四聖姉妹の奮闘記   作:愛川蓮

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文香の話の続きです。
お待たせして申し訳ありませんでした!


死闘の果て、神速と黄金

「(久遠、どう思う?)」

 マルティは自分の中にいる自分を決定的に変化させ、今までの交遊関係を粉砕し自身を文字通り(・・・・)生まれ変わらせた人間に問う。

 

『始めに襲った奴は確実に波の尖兵(原作の転生者)ね。黒装束は片方はシルトヴェルトの『影』でもう片方は……教会派の『影』じゃないかしら? 白装束は……ちょっとわかんないかな』

「(やっぱり)」

 彼女の言葉にマルティは溜め息を吐く。

 波の尖兵……彼女の本体(・・)とも言える存在が世界を引っ掻き回す為に送り込んだ外道どもの総称である。

 彼らは何れも勇者武器を奪う能力を身に付けているため、勇者にとって天敵とも言える存在である。

 因みに『影』とは我々で言うところの諜報機関と暗殺組織の合の子の事である。

 

「(って、事は……)」

『ん、ミリティナは女神の分体(あんたの元同類)でしょうね』

「(やっぱり、そうなのね……)」

 マルティは頭を抱えながら文香の話に耳を傾ける…………

 

 ──────────────────

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「うがぁ!?」

「げぶ!?」

 あたしは右から襲いかかってきた亜人に回し蹴りを決めると、そいつを引っ付かんで左にいた黒装束に叩き付ける。

 

「死ね!」

「てめぇがな!」

「へ……ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 あたしは斬りかかってきた白装束を蹴り飛ばして飛んできた剣の盾にすると、白装束を越えてやって来た剣を横っ飛びに回避する。

 

「くらえ!」

「ぐ……まだだ!」

「ぐあ……!?」

「くたばれぇぇぇぇぇ!」

「くたばるかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「美しく散りたまえ! 『従剣劇(ソーヴァント)三重奏(トリオ)』…………『影絵三役(シンクロニシト)』!」

「ぎゃばら!?」

 あたしは肩に刺さった短剣の痛みに耐えながら短剣を投げた亜人をぶっ飛ばし、その隙に斬りかかってきた白装束の攻撃を回避すると、後ろからナルシスト野郎の剣の動きに合わせて斬りかかってきた剣に三枚下ろしにされた。

 

「はぁ、はぁ……くそ、数が多い…………!」

 あたしは昔……物部学園が異世界に流された第二次漂流学園の際にかち合って以来、矢鱈と絡んでくる白装束どもと黒装束……十中八九シルトヴェルトとこの国の教会派の影が多数いるせいでナルシスト野郎に近付けねぇ…………! 

 あと、何だよあの空飛ぶ剣は!? 反則だろうが! 

 

「エアストクロー!」

「『従剣劇・四重奏(カルテット)』……『四面三角の錐(クアテッド・デルタ)』!」

「くそ!」

 あたしは正三角形状に整列した剣の中心部分から飛んできた四角錐型の攻撃を転がりながら回避する。

 

「さぁーて、こっからどうするか……」

 あたしは今ある手札で何が出来るかを考え…………

 

「文香~? 何処~?」

 ようとして聞こえた声に顔が急速に青ざめていくのが解った。

 何でメルが…………!? いや、幾らなんでも帰りが遅すぎたか! 

 

「くそ、無理でも何でも行くしかねぇ!」

 あたしは隠れていた木から飛び出し、ナルシスト野郎に突っ込む。

 

「醜い特攻だね…………美しく死にたまえ!」

「今だ、殺れ!」

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「悪いが死ぬ気はねぇんだよ!」

 あたしは直撃する剣や攻撃だけを捌き、防ぎながら進撃する。

 

「貰っ……たぁ! 『ダッシュクロー』!」

 あたしは加速力を威力に変換するスキルでナルシスト野郎を…………

 

「湖面に映る僕でもみたのかい?」

「え……」

 すり抜け……いや、幻、影…………!? 

 

「『従剣劇・独奏(ソロ)』……『至高の一閃(プライマルスラッシュ)』!」

「エアストクロー! ぐ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 あたしはエアストクローを放つことでどうにか直撃を避けたが、その余波で大きく切り裂かれながら吹き飛ばされる。

 

「今の音は……文香!?」

 あたしが吹き飛ばされたのはよりにもよってメルのすぐ側だった。

 

「メル……逃げ、ろ…………あいつらの狙いは、あたし、だ…………」

 あたしは痛みでろくに動かない体にむち打ちながら立ち上がり、メルの盾になる。

 

「やだよ! 文香が死んだら、盾の勇者様や文香の仲間が悲しむんだよ!? 文香も逃げようよ!」

「良いから、逃げろ……こいつ、は…………あたしの、蒔いた、種……だから、な…………」

 あたしは泣きながらすがってくるメルの頭を撫でながら近付いてくるナルシスト野郎や影、白装束に立ち向かおうと…………? なんか上から声が…………

 

「…………に」

「『ダンスマカブル』!」

「…………? なんだ、声が…………?」

 

「…………香に」

「『マナストライク』!」

「…………上か!?」

 ナルシスト野郎が上を向くと、全員が上を向き…………

 

「文香に、僕の友達に…………何をしてるんだお前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「『ブレイブスパーク』!」

 上から降ってきた人影の踵落としの衝撃波と拳に纏わせた雷の一撃で間一髪回避したナルシスト野郎や一部の影を除いた全員が吹き飛ばされた。

 

「文香、大丈夫!?」

「岩谷、生きているか」

 あたしは駆け寄ってきた二人を見て思わず苦笑してしまう。

 

「『ルプトナ』、これが大丈夫に見えるか? 『鋼山(はがねやま)』先輩、そこはまあ…………なんとか」

 そこには第二次漂流学園の際に『精霊の世界』で知り合って以来、ずっとあたしと喧嘩友達のルプトナとあたしがクエスターになって以来ずっと頼もしい先輩である『ルーンナイト』の『鋼山龍牙(りょうが)』先輩だった。

 

「そっかそっか…………よくも文香を痛め付けてくれたな!? 全員まとめて叩きのめす!」

「それについては同感だ!」

「それは俺達も混ぜろ!」

 って、錬達も来たのか!? 

 

「じっちゃん、お願い!」

 ルプトナは自分の『永遠神剣』の『揺籃(ゆりかご)』から守護神獣であるリヴァイアサンの『海神(わだつみ)』を呼び出して…………って、おいこら待て!? 

 

「全員、木の上に逃げろ! 巻き込まれるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 あたしはメルを抱えるとそのまま最後の力を振り絞って飛び上がり、木の上に逃げ延びる。

 

「リヴァイアサンだから……津波か!? 全員逃げろ!」

「『タイダルティアー』!」

 錬がリヴァイアサンであることに気付いて慌てて指示すると、全員が木の上に登った(なお、アルシオとクーフィリア、鋼山先輩は既に逃げている)。

 そして、敵は…………あ!? ナルシスト野郎がいねぇ、逃げやがったな!? 

 ナルシスト野郎以外の敵は大半が海神から放たれた津波に押し流されたが、間一髪で木の上に逃げ延びていた。

 

「どんなもんだ「この大馬鹿野郎!」ふぎゃ!?」

 あたしは速効性のポーションを飲むと、そのまま木から飛び降りてルプトナに飛び蹴りを食らわせた。

 

「何すんだよ!?」

「それは此方の台詞だ! いきなり周囲も巻き込みそうな大技を使うな!」

「何を!? あんな奴等にやられそうになってたくせに!」

「ああ!? ちゃんとクエスターの力が使えりゃ速攻で倒してたわ、大ボケ!」

「言ったな!」

「やるか!」

 あたしとルプトナは互いの服の襟首を掴み合い、言い争う。

 

「今のうちにルハバート様の仇を……!」

「いまだ! 偽勇者に……」

「「うるさい!」」

「げび!?」

「ぐは!?」

 あたしとルプトナは襲いかかってきた相手に蹴りを見舞うと影や白装束達に向き直る。

 

「おい、ルプトナ」

「…………何?」

「どっちが多く倒せるかで勝負といこうじゃねぇか……喧嘩はその後だ!」

「乗った!」

 ルプトナは拳を、あたしは爪を構えて影や白装束達に笑いかける。

 

「つーわけで…………」

「ぶっ飛ばす!」

 あたし達は同時に走り出した。

 

「「「「「…………ええ~」」」」」

「はぁ……あの二人は…………」

「結局……何時でも何処でも」

「あの調子…………か」

 

 ──────────────────

 

「それで蹴散らした後でガエリオンに尻尾に縛り付けて空中で曲芸飛行をさせる拷も……じゃなかった、尋問したら快く答えてくれたから御礼参りに行く途中なんだよ。因みにガエリオンが力を貸してくれたのは下手すりゃウィンディアにも被害が及ぶかもしれないからだとよ」

「おい、今不穏な言葉があったぞ」

 今思いっきり拷問って言いそうでしたよね? 

 

「そんな訳であたしはさっさっと…………行かせてもらう!」

 んえ!? 何時の間に縄を解いたん……って、爪で縄を切ったんですね!? 

 

「させない!」

「えい!」

「ふぎゃん!?」

『え、もう!?』

 文香が出ていくと思われた矢先に現れた女の子達…………にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!? 

 

「取り合えず兄さんと尚文さんは後ろを向いてください! 文香も一緒にこの子達を隠してください!」

「あ、ああ…………」

 私達は何故か素っ裸の女の子達を毛布で包みます。

 

「ごしゅじんさまたちをこまらせないで!」

「そうだよ! かおるさまもなおふみさまもあなたのことをほんきで……」

「え、なんで私の名前を知って…………」

「理奈様ー!」

「フィーロとサクラが人間形態に…………あ」

「フィオ、リコ……タイミングが悪すぎる…………」

「え、この子達、フィオとリコなんですか?」

 見た目が全然違う……って、もしかして…………

 

「この子達は…………」

「フィーロだよ!」

「サクラだよ!」

 マジですか!? 

 

 ──────────────────

 

 夢を見ている。文香にとって、辛くて悲しい夢。

 

「なんでだよ、なんで戦わないといけないんだよ!? 『アマラ』ぁ!」

 文香がそう泣き叫びながら右手に剣を左手に変な光る剣を持って、姉様が持っているのと同じような御札を構えている女の子と戦っている。

 

「…………私も、文香と戦いたくはありませんでした」

「だったら……「ですが」!?」

 文香が説得しようとしたら、女の子は悲しそうな顔でそれを妨げた。

 

「この身は、もう死んでいる。文香もわかっている筈です」

「ふ、ぐぅ……!」

「そしてお兄様は私を救うために『奈落』に染まり、時の流れを止め、今日を繰り返している。止めるには……」

「わかってる、わかってるんだ……だけ、ど…………だけどぉ!」

 文香は泣きながら幼い頃に文香が偶然女の子のいる『リーフワールド』に飛んで、一緒に遊んだ文香にとって初めての親友の『空閑(くが)アマラ』さんと斬り結ぶ。

 

「…………『空蝉(うつせみ)』」

「!?」

 文香はアマラさんがいきなり丸太になったことで戸惑うけど、咄嗟にその方向を向きながら右手の剣を振るって……

 

「あ……」

「……これで、良いのです。文香……ごめん、な、さい…………」

 剣がアマラさんを切り裂き、アマラさんは文香に微笑みながら倒れ伏す。

 

「アマラ!?」

「…………此処だ!」

「ぐ!? しま…………」

 白髪の男の人が持っている刀が戦っていた黒髪の男の人が持っていた刀を弾き飛ばした。

 

「っ…………うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 『アラヤ』ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 アマラさんから離れた文香は泣きながら刀を手放した男の人を……アマラさんのお兄さんであり、文香の初恋の人である『空閑アラヤ』さんを両手の剣で斬り倒した。

 

「あ……ぐ……まさか、君に…………倒されるとは、な」

「あ…………う、ぐ……ぅ…………ううう」

「だが、止めてくれて……ありがとう…………」

「アラ、ヤ…………」

「そして……すまなかった」

 アラヤさんは苦笑いをしながら文香にお礼と謝罪を言ってアマラさんの側によろよろと歩み寄る。

 

「『ナナシ』、行くぞ」

「はい、マスター」

「やっと結界を壊せた!」

「岩谷! 無事……では、なさそうだな」

 白髪の男の人は何時の間にかいなくなってたけど、文香の仲間の人達が走り寄ってきて……文香の様子を見て全てが終わった事を悟り、悲しそうな顔になる。

 

 アマラさんが消えアラヤさんは文香のいる街にとって重要な事を言うけど……文香の心は完全に折れていた。

 

 場面が変わる。

「が……げ、えべ…………」

「ぶげ、べぇ…………」

「はぁー、はぁー…………!」

 色々な感情が要り混ざった表情で佇む文香の周りには顔も体もボロボロの如何にも悪そうな男の人達と女の人、その人達に襲われそうになっていた男の人と女の人が怯えていた。

 

「おい……」

「ひ!?」

「失せろ。それから……この時間にあんまり人気がないところに行くんじゃねぇよ。だから横恋慕した糞女やその取り巻きが襲って来るんだろうが」

「は、はい! い、行こう!」

「う、うん!」

 文香の暗そうな言葉で正気に戻ったのか二人は慌てて出ていく。

 

 文香はふんと鼻で笑うと、変な箱を開いて見ると溜め息を吐いた。

「はぁ……尚兄ってば、過保護すぎだろ…………でも、まだ…………あたしは…………」

 そこには文香を心配する文の言葉が大量に書かれていて、本当に心配している事が良くわかる様な……手紙?だった。

 それでも、初めての親友と初恋の人。二人を悲しい形で失って荒んだ文香の心を癒すには足りなくて…………

 

「…………アラヤ、アマラ……あたしは、あた、し…………は……」

 文香はそんな事を呟きながらよろよろと歩き出す。

 

「…………なんだ、桃の……香り?」

 文香は何かを感じたのか、路地に入ると、そこは何処かの街だった。

 

「…………何処だ、此処?」

 そこが文香にとっての転換期を迎える場所だっていうのを、文香はまだ…………

 

 ──────────────────

 

「…………文香」

 私は文香にとって悲しい過去を夢で見て悲しくなる。

 

 アルシオさんやクーフィリアさんと合流したときに聞いた文香の昔話で聞いた時も悲しかった。けど…………

 

「実際に見たら、悲しいよ……悲し、すぎるよ」

 私は目に涙を浮かべながらそう呟く。

 

「だから……私は絶対に文香の側にいるもん」

 私達を巻き込まない為に一人で行ったことやみんなを心配させた事、襲われたときに一人で戦おうとしたことへのお説教……絶対に聞いてもらうからね! 

 

 私は気付いていなかったんだけど…………

 

「文香の奴、愛されているわねぇ」

「ああ……そんな文香だからこそ、敵対的な関係にあったクエスターと永遠神剣使い達の縁を繋ぎ大ラグナロクを乗り越えられたのだろうな」

「私にとって、自慢の親友です」

 宿の外で、私の暗殺を目論んでいた三勇教派の影を件の二人と文香のミッドガルドと大ラグナロクでの宿敵とも言える人が倒していた事を後で知ることを…………




次回『行商と陰謀と大立ち回り』
お楽しみに!

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