バーサーカーとそのマスターを捲いた俺は魔力の残留を辿ってマスターを捜索していた。
迂闊だった…。
この聖杯戦争に参加しているサーヴァントは俺やバーサーカーだけじゃない。
おそらく別のサーヴァントに襲撃された。
しかも令呪で俺を呼び出す隙を与えずに、だ。
「最後にマスターの反応があった場所は…ここか!」
マスターからの魔力供給が途切れていないから生きていることは間違いないが
このまま敵の捕虜になってしまったら厄介だ。
急がないと…。
なんとか最後にマスターの反応があった場所に辿りついた。
しかし…ここはまた立派な屋敷だな。
どうやらこの屋敷の土蔵がマスターの反応が途切れた場所のようだが…。
「マスター!無事か!!」
土蔵の中へ突入するとサーヴァントが一人と気絶したマスターと呆然としている少年がいた。
あの少年…マスターだったのか。
いや、違う。
あの少年はついさっきマスターになったばかりなのだろう。
おそらく儀式を省略した正式ではない召喚を行ったのだろう。
それに彼からは敵意を感じない。
彼は問題ではないだろう…。
問題は…
「………(チャキッ」
こっちのサーヴァントだ。
少しでも気を抜いたら斬りかかってくるだろう。
武器は見えないが構えからしてクラスはセイバー。
それも超が付くほど強力なサーヴァントだ。
それに対しこっちはバーサーカーとの戦闘で消耗している。
出来れば戦闘は避けたいが…どうする…。
第3話「同盟」
◆ Side セイバー
冬木市 衛宮邸 土蔵 聖杯戦争一日目…
私はあの時…令呪によって完成した聖杯を破壊させられた。
そして気が付けば私はあの衛宮の屋敷の土蔵の中に立っていた。
どうやらまた聖杯戦争が始まったようだ。
また長い時を待たねばならないと思っていたがチャンスは割と早くめぐってきた。
だから私は私のマスターを襲撃していた者を追い払った。
だが、休む間もなくもう一人のサーヴァントが現れた。
「………(チャキッ」
だから私は目の前に居る赤いサーヴァントに剣を向けた。
あちらは私の存在に戸惑っているようだが関係ない。
サーヴァントである以上いつかは私と敵対する。
ならばここで討ってしまった方が後々の行動が楽になる。
どんな相手だろうと私は戦ってみせる。
私には…聖杯を使ってなんとしてもやり遂げなければならないことがあるのだから。
「まったく…最強クラスのサーヴァントと連戦とはついていないな…(チャキッ」
どうやらあちらも戦うつもりのようだ。
だが、私はセイバーのクラスとして現界している。
接近戦なら私の方に部があるはず。
あとはマスターの指示で戦闘を始めるだけだ。
「やめろ。セイバー」
「なっ!?」
目の前に居る私のマスターは何と言った?
やめろ?
だが、それは出来ない。
目の前に居る男はサーヴァント。
いつ私達に牙を向けてくるかわからない。
だから戦闘で疲れているうちに仕留めるのが最善だ。
現に目の前のサーヴァントも敵意を…
「そちらが剣を引いてくれるのなら助かる。こちらも戦闘を避けたかったからな」
なん…だと…?
このサーヴァントは剣を引いた。
なら私も剣を引かざるを得ない…。
今回の私のマスターは何を考えているのだ?
サーヴァントを討つのなら今が最善だというのに…。
「見たところ君は俺のマスターを守ってくれたんだな」
「まあ、一緒に逃げていたし命を狙われていたからな」
「そうか。だとしても礼を言わせてくれ。…マスターを守ってくれてありがとう」
「お、おう…」
「マス…」
何故、私のマスターは敵のサーヴァントと対話をしているのだ!?
それに、マスターは敵であるサーヴァントのマスターを守った?
しかも敵のサーヴァントも普通に私のマスターへ礼を言っているし!
今は目の前のサーヴァントを討たなければ…。
あ、あれ…?
グキュルルルルル…
「「「………」」」
「…とりあえず簡単なメシを作るよ」
「…そうだな。腹が減っては戦は出来ぬと言うし。おそらく腹が減って気が立っているんだろ」
身体に力が入らないと同時にとてつもない空腹感を覚えた…。
私のマスターと敵のサーヴァントが生温かい目で見ている…。
こんな屈辱は生まれて初めてだ…。
敵が目の前に居るのに空腹のせいでまともに動けない上に生温かい目で見られるなんて…。
あれ?なぜだろうか…目から汗が…。
「すまない。マスターを寝かせられる場所はないか?このままでは風邪をひいてしまう」
「ああ。とりあえず居間に案内するよ」
「助かる。すまないが君がマスターを運んでくれないか?」
「わかった。それじゃあセイバーの方をよろしく頼むな」
「ああ。わかった」
そんな私を知ってか知らずか目の前に居る男性二人組は
後片付けを済ませて敵のマスターを休ませる場所へ運んで行こうとしている。
会話が自然すぎるが今は聖杯戦争中だ。
敵の手助けをするなどマスターは本当に何を考えているのだろうか?
というかなんで敵のサーヴァントの手を借りなければならないのですか!
「わ、私は自分で歩けます!」
「足が小鹿のように震えていては説得力の欠片もないぞ?」
「きゃっ」
「っと、軽いな」
いつの間にか私は敵のサーヴァントに担がれていました。
しかもお姫様だっこ!
抵抗しようにも私の身体はまったく動かず、なされるが儘に連れ去られてしまいました。
くっ…本調子ならこの程度の脅威など!
しかもこのサーヴァント、思いっきり私のことを女扱いどころか子供扱いしています!
この借りはいつか倍にして返しますからね!
◆ Side 凛
冬木市 衛宮邸 客間
「うぅん…」
ん…。
確か私はバーサーカーとは別のサーヴァントに襲われて…。
衛宮君が私を庇ってくれたけど私は気絶して…
って、ここどこよ?
少なくとも私の家じゃないのは確かだけど…。
「起きたか?マスター。」
「アーチャー?ここは…」
「ここはあの時俺達が救助した少年…士郎君の屋敷の居間だ。動けるか?」
「なんとか」
どうやらシンは無事にバーサーカー組から逃げられたらしい。
見た限りとんでもない大英雄のようだけど流石シンね。
そして、シンの話によるとここは衛宮君の家らしい。
ただ、シンが微妙な表情をしているのはなぜだろう?
「すまない…。士郎君なんだが…何らかの事故でサーヴァントのマスターになったようだ」
「ゑ?」
「それも最優のサーヴァントであるセイバーのサーヴァントだ」
「…マジで?」
「マジだ」
は?
衛宮君がマスター?
それも私が引きたかった最優のサーヴァントであるセイバーの?
まあ、シンもかなり強いサーヴァントだけど…。
って、それよりも!!
「なんで敵の屋敷の客間で私は寝てるのよ!?」
「安心しろ。セイバーはともかくマスターの士郎君に敵意はない」
「まあ、ちょっと顔見知り程度の私を庇うくらいだからね…」
…どうやら衛宮君は私達と敵対するつもりはないらしい。
噂通りのお人好しだったから私を庇ってくれたことを考えるに
衛宮君は純粋な厚意で寝かせてもらっていたらしい。
それにもう綺礼がいないからあの外道神父の代わりに聖杯戦争について説明しなくちゃね…。
それがここのセカンドオーナーの仕事なんだから。
「あ。アーチャーさん、遠坂は目を覚ましましたか?」
「ああ、士郎君。わざわざ毛布まで用意してもらってわるいな」
「いえいえ。困ったときはお互いさまと言いますから」
…いつの間にかシンと衛宮君が凄く仲良くなっている。
シンがあそこまで親しく話すなんてよっぽど気が合うのかしら?
なんとなく二人ともどこか似ている感じがするし…。
ん…いい匂いがする…?
どうやら衛宮君が私の為に何か作ってくれたらしい。
「士郎君が来たということは…あっちは落ち着いたのか?」
「なんとか…。まさかあんなにも食べると思いませんでしたよ」
「よほど腹を空かせていたんだな…。あ、彼が作る料理に毒はないから安心しろ」
どうやらシンは私が考えていたことはお見通しだったらしい。
まあ、シンが警戒を解くほどのお人好しが毒なんて仕込むわけがないか…。
冷めるともったいないからさっさといただきましょう。
いただきまー…
「マスター。食べる前に手を洗ってこい(ヒョイ」
「むー…」
ぐぬぬ…。
シンはこういうところには非常にうるさい。
別に手を洗わなくたっていいじゃない…。
でも手を洗ってこないと食べさせてもらえなさそうだから大人しく洗いに行くけど…。
1分後…
「ハハハッ!二人は本当に仲が良いんだな」
「ああ。なんだかんだ言っても世話のし甲斐があるマスターだ」
「ちょっ!?ちょっとシン!!…あ」
衛宮君がお腹を抱えて笑っている。
ちょっとムカツク…。
それよりもシン!やっぱアンタはそういう目で私を見ていたの!?
って、あ…。
「あばばばばばば…」
「こういうところもあるからな」
「シン…?」
「まあ、簡単に言うと俺の本当の名前だ。ちなみにセイバーも本当の名前があるはずだぞ」
「そうなのか…」
「ただ、迂闊に真名を聞くのはやめておけ。俺はともかく他の奴等は
真名がばれることを良しとしない連中ばかりだからな」
こ、こんなところで【うっかり】が出るなんて…。
うぅ…こんなんだから私はシンにヘッポコだの三流だのと言われるんだわ…。
しかもシンはあっさり説明しちゃっているし…。
…って、そういえばシンは真名がばれても問題なかったのよね!
うん、大丈夫!まだまだ私は戦える!
「なんか表情がコロコロと変わって面白いな。遠坂は」
「ああ。士郎君達が通っている学校では優等生やら“あかいあくま”やらと色々言われているが
俺からすればまだまだ手が掛かる思春期真っ只中の妹さ」
「ちょっとそこ!勝手に私の恥ずかしい話をしない!!」
「マスター。ここで俺に話しかけるよりも士郎君が作ってくれた粥を食べるべきだ。
冷めたらもったいないだろ?」
「うぅ…いただきます」
やっぱり口喧嘩ではシンに勝てない…。
悔しいけど先に衛宮君が作ってくれたお粥を食べよう…。
…おいしい。
ここまでおいしいお粥を食べたのは初めて…。
気が付いたらお粥が全部なくなっていた。
…もっと味わって食べればよかったかも…。
「ごちそうさま。おいしかったわ。衛宮君」
「ああ。お粗末様。遠坂の口に合ってよかったよ」
私が手を合わせてごちそうさまというと衛宮君はお粥が入っていた土鍋を運んでいった。
冬木のブラウニーの二つ名は伊達じゃないわね…。
ここまで純粋な厚意を受けていると魔術師としての牙が折れそうだわ…。
シンもシンで魔術師を辞めさせるつもりだろうし…。
もしかしてシンが根源を見たというのと何か関係があるのかしら…?
「さて、士郎君が片づけをしてくれているうちに状況を整理するぞ」
「…ええ」
「まず、俺達の拠点だったマスターの屋敷だが諦めた方がいいだろう」
「え?なんでよ?」
「…既に敵のサーヴァントに制圧されている」
「なん…だと…?」
私の家が既に制圧されている…?
それってつまり私はしばらく家に帰れないってこと?
…それはとてもマズイ。
家には工房とか学校の教科書とか私の着替えとか色々あるのに…。
「まあ、そうなると思ってあらかじめ必要なものは既に持ってきた」
「へ?」
も、もしかしてシンは私の着替えとかを持ってきたの?
そうなると私のタンスを…。
まさかシンって変態…?
そ、そんなわけないよね!
「と、とりあえず何を持ってきたの?」
「教科書と筆記用具とノートとマスターがいつも使っている香水と魔道書と宝石全てだ。
着替えは明日調達してくれ」
「………うん。いつものシンで安心したわ」
「…言っておくが俺は人のタンスの中身を見るような趣味はないからな?」
よ、良かった…。
いや、良くないけど良かった…。
家のタンスの中にはあの外道神父から贈られた服が沢山ある。
しかも私が似合わない服ばかりね…。
あんなのを誰かに見られたら恥ずかしさで死んでしまう自信がある。
でも着替えが無いのはやっぱり痛いなぁ。
明日も学校があるだろうし…。
「そういえばマスターが通っている学校はしばらく休校になるらしい」
「マジで?」
「あの時バーサーカーが盛大にクレーターを作ったからな。
それと衝撃のせいで校内の窓ガラスが9割割れたから修復が終わるまで休校だそうだ」
都合がいいのか悪いのか…。
どうやらバーサーカーが作り出したクレーターをなくすためにしばらく学校は休校になるらしい。
まあ、おかげで着替えとかは買いに行けそうね。
もう一つの問題は私達の拠点が問題ね…。
流石に屋根なしはこたえるわ…。
「マスター、俺は士郎君と同盟を結ぶべきだと思う」
衛宮君と手を組む?
聖杯戦争が始まった以上、私達と衛宮君達は敵同士になる。
まあ、確かにここは霊脈が通っている場所だから拠点としてはもってこいだ。
手札が増えるから私は賛成だけど問題は衛宮君達だ。
なのにいきなり同盟を結べと言われて納得してくれるのだろうか?
「とは言ってもマスターが良しと言えば同盟は成立するがな」
「は?」
「実は士郎君からこの話を持ちかけられた」
いつの間に…。
まあ、私が気絶している時にだろうけど…。
でも流石に私の返答を聞いてから同盟を結ぶかどうかを待ってくれたようね。
私も今回の同盟には賛成だ。
場所も拠点としては一級品。
同盟を結ぶ衛宮君のサーヴァントも最優のサーヴァントであるセイバー。
そして裏切ることが無い衛宮君。
条件としては非常に好条件だわ。
「わかった。衛宮君と同盟を結びましょ」
「了解した。士郎君とセイバーを連れてくる。っと、その前に…」
「なに?」
「実はマスターの家から出る前にこの短剣を持って来たんだがこの短剣が何か知っているか?」
「それって…確か綺礼が用意した触媒の…干将莫邪だったかしら。それもオリジナルの」
私が同盟を結ぶことに同意するとシンは衛宮君達を呼びに行こうとしたけれど
何か思い出したらしく私の方に戻ってくると腰から一対の短剣を取り出した。
あ、確かこの短剣は綺礼の奴が英霊を召喚する時の触媒として送ってきたやつね。
確かオリジナルの干将莫邪らしいけど…。
剣としては最上級だけど英雄を呼べる触媒じゃないからどこかへ売ろうと考えていたけど…。
どうやらシンは私の家から出る前にこの短剣を持って来たらしい。
「…その彼が神域クラスの名刀をどうやって入手したのかは考えないでおく」
「ええ。それがいいわ」
…今考えてみると私はとんでもない宝具を持っていたのね。
剣術が使えないのにこの剣を送りつけてきた綺礼をどう殴ろうか考えていたけど
まさかこんな形で役に立つなんてね…。
世の中わからないものだわ…。
しかも現存している宝具だから魔力はそんなに取られないのも救いね。
「これから対サーヴァント戦はこいつを主軸に戦っていくことにする」
「ディアファントは使わないのかしら?」
「…あれは投げた方が効を発揮するんだ」
「…そうね」
「それじゃあ改めて二人を呼んでくる」
「お願いね」
そしてシンはこれからサーヴァントを相手にする時はこの短剣を主軸に戦っていくらしい。
自分の宝具よりも私の家にあったこの剣を頼るなんて本当に英霊らしくない英霊ね。
まあ、勝てればいいんだけどさ。
なんというかシンって英霊というよりは戦士とか軍人とかそっちのほうが近いわね…。
「遠坂、手を組んでくれるというのは本当か?」
「ええ。今の私達には非常に嬉しい申し出だからね」
っと、どうやら衛宮君達を呼びに言ったシンが戻ってきた。
衛宮君は私が同盟を結ぶことを喜んでいるらしい。
ただ、衛宮君の隣に居るセイバーはあまり納得していない顔をしている。
あ、やっぱり納得してないんだ。
でもこのまま衛宮君と一緒に居てもすぐに潰されるのがオチだろう。
ええと、セイバーのステータスは…
ステータス
筋力 B
耐久 C
俊敏 C
魔力 B
幸運 B
宝具 C
………びみょい。
幸運はシンより高いけど耐久と俊敏はシンの方が上だし。
このサーヴァント本当にセイバーなの?
これならシンがセイバーの方が納得できる。
まあ、マスターである衛宮君の影響だろうけど…。
それにしても…これはひどい。
「ねぇ。貴女って本当にセイバーなの?」
「えぇ!?」
「同盟を結ぶからあらかじめ言っておくけどアーチャーの方が総合的に強いわよ?」
「え?そうなのか?」
「そうよ。ほら、見てみなさいよ」
「あ、本当だ」
「そ、そんな…」
あ、セイバーが落ち込んでいる。
どうやら敵視しているシンよりも弱いと言われたのが嫌だったのだろうか?
でもこのステータスでじゃねぇ。
シンは宝具の欄が?になっているだろうけど私の勘が正しければA++だ。
「ステータスで強さを判断するなって言っただろ?」
シンはセイバーをフォローしているけど正直このセイバーのステータスが微妙なのは変わらない。
それにあの時遭遇したアインツベルンのバーサーカーに至っては幸運以外が全てAかそれ以上だった。
もしこのセイバーがあのバーサーカーと戦ったらセイバーが勝てる可能性は限りなく低いわね。
「いや、今の俺ではあのバーサーカーに勝てないぞ?」
「え?」
「あのバーサーカーはかなり厄介な宝具を持っている」
「どんな宝具?」
「一度殺しただけでは殺しきれない宝具。さらに下手な宝具では弾かれる上に
攻撃が通っても二回目は通用しない特性もある」
「「「なにそれこわい」」」
…シンでも倒しきれないってどれだけ強いのよ。
しかも宝具もとんでもないし。
普通の攻撃が聞かない上に通っても二度目は無効化されてさらには一度殺しただけでは倒せない?
そんなバケモノを召喚するなんてアインツベルンも本気なわけね…。
でも不思議とシンは焦った様子が無い。
何か秘策があるんだろうか?
「まずそのアインツベルンだったか?そいつらのトップはとんだ馬鹿だな」
「は?」
「おそらくあのバーサーカーは本来のクラスで呼ばれていない」
「と、言うと?」
「マスター。元々バーサーカーは弱い英雄を強くするために狂化でブーストしていたよな?」
「え、ええ。でもあの大英雄クラスが狂化されたんじゃ打つ手が無いわ」
「いや、寧ろそこが付け入る隙だ」
バーサーカー特有のスキルである狂化は本来力が弱い英雄を強くするための手段の一つだ。
だけどあのバーサーカーは恐らく最強クラスの大英雄を狂化している。
そのせいでステータスがほぼAという、ふざけた強さを持っている。
でもまるでシンはそこが付け入る隙だと言っている。
「でもバーサーカーは理性を引き換えに能力が全てAを超えているのよ!?」
「そこがバーサーカーの落とし穴だ。ステータスこそ上がるがそれ以外が全てダメになる。
あのバーサーカーはおそらく武勇だけじゃなくて知性もすぐれていた筈だ」
「と、言うと?」
「もし本来の適正で召喚されていたら俺達はミンチだ」
「「「なにそれこわい」」」
…本来のクラスで呼ばれていたら私は死んでいたのね。
あれ?そうだとすると…。
ちょっと待ってよ?
つまり本来のクラスで呼べたら私は死んでいたとうことは…。
「つまりあのサーヴァントは狂化のせいで寧ろ弱体化している…ということ?」
つまりアインツベルンは強かった英霊を弱くしていることになる。
英雄はその技が脅威だ。
だけど狂化したせいでその技が使えなくなっているとしたら…。
確かに付け入る隙は十分にある。
「そうだ。ただ突っ込んでくるだけの獣より複雑な動きをする奴の方が戦いづらい。
君もそうだろ?セイバー」
「ええ。ただ前に突っ込んでくるだけの蛮族よりも知略を巡らしてくる策士の方が恐ろしいですね」
そうか…。
英雄からしてみれば身体能力が高い獣よりも高度な技を使ってくる人間の方が恐ろしいのだ。
何度もシンが言っているステータスばかりに囚われるなというのはそういう意味だったのね。
「バーサーカーとの戦闘は避け、情報収集に徹する。今の方針はこれで問題ないな?」
「「わかった」」
「…はい、問題ありません」
「あ、この部屋は空き部屋だったから好きに使ってくれ」
「ありがとう。助かるわ」
おっし、まずは今後の方針が固まったわね。
明日は私の日用品の購入と情報収集がメインね!
とりあえず今日はもう夜が遅いからもう寝ましょう。
ついさっきまで気絶していたけど流石に今日は疲れたわ。
おやすみなさい…。
「マスター、寝る前には歯を磨けよ?」
………このサーヴァントはオカンか?
◆ Side アーチャー
冬木市 衛宮邸 縁側
「ふぅ…」
俺が守護者になってから色々と動いていたがここまで疲れたのはひさしぶりだな。
あのバーサーカーは俺達よりも遥かに格上だ。
まあ、生前の時はこれ以上に差が開いた敵と一騎討ちで戦ったからまだマシだがな。
それに狂化という非常に大きなハンデがあるおかげである意味戦いやすい。
…あの敵もわかりやすい弱点があったけどな。
それにしても…。
「ここは本当に月が綺麗だな…そうは思わないか?セイバー」
ここは本当に月が綺麗だ…。
俺が生前に見てきた景色は荒廃した廃墟や荒野、人々が嘆きと怨嗟ばかりが渦巻く戦場、
人間の負の側面によって死んでいった人々の遺体が漂う宙域ばかりだった。
だからこうしてこの屋敷の縁側で見る月は本当に綺麗だ…。
そして俺は俺の後ろに居る彼女…セイバーにも問いかける。
「…確かに貴方は気に入りませんが、月が綺麗なのは同意しましょう」
「よかったら座れよ。まだ立っているのは辛いだろ?」
「…では、お言葉に甘えて」
セイバーもこの縁側から見る景色は綺麗だと思うらしい。
彼女もとてつもない戦場を潜り抜けてきた英雄だ。
落ち着いた状態でこんな景色を見るのは稀だったのだろう。
いや、そんな暇すら無かっただろう。
俺も落ち着いて景色を見たのはまだ戦争を知らなかった幼少期の時だけだ。
「…ひとつ聞いてもいいですか?」
「ん?なんだ?」
「貴方は英雄をどう思いますか?」
「英雄…か。どうしてそんなことを?」
「単なる興味です。それで、答えてくれますか?」
英雄について…か。
難しい問題だな…。
恐らく彼女は聖杯戦争に一度呼び出されて良くない扱いを受けたんだろう。
英雄は人殺しを正当化するための存在だという人がいる。
確かにその一面は否定できないし俺もその考えにはある程度賛同できる。
だけど英雄というのはそれだけではない。
だから俺は俺自身が導いた答えで彼女の問いに答えよう。
「そうだな…強さとか関係無しに誰かの為に戦うことができる存在…。
それが俺の考えている“英雄”であり、俺が目指していた答えだ」
「貴方は…英雄という存在を否定しないのですか?」
「どうだろうな。少なくとも俺は英雄と呼ばれるのに相応しくない人間だ」
力の強さとかそんなものは関係ない誰かの為に戦える奴こそが本当の“英雄”だと思っている。
もっとも、俺は“英雄”と呼ばれるには相応しくない人間だ。
俺は自分の欲望ばかりに目が眩んで多くの人々が死ぬ要因を作りだし、
復讐に駆られ、自分で考えることを放棄してただ人形のように生きて最後は全てを失った愚か者だ。
だが、こんな俺でも慕ってくれる奴がいる。
だから俺は“英雄”ではなくても彼らを守る。
それが“守護者シン・アスカ”の在り方だ。
「…貴方は、やり直しを求めていますか?」
「…さあな。それよりも俺の答えは参考になったか?」
「ええ。貴方が信用するに値する人物だとわかりました」
「それは光栄だな」
過去をやり直したい…か…。
その問いかけをしたセイバーの目はどこか後悔と悲しみが籠った目をしていた。
セイバーも過去に大きな失敗をしてそれをやり直したいと思っているのだろうか?
…とはいえ、どうやら俺はセイバーの信用を得ることは出来たようだ。
「さあ、今日はもう寝よう」
「俺達は他の英雄と違って睡眠で休息をとらないといけないからな」
「そうですね。おやすみなさい。アーチャー」
「シン」
「は?それが俺の真名だ。戦場以外ではその名前で呼んでくれ」
「…はい。わかりました。おやすみなさい。シン」
「ああ。おやすみ。セイバー」
…明日の朝は俺がセイバーに真名を教えたことでマスターが怒るだろうな。
だが、ほんの短い時間だったが彼女は俺の名前を教えるに値する人物だと俺は思っている。
さて、そろそろ寝るか。
明日からはまた忙しくなりそうだからな…。
どうも明日香です。
今回は凛と士郎の同盟締結のお話となりました。
さて、今回から本格的に話に入ってきたセイバーですがFate/Zeroに非常に似た状況の第四次聖杯戦争が終了した直後から第五次聖杯戦争に参加したため色々と精神がヤバイ状態です(分かりやすく言えばお豆腐メンタル状態)。
具体的には…
・マスターに無視され続ける
・ストーカー気質の青髭に追われる
・英雄王と征服王に自分の願いを徹底的に論破される
・良きライバルであったランサーに散々罵倒される
・守りたいと願った人を守ることができなかった
・嘗ての盟友であった騎士の言葉で自分が王になったのが間違いだったと勘違いしてしまう
・ボロボロになりながらも聖杯を手に入れる寸前まできたけど令呪によって無理やり自分の手で聖杯を破壊させられる
そんな散々な聖杯戦争の後のため、本作のセイバーは焦りと悲しみと【聖杯を手に入れなければならない】という強迫観念に駆られているために本来の冷静さや聡明さが欠如した状態です。
そんなセイバーがどうやって生き残るのでしょうか…?
それでは、失礼します。