「姉さん!」
「え…………? いつ、き…………?」
私が押されたすぐ後で激突するトラック、トラックに吹き飛ばされ動かなくなる樹。
巻き起こる悲鳴、樹から流れる血で赤く染まる道路。
私はふらふらと動かない樹に近づく…………
「樹……? ねえ、樹…………嘘、よね…………? ねえ、起きてよ、ねえ…………い、や…………いや…………いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
目の前で血塗れになって倒れる樹に私はすがりつく。
そして、その向こうではにやにやと笑う…………
………………………………………………………………
「……………………は!?」
私はそこで目を覚まし、がばりと起き上がる。
「…………此処、何処?」
そこは冷たい牢屋が並ぶ石畳の廊下だった。
「えっと……確か、樹の葬式をして…………それから、それから…………あれ? どうして思い出せないの…………?」
確か、何かを確かめるために学校に行ったはずだけど…………それからどうしたんだっけ…………?
「…………あれ? これは…………『斧』?」
何故か私の手の中には綺麗な宝石が刃の真ん中についた斧があった。
「まずは此処から出ること…………かな?」
私は立ち上がるとそのまま歩き出した…………
『あんなの覚えさせるわけないだろう。あんな憎悪にまみれた『
……………………………………………………
「ひ、ひどい…………」
この牢屋には多数の人間の骨と思われるものや既に腐乱している死体に拷問でもされたのかボロボロの死体が至るところに散乱してる。
これが牢屋なんだとしたらかなり悪趣味なやつか、最低なやつが看守って事ね…………!
「一体、どういう所なの…………?」
私は斧を持って警戒をしながら進む。
そうしていると…………
「だ…………れ…………?」
声が聴こえたので慌てて近くの牢屋を見るとそこには顔色の悪い鼬の耳を着けた女の子とその子を介抱する狸の耳を着けた女の子がそこに居た。
「良かった…………二人とも息があるんだよね!? 今、だしてあげるから!」
「…………っ、だ、だめ! そんな事をしたらお姉さんまで捕まっちゃう!」
私が牢屋を壊すために斧を振り上げると、狸の耳の女の子が慌てた様子でそれを止めた。
「でも、急いでその子を治療しないと死んじゃうのよ!? だから…………」
「わかってる、わかってるよ……このままじゃ、『リファナ』ちゃんが死んじゃうってことは…………でも、そのせいでお姉さんが死んじゃう事になったら、私もリファナちゃんもきっと…………」
狸の耳の女の子がポツポツと話すのを聞いて、私はもう一回斧を思いっきり振り上げる。
「!? ど、どうして…………」
「…………決まってる。私の事を心配してるのは、わかる。それについてはありがとうって言うよ。でも…………そうやって私が死ぬ前提で話すのは、ネガティブな考えで決めつけるのは、やめて」
私はそう言いながら、確りと斧を降り下ろすために狙いを定める。
「ねえ、貴方の名前を教えて」
「え…………? ら、『ラフタリア』…………」
ラフタリア…………ね。うん、可愛い名前。
「ラフタリアちゃん、その子…………リファナちゃんだっけ? 貴方も、その子も…………私が絶対に助ける! どっちがなんて選択はしない。絶対にどっちも助けてみせる! だから…………私を、信じて! 」
そのまま気合と共に斧を降り下ろして牢屋を破壊する。
「お姉…………さん」
「理奈」
「え…………?」
「私の名前。川澄理奈、それが私の名前よ」
「リナ…………さん」
「さ、一緒に逃げよ? リファナちゃんも一緒にね?」
「…………はい!」
私はリファナちゃんを背中に背負い、ラフタリアちゃんと手を繋いで歩き始める。
「し、侵入…………「邪魔ぁ!」びゃあ!?」
牢屋を破壊した音に気付いたのか、中世の兵士みたいな格好をした人が慌てて声をあげようとしたけど私はそれをものともせずにぶっ飛ばす。
「あいた!?」
兵士の持っていたハルバードを踏んだら『バチッ!』と音が鳴って『スティールハルバードをウェポンコピーしました。すぐに切り替えますか?』というウィンドウがでたから『はい』の部分に視線を向けると、私の手の中には兵士の持っていたハルバードがそこにあった。
「そ、それって…………七星勇者の…………?」
「え、これってそんなに凄いものなんだ!?」
私は手の中の斧に驚きながら進むと…………
「いたぞ、侵入者だ!」
「お、意外と可愛いじゃねえか!」
「殺す前に楽しんでやろうじゃねえか…………へへへ」
下卑た表情の兵士が三人ほど出てきた。わかりやすすぎるほどの下衆野郎どもね…………!
「ん? 『スキル』…………?」
私は接近してくる三人を見ながら頭の中に浮かんだスキルを使用する。
「『
「「「あごば!?」」」
私はハルバードを横凪ぎに放つと、兵士達は軌跡の先にあった壁に叩きつけられてノックアウトされた。
「へぇ…………中々使えるじゃない…………このままどんどん進むわよ!」
私は群がる兵士達を右に左に時には背後にぶっ飛ばしながら出口を探して突き進んでいった…………
………………………………………………………………
「な、何事だ! この騒ぎは!」
理奈がリファナとラフタリアを連れて地下牢の出口を捜してから十数分後、地下牢の上の屋敷の中では屋敷の主人が突如として起きた爆音に慌てふためいた様子で悲鳴をあげた。
「イドル様、侵入者です! 地下牢で捕らえていた亜人達を脱出させようとしているもようです!」
「なんだと!? わざわざ薄汚い亜人どもを助けようとするとは…………すぐに引っ捕らえろ!」
「そ、それが鬼神のごとき強さでして…………しかも『斧』の眷属器を持っておりまして…………」
「なんと、斧の七星勇者だとでも言うのか…………ええい! 私も出る! 誘き寄せろ!」
「はは!」
イドルと呼ばれた男はそう兵士に命令をすると、愛用の鞭を取りだし走り始めた。
彼らは知らない。その様子を見ているアホ毛の生えた鳥の様な生物が窓に居たことを…………
………………………………………………
「邪魔! 『大斧旋風』!」
「「「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」
私が周囲にいた兵士を斧のスキルで凪ぎ払うと、私達は足早に走り始める。
「ちっくしょ…………数が多いったらありゃしない…………」
「り、リナさ……ん。だ、大丈夫ですか…………?」
「あんがと。こんぐらい楽勝よ、楽勝。それから
「ご、ごめんなさい…………」
「良いの。でも、様付けなんてされたらちょっとこそば痒いからやめて?」
「ど、努力します…………」
「あはは…………さ、もうひと踏ん張りしますか」
地下牢から脱出して一時間くらいたったけど…………全然屋敷の出口に近づけないのよね~…………
おまけに…………
「なーんか誘き寄せられてるような気がするのよねぇ…………」
「ど、どうすれば良いんでしょうか…………」
「ま、分厚い包囲網を突破しようとしてラフタリア達を人質に取られたら不味いから…………罠でも包囲の薄いところにいくしかないのよねぇ…………ま、虎穴に入りますか!」
私は立ち上がると、再び兵士を相手に激闘を開始する。
「踏ん張れ、みんな! もう少しだぞ!」
「本当に邪魔!」
「あべげ!?」
私が立ち塞がっていた重騎士を斧でぶっ飛ばすと、そこには中庭と…………!? なんか来る!?
「きゃあ!?」
私が一本の鞭で腕を打たれて怯んでいるうちにもう一本の鞭で斧が取り上げられてしまった。
「しま…………!」
「ぐふふふ…………どうかね? 薄汚い亜人を助けようとした斧の偽勇者よ。これでも我が兵士を相手に戦えるかね?」
私が武器を無くして呻いていると、斧を巻き付けた鞭を引きずるように太った体にハゲをカツラで隠したおっさんが出てきた。
「…………ヅラ、ずれてるわよ」
「は!? そ、そんな筈は…………あ」
私は周囲の兵士がおっさんがヅラを慌てて確認して呆然としている隙に斧を取り返そうと走り出して…………
「きゃあ!?」
「!? ら、ラフタリアちゃん! リファナちゃん!」
悲鳴に後ろを振り向くと、そこには此処に来る前に隠れさせたラフタリアちゃん達が兵士に拘束されていた。
「ふ、ふん! 流石は偽勇者だ。虚言で隙を作らせようとするとはな…………」
「いや、自分でヅラだって証明してるじゃない」
「やかましい! おほん! 貴様には二つの道がある。亜人どもを見捨て大人しく立ち去るか。それとも亜人どもを見捨てずにこのまま無惨に死ぬかのどっちかだ」
「後者」
「…………は?」
「後者に決まってんでしょ、ハゲ。ラフタリアちゃん達を見捨ててのうのうと生きるくらいなら、諦めずに抵抗してあんたをぶち殺す精神で行くわよ」
「こ、この小娘が…………! もういい! 望み通り…………」
私が覚悟を決めてハゲに飛びかかろうとすると…………
ドッガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!
轟音と共に塀の壁が消し飛んだ。
「な、なんだぁ!?」
「な、なんなのよ、一体…………って、何あれ!?」
私が塀の方を見ると、そこには超巨大な可愛い鳥のような生き物がそこにいた。
「な、なんだあれは…………衛兵! 早くあれを…………」
「『ドライファ・トルネードキャノン』」
鳥のような生き物が声を発すると同時に放たれた竜巻の砲弾が一瞬で屋敷の屋根を粉砕した。
「「「「「………………………………………………………………に、逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」」」」」
「き、貴様ら! ワシに先んじて逃げるな! ワシを先に逃がさんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そう言ってハゲとその配下の兵達はあっと言う間にいなくなってしまった。
「…………なにこれ?」
「斧の勇者。助けに来た」
私が呆然としていると、巨大鳥が私に話しかけてきた。
「えっと…………助けてくれて、ありがとう。私の名前は川澄理奈。貴方の名前はなんなの?」
「『フィトリア』。私はそう呼ばれている。因みに斧の勇者を助けに来たのは私の眷属が知らせてくれたから」
「グアグア!」
「そっか……あんがと」
私はそう言っていきなり現れた鳥の頭を撫でてあげる。
「それじゃあ、私はこれで…………」
「待って! この子が治るまで治療できる場所ない!? それから、私修行をしたい! ラフタリアちゃん達を軽く守れるくらいの力が欲しい!」
私は慌ててさっさと立ち去りそうなフィトリアに慌てて交渉をする。
すると、フィトリアが何やら考えた後に光と共に姿を変え…………て?
「……………………え? えぇぇエぇ絵ぇェぇェえエ江ぇエぇ得ェえエぇ絵エ江ぇエぇ
え───っっっっ!?!?!?!?」
「…………じゃあ、私達の聖域で修行をすると良い。ただし、私の修行は厳しいから死なないように。『ポータルキャリッジ』」
いきなり小さい女の子に変わったフィトリアに馬車に押し込まれて、私達はこの場所を離れていった…………
彼女『川澄理奈』が弟の『川澄樹』と再開するのは、それから一ヶ月後の話である…………
如何でしたか?
次回『盾の妹のプロローグ』
お楽しみに