのを待つしか……って、夜に私が説得するしかありませんよね。

 

「…………尚文さん、起きてますか?」

 夜、私が部屋の扉を開けて、尚文さんの名を呼ぶとそこには不貞寝をしている尚文さんがそこにいました。

 

「……不貞寝ですか?」

「…………まあな」

「キールの事は、私達もわかってなかったんですから多目に見ましょうよ」

「…………俺もさ、大人気ないとは思ったよ。だけどな、『あいつ(フレン)みたいに騙された!』って頭の中で考えちまってな」

 あ~…………まぁ、そうなるのもわかりますけどね…………

 

「でも、許してあげましょうよ。キールも捨てられた子犬のような目で私を見るんですよ?」

「…………頭も冷えたし、部屋にはいれてやるけどな」

 それなら良かったです。

 

「キール…………って、もう寝てる!?」

 私はすーすーと寝ているキールに苦笑しながら抱き上げると、尚文さんのベッドに入れます。

 

「…………なんで、俺のベッドなんだよ?」

「その方がキールも『許してくれたんだ』、って喜びそうですしね。私なりの気遣いです」

「まぁ、良いけどさ…………」

 私は尚文さんの部屋から出ようとして…………キールに服の裾を掴まれているのがわかりました。

 因みにもう片方の手は尚文さんの服の裾を握っています。

 

「……流石に私は不味いので、失礼します」

「……ああ。此処までこいつが信用してくれてるんだ。無下にするのも悪い…………か

 私は、キールを起こさないように慎重に服の裾を剥がしながら尚文さんの言ったことに微笑みながら部屋を出ました。

 

 部屋に戻ると、ウィンディアがベッドで寝ていました。

 

「ウィンディアもですか。まぁ、寝る子は育つって言いますし……」

 私は苦笑いをしながらベッドに入ろうとして…………

 

「…………お父さん」

 ウィンディアが少し、涙を流しながら呟いた言葉に少し考えるとウィンディアのいるベッドに座って添い寝をしました。

 

「ホームシック……ですかね」

 一回目の波が終わったら里帰りをするのも考えないといけませんね。

 私はウィンディアを慰めるように、頭をよしよしと撫でながら眠りに落ちました…………




次回『波に備えて~土下座~』
お楽しみに
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