あれから数時間後、私達はオレンジバルーンを皮切りにブルーバルーン、イエローバルーン、レッドバルーンなどのバルーンシリーズや『ウサピル』というウサギみたいな魔物など序盤に出てくる雑魚敵みたいな魔物を蹴散らして素材を確保し街に帰還していました。
「え、香って今の段階でレベルが15なのか!?」
「そうですよ。因みに文香のレベルは何故か52、凛さんは27、理奈さんは41でしたね」
因みに現在の尚文さんのレベルは6です。
「文香が異様に荒んだ雰囲気を持ってるのと何か関係があるのかなぁ……あんな雰囲気『
「何かあったんですか?」
「いや、特には……でも高等部でも有名な人達との付き合いはあったかな? ……ああ、不良みたいな行動をするようになったのもあの頃からだな……荒んだ雰囲気が和らいだ時と同じ位の時に過剰な暴力は止んだんだ……売られた喧嘩は買う姿勢はそのままだったけど」
…………本当に何があったんでしょうか?
「お、盾のあんちゃんと投擲具の嬢ちゃんじゃないか。他の勇者たちも顔を出してたぜ……なんか、『その行為は万引きだ!』だのどうだのの言い争いもしてたけどな」
まあ、樹さんと凛さんを見ていたから予想はしていましたが全員来てたんですか……けど、万引きって一体……?
「そうだ。これって何処で買い取ってくれる?」
バルーン風船シリーズやウサピルの毛皮をを親父に見せると親父さんは店の外の方を指差しました。
「魔物の素材買取の店がある。そこへ持ち込めば大抵の物は買い取ってくれるぜ」
「ありがとう」
親切な親父さんですね……
「で、次は何の用で来たんだ?」
「ああ、ウィンディア……仲間の防具を買おうって決まってさ」
「一緒に狩りをしている時に危ない場面が多々見られたので……あ、お金は私が出しますね」
因みにフレンさんも買いたいと言っていましたが、ウィンディアの方が武器しか装備していないのとフレンさん自身の装備も結構良かったので節約の意味で却下しました。
「……予算は?」
「ウィンディアは私の命の恩人なので金に糸目は……あまり着けません」
「あまりかよ……」
残りの予算は尚文さんと私を合わせて銀貨1100枚程、宿屋の滞在費や仲間を雇う代金も残すとするとあまりにも高いのは却下です。
「ウィンディア、どんな防具が……既に集中して選んでるみたいですね」
下手に話しかけたら怒られそうです。
「……割りと長引きそうだから、雑談しながら今のうちに値引きしてやる」
「ふ、同意見です」
「お、面白いことを抜かす勇者様方だ」
「8割引!」
「幾らなんでも酷すぎる! 2割増!」
「それ逆に増えてますよね!? 7割引!」
「商品を見せてねぇで値切る野郎達には倍額でも惜しいぜ!」
そりゃそうですが…………
「ふ、抜かせ! 9割引!」
「チッ! 2割1分増!」
「だから増やさないでください! 9割9分!」
「それはほぼタダってんだ勇者様! しょうがねえ5分引き!」
「少ない! 9割2分──」
それから数分後……ウィンディアが選んだのは比較的に高めながらも性能、重さ、防御部位全てがウィンディアの現在の戦闘スタイルにあった防具を持ってきました。
「……これにするわ」
「親父さん、幾らですか? 6割5分!」
「おまけして銀貨280枚だね。これ以上は負けられねぇ、5割9分だ」
…………考えていた予算(銀貨200枚)よりは割高ですが、ウィンディアの命を守れる事を考えると安い買い物ですね。
「わかりました、その値段で買います」
「やれやれ、とんでもねぇ勇者様達が来たものだぜ……毎度あり!」
ふう……凄まじい
──────────────
「男性用の小部屋と女性用の大部屋の二部屋でお願いします」
「はや!?」
私は宿屋に着くと、フレンさんが何かを言う前に部屋を取ります。
「尚文さん、男女別に別けた理由は……わかりますよね?」
「……うん、元康に殺されたくないからね。気を付けるよ」
わかればいいんです、わかれば。…………まあ、下着を見た位ではぶん殴る程度だと思いますけどね。それ以上は保証しませんけど。
宿屋に並列している酒場で料理を注文すると、尚文さんが途中で買った地図を広げました。
「えっと、今日行ったのがこの平原だよな?」
「はい、そうですよ」
「で、その先が昼間に話していて錬さんと文香さんが行ったのがこの森ですよね?」
「ええ、この地図には載っていませんが私達が行こうとしているのは森を抜けたラファン村です」
…………地図に乗らない位小さな村って事でしょうか?
「ふむ……そうか」
「ラファン村を抜けた先あたりが初心者用ダンジョンがあるんですよ」
「ダンジョン……!」
「ふむ、ダンジョンですか」
尚文さんがリオンを見ていたときの様に目をキラキラとさせています。まあ、
「そう言えば尚文さん、昨日もそうなんですけどお酒飲めないんですか?」
「いや、飲めるんだけどさ……ちょっと苦手なんだよね」
そうなんですか……兄さんも父さんもお酒に強いんで男性は全員そうなのかと思ってました。
「まあ、料理が美味しいからそれいいんですけどね」
…………フレンさんが料理に調味料を入れるふりをして『
「さて……と。お腹一杯になりましたし、今日はもう寝ましょうか」
「うん、また明日ね」
「はい、また明日」
…………明日には一人減っていると思いますが、ね。
──────────────
「……やはり動きましたね」
私は夜遅くに着替えて何処かに行こうとしているフレンさん……いや、
…………まあ、睡眠薬を入れた段階で察していたんですけどね。こういう人だって。私が小学3年生、兄さんが小学6年生の頃に病んで睡眠薬入りの弁当を食べさせて、兄さんを食べようとした人の気配がしたんですもの。
「さて、と。そろそろ止めますか」
私は部屋を出ると、尚文さんの部屋に入ろうとする地雷女を止めようとして…………
「…………っ!?」
私は手にした投擲具のナイフで後ろから振るわれた刀を受け止めました。
「っ、何者ですか!」
「……腕は落ちていないようだな、
「…………!? その、声…………は!?」
私は刀を構えている相手を察して愕然とします。だって、この人は……!
「なんで、死人である貴方がここにいるんですか……!
「……無駄話をしている暇はない」
そう言ってその人は刀でナイフを弾き飛ばして私に蹴りを決めて宿屋の外に蹴り飛ばしました。
「えん……じゅ!」
私は私を見下ろす男……中学2年生の頃に私と兄さんが住んでいた『
「待っていなさい、すぐに……「えい」ぐぺ!?」
私は御剣槐に集中しすぎていたせいで後ろから殴られたのだと気付いた時には、既に私の意識はなくなっていました……
──────────────
「本当にいいのかな? アイツの行動を止めた方が良いような気がするんだけど……?」
「さあな、しかし俺達はあの黒ローブの男に蘇らされた身だ。今は従うしかない」
「まあ、そうだけどさ……」
倒れ伏した香を見下ろしながら御剣槐と10代半ばの不満そうな少女はこれからの事を話し合う。
「そういえば『
「岩谷尚文の妹の監視をしている。ローブの男曰く『下手に奇跡を起こされると困る』だそうだ」
「ふーん……まあ、錬と会うと気まずいしね。僕じゃなくて良かったよ」
「お前が生きていた世界の人間だったな『ユウキ』」
「まあね、真宮寺さんや御剣さんはこの子とその兄がいた世界だっけ?」
「……『真宮寺
「わかったよ、『カイン』と合流だよね」
「ああ」
そう言って御剣槐とユウキと呼ばれた少女は闇夜に消えた……
──────────────
「香、しっかりしろ!」
「香、大丈夫!?」
「い……痛ぅ……!」
私は兄さんとウィンディアの声と共に目が覚めます。あー……頭が殴られた後遺症でガンガンする……
「って、そうです! 兄さん、大変です! 御剣槐がいました!」
「んな!? 確か死んだはずだよな!?」
「ええ、私達の記憶を媒介に『
「……って、今はそんな場合じゃない! 尚文がフレンディーナを『強姦』しかけたって罪で放り出された!」
……………………………………………………え?
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「うぉ!?」
な、なんですかそれ!? 何がどうしてそうなったんですか!?
「兄さん、どういうことですかそれ!?」
「俺にもわからん! 王様が俺達を集めてフレンディーナが昨晩、尚文に強姦されかけたって言ったんだ!」
「兄さん……まさか信じたんじゃないでしょうね?」
「白よりの灰色! フレンディーナの話の内容は真に迫ってたんだけど……昨日、尚文と一緒にいた香がいなかったし、何故か女性陣が誰も呼ばれていなかったから黒と決めつけるのは止めたんだ」
ほ……まあ、兄さん単体だったら間違いなく騙されたんでしょうけどね……
「因みに他のお二人は?」
「錬は中立。文香との会話の様子と、フレンディーナの話の内容の真実っぽさからどっち付かずになったみたいだな。樹は……完全な黒。理奈ちゃんとかを呼ばなかったのは女性にはデリケートな問題だからって決めつけてた」
私達は出会って間もないですから信頼だのなんだのがないのが響きましたね…………!
「ただ、その後で文香ちゃんが飛び込んできて……」
「……映像が目に浮かびます」
暴れまわる文香さん、ぶっ飛ばされる王様と樹さん、倒れ伏す兵士達、血祭りにされる地雷女…………地獄絵図が容易に想像できます。
「いや、お前が想像する事態になる前に尚文が止めて……そのまま尚文は王城から追放されたんだ」
マジですか………………
「香、昨日の夜に何があったの?」
「……あの地雷女が夜中に起きて尚文さんの部屋に入った位しかわかりません」
「多分……尚文から装備を剥いで金貨袋を強奪、王城に向かったんだろうな」
く…………! あの時止められていれば…………!
「香、お前はこれからどうするんだ?」
どうする……とは?
「尚文にこのまま着いていくのか、それとも他の皆と行動を共にするか……だな」
…………愚問ですよ、それ。
「尚文さんに着いていきますよ。……あの時、私があの地雷女を止められていればこんな事態にはならなかったんです。だからこそ……私は尚文さんを助けたいんです」
「……だろーな」
兄さんは笑顔で私の頭を撫でます。
「……子供扱いしないでくださいよ! 行きますよ、ウィンディア!」
「わかったわよ!」
私達は尚文さんを捜すために表通りに向かいました……
──────────────
「親父さん! 尚文さんが来ません…………な、尚文さん!?」
「ああ!? …………香か」
あれから一週間。私は尚文さんに関する情報を集めるために親父さんの所に来ましたが…………まさか、見つかるとは………………
「何の用だよ、裏切者め……!」
……裏切者、ですか。そうですね、助ける時に助けられず、来るべき時に来れなかった…………これでは裏切者扱いされて当然でしょう。
………………………………でも、
「それでも……あの時、尚文さんの仲間になりたいって言ったのは私ですから。だから、私は尚文さんを追いかけて来たんです。もう2度とこんな理不尽な目に尚文さんをあわせないために、今ここにいるんです」
「……信用できるか! お前も、お前の側にいる女も俺が用済みに為ったら……「盾のあんちゃん」あだぁ!?」
私の言葉を尚文さんは声を荒げて否定しようとして……親父さんの拳骨が尚文さんの頭に直撃しました。
「何すんだよ!?」
「女に騙されたからって理由で女を信用できなくなるのは、そりゃあわかるぜ? でもよ……探しに来てくれた投擲具の嬢ちゃんの事を頭ごなしに否定するのは筋が違うんじゃねえのか? ……無条件で信じろつってんじゃねぇぜ? だけどよ……1回ぐらいは信じてやってもいいんじゃねえのか?」
…………親父さん。
「…………………………………………………………報酬は、出来高払い。後、裏切ったら……絶対に殺す……!」
「……構いません。そこまでしないと信用されないって言うなら……そこからまた、信用されるようになるだけです」
「…………ふん」
「っと、それから…………ほらよ」
そう言って親父さんは麻の服と煤けたマントを尚文さんに手渡しました。
「…………これは?」
「そんなカッコじゃ舐められるぜ。せめてもの餞別だ」
…………そう言えば、下着でしたね。
「……ちなみに幾らだ?」
「銅貨5枚って所だな。在庫処分品だ」
「……分かった。後で返しに来る」
「ちゃんと帰って来いよ。俺は金だけは信じているんでな」
…………本当に良い親父さんです。
「あーはいはい……行くぞ」
「わかりました」
「はいはい……」
私は目付きが鋭くなった尚文さん、ウィンディアと一緒に歩みだしました…………
次回『奴隷~キール~』
お楽しみに