西住みほの舎弟が往く!ーたとえ世界が変わっても貴女についていくー   作:西住会会長クロッキー

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ご覧いただきありがとうございます。今回は少し長めです。引き続きお楽しみください!


第十九話 激突、プラウダ戦です!

五月の下旬であるにも関わらず。大洗学園対プラウダ高校の試合会場は一面銀世界であった。その銀世界に溶け込むべく。全チームの戦車はスノーカモフラージュが施されていた。また、ラジエーターへの不凍液の注入や戦車道連盟公認の冬季用履帯への取り換えも行っていた。

戦車道は戦車という名の兵器の一種を使用する競技であるものの、決して戦争ではない。

とはいえ、こんな極寒の中で長期戦になった場合。食料が無い状態で空腹にでもなってしまえば、心理的ストレスが溜まるだけでは無く。虚無感や不安といったものに駆られやすくなるのだ。

念には念を入れよと言うべきであろう。その長期戦の可能性を見越して大量の使い捨てカイロや缶詰、飲み物などを積み込んでいた。

 

「ついに準決勝ですね。それにしてももっといい場所とか無かったもんですかねぇ」

 

「確かに寒いけど。私は季節外れの雪も良いと思うな。だって皆楽しそうだし」

 

大友とみほが試合会場に関する会話をしている傍ら、他のチームメンバーは季節外れな雪の前に童心に帰ってはしゃいでいた。

カバさんチームやサメさんチーム、アリクイさんチームに関してはもはや工芸品レベルという具合の雪だるまを作り上げていたり。大友組メンバーと勇彰會のメンバーが二つに分かれて雪合戦をしていたり。

平形がアヒルさんチームメンバーやレオポンさんチームのメンバーとバレーボールを楽しんでいる他、黒木に至ってはウサギさんチームのメンバーと杏に懐かれたのだろう。一人一人におんぶを要求されては交代でおぶっているの繰り返しであった。

チームメンバー同士がじゃれ合っていると、メンバーの前に一輌のBM-13が停止する。そこから降りて来たのは、プラウダ高校の戦車道チームの隊長であるカチューシャと副隊長のノンナそして、副隊長補佐の獅堂義孝だった。

 

「隊長のカチューシャさんに副隊長のノンナさん。あと一人は……」

 

「プラウダ高校の戦車道チームの副隊長補佐を務める獅堂義孝だ。それにもう一つの顔があって。江城連合会若頭補佐兼直系・白鳳会(はくほうかい)会長も務めているぞ」

 

「そうなんですね。あっ勇彰會の皆さんや大友殿の子分さん達が獅堂殿に挨拶していますね」

 

『獅堂会長。ご苦労様です』

 

「皆、出迎えありがとう。こんにちは大友さん」

 

「よう。義孝、今日は久しぶりに撃ち合えるな」

 

「ええ。今度は軽戦車だけでなく。色んな戦車で撃ち合えますね。とは言っても俺達白鳳会が搭乗するのは、LTTB軽戦車と……もう一輌は秘密ですけどね」

 

「あらセイヤスキー。このカチューシャともう一度戦えるなんて光栄と思いなさいよ」

 

大友と獅堂が今日の試合のことに関して話していると、カチューシャは堂々とした面持ちで大友に話しかける。

 

「お久しぶりですね。カチューシャさん。今日はよろしくお願いします!ノンナさんもお久しぶりです」

 

「Privet.誠也君。寒い中ありがとうございます」

 

大友がカチューシャ達と会話していると、杏が黒木と桃を連れて彼女達の前までやって来た。

 

「やぁやぁカチューシャ。生徒会長の角谷だ」

 

「……ノンナ」

 

カチューシャがノンナの名前を口にすると、ノンナはカチューシャをそのまま肩車する。それから杏も対抗馬とばかりに黒木に肩車をしてもらう。

 

「まぁまぁ。試合前くらいやんわりと行こうよ。ね?」

 

「なっ……しょうがないわね。よろしく」

 

彼と彼女が合わさった高さで肩車をしたカチューシャとほぼ一緒の高さになった。これを見た彼女は大人しく勘弁して杏と握手を交わす。

それからカチューシャやノンナ、獅堂が自チームの場所へと戻ろとした瞬間。カチューシャはみほと目が合った。

 

「あなたは西住流の。去年は……」

 

「カチューシャさん。それを言うのは……」

 

「おっと。カチューシャとしたことが。今日はよろしくねピロシキ~。タカーシャも行くわよ」

 

「はい。皆さん、それでは失礼します」

 

その瞬間。彼女はみほに対して何かを言おうとしたが。獅堂が彼女が言おうとした一言に対して忠告を行うと、カチューシャは素直に納得した様子を見せる。

彼はみほ達に向かって律義に頭を下げると、カチューシャとノンナの後を追い始める。

 

「あの男の子。隣にいたノンナって人とほぼ同じ身長だし、あの三人が揃っているところをみると本当の親子みたい」

 

「冷静沈着でクールな感じがしますけど、いざとなったら熱血漢になりそうな人ですね」

 

「そこの二人!親子みたいって何よ!まぁ、タカーシャの性格は冷静沈着なだけでなく。カチューシャと同じようにシベリア並みに心が広かったりするんだから」

 

沙織と華が三人と獅堂について語っていると、ノンナの肩に乗るカチューシャが「親子みたい」の一言に突っ込むと同時に彼の性格について述べた後、自身の性格を自画自賛するような言葉を投げかけながら去って行った。

 

 

 

 

大洗学園戦車道チームは、三手に分かれて前進していた。右手の森からはカメさんチーム、サメさんチーム、カモさんチーム、ウサギさんチーム、アリクイさんチームの約五輌が向かい。(これをカメさん中隊)

左手の森からはイタチさんチーム、コヨーテさんチーム、キツネさんチーム、ヤマネコさんチーム、マーモットさんチームの五輌が向かうこととなり。(これをイタチさん中隊とする)

中央部からはあんこうチーム、カバさんチーム、レオポンさんチーム、クマさんチームといった比較的高火力な戦車がフラッグ車を務めるアヒルさんチームの八九式中戦車を守りながら前進していた。(これをあんこう中隊とする)

最初にあんこう中隊が四輌のT-34/76と遭遇及び交戦した後三輌を撃破し、逃げ出した残り一輌の後を追っていた。

しばらく追っているうちにフラッグ車ともう三輌のT-34/76が稜線で待ち構えてるのがあんこう中隊の目に入った。

 

「西住隊長、このまま突撃も良いと思うのだが」

 

「そうです。時代は我々に味方しています!根性と気合で行きませんか?」

 

「突撃ならレオポンに任せて〜この寒さだったらEPSをいつもより長く使っても問題なさそうだし」

 

「いいえ、おそらく敵は先程の三輌を敢えて撃破させた上、フラッグ車を使って私達を誘い込む魂胆だと思います。それに、この先には小さめの町があったはずです」

 

「確かに。西住さん予想は間違ってないはずや。敢えてここは耐えがたきを耐えて防御の姿勢を取るべきやと俺は思いますわ」

 

カエサルや典子、ナカジマが早期決着をみほに提言するが、彼女は慎重に対応した。このみほの予想は間違っているものではなかった。

仮にプラウダ高校側がみほ達を誘い込むことに成功した場合は、稜線を越えた先にある町で包囲殲滅を図るか町の中にある教会逃げ込んだ時は降伏勧告を行い。相手が音を上げるまで待つという心理戦まで持ち込むつもりだった。

しかし、ここで隊長であるみほが冷静な判断を下したことと平形の敢えて防御に徹するという提言が加わったことで舞い上がろうとしていた三人は二人の意見に共感し、逸る気持ちを抑え込んで防御に徹することにしたのだった。

 

「西住ちゃん。こっちは今、デカいくせにすばしっこいのと撃ち合っているから早めに旗車を仕留めてくれたら嬉しいかな」

 

「一応積み重なった倒木や稜線をちょっとした陣地代わりにしているから持ちこたえられそうなのですが、このままだと強行突破されそうな勢いです」

 

「分かりました。こっちもフラッグ車を早く仕留めるように動いてみます。それまで持ちこたえてください」

 

カメさん中隊は既にデカいくせにすばしっこい戦車……獅堂が率いる三輌のLTTB軽戦車と交戦に入っていたのであった。

彼が率いる戦車は、三対五という数的に不利な状況ながら五輌の戦車相手に引くことなく。搭乗員達の練度の高さを限界まで活かしつつ少数精鋭かつ練度重視の編成でカメさん中隊と交戦していたのだった。

 

 

 

プラウダ高校の戦車道チーム副隊長補佐・獅堂義孝は、江城連合会きっての実力派であり。彼自身が数的に不利な立場に置かれても少数精鋭的な部隊運用を活かして数々の戦いを潜り抜けてきた戦いの猛者であり、次期会長候補の一人として名が挙がっている。

そんな彼は今日も愛車のLTTBで砲弾が飛び交う戦場を駆け抜けていた。

 

「小隊長、相手のLT-38.NAにはかなり手強い相手が乗っています。このままだと数で押し込まれてしまいます。それに会長以外の二輌は観測装置と履帯をやられているので、早期決着が望ましいです」

 

「そうだな。今回は今までより分が悪い。敵の隊長車と平形本部長が守るフラッグ車中隊は予想に反して防御を固める姿勢に入った。それに加えてもう一つの森林帯から突破を試みようとする大友さんの中隊も防御の構えを取ったそうだ。これは膠着確定だな」

 

彼はもう一輌のLTTBに搭乗する隊員と言葉を交わしながらカメさん中隊の五輌を突破させないようにけん制射撃を行っていた。

すると、隊長であるカチューシャの幼気かつ愛らしい声が車内に響き渡って来た。

 

「タカーシャ。相手は予想外の動きに出たわ!このまま一旦撤収しなさい。勿論、町へ続く街道上にはもう一輌の”頼れる同志”を配置しておきなさいよ!」

 

「分かりました。少し様子を見てから撤収します」

 

カチューシャと交信を終えた獅堂はカメさん中隊による攻撃が止んだのを確認すると、そのままカチューシャがいる町の方へと撤収するのであった。

 

 

 

 

大洗学園戦車道チームは、戦車の車内で身を寄せ合うか温かい飲み物や食べ物を食べながら寒さをしのいでいた。しかし、こうしていても状況に変化はないため。町の方へ偵察を出すことにしたのであった。

偵察役には、副隊長である大友が名乗り出てて一人で町の方へと向かって行ったのだった。

 

「こちら大友、敵の配置位置を報告します。フラッグ車の護衛にはIS-2とKV-2といった高火力な戦車がついています。また、建物の陰に隠れるようにT-34シリーズが狙撃の配置についているほか、義孝が率いるLTTB部隊が右側の森林帯方面に向かって出発しました。各々の戦車の搭乗員達は戦車の外に出てボルシチを食べてるか焚火で身体を温めています。それでは少し偵察を続けた後に戻ります」

 

「ありがとう。大体敵の配置が分かったから作戦が考えやすくなったわ。気を付けて戻って来てね」

 

彼はみほとの通話を終えると、そのまま双眼鏡で町の方を眺めていた。すると、一輌のT-34-85が目に留まり。その方向に双眼鏡を大きく拡大すると、昼寝をするカチューシャの寝顔が目に入った。

 

「カチューシャさん。日課の昼寝中なのか……やるときはイケイケ寄りの頭脳派なのにこうしてみると癒しになるなぁ。あれ、さっきまで居たノンナさんはどこだろう?」

 

「私ならここですよ……」

 

思わず大友は見とれてしまい。独り言を呟きながらノンナの名前も口にすると、どこか母性を感じさせるような優しい声が彼の耳に入る。それもかなりの近距離で。

 

「あっ…ひゃうっ?!」

 

「ふふっ捕まえましたよ♡私は一年前からずっと寂しかったのですよ」

 

彼は咄嗟に回避行動を取ろうとしたのだが。ノンナに優しく抱きしめられ、今にも彼女のパンツァージャケットからはみ出そうな豊胸が彼の顔に当たる。

対するノンナは母性的な笑みを浮かべながら優しく頭を撫でる。

 

「……ノンナさん。ごめんなさい」

 

「どうしましたか?その表情だと何か訳がありそうですね」

 

しかし、対する大友のどこか罪悪感がある表情に気付いたのか。彼を離すと、トンビ座りをして彼の話を聞くことにした。

 

「俺はノンナさんやカチューシャさん、それに他校の皆さんに可愛いがってもらえる事は嬉しく思います。でも、俺。みほ姉貴という大好きな人が出来たんです!」

 

「あら……」

 

「皆さんの気持ちを踏みにじるような気がするので。この際だから言っておきます。本当に申し訳ございません!!」

 

大友はみほだけでなく。他校の戦車道乙女からの好意に気付いていたものの。今までどうすれば良いか分からないかった自分が情けなかったのか。

ノンナという自分に好意を抱いている一人の女性に対して謝罪の言葉を口にするが。

彼女は、怒ることなく。もう一度彼の頭を優しくなでる。

 

「誠也君。気にする事はありませんよ。恋というものは複雑なものですから。それにあの子の舎弟さんならそのまま恋仲になっても良いと思います。私が君と会う前から、君はあの子の側にいるのだから。引き続きみほさんという一人の女性を大好きで居続けるべきなのですよ。それに私以外の皆さんもそう思うはず」

 

「……ありがとうございます。おかげで何だか気が楽になりました」

 

ノンナは彼のこの悩みを真摯に聞き入れ。彼女なりの大友に対するアドバイスを行い。彼女との関係の進展を望む姿勢を見せた。

対する彼はノンナという尊敬する人物の一人からの言葉が心情にしみたのか。右目から少し涙が出る。

 

「ふふっ。誠也君の役に立ててよかったです。さあ。吹雪が止みましたし、お互い元の場所へ帰りましょう」

 

「そうですね。お互いのベストを尽くしましょう」

 

「誠也君」

 

「はい?んっ……」

 

塔を出ようとした途端、再びノンナから声を掛けられた大友が彼女の方を向くと、額に大好きな人からよくされる行為と同じ優しい感触が走る。

 

「最後だから。これだけは受け止めて欲しかった。Досвидания.」

 

「До свидания.ノンナさん」

 

ノンナは大友を抱つつ額にキスすると、そう言いながら彼とは真逆の方向を歩いてゆくのであった。

対する大友はノンナと同じくロシア語で別れを告げると仲間のもとへ帰るのであった。

 

 

 

彼はそのまましばらく走った後に町の外でカモフラージュを施して彼の帰りを待っていたE-25に乗り込むのであった。

 

「兄貴、ちょっと遅くなかったか?なんかトラブって無かったりしなかったのか」

 

「いいや。ちょっと町で迷子になりかけた。それじゃあ清弘、そのまま森で待っている桔平達に合流してくれ」

 

「ああ。さて、みほさんの作戦はどんな感じに仕上がりそうかな?」

 

「この辺りは守りが薄そうだから一気にかちこむのもいいんじゃねぇか兄貴?俺の装填の速さと村川の兄貴の射撃能力が合わさればイチコロだと思うんだけど」

 

「確かにありだが、厄介なことにT-34シリーズが狙撃役についている。何か相手の意表を突くようなやり方があればいいんだけどな」

 

大友と三人の兄弟分は相手の意表を突くような打開策を考えていたが、中々打開策が浮かんでこない。考え事に耽っている間に森林帯で防衛体制に入っていた中隊の四輌と合流する。

 

「偵察ご苦労様です。親分、敵さんの様子はどうでしたか?」

 

「かなり守りを固めていた。こっちの戦車とほぼ互角だとはいえ、守勢に立たれたらこっち側が溶け切ってしまう。丁度相手の意表を突くような策が無いか三人と考えていたところだ」

 

「あの。大友の兄貴、俺ら勇彰會内黒木組がたまにタンカスロンでやってる”アレ”を試してみたいんやけど」

 

「ん?アレ……彰、ナイスアイディアだな!ということは積んできているのか?」

 

黒木が彼に対してある打開策を提案すると、大友は納得した表情で頷いた。

黒木が嬉々とした表情で自身の戦車の車内に戻ったかと思えば、スピーカーとコンポを取り出したのであった。

 

「もうすぐ空が晴れるし。あとは時間帯的にも夕方やから。夕日を背景に雪原を走るプラウダさん達の所に突入するのはどうや」

 

「ははっ。黒木の兄貴、キルゴア中佐の霊にでも取り憑かれたんですか?」

 

嬉々とした表情でコンポとスピーカーを両手に持つ彼に対して木村が笑いながら突っ込みを入れる。それに合わせて他の幹部達も声に出して笑っている。

 

「そんなわけないやん。大友の兄貴、ただ突撃するだけやったら意味あらへんから状況によって突入するんはどないや?」

 

「そうだな。みほ姉貴の援護に入る形で突入するのが望ましいな。というわけでみほ姉貴風に作戦名を名付けるなら……『やばいのきた作戦』だなっ!お前ら。気合入れて行けよ!!」

 

『『はいっ!!』』

 

こうして大友が率いるイタチさん中隊は独自の作戦を立案した。それから士気を高めると、組員達は各々の戦車に乗り込んで隊長であるみほの指示を待つことにしたのであった。

 

 

 

 

双方が膠着してから四十分近く経過しようとしていた頃。プラウダ高校戦車道チーム隊長、カチューシャが自身の日課である昼寝から覚めた後に再び大洗とプラウダでの撃ち合いが始まったのであった。

杏が率いるカメさん中隊も偵察を出していた。偵察を出したところ、中央部の町へ続く丘の谷間の道がちょっとした雪で埋もれており。榴弾を使って雪を除ければ通行可能になる可能性が高く。

カメさん中隊は、そこを通って町に隠れているであろうフラッグ車を撃破するつもりでいた。

 

「さっきのすばしっこいやつは居なくなったねぇ。そのまま周囲を警戒しながら行こうか」

 

「このまま一気に叩いて西住隊長と大友副隊長にもいいところを見せましょう会長」

 

「そうだねぇ。西住ちゃんと大友ちゃんに頼ってばっかりだし。たまにはいいところも見せないとね」

 

杏と梓が話しながら街道を悠々と進んでいると、雪に埋もれた谷間の道が見えてきた。カメさん中隊の戦車は雪に向けて一斉に榴弾を発射した。

五輌分の戦車の榴弾が撃ち込まれたためか。雪は爆発と共に崩れ去り、雪煙が周囲を覆いつくした。

 

「会長、このまま一気に行きましょう。先行は私達カモさんに任せてください」

 

「いいねぇ。皆もそど子に続いて行こう!」

 

周囲を覆いつくしていた雪煙が晴れつつあったため、カモさんチームを先頭に谷間の道を進もうとするのだが。直後、B1bisが耳をつんざくような砲声と共に撃破されたのであった。

雪煙が完全に晴れきって分かったのは、垂直な装甲と巨体を持つ自走砲……SU-100Yがゆっくりと前進してカメさん中隊の前に現れたのであった。

 

「くらえ。カモさんの仇っ!」

 

サメさんチームのMK.ⅣがSU100-Yに照準を合わせて撃破しようとしたものの。その後ろからやって来たLTTBに撃破されてしまう。

ウサギさんチームが75mm砲でSU-100Yを撃破した次に側面を見せた一輌のLTTBを37mm砲を使って至近距離で撃破したものの、他のLTTBに撃破された。

それからカメさんチームとアリクイさんチームも二輌のLTTBに損傷を与えるなど健闘したが。機動力で勝る三輌によって撃破された。

 

「カメさん中隊の皆さん。怪我はありませんか?」

 

「みんな大丈夫だよ。ごめんね西住ちゃん。二輌しか撃破出来なかった上、面倒なのが三輌そっちに行っちゃったから気を付けてね」

 

「分かりました。ありがとうございます。誠也君、イタチさん中隊を率いてあんこう中隊に合流して。このままみんなでまとまって町でかたをつけるのはどう?」

 

「姉貴、あと五分でそっちに着きます。今姉貴達あんこう中隊と交戦している六輌を側面から叩きますんでもう少し待っていてください」

 

みほは杏達カメさんチームの心配をすると同時に大友達に合流を呼びかける。

彼は、カメさん中隊が獅堂が率いる中隊と交戦を開始した辺りから動き始めたのだろう。あと五分で彼女と合流しようとしていたのであった。

 

「大友の兄貴、夕日が見えたで。へへっ、丁度あの映画みたいに太陽を背にする形になってるわ」

 

「タイミングが良いな……お前ら。かちこみの準備だ。彰、そのまま音楽を鳴らせっ!!」

 

大友の指示を受けた黒木がコンポのスイッチを入れると、そこからワルキューレの騎行が大音量で流れ始める。

因みに史実における湾岸戦争でアメリカ軍の戦車隊が士気を上げるためにかの『地獄の黙示録』よろしくこの音楽を流したことがあったそうだ。

五輌という数であるものの、それを再現するかのように雪煙が豪快に舞う。イタチさん中隊の士気が限界まで上がりきったところで六輌の敵戦車が目に入ったと同時に行進間射撃を開始する。

スピーカーから管弦楽器の音色と戦女神の声が雪原に響き渡り。五輌がそれに合わせて軽快な動きで六輌を翻弄し始める。

 

「すごい……ワルキューレの騎行のメロディーに合わせるようにして六輌もの戦車を撃破するなんて」

 

「そうですわ。敵もやばいくらい混乱していますわね。あのm/42の動きからして操縦手には慎司君が……」

 

「ふふっ。タンカスロン出身の戦車乗りの男の子は奇想天外な戦い方をするから目を離せないわ。それにあの子も相変わらず身を顧みない戦い方をするわね」

 

一方、観戦席から少し離れた場所でオレンジペコやローズヒップ、ダージリンが紅茶を片手に彼らの戦い方に感心している様子を見せていた。

彼女達三人だけでなく。他の観客たちもこの戦い方にずっと目を張り付けていた。

 

「みほ姉貴、このまま俺についてきてください。二人でフラッグ車が隠れている場所へ向かいましょう。ここは防御に適している。他の皆にフラッグのアヒルさんチームを守らせて俺と一緒にフラッグ車を仕留めましょう」

 

「分かったわ。カバさん、他の皆さんと共に防衛線を構築して防御に徹してください。あんこうとイタチさんチームでフラッグ車を仕留めに向かいます」

 

「心得た。マルタ騎士団が三万のオスマン軍を撃破したようにやってみせよう!」

 

みほは大友と共にフラッグ車を仕留めに行くべく。指揮権の一部をカバさんチームに委譲し、二輌で町の方へと向かって行くのであった。

 

「油断は出来ません。物陰には特に注意してください。相手はあのカチューシャさんとノンナさんです。あの二人がタッグを組んで掛かって来た時ほど恐ろしい瞬間はない」

 

「そうね。地吹雪のカチューシャとブリザードのノンナという二つ名があるもんね。けど、私と誠也君が一緒になれば怖いものなんてないじゃない」

 

「姉貴……そうですね。二人いや、あんこうとイタチチームの皆が一緒ならあの二人に対する勝算は高いものだと今気づきました。おっと、噂をすれば現れましたね」

 

大友とみほが話しながら町へ近づいていると、二輌の戦車が二人の視界に入った。隊長車のT-34-85とIS-2だった。この二輌は町の入り口の前で鎮座しており。

彼と彼女を待ち構えていたかのようにゆっくりと前進し、少し前の地面に榴弾を撃ち込んで大量の雪煙を作る。

 

「みほ姉貴、この二輌は俺に任せてください。貴女は東側の入り口から入ってKV-2を警戒しつつフラッグ車を仕留めてください。心配はいりません。俺を信じて」

 

「それでいいの……誠也君を信じるわ。だから、撃破されないでね」

 

「ええ。可能な限りやってみます」

 

みほは大友の言葉を信じて大量の雪煙が町の周囲を覆いつくす中、東側の入り口から町へ入ったのであった。やがて雪煙が晴れて分かったのは、T-34-85とIS-2が最高速度で大友のE-25へ迫ろうとしていたのだった。

 

「やっぱり隊長車が居ないわっ!ノンナ。セイヤスキーをピロシキの中のお惣菜にする勢いで仕留めるわよ」

 

「はい。お任せください」

 

カチューシャとノンナが搭乗する戦車には優秀な搭乗員が乗っているのだろう。かなり精度の高い行進間射撃を行いつつ大友のE-25の装甲を掠めているが、一向に撃破出来ずにいた。

対する彼も何度かT-34とIS-2に砲撃を浴びせるが、巧妙な動きに加えて強力な装甲に阻まれていくばかりだ。

 

「こうなったらT-34に突っ込むフリをしてわざと分厚いところに突っ込むしかねぇよな。兄弟」

 

「ああ。IS-2だって正面装甲の下にゼロ距離で砲撃を浴びせれば撃破できんことも無いからな」

 

「今ならオートローダーに成れんこともないぞ兄貴」

 

「じゃあやるしかねぇよな。掴まってくれ、兄貴!!」

 

大友は自棄になったふりをすることにし、彼のE-25はT-34-85の方へ真っ直ぐと走り出した。無論、被弾してはならないので大きく蛇行運転をしながら接近を試みる。

我妻の操縦技術が微妙に優れていたのだろう。確実にT-34-85まで迫りつつあった。いよいよT-34-85の至近距離に迫ったところでIS-2がその前に割って入る。

 

「よし。今だっ!そのまま車体下部にくっつけ。撃てぇ!そしてそのまま時計回りで後退からのT-34に砲撃!」

 

E-25はIS-2のほぼゼロ距離で停止した後に砲撃を車体下部装甲に浴びせて撃破する。

それから時計回りに後退して態勢を整えてからT-34-85にも砲撃を浴びせて撃破したと同時に大洗学園が勝利したことを告げるアナウンスが会場内に鳴り響いた。

 

 

 

 

試合終了後。大洗学園戦車道チームの待機場では和気藹々とした空気が流れており、お互いの健闘を称え合っていた。そんな中。カチューシャやノンナ、獅堂がみほのもとを訪れていた。

 

「上手く包囲するつもりだったけどそれを見事に交わした挙句、防衛線を構築してセイヤスキーと一緒に私達のところに殴り込んで来るなんて大したものね」

 

「いいえ。正直KV-2にも苦戦しましたし、フラッグ車のT-34/76も思った以上の抵抗を示したので。どうなるかと思いましたよ」

 

「ミホーシャ………言っとくけどまだ戦いは終わって無いのよ。決勝戦は必ず見に行くから。カチューシャをがっかりさせないでよ!」

 

「はい!」

 

カチューシャとみほも互いの健闘を称え合った後、握手を交わした。

 

「お聞きしたいのですが。LT-38.NAに乗っていた方はどちらにいらっしゃいますか。みほさん」

 

「それならこっちにいる角谷会長とその四人です」

 

「ありがとうございます。あなた達がLT-38.NAに乗っていたのですね。あの砲撃お見事なものでした。それに装填速度の速さと操縦技術も素晴らしいものでした。俺が率いる白鳳会を代表して申し上げますが、ウチの組員達もあなたたちの健闘を称えていました。また今度一緒に戦える機会があればよろしくお願いします」

 

「そんな大したことないよ。また機会があったらよろしくね獅堂ちゃん」

 

獅堂は今回の試合で大変に満足したのだろう。杏や桃、柚子の健闘を称えると、彼女達三人とも握手を交わすのであった。その傍らで大河がこの四人の姿をカメラに収めている。

 

「セイヤスキー。あなたミホーシャの舎弟なんだったらこれからも支えてあげなさいよ!」

 

「ええ。ありがとうございます。はい、精進します!お二人との戦いもとても楽しかったです!」

 

カチューシャから励ましの言葉を掛けられた大友は彼女と握手を交わすと、その次にノンナとも握手を交わした。

こうして遂に下克上達成まであと一歩という土壇場に足を踏み入れようとしている大洗学園戦車道チームであった。

 




ご覧いただきありがとうございました。次回は第二十話を投稿する予定です!
今回は大友に対して何故か母性が目覚めたノンナさんの登場でした()
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