「で、なんであたしが尚兄の『行商』の手伝いをしないといけないんだよ? あたしはさっさと…………」
「『旅は道連れ世は情け』……っと、諺は言っています。お金を稼ぎながら情報もしれっと入手できる…………行商も立派な手段なんですよ」
「屁理屈だろ……つーか、世界が違っても諺が同じ場合もあるんだな」
「……日本だからでしょうか?」
あれから数日後。私達は文香の御礼参りの旅に同行していました。
あの後、フィーロとサクラが人間になったことで混乱をしていましたが…………理奈さんが溜め息と共に「フィロリアルはクイーンに育つと人間に変身することが出来る」と説明された事で納得はしましたが……その前に魔物紋が無効にされるという問題とフィーロとサクラの人化の際の服が普通の服では戻った際に破壊されてコストが嵩むという大問題が発生したために王都に戻って……と、相談していた所にいきなり魔物商さんが来たので一晩預けて特殊な魔物紋を付けて貰い、服の方も理奈さんが『お試しセット』と称して一ヶ月間程本人の魔力で維持できる特殊な服を用意してくれました。
…………でも、理奈さんの口調が職人気質の姉御肌みたいな感じだったんですよね。
「一体、幾つ人格があるのやら……」
「まー、お陰で旅に同行出来たんだから良いんじゃねえの?」
そりゃまぁ、そうですが…………
ああ、サクラとフィーロですが……姉妹かと思うほど仲が良いんですけど性格の違いは結構あります。
サクラは大人しく一人称が『私』なのに対して、フィーロは明るく元気で一人称は『フィーロ』です。
後、フィーロが我が儘に駄々を捏ねるとサクラが大人しくやんわりとそれを注意します。
…………なんか、『元気でヤンチャな姉』と『真面目で大人しい妹』みたいな構図ですね。
「にしても……結構売れるもんだな」
「盾の能力で薬の効果がブーストされてますからね、口コミが広がれば売り歩きでも売れますよ」
一昨日のおばあさんの息子さんとか、昨日のアクセサリー商人さんとかにも情報を広げてもらってますしね。
「ついでに情報も……ね」
現在、ミリティナは様々な冒険者の他に勇者にも召集をかけているそうなのですが……兄さんと理奈さん、樹さんと凛さんには王様から任せられた依頼等をしていて忙しいと断られ、錬さんには行方不明の仲間……文香を探しているので無理と断られたそうです。
「あーくそ、どうするかな……」
私達の横をそう言いながら唸っている男の人が通り過ぎました。
「どうかしたんですか?」
「ん? 顔は、良い……な」
私が呼び掛けると、男の人は私に失礼な事を小声で言いました。
「聞こえてますよ」
「おっと、すまねぇ……嬢ちゃん達、劇に出てみないか?」
「詳しく聞きましょうか?」
「香ぅー!?」
さぁて……『帝国歌劇団』で鍛えた演技の腕を…………あっと、先ずは話を聞いてからですね。
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「…………で、香はその男の劇に今出てんのか?」
「うん。今日だけだけどな」
あたしは尚兄に香がまさかの即答をして劇の舞台に出ることを伝えると、尚兄は溜め息を吐いた。
「あいつ、そういうのにはあんまり乗らないと思ってたんだけどなぁ……」
「なんか劇に思い入れがあるみたいなんだよ」
「ふーん……」
尚兄は心底どーでもよさそうな感じでそう言う。
「そう言えば、香の出る劇ってどんな内容なの?」
ウィンディアが聞いてきたから、あたしは借りパクした台本に書かれている題名を読む。
「え~と……『怪盗紳士』だってよ。内容は……まあ、ルパンだな」
「よーするに、宝物を盗むついでにヒロインの心も盗んじゃうんだな?」
「まぁ、その通りなんだけど……ただ、香がやるヒロイン役のキャラが濃いんだよな……」
錬金術で作られた
「あれ? なんか姉ちゃんと元康の兄ちゃんみたいな役があるぞ?」
「「「へ?」」」
キールの言葉にあたしと尚兄とウィンディアが台本を覗き込むと、ヒロインと主人公の怪盗の仲間(医者兼錬金術師、お調子者の技術者、ニヒルな戦闘要員、謎の貴族、恋敵的な薬師)の他に狂言回し的な女好きの兄とその男の異母妹で冷静な突っ込み役の女の役があった。…………確かに役割が元康と香に似ているな。もしかして二人って、本当に異母兄妹か?
「…………ん? キール、外で誰か話してるから聴いてきてくれないか?」
「わかった!」
「相変わらずの地獄耳だな……」
「まあな~」
あたしが香と元康の関係で少しばかり悩んでいると、外からぼそぼそと話し声が聞こえたのでキールに偵察に行かせた。
「尚兄、香が帰ってきたら……」
「文香姉ちゃん、兄ちゃん、ウィンディア! 大変だ! 香姉ちゃんが狙われてる」
「「……はい?」」
あたし達が慌てて駆け込んできたキールに混乱していると、キールは慌てて白装束連中が「元康側のイレギュラーであるあの女は今は尚文達から離れている。殺るなら今だ」と通信機っぽい物で連絡をとっていたらしいんだ。
…………そーいや、大ラグナロクでも『ベルバザード』や『エヴォリア』、『ダラバ』や『ショウ』そして……『ジルオル』を助けようとしてたら矢鱈と「原作を曲げようとすんじゃねぇ!」だのなんだの言いながら襲い掛かってきやがったな。
…………全部返り討ちにしたけど。どいつもこいつも能力は凄くて驚いたけど、能力頼みの鍛練不足に数頼みの連携不足、挙げ句の果てに連携不足を突かれての同士討ちだので大ラグナロクの後半からは足止めにもならないかませ犬だったんだよな。
「って、言ってる場合じゃねえ! 早く香を助けに行くぞ!」
「おうよ!」
「ええ!」
「わかってる!」
「フィーロも行く~!」
「サクラも!」
あたし達は慌てて香が行った男の劇団の元に向かう。
おっさんは……いた!
「おっさん、香は!?」
「ん? ああ、香の嬢ちゃんだったら劇団にいてほしかったんで交渉したんだが……断られちまってな」
「どっちの方向に歩いて行った!?」
「あん? え~と……なんかに気付いたかの様な表情で向こうの路地裏に行ったが……」
「あんがとよ!」
あたしがおっさんに礼を言うのと同時にあたし達はおっさんが指し示した路地に突っ走る。
「ん……? 向こうの方からなんか音が聴こえる!」
って、事は……!?
「もう既に戦闘中かよ!?」
「香!」
あたし達が慌てて駆け付けるとそこには……香が白装束連中を一方的に叩きのめしているところだった。
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「いやぁ、大盛況だったぜ! あんがとな、嬢ちゃん!」
「いえいえ、困った時は助け合いですから」
私は劇が終わった後、劇団の団長さんにお礼を言われていました。
「にしても……嬢ちゃんの演技って、図抜けてたな」
「ええ、まあ……」
何せ演技と殺陣の動き、今回は披露できませんでしたが何らかの芸の動きに関しては
「嬢ちゃんが望むのなら、俺の劇団で働かないか?」
「あ~……申し訳ありませんが、私は旅をしていまして。1つの所で働くわけにはいかないんですよ」
「そうか……まあ、無理強いするのも悪いしな。旅の目的を終えたら考えてくれないか」
「はい、ありがとうございます」
私は報酬代わりに劇で使った衣装を貰い受けると、それを身に付けたまま……さっきから私に向かって殺気を放っている人達を引き付ける為に近くの路地裏に向かいます。
「にしても……何故に『カルディア』さん達と私のご先祖様、私達の事が劇になってるんでしょうか?」
恋の結末は私のご先祖様ではなく、ルパンさんの勝利になってましたけど。
…………思えば、カルディアさんと『えれな』さんの血の影響で金と青のオッドアイになってて(向こうではカラコン、今は魔法で黒目にしています)気味悪がられた事と父親が誰かわからない(既に結婚していた
「まあ、だからこそ私達は本音を話せたんですけど」
タイムスリップ先での大騒動の際に互いの思いの丈をぶつけたお陰で私は自分を兄さんは私を認められたんですけどね。
「その後が大変でしたけど」
6年生の頃の
「まあ、そういう訳で……!」
「げ!?」
私は襲い掛かってきた白装束の人間の攻撃を避けると、顎に掌底を打ち込みノックアウトしました。
「あんた達を全員ぶっ倒します。エアストスロー!」
私は文香を襲った連中の仲間にそう言いながら短剣を投擲します。
「「「「「
白装束達は同じようなかけ声と共に、同じような武器を持って襲い掛かってきますが……遅い!
「『ダブルアリア』! 切り裂け、『
私は何時の間にか戻っていた能力を使いそこから逃れると、複数の幻影の斬撃を放ち切り裂きます。
「くそが!
「『クロノブラスト』!」
どう考えてもこんな人がいる場所に近い所で使う攻撃ではない攻撃を行おうとしたバカな人に空間を擬似的に破壊する魔法を使ってぶっ飛ばします。
「このイレギュラーめ……!
そう悪態をついた人の顔面に文香が蹴りを叩き込みました。
「香……似合ってるな」
「ありがとうございます」
そりゃ私の先祖が着てた服ですしね。
文香が暴れまわった事と騒ぎを聞き付けた人達が来た事で白装束達は逃げ出し、私達も慌ててこの街を出ることになりました。
──────────────────
「さようなら。
「…………あ」
「文、香…………? 文香、文香ぁぁぁぁぁ!?」
文香は女の子……『
…………文香が桃の花の香りに惹かれてたどり着いた場所……『豊葦原瑞籬内皇国《とよあしはらのみずがきのうちのすめらみことのくに》』(文香は「いや、国名が長すぎだろうが!?」と突っ込んでいた)で義理のお兄さんを捜していた奏海さんと出会った文香は奏海さんを何処かに連れて行こうとしていた人達を薙ぎ倒して助けて……その後で来た人達にこの国の一番偉い人である『
その後で奏海さんの通っている学校に行って行方不明だった奏海さんのお兄さんである『鴇田
その結果、二人の幼馴染みである『
「てめえは……何者だ!」
「
もう一人の文香は初恋の人と親友を殺した事実に耐えきれず文香達が敵対していた『奈落』に身を染めて様々な世界を壊しながら、二人が生きている世界をもう一度創ろうとしていたんだ。
「ふざけんな! アマラがそんな事を認めるかよ! 自分が死ぬことをわかっても、アラヤを止めようとしたアイツが……」
「あら? それは……貴方の都合の良い解釈でしょう?」
「っ……それは…………」
文香はフミカの奈落を纏った力と精神的に安定していなかったせいで惨敗して、宮国さん、鴇田さんと落ち延びていって……二人にアマラさんとアラヤさんを殺してしまった事、そしてその絶望でフミカと同じようになってしまうんじゃないかっていう心配を言ったの。
けど…………二人はそれを聞いて文香を慰めて、励ましたの。
その励ましや自分がしている事を自分で拭おうと決意して……最後の最後で文香は誰かを犠牲に出来ずに負けた。
場面が変わる。
『行ってこい。文香』
『私達は、貴方のそばにずっといるから…………』
「アラヤ、アマラ……ありがと」
文香は死の淵の中でアラヤさんとアマラさんの霊に再開した文香は二人から許され、そして自分を許す事ができた。
そして…………
「そっか。それで……良かったんだよな。何処までも、まっすぐにあたしは、突き進むだけだ! …………『
文香の持っていた宝石が光に包まれ、そして……
「よう、
「そんな、どう……して」
文香は闇に落ちた自分の剣を確りと受け止め、向かい合っていた。
『やっと、文香とのパスが繋がったわ! 続きは文香に聞くことね!』
あ、漸く思い出せた。文香の夢を見る切っ掛けは…………『ナルカナ』さんだ…………
私はゆっくりと目を覚ます。
「……文香、もうすぐシャードは力を取り戻せるから。そしたら、文香の今までの事全部話してほしいな」
私はそんな事を思いながら起き上がった。
因みに香の事件のルビは香と元康の遭遇したゲームの題名です。
次回『合流及び偵察』
次回もお楽しみに!