四聖姉妹の奮闘記   作:愛川蓮

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話が長くならない…………


龍刻の砂時計~理由~

「親父さん、材料を持ってきましたよ」

 私はそう言いながらドアを開けます。

 凛さんの土下座を止めさせた後、私達は蛮族の鎧と蛮族の衣装を完成させる為に銅と鉄を買い……その際に新たに判明した尚文さんの後遺症に頭を抱える羽目に為りました。

 

「あっさりと材料が集まったな」

「そうですね」

「アンちゃん達が頑張ったお陰だろ」

「まあな。ただ、それよりも親父の知り合いにロリコンとショタコンが多いことに付いて二、三個指摘したいのだが」

「尚文さん、尚文さん。その事については後回しに……」

「ロリコンとショタコン? アンタ、何を言っているんだ?」

 親父さん! 今は聴かないでください! 

 

「ロリコンとショタコンの意味が伝わっていないのか? 盾には翻訳機能があるはずだが」

「いや、少女趣味と幼児趣味の知り合いは居ないと思ったが……」

「そりゃそうでしょうねぇ……」

 私は頭を抱えながら溜め息を吐きます。

 

「いや、まあ……ウィンディアとキールを可愛がっていたからそう思ったんだろうが……本当にわかんないのか?」

「は? 何がだ…………?」

 銅と鉄を一緒に持ってくれた凛さんがおそるおそる尚文さんに聞きますが……こりゃ完全に認識障害を起こしてますね……

 

 現在のキールは私と同年代の背丈になった事に加えて元からのボーイッシュな見た目も相まってそれなりの年齢の女性から男性と勘違いされてひそひそ話をされてます。

 現在のウィンディアは私と同年代の美少女になった事で男性に声をかけられるのは日常茶飯事です。

 それを見た尚文さんは「この国にはショタコンとロリコンしかいないのか……まあ、キールは男じゃなくて女だからどっち道ロリコンばっかりか」と呆れたような顔で言っていたので嫌な予感はしてたんですが……的中してほしくなかったです。

 

 因みに現在のキールとウィンディアのレベルはキールは27、ウィンディアは26です。

 ……尚文さんのレベルは22、私は25です。

 

「そ、その話は置いといて……親父さん、装備の代金はいくらでしょうか?」

「ああ、それは銅と鉄……それから拡張オプション込みで銀貨200枚だ」

「骨……だったか? それを持ってくれば良いんだな?」

「それって鎧と衣装の両方の代金の合計ですか?」

「ああ、その代金込みでその値段だ。これ以上は安くできねえよ」

 それもそうですね。親父さんにも生活はありますし。

 

「そう言えば尚文に香、『龍刻の砂時計』は見たか?」

「…………なんですか、それ?」

「なんだそりゃ?」

「……やはり知らないか」

 凛さんが溜め息を吐くと、龍刻の砂時計について説明してくれました。

 

「龍刻の砂時計と言うのは『波』が発生するまでの猶予を記した道具だ……外見はデカイ砂時計で、触れると波までの残り時間が表示される。それから時間になると波の発生した地点に飛ばされる機能がある」

 凛さんの言葉に尚文さんが不愉快そうな顔に為りました。

 

「あんの屑王が、やっぱり隠し事がありやがったな……!」

「アンちゃん達、装備は明日できるから龍刻の砂時計に行った方が良いんじゃねえか?」

「親父さん、ありがとうございます!」

「とっとと行くぞ」

「ああ、龍刻の砂時計がある場所は中央の教会の中だ!」

 私は情報をくれた凛さんに手をあげつつ、教会に向かって走り出しました。

 

 ────────────────────

 

「はぁ、何を考えているんだあの王様は…………」

 武器屋から出た私は溜め息を吐きながら腕を組む。

 

 …………本当にあの王様にはわからないことが多い。尚文に対する情報の隠蔽などの極端な冷遇に亜人の差別、更には教会との癒着など国を治める人間として恥ずかしいとしか言えない事を何故するのか。

 

「そう言えばフォウル、私が尚文に土下座する前になにか言いたそうだったが…………どうしたんだ?」

「ああ、アトラが気になることを言っていたんだ」

「気になること?」

 私がフォウルの話を聞くと、それは確かにとても気になることだった。

 

「王様の雰囲気がフォウルに似ていた……か」

 何でも王様が入ってきた時に雰囲気がフォウルに似ていたのでフォウルの名を呼び掛けてみたら王様だったので、それで今度は王様の名を呼んだらフォウルだったらしい。

 

「(だとしたらフォウルとアトラの母親は……いや、まさかな)」

 私は心の中で考えていたことを頭を降って追い出す。その隣でフォウルは難しそうな顔で考え事をしていた。

 

「フォウル、どうしたんだ難しそうな顔で?」

「…………いや、考え事だ」

 考え事…………か。まあ、私も困り事は王様の事以外に樹の事もあるんだけどな…………

 

「本当にどうしてあんな独善気味な正義感を身に付けたんだ…………? しかもその後のフォローを考えていなかったし……」

 行く先々で悪とされた他者の話を聞かずに一方的に「正義の断罪です」なんて言って倒そうとするし、その正義をなした後の事を全く考えてないしなぁ…………

 2日前に立ち寄った食料不足により革命が起きて内乱状態になっていた国を助けた時もそもそもの原因(食料不足)を何一つフォローをしようとせずに帰ろうとしたために私が慌てて止めてこの国からの食料品の提供などの条約を決めさせたからなぁ…………

 

 正義感を持つのは良い。それは人間として好感が持てるし、なにより他者を助けることで言い方は悪いが自分を誉めてもらえる事で承認欲求等を満たせるからだ。

 ただ、それはその行動のフォロー等を考えていた場合だ。樹の行動は後先を考えていない上に、一方の話しか聞いていないからどうしてそうなったのかが解らないために騒動が更に悪化したり、しなくてもいい苦労をする羽目になるんだ。

 

「……強力な力を手に入れたのと、やはり勇者の供(あいつら)か」

 この世界を救うのに必要な四聖武器は兎も角、あいつらは自分に都合が良い情報しか仕入れない上に樹を囃し立てる為に樹はそれが正しいと勘違いをしてしまうのだ。

 …………依頼の報酬もちょろまかそうとしてたしな。私が現場を抑えた事でばれた上に、樹に若干の不信感を持たれた事で出来なくなったけどな。

 

「樹の行き過ぎた正義感を抱く切っ掛けになった事を知らないとな…………」

「僕がどうかしたんですか?」

「うわぁ!?」

「うお!?」

 何時の間にか後ろにいた樹の声に驚いた私は思わずフォウルに抱きついてしまう。

 ……最近、こういうことがあった時にフォウルの近くに寄ることが多くなった気がする。

 

「い、樹か……すまない、急に声をかけられたから驚いてしまった」

「いえ、王様に報告が終わったので凛さんと合流しようと思って。ところで何か僕について悩んでいたようですが……」

 …………ある意味では好機……だな。

 

「樹、お前はどうして『正義』を示そうとするんだ?」

 私がそう言うと、樹は少し考え込んだ後でこう言った。

 

「……この話は姉さんの過去と関係がある上に、僕も積極的に思い出したくないので姉さんには内密でお願いします」

「…………わかった」

 私が頷くと、樹は咳払いをした後で話始めた。

 

「僕が『正義』を為したいと思った理由は……端的に言うと姉さんが虐められていたからなんですよね」

 私は樹の言ったことで理解した。

 

「(樹が過剰な正義を示そうとしたときに理奈が強く出られない理由はそれか!)そうか……理奈の性格から考えて虐める理由なんてないように思えるんだが?」

「ええ、弟という身内目線からですけど……姉さんは優しいし、気配り上手で誰からも好かれる性格なので虐められる要素は殆どなかったんですよ。…………高校のクラスで良くある好きな男子が姉さんに惚れてるって言う理由がなければ」

「よりにもよって虐めた相手は女子か……」

 女子の虐めって男子の虐めに比べて陰湿だからな…………詩乃が中高と受け続けた虐めを思うと今でも腸が煮えくり返る。

 

「虐めは本当に苛烈でした。机の上に落書きをされるのはまだ序の口で靴の中に画鋲を入れたり、トイレの最中に上から水を放り込まれたり、階段から突き落とそうとしたり挙げ句の果てに異能力の的にしたり…………」

 …………樹の世界では異能力が一般的にあるのか。

 

「虐めの相手は所謂上流階級の女子で教師は見て見ぬふり……しかも父さんや母さんに騒ぎ立てさせないように姉さんを脅すおまけ付きでした」

 …………本当に腹の立つ奴だな、そいつは。

 

「姉さんは父さん達を心配させないように気丈に振る舞ってましたけど、心は折れる寸前でした。でも……そんな時に彼女は、僕の初恋の人は姉さんを助けてくれたんです」

「…………確か、神城早月だったか?」

「はい。彼女は学校帰りの時にボロボロだった姉さんとそれを支える僕を見て、それで話を聞いてくれたんです。そして、姉さんに対する虐めの状況や証拠をネットやマスコミを通じて暴露してくれたんです」

「それは…………凄いな」

 それだけの事をする際には相手に知られないように根回しや根回しを終えた後に一気に決行するタイミングを測らなければならない。つまり、彼女はそれらの事を出来る計画を立案できる頭脳と実行するための権力があったわけだ。

 

「はい、だから僕は……僕にとっての正義の味方である彼女に相応しい人間になって彼女の側に立ちたかったんです。…………結果は、ふられちゃったんですけどね」

 …………神城が樹をふった理由は、わかるような気がするな。樹は正義を『勧善懲悪』として考えている。此方に正義があるように、悪とされた側にも向こうなりの『正義』があるのだ。それをわからないようでは企業の会長の夫としてはやっていけないだろう。

 まあ、そこら辺の事は年を経るなかで学ばせようともしていたんだろうが…………

 

「だから僕は、この世界で正義の味方になって彼女に見てほしいんです。正義の味方になった僕を」

 …………今でも好きなんだな、神城の事が。しょうがない、城での話の時も思ったが樹が本当の意味で正義の味方になる手助けをしてやるか。

 

「そうか……なら、私もお前が正義の味方になる手伝いをするよ。樹が神城と一緒になれるようにな」

「ありがとうございます」

 樹が頭を下げる。さてと……手始めに戦闘で手を抜く(・・・・・・・)悪癖を矯正しないとな………

 

「てんめぇ…………! ふざけんな!」

 私達は龍刻の砂時計がある教会の前で文香の怒りの声を聞いて樹と顔を見合わせる。

 

「今のは、文香の声だよな?」

「ええ、何かあったのでしょうか?」

「行くか」

「ええ」

 私達は頷くと、教会に向かって走り出した…………




次回『龍刻の砂時計~権力者~』

お楽しみに

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