槍の妹のプロローグ
兄が死にました。死因は痴情の縺れによる刺殺だそうです。
「馬鹿です。馬鹿ですよ、兄さんは……」
私『
兄は、モテる人でした。幼い頃から両親の仕事の都合で引っ越しを繰り返していたせいで『幼馴染み』なんてそれこそ星の数ほどいたし、付き合っていた女の人(女装『男子』も含めて)もそれと同じくらいいました。
私はそんな兄を『異性』としては軽蔑してはいましたが、『家族』としては好きだったので変な女に引っ掛かっては大変だと思い、兄の女性関係に口を出して地雷みたいな女性との関わりを避けさせていました。
でも……
『男をあげたいし……なにより香は俺にかかりっきりでろくに男と関われなかっただろ? 俺が帰って来るまでに恋人を作れよ?』
『大きなお世話ですよ! 兄さんこそ変な女に引っ掛かって、刺されないでくださいよ!』
『ははは、香の花嫁姿を見るまで死ねないさ』
『き、気が早すぎますよ! それにそういうのはお父さんの台詞じゃないですか!』
そう言って独り暮らしをするのに不安だった私を説得した兄さんは、私の不安通り好意が思いっきり『病み』の領域になるまでになった女の人『
「なにが私の花嫁姿を見るまで死ねない……ですか。私を、置いていかないでくださいよ」
幼い頃から側にいた兄の死に私は予想以上の悲しみを抱きながら歩き…………
ドン!
「……え?」
私はいきなり感じた衝撃と共に訪れた焼けるような痛みに体を崩しました。
「あんたさえ、あんたさえいなければ、私がお兄ちゃんの『妹』だったのに! 責任取りなさいよこの糞女!」
いつの間にか私の側にいた女の子が私に向けて血のついた包丁を降り下ろしながらそう言いました。
「ああ、貴女が、最後の……一人、ですか……」
三人の内二人は兄さんを慕う女性たちに二度と世間に出られないような私刑を受けたのですが……残りの一人には逃げられたと言っていました。
それが、この子ですか。
「お兄ちゃんが最後に言ったのはね、『香……悪い、お前の花嫁姿……見れそうにねえわ……』だったのよ!? 最後の最後で、なんで私たちの誰も見てくれないのよ! 可笑しいじゃない!」
「可笑しく……ありませんよ、自業……自得じゃ、ない……ですか。自分を磨こうとせず、こんな、強引な手段に……頼るような、貴女達が、受け入れられる……あぐ!?」
私の言葉は直後の包丁の一撃で黙らされました。
「死ね! 死んで私とお兄ちゃんに詫びなさいよ! 死んで! 死んで! 死んでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
「やめろ!」
「大丈夫ですか!?」
「早く、救急車を!」
「しっかり! 誰かお医者様はいらっしゃいませんか!?」
メンヘラ女は私に包丁を何度も降り下ろしますが、すぐに周囲の人に抑え込まれました。
「(………………ああ、意識が……もう…………どうにも、なりま……せん、ね)」
兄さん……ご免なさい…………兄さんの墓前でも、私の花嫁姿を見せれそうに、ありません。お父さん、お母さん……兄妹揃って先に逝く親不孝を、許してください…………でも、もしも、奇跡があるのなら…………兄さんに、もう、一度…………会い、たかった、な…………
『……その願い、叶えるよ。『投擲具』の勇者様』
…………………………………………
「………………………………は!?」
私は頬に水滴を感じて慌てて起き上がります。
……………………あれ?
「私、確かに死んだ筈なのに……なんで、生きて……」
何故か服は私が通っていた高校の制服になっていますが、これは一体…………ん?
「これは……ナイフ?」
私の側には塚頭に綺麗な宝石が付けられたナイフが鞘に入った状態で置いてありました。
「……まあ、なんにせよ自衛の手段があるのはラッキーですね。護身術は嗜んでいるとはいえ、此所が何処かわかりませんから」
私はナイフをスカートのウエストの部分に挟むと、洞窟から出るために歩き出して……
「!? 『ユータ』! いたわよ!」
「『リネル』、ありがとう! これで俺は……」
すぐに一組の男女と出会いました。なんと言うか……拍子抜けですね。
まあ、あの人達のお陰で此所が何処だか……
「俺は……『勇者』になれる! 悪いけどその武器とその子はもらい受けるぞ、『悪魔の申し子』!」
そう言って男の人は剣を手に私に斬りかかって来ました。
「うぇぇぇぇぇ!? ……あ、でも中途半端ですね」
私は多少は慌てたものの、素人臭い動きだったので横に動いて避けそのまま足払いを食らわせました。
「ぶげ!? く、くそ! 卑怯だぞ!」
「いや、足払いをしただけなんですけど……」
「『ファスト・ファイアボール』!」
それで卑怯って……って、あぶな!? なんですか、あれ!? 魔法!? 魔法なんですか!?
「リネル! 連携していくぞ!」
「わかったわ、ユータ!」
そう言って二人は一斉に私に襲い掛かってきます。
「ちょっと、うひゃ!? 待って、うわ!? ください! なにが、ひゃわ!? なにがどうなって……」
「お前の言うことを聞く覚えはないぞ、悪魔の申し子! お前が操っているその子が持っている武器は勇者が持つ武具だって言うのは『女神様』からのお告げで知っているんだ! 俺が勇者の武具もその子も救い出す!」
「いや、訳がわかりませんよ!?」
このナイフがそんなとんでもない物だとは思えないし、なにより『お告げ』で『操られている』って……
「!? ここ!」
私は二人の攻撃の隙間をスライディングで突破すると、そのまま突っ走り始めました。
「しまった!? 追いかけるぞ!」
「ええ!」
二人の声が背後から聞こえ、私はその言葉に足を早めます。
「は、速い!? 一体、何をしたらそんなに……!?」
そりゃまあ、私が口を出して兄さんと付き合えなくて逆恨みした地雷女達から殺意を込めて狙われたので……走って逃げる際に効率のいい腕の振り方や足の動かし方が自然と身に付いてしまったんですよね……
「逃がさないわよ! 『力の根源たる私が命ずる! 理を読み解き、彼の者を炎の弾丸で撃て』! ファスト・ファイアボール!」
「あぐ……!?」
私はいきなりの(多分)魔法が至近距離で命中した際の爆風で洞窟の外まで吹っ飛ばされました。
「ぐっ!? はぁ、はぁ……」
私はあちこちからくる痛みにふらつきながらも立ち上がり、逃げ続けます。
「え、う、嘘…………!? 行き止まり……!?」
私が見たもの……そこは、進行方向が崖という絶望でした。
「もう逃げられないぞ、悪魔の申し子! 早くその子と、武器を解放しろ!」
私が後ろを振り向くと、そこには剣を構え複数の女の子と共に立つユータと言われた人がいました。
「っ……!」
後ろは崖、前方は凶器を構えた人間……絶望的ですね。でも、でも……!
「…………理不尽に殺されて、理不尽に追いかけられて、訳の、わからないまま…………、殺されて…………たまるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
『カースシリーズ・憤怒の投槍が解放されました』
『グロウアップ! 憤怒の投槍はラース・ジャベリンに変化しました』
『カースシリーズ・憎悪の短剣が解放されました』
『グロウアップ! 憎悪の短剣はヘイト・ナイフに変化しました』
『ヘイトラース・ジャベリンが解放されました』
『ラースヘイト・ナイフが解放されました』
私はいきなり現れたインフォメーションを見ても驚かずに、禍々しく変化した短剣を引き抜くと、頭の中に現れた詠唱を唱え始めます。
「正体を現したな! 悪魔の……」
「…………『その憎悪と憤怒により変化せし雄々しくも禍々しき炎よ! 我が身、我が心を炉心、彼の者達の罪を燃料とし……一切合切を打ち払い、焼き払え!』 『サタン・ジャッジメント』!」
「な、なんだそれは!?」
その叫びに私が後ろを振り向くと、そこには漆黒の縄の様なものが私の背中から背後の空間に繋がっており、そこから漆黒の焔を纏った巨大な龍が現れました。
「な、なんですか……これ、は…………!? う、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い! 体が……体が、内側から……焼かれて、いくような…………うあ、あ……痛い、痛い! 助けて……助けてください、兄さん!
「あ、ぐ……うぁ……あ……」
『ゴアァァァァァァァァァァ!』
私が痛みにのたうち回っていると龍がそれにつられるように吠え、ユータ達に向かってその腕を振るいます。
「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」
その腕の軌跡から巨大なギロチンと虎ばさみが出現し一瞬で二人の女性の命を断ち切りました。
「な……!?」
「え……? うぎ、うが……あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
私が呆けていると、また痛みが訪れ龍は再び今度はユータ達に向かって突撃をします。
「やめ、助け……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「あ、いや、死にたく……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
今度は巨大な蝿の群れと漆黒の熊が現れ、リネルという人ともう一人の女性を食い殺しました。
「り、リネルぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?」
「あが、うううう……うぎあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
そして龍はユータに向けて巨大なブレスを放ち…………
「うあ、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
一瞬で彼を消し炭に変えてしまいました。
「あ、あがう…………あ……」
私は人を殺してしまったという罪悪感と強烈な痛みで完全に気を失いました。
………………………………………………
それから数分後……
「おーおー……向こう側が完全に見えやがるぜ……」
そう言って黒いローブを見に纏った人間が倒れ伏した香の側に立った。
「にしても……どうなってやがるんだ? 『この
黒ローブは屈んで香に手を翳すと凍りついた。
「カースシリーズ『憎悪』!? なんだこりゃ……こんなの『
そう言って黒ローブが立ち上がり一枚の紙を取り出すと途端に顔をしかめる。
「『
黒ローブはそう言うと香をお姫様抱っこで抱き上げながらこう言った。
「……兄貴との再会は結構近いぜ、それまで修行を頑張れよ……勇者様?」
そう言った後、黒ローブはその場から消えた……
その数時間後、血塗れで倒れている香を一人の犬耳少女が見つけ慌てて親の竜帝のもとに運び込むのだが……それは別の話である。
いかがでしたか?
次回『剣の姉のプロローグ』
……お楽しみに