西住みほの舎弟が往く!ーたとえ世界が変わっても貴女についていくー   作:西住会会長クロッキー

23 / 35
ご覧いただきありがとうございます。前回も予告した通り捏造設定がましましです。
引き続きお楽しみください!


第二十三話 強欲な影と過去

大洗学園が第六十三回戦車道大会に優勝し、表彰式が行われているほぼ同時刻

文部科学省・学園艦教育局局長室

 

『優勝大洗学園っ!!』

 

「やっぱり勝っちゃいましたね。まぁ、負けたら廃校にする気なんて無かったんですけどね。次の計画に移行しましょうか。木下代表……いや、我が盟友・『倉橋行雄(くらはしゆきお)』君」

 

「そうですね。辻局長……いえ、我が総統・『神宮征四郎(じんぐうせいしろう)』君。あれから二十二年……私達はこの時を待ってた。逸材達を見つけ。我々の理想を実現する時が」

 

タブレット端末を片手に優勝旗を手に持つ少年少女らの姿をあざ笑うかのように二人の男は貪欲に塗れた笑みで自分達が二十二年間隠し通して来たであろう本当の名前で語り合っている。

現在は文科省学園艦教育局局長を務めている辻廉太こと神宮征四郎はかつて男子戦車道や女子戦車道に分けられる前にそこそこ強豪校だった学校の戦車道チームの隊長を務めていた。

彼だけだはない。辻に倉橋と呼ばれるこの木下という男もかつては辻と同じ学校のチームで副隊長を務めていた。

しかし、彼がなぜ本名の神宮ではなく。現在の「辻」という苗字を使用しているのか。

それは二十二年前に彼ら二人が率いていた戦車道チーム『真闘派(しんとうは)』がその学校のチーム内において恐怖政治一歩手前までの統制を行い。

地位が低かった自分達の勢力を強引に拡大し、女子達の立場を追いやった。それだけでなく。入学直後に隊長を務めていた三年生を引きずり降ろして隊長の座に就いたのだ。

当然反発する者も出て来てはいたものの、辻は反発する者のありもしないデマを流して叩き潰して来た。だが、そんな彼らの悪行を見かねた者達が居た。

大洗学園が女子校だった頃……大洗女子学園戦車道チーム隊長桐生好子(後の秋山好子)や江城連合会四代目会長の秋山淳五郎、黒森峰女学園隊長西住しほ、同副隊長の世良常夫(後の西住常夫)といった面々によってその悪行を阻止された。

結果として自分達の悪行が世間に露見し、戦車道界のみならず世間的にも立場が危うくなった二人や彼らに付き従っていた真闘派構成員達は世間から姿をくらましたのだ。

だが、特にこの二人は悪運が強かったのだろう。神宮征四郎は父親が法務省のエリート官僚というコネから特に苦労することなく現在のように辻廉太へと名前と顔を変え。

倉橋行雄は彼のように両親が政財界に数え切れないほどのコネがある造船会社の代表取締役と社長だったためか、同じく木下へと名前と顔を変えて親の会社を引き継いで美酒を片手にする日々を送っている。

 

「まぁ、三月では遅すぎると色々理由を付けて学園艦の解体を速めて我々が立ち上げる予定の高大一貫校に大洗学園の戦車道履修者を特別入学させるというのはどうだ?それに学園艦の住民には好待遇を持ち掛け、他の生徒達にも希望する学校への転入斡旋を持ち掛けるのも良くないか?」

 

「そうですね。それなら反発は大きく抑えられると思いますよ。学園艦解体なら我が社の利益が多く出ますし、その利益で戦車道を強化したらいいのでは?寄付なら多く出しますよ総統」

 

「それはありがたい。ゆくゆくは憎き黒森峰や他の強豪校を下して我々が持つ予定の学園の傘下に収めて日本国の戦車道は我々一強にしたいものだ。ククク……」

 

厄介なことに二人の汚い大人によって大洗学園は再び危機に晒されようとしていた。大洗学園だけではなく黒森峰女学園といったみほと大友達と戦って来た戦友たちにも危機が訪れようとしていると言っても過言ではなかった。

 

 

 

 

黒森峰女学園との試合から二日後、大友はみほと共に自身の両親や祖父母が眠る墓地へと足を運んでいた。彼の両親と祖母は彼が小学校に入学してから不治の病で亡くなり。

十二歳の時に母親が亡くなると孤児となったのだ。その後、周囲の親戚や近所の住民から養子の話を持ち掛けられたが。自分がいることで無駄な迷惑を掛けると思い。

彼に付き従う気でいた水野や木村、安倍といった子分達と共に大洗へと引っ越し。それからはタンカスロンで賞金を稼いだり戦車の整備で生活を維持していた。

中学校三年生になると経済に興味を持ち始め、株でも稼ぎを上げるようになったことから彼が持つ資産もとい自身が率いる組の資金は六億三千万円と一部の人間しか知られていないほど高額なものとなった。

そのため資金で困ることなく今までの生活を送ることが出来ているのだ。

 

「みほ姉貴。わざわざ付き合ってもらってすみません」

 

「ううん。いいんだよ。血は繋がっていないけれど私は誠也君のお姉ちゃんだし一緒にいてあげたいからなの」

 

「そうなんですか。ありがとうございます。合掌と持ってきた花束を置いて帰りましょうか」

 

大友はみほと手を繋いで両親と祖母が眠る墓の前まで向かうと、二つ持ってきたうちの一つの花束を大友家之墓と書かれた場所に添えると静かに合掌する。

 

「…………(母さん、父さん、おばあちゃん。俺はまた幸せをつかむことが出来たよ。このままみほ姉貴を沢山幸せにしてあげることにしたんだ)」

 

彼はそう考えながら合掌を終えると、彼女と共に別の墓へと向かう。次に向かった先は周りの墓とは異なってひときわ大きく目立っており。

右下の灯篭には国防陸軍の戦車連隊の紋章が彫刻され、その墓の棹石には『風間譲太郎(かざまじょうたろう)』生没年・一九三五年~二〇〇五年と彫刻されていた。

みほは「風間」という名に見覚えがあったのだろう。もしかしてという表情で大友に語りかけた。

 

「誠也君……この風間って言う人はもしかして」

 

「風間譲太郎陸軍大佐……俺の祖父です。世界最後の戦争こと第二次中国戦争の時に国防陸軍第十一戦車連隊を率いて自ら前線に立って指揮し、他の多国籍軍より早く日本人が捕らわれていた収容所に乗り込んで人質を救出しました。ですがその時、この収容所の所長は悪あがきを続けようとし。六歳の女の子……蝶野大尉を人質にしたのですが。激怒した祖父に撃ち殺され、蝶野大尉は無事に救い出されました。しかし、この時に相手からも銃弾を何発か貰い。足に被弾しました。それも構わずに蝶野大尉を彼女のご両親のもとへ差し出しました。それからは何事もなかったかのように次の戦地へと向かったそうなんですが。この時の怪我が原因で左足が不自由になり。俺が五歳の時に亡くなるまで杖を突いていました」

 

「そうなんだ。じゃあ、そのことがきっかけで蝶野大尉と知り合ったんだ」

 

「ええ。小さい頃に祖父とよく一緒に遊びましたからね」

 

彼は彼女に祖父の事を語り終えると二人で合掌する。再びそれを終えてから乗って来た車に乗り込んで墓場を去って行くのだった。

この墓地から学園艦までは約一時間程かかるため、当然のように会話を交わすこととなる。途中でみほから何気ない話題を振られる。

 

「誠也君。これからもずっと一緒に居ようね。いつか今みたいに姉貴付きじゃなくてみほか昔みたいにみほちゃんって呼んでくれるように結婚できる日まで待っているからね」

 

「ええ。俺もずっと一緒に居たいです。って……み、みほ姉貴っ?!もう結婚まで考えているんですか」

 

「ふふっ。誠也君ったらそういうのには弱いんだから……私達は血のつながりのない義姉弟同士だけど。愛し合っているから今度は義姉弟から夫婦になるのも良いかなって思い始めたの。だからよろしくね。あなた」

 

「ははぁ。みほ姉貴と夫婦ですか……俺みたいなのが姉貴の夫がつとまりますかね?」

 

「大丈夫だよ。私達二人ならきっと乗り越えていけるはずだから」

 

彼は前方を見つつルームミラーで彼女が無邪気に微笑む姿を見ながらハンドルを切っている。みほがそこまで考えているということに大友は戸惑いが隠せないでいたが。

同時に彼は彼女がこれほどまでに自分を大事にしてくれているということに内心で喜んでいた。その内それが大友の表情に出たのだろうか。

みほは大友の表情に気付くと、そのままルームミラーの方を見て微笑むのだった。そんな楽しく甘い戯れが続いている内に二人が乗る黒塗りのセダン車は学園艦のレーンを通って学園艦へと戻って行くのだった。

 

 

 

 

同時刻・秋山理髪店

秋山夫妻は窓から雲行きが怪しくなる空を見上げながら過去の出来事に浸っていた。それは二人がしほや常夫と共に傍若無人の限りを尽くしていた辻と木下を追い詰めた際に神宮()が放った一言についてだった。

 

「優勝ムードの中言うのもなんだけど。母さん、二十二年前。神宮が言った一言を覚えているか?」

 

「ええ忘れないわ。たしか、『今この時私達を倒しても我々の意志に歯止めなど無い。その意志がある限り我々は止まらない』だったかしら。どうして急にそんな事を言い始めたの?」

 

「いいや。確か廃校を撤回する代わりに戦車道大会に優勝するのはどうかと学園艦教育局局長は生徒会の三人に対してそう言ったんだよね?それが何か腑に落ちないというかなんというか……」

 

「そうね。口約束を守ってくれる良い人だったらいいんだけど……文科省の学園艦教育局について調べてみるわ」

 

夫の淳五郎は、江城連合会四代目会長として最前線に立って今は名前を偽っている辻達が率いていた真闘派と戦ったこともあってか。彼が放った言葉を忘れずにいた。

対する妻の好子は辻の放った言葉を思い出しながら淳五郎に語りかける。彼女は彼の腑に落ちない姿勢を察したのだろう。

ズボンのポケットから携帯電話を取り出して学園艦教育局局長である辻を検索から見つけることができたものの。この時の二人は、「あくまで他人の空似だろう」ということで受け流しつつもどこか不穏な空気を感じるのだった。

 

「もう二度とあんな事が起きないことを願うしかないわね。この子達にはあんな辛いことを味わって欲しくはないわ」

 

「そうだね。せっかく五年前に戦車道がもう一度男女混合化されたんだ。もうあんな事はあって欲しくないね。さぁ、母さん。二人のために夕飯でも作ろうか」

 

「淳五郎さんったら優花里に初恋の相手ができた事がよほど嬉しいのかしら。あら布団も被らずに寝ちゃって。若いっていいわね」

 

淳五郎は遊び疲れて眠る山本と娘の優花里の姿を見て少し安心したのか。自ら進んで台所へと向かう。好子はそんな夫の姿と二人の少年少女の姿が微笑ましく感じたのだろう。

布団も被らずに山本の左腕を抱きしめて眠る優花里の頭を優しく撫でると布団を被せて部屋から出ていくのだった。

 

 




ありがとうございました。辻さんをもっと悪役にするも良くね?という発想でこんな感じにしてみました。
次回は第二十四話を投稿する予定です。お気に入りへの登録や評価、ご感想などお待ちしております!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。