彼が単独で私の屋敷までやってきたことには驚いたがそれよりも
彼が第二魔法の領域へ至っていたということだ。
まさかあの様な若者が第二魔法に至っていたとは…。
桜のからに入っていた蟲と私の本体、そして小聖杯の欠片を取り除き、
取り除いた小聖杯の欠片を譲るという条件を承諾した。
そして彼が使った第二魔法によって私は第三魔法が使える物の許へ飛ばされ、
第三魔法によって私の身体は若返り、不老不死の身体を得た。
しかし、私に残ったのは虚無感と無力感、多くの罪なき人々を食い物にして
自身だけ生き永らえていたことへの罪悪感…。
彼が言っていた自分の業を全て背負うという言葉はこのことだったのか…。
自害ができる身体ならばとっくに自害して果てていただろう。
だが、第三魔法の力によって私は死すらも許されぬ身体となった。
ああ、なんという自業自得の結末…。
それでも私は生きなくてはならない。
今まで食い物してきた人々よりも多くの人々を救わなくてはならない。
それが今の私にできる贖罪であり、使命なのだから…。
第8話「激突する魂」
◆ Side アーチャー
冬木市 言峰教会前 聖杯戦争終了まであと三時間
「この様な場所に呼び出してまで私に何用ですか…?シン」
「ああ。俺はどうしても君に聞かなくてはいけないことがある」
俺はセイバーを連れて言峰教会に来ていた。
それはセイバーとある決着をつけるためだ。
そろそろ大聖杯の解体が始まる頃だろう。
アインツベルンのマスターがアインツベルンと反抗的なことが幸いして
聖杯の汚染の真実を伝えることができ、終戦まで持ち込むことができた。
桜の中に潜んでいた妖怪も討伐して奴の根城も“浄化”した。
他のマスター達は聖杯戦争の終結に納得し、サーヴァント達も納得した。彼女を除いて。
そう、俺がセイバーを言峰教会へ連れてきたのはここが最も人の来ない場所だからだ。
「なんですか?」
「君は…聖杯を手に入れて過去を変えるつもりなんだな?」
「そのとおりです。そのために私は聖杯戦争に参加したのですから」
やっぱりセイバーは過去を変えて自分の国を救うつもりだ…。
その選択が自分の人生だけでなく自分に付き従ってくれた人々の想いを踏みにじるということを知らずに…。
ならば俺は彼女を止めなくてはならない。
嘗て彼女のように過去の改竄を願い、戦った者として…。
自分を責め続けるか弱き少女を救うために…。
「そうか…なら俺は君を止めなくちゃいけない」
「ナゼ…ですか…?」
…やはりセイバーの様子がおかしい。
今日の朝に会ってから気がついたが今の彼女の眼は澄んだ瞳ではなく、
どす黒く濁った瞳をしている。
そして、左の眼の色が翡翠色ではなく濁った黄色になっている。
それに彼女から放たれるオーラはどす黒いものになっている。
「貴方も私を裏切るんですか!?私を裏切った騎士達のように!!」
「ちがう。間違いを犯そうとしている君を止めるだけだ。セイバー」
彼女の叫びは悲痛なものだった。
そして、俺に助けを求めているようだった。
彼女自身もこの苦しみから解放されたいと思っているのだろう。
だとしても俺は彼女を止めなくてはいけない。
ドスッ!
「破戒すべき全ての符【ルールブレイカー】」
「っ!?」
「これで俺が宝具を使ってもマスターに被害が及ぶことはないな」
だから俺はキャスターから譲り受けた破戒すべき全ての符【ルールブレイカー】を
俺の左腕に刺し、それぞれの魔力の繋がりを絶った後に
今まで使っていなかった彼女の剣と同じ名を持つ魔剣を抜き放った。
「その剣は…!?」
「ああ。君の持つ剣と同じ名を持つ剣。天使を葬りし者の剣【エクスカリバー】だ」
天使を葬りし者の剣…。
嘗て俺があいつを討伐する時に使った剣だ。
形はセイバーの剣と同じ形をしているが今まで使っていた剣の様に馴染む。
皮肉なものだ。まさかこの剣を向ける最初の相手がこの剣の原典を持つ彼女だなんてな…。
「さあ、行くぞ騎士王。魔力の貯蔵は十分か?」
俺は剣を構える。
セイバーもまた自身の剣を覆っていた風を振り払い、黄金の剣を構えた。
そして、距離を詰めると同時に剣を振り下ろした。
ガキィンッ!!
「なぜ、わたしの願いを理解してくれないのですか!?
貴方だって過去にやり直したいと願ったことがあるはずでしょう!!」
「願ったことがあるからこそ…俺はお前を止めるんだ。セイバー…」
「アーチャー!!」
同じ名を持つ剣がぶつかり合う。
彼女が放つ剣撃の彼女の想いが籠められていた。
一撃ごとに彼女の籠めた想いが俺の中に入ってくる。
彼女が剣に籠めた想いは悲痛なものだった。
次々と自分から大切なものを奪い取っていった世界に対する憎しみ、
自分は間違っていなかったはずなのに自身を裏切っていくことへの悲しみ、
祖国を守ることができなかった自分の無力さへの嘆き、
自分の痛みを知ろうともしない騎士達や市民達への怒り、
そして、同じ痛みを持つ俺に裏切られた絶望、
彼女を構成するありとあらゆる負の感情が彼女の叫びと剣に籠っていた。
彼女もまた…世界の生贄にされた犠牲者の一人だ…。
「貴方は…貴方は過去に家族も!守りたかった人も!信念も!
そして、帰る場所すらも失ったはずなのに何故なのです!?」
ガァンッ!キィンッ!ズガァンッ!!
もうどれだけアルトリアと剣を打ち合っただろうか…。
百を数えた後はもう数えていない。
戦争によって死んでいった俺の家族の無残な姿が、
奴によって討たれた少女の最期が、
俺が守っていた最後の砦が奴等によって攻め落とされた時の景色が、
世界から戦争をなくすために親友達の仇と裏切り者の手を取った時自身の姿が、
故郷を守るために戦争が終わってもずっと俺と共に戦ってくれていた少女を自身の手で討った自身の姿が、
表側の情報に翻弄された民衆によって住む場所を追われた自身の姿が俺の脳裏をよぎる。
彼女の叫びは幾度となく俺の心を蝕む。
それは、彼女の人生が俺の人生とかぶって見えるからだ。
幾つか相違点はあるけれど俺達は行動が空回りした結果、全てを失った。
だから彼女が聖杯を望む気持ちは痛いほど理解できる。
「過去を変えるということは共に過ごした人々の死が無駄になる。
いや、それだけじゃない。セイバー、君がやろうとしていることは
セイバー自身が生きてきた道全てを捨てることなんだぞ!!」
だけど彼女の願いを認めるわけにはいかない。
なぜなら未来を信じて戦った人々の死が無駄になり、
なによりも彼女自身が生きてきた道全てが無かったことになってしまう。
願いとは本来自身を救うはずのものなのに彼女の願いは自己否定をすることだ。
「な、なにを…!!」
セイバーが明らかに動揺している。
彼女自身も薄々とだが感じていたのだろう。
自身の願いの意味がなんなのかを…。
明らかに大きな隙が出来ている。
ここで俺が彼女を討つことは簡単だろう。
だけどそれでは彼女は永劫に救われない。
例えこの場で彼女を討ったとしても彼女の心を救わなくては意味がない。
ならば、今の俺に出来ることは…。
「そして!」
「っ!?」
ドスッ!!
「え?」
今の俺に出来ることは彼女を討つのではなく、彼女のありったけの感情を受け止めることだ。
「これで…気がすんだ…か?セイバー…」
「アーチャー…もしかして貴方はわざと…!?」
「いいか?セイバー…。これだけは言わせてくれ…」
はは…見事にセイバーの剣が俺の胸に突き刺さっているな。
一応、心臓には当たっていないから消滅に至るまでの傷じゃないのが幸いだな。
守るべき民達を犠牲にしてまで勝利をしなければいけなかった状況に最も心を痛めた。
本当なら犠牲になった民達も守りたかったのに守ることができなかった自身の無力を呪った。
常に正しき道を示さなければならないという責務から解放を望んだ。
不貞のことはいえ今まで素性を隠していた自分の子を自身の子ではないと
拒絶しなければならない立場に絶望した。
そして、自分の子に何もかも壊され、最後は自身が大切にしたかった自分の子を斬ってしまった。
やり直しを望んで挑んだ第四次聖杯戦争でまた全てを失い、絶望した。
彼女は自分の心を受け止めてくれる人を求めていた。
ならば、俺は俺の想いをセイバーに届けよう。
イメージBGM:Fate/stay nightより Sorrow
「シ、シン!!」
「過去を変えるということは…君が愛した国の人々の営みを…
君と共に戦った騎士達の思いを全て無かったことにすることなんだ…」
セイバーの眼に光が戻っていく。
どうやら正気を取り戻しつつあるようだ。
おそらく俺を殺してしまったことへの罪悪感でいっぱいになっているのだろう。
身体が少しずつ重くなっていく…。
少しでも気を抜けばこの身体はすぐにでも消滅するだろう。
だが俺はまだ倒れるわけにはいかない。
彼女に俺の想いを伝えなければならない。
「俺と君との出会いも…君とマスター達との出会いも…
君の幸せを願った人の想いも君自身の幸福も全てが消える…。
それだけは…止めたかった」
「あ、ああ…あああ…」
「そして、アルトリア…もうこれ以上自分を責めるようなことをしないでくれ」
「シン…シンッ!!!」
「俺が伝えたかったことは…それだけだ…」
何とか俺の想いを伝えることができた…。
過去を変えるということは俺達の出会いがなかったことになってしまう。
ようやく彼女に希望の光が刺したというのにあの時の俺のような悲劇をあじあわせたくない。
そして、これ以上自身を責め続けることをやめてほしかった。
その想いがセイバーにも通じたらしい。
彼女の眼は完全に正気を取り戻していた。
ガク…
「ごめんなさい…ごめん、なさい…!!」
セイバー…いや、アルトリアは涙を流しながら俺の身体を抱きしめる。
痛みのせいで体勢を崩しかけてしまうがなんとか持ちこたえながら俺もアルトリアの身体を抱きしめた。
彼女が安心して泣くことができるように…。
今まで貯めてきた負の感情を出せるように…。
だけど、こんな時に限って無粋な乱入者は現れるものだ。
イメージBGM:Fate/Zeroより この世の全ての悪 Zizz version
「うふふ…やっぱりただの小娘ではダメね」
現れたのは白いローブを身に纏った女だった。
女の顔は人間とは思えないほどの美しさを持っていた。
だが、それ以上に彼女から放たれている気はどす黒さで満ちている。
こいつは…人間ではない。人ならざるものだ。
俺はこの女がアルトリアを狂わせた元凶だと悟った。
そして、俺がこの世界に召喚される切っ掛けになった奴でもあると。
「貴様ッ…!!」
「あ~ら?たかが剣に選ばれて位で国を救おうとして失敗した小娘が私に勝てると思っているのかしら?」
「くあっ!?」
女の物言いに激昂したアルトリアは女に対して俺が持っていたエクスカリバーを手にとって構えるが
女はどこ吹く風のようで、寧ろ余裕の表情でアルトリアに手をかざすと
黒い靄がアルトリアを包み、黒い靄がアルトリアから離れると何かを形成し始めた。
そして、アルトリアの身にも異変が起こった。
カラン…
「ち、力が…」
「所詮、貴女は選定の剣に選ばれて強くなっていただけ
剣を持てないほど非力な貴女が剣を持てていたのは魔力のブーストによるもの。
つまりその魔力が無くなったら貴女はただの小娘に戻るだけよ」
アルトリアは持っていたエクスカリバーを落とし、彼女が見に纏っていた鎧も霧散した。
やはりアルトリアのような華奢な身体の少女が剣を持てていた理由は魔力によるブーストによるもの。
そんなアルトリアが魔力を奪われてしまえばただの少女に戻ってしまう。
それにあの鎧も魔力によって作られていたものだから鎧も形成出来なくなったのか!
そして黒い靄の形がはっきりと認識できるようになった。
その姿は…漆黒の鎧を身に纏ったアルトリアそのものだった。
「でも魔力が潤沢だった分この子が生まれることが出来たのだから感謝しないといけないわねぇ」
『………』
「あれは…私…?」
「そう、貴女が持っていた負の感情を具現化した存在…もう一人の貴女よ」
やはり…か…。
目の前に居る黒いアルトリアはもう一人のアルトリアと言っても過言じゃない。
このままでは俺達は黒いアルトリアに殺されるだろう。
だけど、まだアルトリアが生き残る術は残っている。
もうすぐ冬木の聖杯戦争も二百年の歴史に幕を下ろす。
ならばこの力を使っても問題はないな。
イメージBGM:Fate/Extraより Servant Stay -Night Archer, The Hero Who Nobody Knows -
「I am the bone of my sword. 【――― 体は剣で出来ている】」
「シン…?」
「Steel is my body, and fire is my blood.【血潮は鉄で、心は硝子】」
「その詠唱は…まさか!?」
「I have created over a thousand blades.【幾たびの戦場を越えて不敗】」
俺は偶然にも本来召喚されるはずであった英霊が宝具を解放する時の詠唱と同じ言葉を紡いでいく。
本来呼ばれる英霊の詠唱は固有結界を生み出すための詠唱だったようだが
俺の詠唱は封印されているあの宝具を解放するために詠唱するもの…。
その力は戦局を覆す驚異の力…。
数の暴力、奇策による搦め手を無力にする究極の理不尽。
そして、俺が持つ“本当の宝具”。
その宝具の力を全て解放する。
「Unknown to Death.【ただの一度も敗走はなく】
Nor known to Life.【ただの一度も理解されない】」
「この詩は…シンの人生そのもの…?」
「Have withstood pain to create many weapons.【彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う】」
『………』
俺は淡々と詠唱を続ける。
本来、この力を解放すればマスターである凛は魔力枯渇によって即死する。
だが、今は凛との魔力の繋がりは無い。
それにこの力は俺が瀕死の状態で、さらに三つの宝具を封印しなければ使うことができない力。
この力を使えばあまり時間が経たないうちに俺は消え去る。
それ故に聖杯戦争でこの力を使うということは敗北を意味する。
「Yet, those hands will never hold anything.【故に、その生涯に意味はなく】」
「な、なにをしているの!?早くこの詠唱を止めなさい!!」
『………』
まあ、聖杯戦争は勝者が無い形ですぐに終わるのだから関係ない。
この女は慌てて黒いアルトリアに詠唱を妨害させようとするが黒いアルトリアは微動すらしない。
それに指示を出すタイミングが遅かったな。
俺は最後の一文を詠唱する。
「So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS.【その体は、きっと剣で出来ていた】」
「シンの姿が…」
「例え世界の全てを敵に回しても【ヴァジュラ】」
俺の手には俺が初めてあの力を覚醒させた時に持っていた光の刃と同じ名の光の刃を手にしている。
俺が最初の相棒と共に多くの敵を両断した光の刃。
これが俺の持つ最後の宝具例え世界の全てを敵に回しても【ヴァジュラ】。
後で俺が消滅する代わりに戦闘において絶対に勝利するもろ刃の剣。
俺が身に纏っているのは俺が所属した軍でもトップレベルの猛者にしか与えられない赤き軍服。
そして、その軍服の胸元には嘗て俺が持っていた信念の象徴であるバッチがついている。
だんだん視界がクリアになっていき、身体も軽くなり、アルトリアに刺された傷が癒える。
意識は極限にまで研ぎ澄まされ、身体中に力が満ちていく。
嘗て俺の前に現れた一人の宣教師はこの力を“SEED”と呼んでいた。
今の俺は世界の修正作用やサーヴァントとしての召喚によって受けていた能力の制限が解放されている。
ゆえにこの宝具を使えば一時間程度しか現界できない。
だが、この女を倒すには十分な時間だ。
「貴様達の目の前にいるのは地獄の戦場の果てに辿りついた武の極致」
『………(チャキ』
「貴様が正しいというのなら俺に勝ってみせろ!!」
俺は光の刃を黒いアルトリアと女に向ける。
黒いアルトリアは無言で黒に反転した約束された勝利の剣を構える。
おそらく目の前に居る黒いアルトリアはアインツベルンのバーサーカーよりも強大な力を持っているのだろう。
だが、俺の後ろにいる守るべき少女…アルトリアを守りきってみせる。
この力は大切な人を守るためにあるのだから。
どうも明日香です。
最初で最後のアルトリア戦となりました。
一応今回の戦闘はシンの敗北という形になります。
プロローグに出た彼はあの蟲爺さんです。
彼の扱いに関してはあまり良くないと思われる方も多いでしょうが彼は悲願であった第三魔法で不老不死の肉体を得ました。
もっとも、魂も浄化されてしまったので彼は永遠にこの痛みと共存しなければなりませんが。
この物語のあとの物語であるIS衛宮娘のストーリーにも名前だけ登場するでしょう。
そして、次回では本当の宝具を覚醒させたシンとセイバーの負の感情によって生まれたセイバーとのラストバトルになります。
それではノシ。