西住みほの舎弟が往く!ーたとえ世界が変わっても貴女についていくー 作:西住会会長クロッキー
決勝戦の相手である黒森峰女学園との試合を控えた大洗学園戦車道チーム一行は、来るべき決戦に備えて鍛錬に励みつつ。高校生らしく青春を謳歌していた。
大友がみほやダージリンをはじめとする他校の戦車道乙女達から愛でまわされるように近い感じで。
大友連合会や勇彰會に所属する戦車道男子は大洗学園の戦車道乙女達といわゆる友達以上恋人未満という仲にまで進展していたのであった。
さて、そんな彼ら彼女らの日常風景を覗いてみよう。
「はぁはぁ。鈴木先輩、前より一段と装填が速くなってますね……もうそろそろ先輩にも速さで抜かれるかもしれねぇな」
「安倍君にそう言って貰えると嬉しいよ。安倍君はどうして装填手をやり始めようと思ったんだ?」
「俺はタンカスロンで使う戦車で車長兼装填手の設計が施された戦車に乗ることがよくあったんで。それで装填手の役割に愛着があるんです」
「そうなのか。車長兼装填手といえば。ひなちゃんもそうだったな……」
「おーい二人とも。この辺りで晩ご飯にしないか?」
「すまないな。エルヴィン、おりょう、左衛門佐。さぁ、安倍君。四人で晩ご飯にしよう」
「はい。ありがたくいただきます」
安倍とカエサルは、役割が一緒ということもあってか。気が合うことも多く。こうして放課後は彼女のシェアハウスで一緒に装填の自主トレーニングをしていたりするのだ。
「妙子ちゃん。弟を愛する者同盟は最強ねっ!」
「そうですね。小山先輩!今日学校のお風呂は誰も居なさそうですし……このまま混浴とかどうですか?」
「妙子ちゃん。それなら任せて。このために副会長になったようなものだから」
「「しょ、職権濫用だぁ……」」
「二人ともまたそんな事言って。もう決まったんだから今日は逃がさないよ。分かった?」
「妙子姉まじで。本気と書いてまじで言ってんの?もうすぐ十六歳だぜ。もうアレで最後って言ったじゃん」
「そう言ってすぐお姉ちゃんに反抗して。昔はもっと可愛かったのに……こうしてやる。んーちゅっ」
「やめ…ろ…」
「あーあ。慎司が早々にのぼせちまった。こりゃダメだな……」
小山柚子と近藤妙子の弟に対する“好き“はどこかズレており。恋人に対するそれとほぼ同じ意味を持っていた。
弟である秀人と慎司は姉を大事に思っているものの。ズレた感情を持った彼女らに少々苦労していた。
二人は今日もそれぞれの姉に為す術なく捕まってしまい。今まさに学園内の大浴場に連れて行かれようとしていたのであった。
「さぁさぁ。今宵も…」
「みんなで…」
「アリクイさんチーム特別メニューを始めるももっ!」
「さぁ。ねこにゃー先輩、ぴよたん先輩、ももがー殿。いつもの練習場へ出発ですぞ」
「ちょっと待ちな。力を思う存分使い放題ならこのアタシ。サルガッソーのムラカミも混ぜな」
「待っていましたよ!ムラカミ先輩」
「おぉ。ムラカミさん……共にみほさんや大友君みたいに強くなりましょうぞ!」
「ねこにゃーや他のみんなにも思う存分アタシの本気を見せつけてやる。目に焼き付けな……じゃあ行こうじゃないの」
『おーっ!!』
アリクイさんチームの三人と今はヤマネコさんチームに移った岡崎と上田は、聖グロリアーナ女学院との練習試合前から筋トレに励んでおり。この五人が気付いた頃には、自他共に認める運動オタクと化していたのであった。
いつもは五人で筋トレなどをしていたものの、今回からサメさんチームのムラカミも五人に混ざって一緒に自主トレーニングに励むのであった。
「あーあ暇だな。何する?夜は戦車を走らせると履帯の音で他の人に迷惑になっちまうからなぁ……」
「カシラ、それだったら今から黒木の叔父貴を誘って単車で学園艦外周一周レースやりませんか?あの辺りは家も建ってないし。あと、この時間帯なら車は通らねえし、信号も機能してねえので」
「おう。いいなそれ。じゃあ、車庫から俺達の単車を引っ張り出してレースだな」
「はいっ!あれ?こんな時間に誰だろう。ってウサギさんチームのみんなとアヒルさんチームのあけびちゃんだ。よく見たら紗希ちゃんは居ませんけど」
「せっかく来たんだ。入れてあげよう」
「こんばんは水野君。よかったら私達六人と一緒に今から映画を見ない?お菓子とかDVDを持って来たから」
「いいねぇ。じゃあ。上がってくれよ皆んな。ところで紗希ちゃんは。それにウチの英雄は見てねぇか?」
「紗希ちゃんは黒木先輩と……ね?それに木村君は忍ちゃんやキャプテン、平形先輩と戦車倉庫に残っていたよ」
「そうか。黒木の叔父貴って人が良すぎる人だからなぁ……それに英雄と平形本部長は忍ちゃんや磯部先輩となんか意気投合してたしな。それより、梓ちゃん達やあけびちゃん。俺たち大友連合会の六人で観ようか」
「わーいっ!ダブルデートならぬシックスデートだぁ!」
「ははっ。桂利奈ちゃん。それはちょっと言い過ぎじゃねえか?」
大友連合会若頭の水野や幹部の嶋、塚原、小野、瀬島、藤田の計六人は組事務所で暇を持て余してしており。
嶋の何気ない一言で六人は、事務所の車庫へ向かい。自身が所有するオートバイを出そうとするが、そこに紗希を除くウサギさんチームの五人とアヒルさんチームのあけび達がやって来たのだ。
それから彼女達六人は、大友連合会の事務所に居た水野達と合わせて十二人で映画を見始めるのであった。
「え。私のお父さんと黒木先輩は似ているからずっとこうしていたい気分やて?もう夜の七時やからベンチでぼーっとしやんと一緒に飯行かんか。何かおごったるで?紗希ちゃん(ホンマに不思議な子やな。何も喋らんでも何を伝えたいんか、なんとなく分かるわ)」
「……ありがとうございます。おそばときんつばが食べたいです」
「ほな行こか。どうしたん?」
「……おんぶしてください」
「ええよ。乗り乗り」
勇彰會舎弟頭の黒木は、ウサギさんチームの紗希に懐かれており。その理由は、彼女の父親の性格とよく似ているからだそうだ。
今日も二人で学園艦の外側にあるベンチに腰を下ろして夕焼けを眺めていたのだった。
「学園艦の底に食べ物が美味い店があったなんて。毎日ここで晩ご飯をご馳走になろうかな。大洗のヨハネスブルクと呼ばれたこの辺も良くなって来たし。たむろってた子達がちゃんと皆んなと仲良くし始めてからこの辺は賑やかになったねぇ」
「会長が大友組や勇彰會、そど子の風紀委員会と協力して諸問題を解決してくれたおかげで深層部が明るい場所になれました。ありがとうございます!」
「でも。河嶋さんがお銀さん達をはじめとする学園艦底に居た一人一人に気を使ってくれなかったら問題解決は難しかったかもしれません」
「桃さん。そど子さんの言う通りですよ。ウチらは望んでもいないのに親に無理矢理入学させられた身。けど、桃さんがそんなアタシ達に気を使ってくれたのと。桃さんが姉貴分のように慕う角谷の会長さんが問題解決に前向きになってくれたおかげで他の連中は改心する出来たのさ。ほら、噂をすれば他の奴らやどん底の三人、風紀委員の二人だって戦車乗りの男たちと仲良くなってるじゃないか」
「ありがとうね。この調子で明後日は絶対に勝とうね……」
杏は桃やそど子、お銀らと共に。以前は殺風景であったものの、今は明るくなった学園艦底について語り合っていた。
その明るい雰囲気を物語るかのように、伊達や長瀬といった戦車道男子達がゴモヨとパゾ美、どん底メンバーのほか。船舶科の生徒達と仲良くしている。
そんな賑やかな光景の中で杏は勝利への決意を胸に抱くのであった。
「これなら私達あんこうと武君のイタチさんチームの二輌だけでも十分重戦車とタイマンできそうですか?」
「華さん例えが物騒だなぁ。でも、砲手らしくて良いと思うし。俺自体あんたみたいな強い女性は好きだぜ」
「参ったよ優花里ちゃん。装填の速さと知識はあんたが上だよ。隊長車の装填手に相応しいな」
「ありがとうございます。山本殿も並の戦車乗りより優れていますから。お互いこの調子をキープしましょう!」
「兄貴や英雄もびっくりするくらいの操縦テクニックだなぁ。学年主席は何処の学校でもすげぇや」
「勉強はとにかく。こうやって身体で覚えないと意味がないからな。でも、我妻君も中々すごいと思うぞ。男子戦車道部時代から戦車に乗っているだけある。それにさすが誠也君の兄弟分だ」
あんこうチームの華や優花里、麻子はイタチさんチームの村川や山本、我妻らと共に密かに特訓していた。
彼女らと彼らはお互いの腕を讃え合いながら進めていたこともあってか。特にあんこうチームの三人はそこそこ実力がある戦車乗りより優れつつあったのだ。
「勇武君はどうして戦車乗りになろうと思ったの?」
「まぁ、中学に入りたての時に黒木の兄弟と一緒に死にかけの戦車をノリでレストアして知り合いの戦車乗りの親分さんと一緒にタンカスロンに参加してから戦車の楽しさを知ったんや。じゃあ、典子ちゃんは何でバレーが好きなん?」
「それは、自分を限界と根性を知るためかな。でも、何かきっかけを作ることって大事だね」
「木村君とレオポンさんチームのナカジマ先輩達には、本当に頭が上がらないな。特に木村君、いつもありがとう」
「どういたしまして。俺も忍ちゃんの役に立て嬉しいよ。それにナカジマさん達には色々驚かされっぱなしだよ。ははっ」
「木村君も戦車でドリフトを決めちゃうのに。そう畏まらなくていいじゃん。今晩も戦車でドリフトしますか」
平形と典子は、ポルシェティーガーで華麗な操縦テクニックを披露する木村や忍、ナカジマを始めとするレオポンさんチームのメンバー達を眺めながらそれぞれ戦車道とバレーを始めるきっかけについて語り合っていた。
戦車の車内でも木村や忍、ナカジマが役割を交代し合いながら特訓に勤しんでいた。
こうして、戦車道と青春の双方に精を出している男子と乙女達の日常は刻一刻と過ぎていくのであった。
各々がそれぞれの日常を送っている中、ついに決勝戦の前夜となった日の晩。大友とみほは同じベッドで眠りにつこうとしていた。
「みほ姉貴。今日も同じベッドで寝るんすか?」
「いいでしょ?私達二人きりなんだから」
「参りました。じゃあ、ご一緒させてもらいます(もしかしたらチャンスかもしれない)」
彼はいたずらな笑みを浮かべる彼女に降参し、彼女が手招きするベッドへと入るのであった。
大友がみほの待つベッドへ入ると、待っていましたとばかりに彼女は彼を抱きしめる。
「私のかわいい舎弟の誠也君。おやすみなさい。明日は頑張ろうね」
「ええ。必ず逸見さんを元に戻しましょう。それとみほ姉貴に助けられた小梅ちゃん達は多分、みほ姉貴と会えるのを楽しみにしているはずです。貴女がさらに成長した姿をまほさんや代行にも見てもらいましょう。そして、この学園艦を守って見せましょう。ってみほ姉貴、どうかしましたか?」
「そうだね。誠也君いつもありがとう。今思えばあの事故の後、誠也君に一番助けられたなぁ。お母さんから色んなことを言われても私を庇ってくれて改めて本当にありがとう。だからね、私の気持ち。受け止めて………誠也君、大好きだよ。世界で一番愛してるよ!」
ベッドに入ってからも起きていた二人は、明日の決勝への思いを胸に豹変した友を元に戻すことと学園を守る意志を再確認した。
みほは、涙目になったものの。大友に対して今までの感謝を語った後、自身の想いを彼に打ち明けた。
それから今までとは違って今度は左右の頬でなく。彼の唇に少し力強くキスした。
「んっ?!……みほ姉貴、本当に貴女は強いお方だ。こちらこそ俺の事をここまで思ってくださりありがとうございます。それにすごく今更でごめんなさい。俺もみほ姉貴の事が大好きで愛しています!」
「ふふっ。誠也君ならいつかそう言ってくれると思ってたよ。私ね今、すごく嬉しいよ」
大友は彼女を抱きしめ返した後、そのまま頭を優しく撫でる。対するみほも彼が自分の事を愛しているという事実に喜んでいる。
「じゃあ、もう遅くなりそうだから。今度こそおやすみ。本当に愛してる」
「おやすみなさい。俺もみほ姉貴の事を世界で一番愛しています」
二人は静かに軽く抱きしめ合うと、一分も経たないうちに深い眠りについた。
こうしていよいよ、みほと大友による下克上は最終局面を迎えつつあったのだ。
ありがとうございました!今回でラブコメタグを回収できたと思います!(←多分その前から回収してると思う)
今回は大友とみぽりんだけでなく。他のオリキャラと原作キャラの絡みも書いた日常回でした。
次回は第二十一話を投稿する予定です。次回は少し長編にする予定ですので。前編・後編もしくは、前編・中編・後編に分けると思います。
最後になりますが。お気に入りへの登録や評価、ご感想などお待ちしております!