四聖姉妹の奮闘記   作:愛川蓮

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錬の姉のプロローグです


剣の姉のプロローグ

 弟が、死んだ。連続通り魔から私達の幼馴染みを助けようとして、刺されて死んだようだ。

 

「……『(れん)』」

 私『天木(あまき)(りん)』は弟である『天木(あまき)(れん)』の名を呟きながら歩く。

 

 ……錬は少々斜に構えた部分とどうしようもなく自分に甘える部分があったものの、責任感と正義感を兼揃えた良い弟だった。

 ……まあ、同時に自己防衛本能がでかすぎて少々コミュ障気味でもあるんだが。

 

 だけど、少々欠点があっても私にとっては守るべき弟であり、家族であった。その家族が凶悪な通り魔から幼馴染みであるあいつを守ろうとしたのは誇るべき事である。

 

 だけど、それでも……

「生きて、ほしかった。あいつを見捨ててでも、生きていて、ほしかった……」

 不謹慎な事だろう。通り魔に襲われたあいつやあいつの家族にとってはたまったものではないだろうが、それでも、家族に生きていてほしいというのはわがままだろうか? 

 

「いや、わがままだろうな」

 私は人として最低な事を思い浮かべた自分に自嘲しながら歩き……

 

「きゃー!? 坊や!」

 突如として聞こえた悲鳴に振り替えると、そこにはボールを追いかけたのかボールを持った幼い男の子が道路に飛び出していた。

 

「!? 車が……!」

 しかも運転手がスマホを見ながら運転している車が速度を無視して接近していた。

 

「…………っ、ええい! ままよ!」

 私は迷いはしたものの、幼い子供の命が失われるのを見ている訳にはいかない! 

 

 私は少年のもとまで走ると、彼を抱えて避難をしようとして……

 

「あが!?」

 何故か足元にあった空き缶を踏んでひっくり返るはめになった。

 

「な、なんで空き缶が……!?」

 私が咄嗟に周囲を見回すと、そこには焦った表情の自転車に乗った男が『何かを投げ捨てた様な格好』でいた。

 

「空き缶のポイ捨てを……するなぁ!」

「あ、危ない!」

「っ!? 間に合わないか……ならば!」

 声に気付くと私は男の子を道路の近くにいた人に投げ飛ばし、せめてもの抵抗とばかりにポイ捨てされた空き缶を逃げ出そうとしたポイ捨て男に向けて全力で投げた。

 

 響く空き缶がぶつかった音、轟くブレーキ音、巻き起こる悲鳴、そして私に伝わる衝撃と浮遊感…………直後に道路に叩き付けられ、強烈な痛みに脳が悲鳴をあげる。

 

「大変だ! 女子高生が一人跳ねられたぞ!」

「誰か警察を!」

「それより先に救急車! 救急車を!」

「誰か、AEDを持ってきてください!」

「あ、車も自転車も逃げるぞ!」

「車は写真を撮れ! 自転車は逃がすな!」

 私はかろうじて意思に応じる頭部を動かすと、慌てて逃げ出そうとしたポイ捨て男が周りから取り押さえられる光景が目に写った。

 

「……お姉ちゃん、だいじょうぶ?」

「ありがとうございます! 息子を助けてくれてありがとうございます!」

 声の聴こえた方向に頭を向けると涙を流す女性と女性に抱き抱えられた何がなんだかわからなそうな男の子がそこにいた。

 

「…………ああ、大、丈夫……だ。私は、少々頑丈だからな………………こんな傷なんて、へっちゃら、だ」

 私は男の子に大丈夫だと示すために微笑みかける。

 

「じゃあ、早く治ります様にっておまじないしてあげる」

 そう言って男の子は「痛いの痛いの飛んでいけ~」と私の頭を撫でた。

 

「あり、がとう。お姉ちゃん、ちょっと眠くて目を閉じるから、な。離れていて、くれ、ないか…………?」

「うん。おやすみなさい、お姉ちゃん」

 そう言って男の子は私から離れていく。

 

「(………ああ、意識がぼやけて、きた)」

「目を閉じないでください! お願いです、お礼をしたいんです! 生きてください!」

「AED、持ってきました!」

「応急措置、急いで!」

「救急車まだかよ!」

 私は必死に目を開けようとしたが、だんだんと瞼が下がっていく。

 

「(もう、ダメ………………だな。意識が、朦朧と、してるし…………それに、体も応えて、くれない…………しな。……………………死ぬのか、私は)」

 錬……今、そっちに行く。父さん、母さん……………姉弟揃って、先立つ不孝を……許してください。

 

 …………………………ああ、でも

「(もしも、私の、わが…………まま、が…………………………叶うの、なら、ば…………もう一度、錬に…………会いたかった。それに……恋も、して…………見たかった……………………な)」

 私の意識は、ゆっくりと闇の中に、堕ちて……………………

 

『やーれやれ、死んでもらっちゃ困るんだよ! 『小手』の勇者様!』

 

 ……………………………………………………

 

「…………もし、そこのお嬢さん」

「……………………うわあ!?」

 私は声に気づき、目を開けると……目の前に眼鏡をかけたサーカス団長の様な怪しい男がいたので、つい悲鳴をあげて距離をとってしまった。

 

「……あ、す、すいません! 起こして……くれ、たの…………に? ど、何処だ此処は!?」

 私が外を見ると、そこには中世をそのまま削り取ったような町並みが広がっていた。

 

「此処ですかな? 此処は傭兵の国『ゼルトブル』ですが……」

「…………ゼルトブル? なんだそれは? 私は日本にいた筈だぞ!? そんな国は知らない…………? 待てよ、確か錬と一緒にやったゲームの中でそんな国、が…………?」

 そうだ、思い出した。『ブレイブスターオンライン』だ! まあ、私は基本的に『シャンフロ』や『ALO』がメインだったから嗜む程度だったが…………

 

「って、意味ないじゃないか…………」

 普通ならゲームの世界に来たと思うが、妙にリアリティーがありすぎる。いやまあ、シャンフロやALOっていう例外は存在するが…………

 

「…………どうかしましたかな?」

「……ああ、すいません。これからどうしようかと考えておりまして」

「それならばゼルトブルはうってつけですな。『コロシアム』がありますから無一文でも、腕があれば一攫千金が狙えますぞ?」

「なるほど。だが、装備が……って、なんで『小手』だけあるんだ?」

 私が男性から軍資金の獲得方法を聞いてすぐに装備がないことを言おうとしたが……私がふと腕を見るとそこには甲の部分に綺麗な宝石を嵌めた一対の小手が装備されていた。

 

「ふむ…………では、『奴隷』を雇うのはどうですかな? 奴隷はコロシアムでは装備扱いですので」

「…………奴隷、ですか」

 人権を尊重する国から来たから胸糞の悪い話なのだが……背に腹は変えられんか……

 

「わかり、ました。あ、ですが代金はどうすれば…………」

「ああ、それならばコロシアムの賞金でお支払いいただければ結構です」

「わかりました。しかし、さっき知り合った見ず知らずの私に何故そこまで…………?」

「ふふふ、あなた様はこれから上客になるような予感がしましたので」

「……その予感が当たることを祈ります」

「では此方です」

 

 そう言って奴隷商人にテントの奥に案内されると、そこには多数の檻とそこに踞ったり、私に向けてギラギラとした殺気を醸し出す人間…………達? 

 

「あの、あの白い髪の兄妹は耳の位置が違う様な…………?」

「ああ、あれは『亜人種』の『ハクコ種』の獣人で昨日仕入れた活きの良い奴隷で兄の方の値段は金貨二十枚でございます」

「(金貨一枚辺りの値段がわからんが高そうだな)…………妹の方は?」

「妹の方は銀貨三枚でございます」

「安いな!?」

 兄と妹で値段が違いすぎやしないか!? 

 

「っ…………! 『アトラ』は病気なんだ! だからそいつはアトラが死ぬのを待って俺を売るつもりなんだよ! だから…………!」

 …………この人がそこまで性悪だとは思えんが、確かに彼女には火傷の様な傷が全身中にあるな。

 

 …………さてと、私が取るべき手段はただ一つだな。

 

「…………なあ、君は二人とも出すと言ったらどうする?」

「「…………は!?」」

 私の言葉に奴隷商も兄も同時に驚く。

 

「何も驚くことはないだろう。君は妹……アトラを助けたい、奴隷商の貴方の方は奴隷を私に売りたい……ならばこれでWINWINだろう?」

「それはそうですが…………」

「お前、バカだろ…………」

 二人揃って呆れたような表情でそう言う。

 

「錬……弟にも良く言われる。…………で、どうする?」

「…………本当にアトラも出してくれるんだろうな?」

「ああ、二言はない。…………貴方の方は?」

「…………やれやれ、とんでもない客の様ですな貴女は」

「すまないな、こんな客で。…………絶対に損はさせんさ」

 私は『やれやれ』と言った表情の奴隷商に苦笑いをしながら答える。

 

 …………………………………………………………………………

 

 それから数日後

 

「いやはや……『損はさせない』と言われましたが…………此処までとは」

 奴隷商が苦笑いをしながらそう呟く。

 

 そこには……

 

『け、決着ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!? 数日前に彗星の如く現れたルーキー『リン・アマキ』選手、奴隷として登録された『フォウル』選手と共にこのコロシアムのチャンピオンまでも瞬殺ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! この二人の強さは本物だぁぁぁぁぁ!』

 奴隷として(予約)購入したハクコ族の青年『フォウル』と共にコロシアムのチャンピオンをも瞬殺する凛の姿があった。

 

「ちっくしょー! 初めて来た日はあの二人のお陰でおけらだぜ!」

「でも、今はあの二人のお陰で大儲けしてるだろうが! 俺なんてチャンピオンに今月の給料全額を賭けてたんだぞ!」

「そりゃ自業自得だろうが!」

 そう言って奴隷商の側にいた男達が苦笑いをしながら話し合っていた。

 

「やれやれ……この勢いだと本当に二人分の代金を稼いでしまいそうですな…………」

 奴隷商は手を掲げた凛にぶっきらぼうな表情でハイタッチをするフォウルを見ながらそう呟いた…………

 

 彼女……眷属器『小手』の勇者である『天木凛』が弟の『天木錬』と再開するのは一ヶ月後…………彼が聖武器『剣』の勇者に選ばれて『メルロマルク』に召喚され、彼女が『フォーブレイ』のとある王子から調査を依頼された時である。




いかがでしたか?

次回『弓の姉のプロローグ』

お楽しみに

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