尚兄が追い出されてからちょうど1ヶ月。そろそろ『波』の時期だと言うことで、錬達と一緒に龍刻の砂時計のところまでやって来た。
理由? 錬の仲間やメルティ……冒険者としての名前は『メルリナ・スフィア』、愛称はあたしが着けた『メル』って名前だ。の『クラスアップ』をするためだ。
クラスアップって言うのは現状のレベルキャップである40からレベルを99まであげられるようにする儀式らしい。
…………たぶんだけど、レベルを99以上にあげる方法があるな。クローは『あー……言いてぇ……レベルを99以上にあげられる方法を言いてぇ……でも、それだと
…………そう言えば、この1ヶ月の間に仲間も二人程増えた。
そいつは「文香~! 何考え事をしてんの?」ぼふぇ!?
「く、『クーフィリア』…………! いきなり背中をどつくんじゃねえよ…………」
「うむ。今のはクーフィリアが悪いな」
あたしが頭に猫耳を生やした女に突っ込むと、頭がまんま狼の男も呆れたように突っ込む。
猫耳の女の名前は『
錬の仲間やメルは猫と狼の亜人族と思っているが、こいつらの本来の種族は『ミッドガルド』っていう『
因みにクーフィリアがリンクス、アルシオがシリウスだ。
二人とも万色学園がミッドガルドに転移して、『ノース・アカデミー分校』と混ざりあった『
…………まあ、クーフィリアは姉の『クレメンス』のクローンが巻き起こした騒動を解決した時にしれっと忍び込んでいて(曰く、「森の外に出たかった!」とのこと)、アルシオはシリウスの間で巻き起こった騒動を解決した折りにあたしらに恩返しをするためっていう名目で乗ってきたんだけどな。
まあ、あたしが合同文化祭の準備で出向いていた『
問題は……あたしら全員の『
いや、爪での戦闘しか出来ないからあたしのシャードは反応しないのか?
「あれ? 文香じゃないですか? どうかしたんですか?」
あたしがあたしのシャードを弄びながら悩んでいると、尚兄と尚兄と行動を共にしている香がウィンディアや街であった際に紹介してもらったキールと一緒にやって来た。
「ああ、錬やあたしの仲間をクラスアップさせる為に来たんだ。尚兄と香は?」
「私達は龍刻の砂時計に登録をしに来たんです。このままだと思いっきり出遅れそうなので」
「また俺らに隠し事を……!」
あー、そういや龍刻の砂時計の効果って波の残り時間を知るだけじゃなくて波の発生した地点まで連れていってくれるんだっけ?
「尚文、久しぶり~!」
「……誰だ、てめぇ?」
「え~!? 漂流学園や「余計な事を喋るんじゃねえ」もがもが!?」
「素の表情で私と話していた態勢のまま、口を塞いだー!?」
あたしは余計な事を喋ろうとしたクーフィリアの口を塞ぐと、尚兄は怪訝そうな顔になり香が目を剥いて驚いた。
「(お前な……! 尚兄は『
「(え~!? あんなに一緒に食べたのに……)」
因みにクーフィリアは尚兄に惚れている。理由としては尚兄のだしたご飯が美味かったのと……クレメンスのクローンの問題で落ち込んでいたこいつを尚兄が励ましたからだ。
「……ん? 『
「え!? あはははは! なーに言ってるんだよ尚兄! 学校が空を浮かぶわけないだろう!?」
あっぶねぇ!? どれも矢鱈と死にかける事が多かったから(実際物部学園の時には1回死んだし……)尚兄が思い出すと元の世界に戻ったら確実に説教+クエスターを止めろって説得が来そうなんだよなぁ……
「尚文さん、悩んでいる暇があったら早く砂時計の登録を……」
「許可しないわよ?」
「しま、しょう……って、なんであんたが此処にいるんですか!?」
「そんなの私が教王の娘だからに決まってるでしょう?」
あたしが声に向かって振り向くと……そこには、あたしが龍刻の砂時計を管理する神殿に入らなかった最大の原因である『フレイア=T=バルマス』が尚兄や香を見下すように立っていた。
「…………おい、許可しないってどういう意味だ?」
「言葉通りの意味よ。犯罪者である盾の勇者……いいえ、盾の
「てめぇ……!」
「それは可笑しくないですか!? 勇者が波に行けないなら召喚する意味が……」
「はぁ? 言ったでしょ、盾の悪魔って!
「なんだと!?」
「尚文さん、急いでこの国を出ましょう。尚文さんが宗教上の敵なら急がないと暗殺者が差し向けられるかもしれません!」
「ああ、それも許可しないわよ?」
……あんだと?
「だって、盾の悪魔が勇者様達のあること無いことを各国に吹き込むかも知れないでしょ? だったらその前にこの国で封殺した方が良いじゃない!」
この女…………! 尚兄と香を死ぬまでなぶり殺しにする気か…………!
「てんめぇ…………! ふざけんな!」
「文香、よせ!」
「文香、ダメです!」
「文香、ダメ!」
「よせ!」
「止めんナ! 今、こコでこいツ、ヲぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
あタしは尚兄達の制止を振り切っテ、ラースクローデコノクソビッチヲ…………
「止めなさい、文香。(お願い)…………わかったわ。『力の根源を司り、祈りを捧げる私が綴る。怒れる彼の武具を封じ、彼の者の怒りを抑えよ』…………『
殺そうとする前に、ラースクローが初期装備の爪になりあたしの中の底知れない怒りがいきなり弱まった。
「な、なんだ……?」
「なんの騒ぎ……ね、ねえ……じゃなくて、『マルティ』王女!?」
「今のは、一体…………?」
「……まるで、和風の話に出てくる陰陽師みたいな魔法だったな今のは」
『つーか、マルティってこんな主人公みたいな真似って出来たっけ?』
あたしが神殿から出てきたメルティの声に振り向くと、そこにはお札のような物を携えたメルティの姉である『マルティ・S・メルロマルク』と凛と……弓の偽善野郎がそこに立っていた。
「全く……お父様と教王が盾の勇者様と投擲具の勇者様の龍刻の砂時計の使用を制限していると聞いて、慌てて来てみれば……予想通りで頭を抱えそうになったわ」
「ぐ…………」
「まさか、本当に怒りに任せて殺そうとするとは……」
「ブラコンとはいえ、やりすぎですよ」
マルティが嘆かわしそうに溜め息を吐くと、あたしは目を反らしマルティから予想を聞いていたのか偽善野郎と凛があきれたような視線で見ていた。
「……マルティ、なんの用?」
「ああ、お母様に龍刻の砂時計の使用の許可を取り付けて来たわ。お父様にも今夜話すつもりよ」
「んな!? なんのつもりよ! 盾の悪魔に砂時計を使わせるなんて……」
「黙りなさい、お父様を抱き込んで勇者様達を差別しようだなんてあなた達が良くても私が許さないわ」
「~~~~~~~~~! ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~…………(表現してはいけない罵倒の数々を言っている)」
マルティは話は終わりだとばかりに未だにピー音が入る罵倒を言っているクソビッチに背を向けると、尚兄や香と対峙する。
「さ、この書類で龍刻の砂時計は使用可能になりますわ。盾の勇者様、投擲具の勇者様、龍刻の砂時計をお使いください」
「…………礼は言わねえ」
「ありがとうございます。尚文さん、いきましょう」
マルティが書状を渡しながらそう言うと、尚兄は不信感を露にした台詞を言いながら、香はそれをフォローしながら龍刻の砂時計に向けて歩きだした。
「……………………」
「…………僕たちもいきましょうか」
「そう、だな。行こうか」
あたしが気まずそうに黙っていると、偽善野郎と凛も仲間を連れてクラスアップしに行った。
「…………はぁ、やっちまった」
なーんか、爪をつけていると物凄い怒りに支配されちまうんだよなぁ……
「安心しなさい、文香。さっきのは1ヶ月位ならあの武器とその底なし沼みたいな怒りを封じ込められるから」
「…………サンキュ」
あたしがマルティに礼を言うと、マルティは意地悪そうに微笑みながら
「まあ、メルティが許すとは言ってないけど」
「ふーみーかー…………? ちょっと、お話をしようかなぁ…………?」
「…………これ、何時間コースだ?」
そう言ったので振り向くと、そこにはニッコリ笑顔のメルティがいたのであたしは覚悟を決めて道の端に正座をしたのであった。
結論、今回のお説教は三時間コースだった。
──────────
「あー! つっかれた!」
マルティはさっきまでとは『別人のような口調』で自室のベッドに飛び込むと溜め息を吐きながら、『独り言』を呟き始める。
「マルティ、本当にこれから先って大丈夫なのかなぁ……なんか、自信無くなってきた」
『私を変えておきながら良くもまぁそういうことを言えるわね、『
「そりゃま、そうだけどさぁ……今日の展開を見てると私が知ってる『盾の勇者の成り上がり』と全然違ってて…………」
『あれはweb版と書籍版……だったかしら?で内容が全然違うんでしょう?』
「それでも大筋は同じなの。ここまで序盤の展開が違うのはないもん」
『そりゃ序盤の敵である私が違えばそうなんでしょうね…………』
マルティ……否、久遠と呼ばれた少女はこの体の本来の持ち主にブーたれながらも、その目に陰りはない。
「でも、さ……やっぱり、変えたいよ。王様が『クズ』でマルティが『ビッチ』なんて呼ばれる未来をさ」
『……私がビッチなんて呼ばれる未来はこなさそうだけどね』
「それは言わない約束だよぉ!」
少女は笑うと、身体を持ち主に返しながらこう言った。
「それに、王様を変えるための鍵はもう見つけたからね』
『叔母様の
『そ、特にアトラね』
「そうなの?」
『うん、原作でも正気に戻る最後のピースだったしね』
「そうなの……では、行きましょうか」
『わかった』
マルティはそう言うと、ベッドから降りて彼女と久遠が組織した私設騎士団の詰所に向かって歩きだした。
次回『波~村防衛戦~』
お楽しみに!