「いやあ! さすが勇者だ。前回の被害とは雲泥の差にワシも驚きを隠せんぞ!」
陽も落ち、夜になってから城で開かれた大規模な宴に王様が高らかに宣言しました。
ちなみに死傷者は前回がどれ程なのかわかりませんが、今回の死傷者は一桁に収まる程度だったらしいです。
「尚文さん、これって私達全員の手柄ですね」
「…………そうだな」
…………騎士団の魔法攻撃から文香を庇って以来、尚文さんの生返事が多くなった様な気がします。
「尚兄、食ってるか?」
「ふ、文香…………それ、全部食べるの…………!?」
文香がメルちゃんを連れてお皿一杯に肉だの野菜だのを乗せてやって来ました。
「なあ、文香。…………お前って向こうにいた頃、桃の花を時々『
「ん? そうだけど……」
「俺、それと同じ名前の人間と会ってなかったか? …………お前や『
「え……寝惚けてんのかよ? そんな事あるわけねえだろ?」
「……そうか?」
「そうだよ(あっぶねー!? 『
尚文さんの疑問に文香は冷静に返してましたが…………何か、秘密を隠してますね。顔がひきつってますし、目も泳いでいます。
文香がそそくさと去っていったのを見てから尚文さんにそれを言うと……
「……そうか」
「意外ですね、尚文さんの事だから怒るのかと思ったんですけど……」
「いや、文香は向こうにいた時から色々と隠し事をしている気配があったからな……そろそろ話させようと思ってたところだ」
「ふーん……」
私は尚文さんの言葉に頷いて……
「尚文さん!」
いたら、樹さんが詰めよって来ました。
「…………なんだ?」
「何故、キールさんを奴隷にしているんですか!」
私が嫌な予感がして樹さんの後ろを見ると…………予想通りそこには『
……あいつが、喋ったんですね?
「此処は異世界だぞ、それに俺達の元いた世界でも奴隷はいたろうが。それと凛の仲間のフォウルとアトラも奴隷だぞ」
「それは、そうですけど……でも人は隷属させてはいけないんです! それに、それは正義の味方である僕達勇者がやっていい事ではありません! 凛さんに至っては『なんちゃって』ですし!」
…………そう言えば、そうでしたね。
「お前の中じゃ許せない事なんだろうよ。お前の中ではな!」
そう言って話は終わりだと言わんばかりに背を向けた尚文さんに…………
「尚文さん! 僕は貴方に……「うわー足が滑ったー(棒)」あいたぁ!?」
樹さんが何かを言おうとして文香に蹴り飛ばされました。
あ、思いっきり壁に頭をぶつけて…………うわ、もの凄い痛そうです…………
「ふ、文香さん……いきなり、何を…………」
「悪い悪い……足が滑った。…………くたばれ!」
チコーン!←文香が樹さんの股間を思いっきり蹴った音
「!?!?!?!?」
「これも足が滑ったー(棒)」
文香……凄い棒読みでしたし、『思いっきり助走してのドロップキック』や『くたばれと言いながらの股間蹴り』を繰り出しておきながら『足が滑った』は罷り通りませんよ……?
あーあ、樹さん股間を抑えて、白目を剥いて…………完全に気絶しましたね、あれは。
「…………ち、使えない勇者ね」
そう言って、地雷女は放れようとして…………
「よいしょっと」
ガガブウ!←私がこっそりと2匹のバルーンを地雷女の『お尻』に噛み付かせた音。
「イギャアァァァァァァァァァァ!?」
「すたこらさっさのさ~♪」
私はお尻を押さえて悲鳴をあげてのたうち回る地雷女をほったらかしてそのまま尚文さんのもとまで舞い戻りました。
「香、お前…………ちょっと俺に似たことしてないか?」
「そうですね。でも…………周りの物は何でも使う、その考えには賛同できる部分がありますので」
「そうかよ……」
尚文さんが私の言葉に頭をボリボリと掻きながらそう言いました。
「ん? あれって……」
王様と凛さん? 何を話しているんでしょうか?
────────────────────
「アトラ、どうだ……美味しいか?」
「はい、義姉様!」
私はアトラを連れて宴の料理を食べ歩いていた。
「フォウル! 負けないからな!」
「それは此方の台詞だ!」
…………因みにフォウルは何故かキールと大食いの対決をしていた。
「…………むぅ」
「義姉様……どうしたんですか?」
「ああ、何故かな……時折フォウルが私以外の誰か……特に女性と話しているとイラっとすることがあるんだ」
「そうですか……(義姉様、お兄様がだんだんと気になっているようですね……いい感じです。義姉様を私の本当の姉にするには、お兄様と結婚していただくのが一番ですから)」
私はアトラの疑問に時折感じる感情を言うと、アトラは私の手を握りながらそう言った。
「リン殿、楽しんでおられるようだな」
「陛下……はい、料理は美味しいのでとても楽しいですね。アトラも楽しんでいます」
「そうか、それはよかった」
王様は私に近寄るとアトラに皿を差し出したので、私はそれを受け取りアトラに食べさせる。
「あ、これって私の好きな味です」
「なんと……好きな料理まで似ているとは。これは本当にルシアの生まれ変わりなのかもしれんな……亜人に、しかもハクコ種に産まれたのが実に残念だ」
「あの、陛下…………聞きたいことがあります」
私は意を決して王様に聞きたいと思ったことを聞くことにした。
「なんじゃ?」
「陛下は何故、そこまで亜人と盾の勇者を憎む事が出来るのですか?」
地雷になるかもしれないが、それでも原因を知ることで尚文の立場を少しでも改善できるかもしれないからこれは避けて通れない道だ。
「ふむ……長い話になるかもしれんぞ?」
「覚悟の上です」
私は腰を据えて話すためにアトラを隣に座らせ、水を傍らに置くと王様の話を聞くために王様に向き直った。
「うむ……あれは、わしがまだ『フォーブレイ』で王族として過ごしている頃じゃった」
「へ?」
私は予想外の国のとんでもない身分が出てきて耳を疑った。
「え、あの……フォーブレイの王族だったのですか?」
「ああ。当時は『ルージュ=ランサーズ=フォブレイ』じゃった」
「『ランサー』……確か元康の聖武器の勇者の血を取り込んだ家系でしたっけ?」
「うむ。勉強熱心じゃな」
「フォーブレイ出身の友人がいるもので」
「そうか、大切にした方が良いぞ。…………おほん、わしはあの頃は厳しくも優しい父、おっとりしていたが心の強い母、盲目じゃったが可愛い妹、信頼できる父の家臣や気のおける友人達に囲まれて幸せな日々じゃった」
じゃが……と一呼吸置いて王様はこう言った。
「あやつらが……ハクコ種が全てを奪っていきおった」
王様はシルトヴェルトの人間に父を母を家臣達や友人を全て殺されてしまい、国も政治的な理由から罪には問えず逆に王族としての籍を外されてしまったらしい。
「それからわしは名を『ルージュ=ランサローズ』に変え、ルシアを連れて当時シルトヴェルトと戦争をしていたこの国に将兵として移住して来たのじゃ」
「あ、オルトクレイという名は婿入りしてからですか」
「うむ、その通りじゃ」
私が素で現在とは違う名前なのを突っ込むと、王様は苦笑しながらそう言った。
「しかし……今度は、妹が…………ルシアがハクコに殺されてしまった」
ある戦場から帰った所、家には致死量の血と少量のハクコ種の体毛が残されていた事から王様はハクコ種の仕業とわかったらしいが…………幾らなんでも出来すぎてやしないか? まるで、戦争を無理矢理続けさせようとするような意志があるような…………?
ん、待てよ……? 以前聞いた二人の母親の名前と照らし合わせると…………まさか!?
「わしは戦い続け、一先ずは溜飲を下げた。そして妻と結婚し、名を今の名に変えてシルトヴェルトを飼い慣らすことを前提としての和平に望んだのじゃが…………」
マルティ姫が今はフォーブレイに留学している王子の『シゼル』の飲み物を偶然ひっくり返した際に体を魔物化させる『ウロボロス劇毒』が混入されていた事が判明したらしく、和平交渉は完全に決裂してしまったらしい。
「だからこそ、だからこそわしは幾度も家族を傷付け、あまつさえ魔物にして殺させようとした亜人を、奴等が信望している盾の勇者を許さんと決めたのじゃ! 『家族』を今度こそ守るために…………!」
…………坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、か。言えているな、王様は家族を守るために亜人が信じている盾の勇者も嫌っているわけか。
…………だけど、
「今の貴方を見て、妹は……ルシアさんは、どう思うでしょうか?」
「む…………?」
間違いを家族を守るためにと言うお題目で暴走を続ける王様を少しでも止めなければならない。
きっと、ルシアさんは今の兄を見れば悲しむだろうから。
「きっと、悲しむと思います」
「…………何故じゃ?」
「陛下は、親を友人をあまつさえ家族を殺されて、その末に亜人はおろか、盾の勇者をも憎むと言っていました。ですが、ルシアさんは憎しみのままに突き進み続ける貴方など多分見たくないと思います」
「…………他人であるリン殿に何がわかると」
「私も一度は憎んだからです。弟を、錬を殺した人間を」
私は一呼吸置いて、こうとも言った。
「まぁ、周りの人間に止められたのですが」
だからこそと言って私は王様に言う。
「貴方の家族であるマルティ様が貴方が三勇教と共謀して行った尚文に対する陰謀を止めさせようとするのは、きっと貴方に復讐を思い止まってほしいからじゃないですか?」
…………ルシアさんに瓜二つのアトラが此処に来たのも、ルシアさんの兄を止めたい思いがあったからなのかもしれんな。
「……それでも一度振り上げた拳は、止められんよ」
そう言って王様は立ち上がると去っていった。
「…………香、尚文。出てきたらどうだ」
「あ、盾の勇者様……」
「バレてたんですか……」
「…………」
私がそう言うと盗み聞きをしていた香と尚文が出てきて、アトラが顔を赤らめた。
…………アトラは尚文に一目(?)惚れしたらしく、今回の事態が落ち着いたら尚文に積極的にアプローチをかけるつもりらしい。
「今の話、どう思う?」
「…………同情はしますけど、納得は出来ません。様は盾を信仰している亜人への憎しみのとばっちりじゃないですか」
「俺は余計にシルトヴェルトが嫌いになったな」
…………文香はシルトヴェルトに痛め付けられたからな。
「…………でも、ルシアさんの事を考えるとなんとか変えたいって思う気持ちはありますね」
「…………俺もだな。文香がもしも同じ目にあったら俺もそいつの人生をぶっ壊す為に行動する自信があるからな」
香と尚文がそう言ったのを聞いて、私はこう言った。
「いや、多分だけど……もうその為のピースは揃ってる。後は、タイミングだと思う」
「え? ピースって?」
「アトラとフォウルだ」
「どういうことだ?」
私は完全に確信に変わった仮説を二人の前で…………
「恐らくだが……」
「文香! 良くも樹をぶっ飛ばしてくれたわね!」
「それは此方の台詞だバカ野郎! 姉ならキチンと手綱を握りやがれ!」
言おうとして、文香と理奈の取っ組み合いで間を潰されてしまった。
「文香…………何をやってんだ」
「理奈さんまで……さっきの事、バレたみたいですね」
…………ああ、樹が教王の娘に唆されて尚文に決闘を挑もうとして文香にぶっ飛ばされたときのか。
あの時は止めようとしたタイミングであいつの取り巻きが壁になるように話しかけて来たことで止められなかったが……後で何が悪かったのかを言わんとな。
そして私は胸の中で答えを言った。
「(恐らくだが……フォウルとアトラの母親は、ルシアさんだ)」
次回『番外~錬と凛のゲームの話~』
お楽しみに