西住みほの舎弟が往く!ーたとえ世界が変わっても貴女についていくー 作:西住会会長クロッキー
大洗学園に起こっている様々な混乱は混乱大友が率いる大友連合会や平形が率いる勇彰會といった戦車道男子によって沈静化されたものの、戦車道乙女達の戸惑いは収まらずにいた。
そんな中、暇が出来た秀人と慎司といった弟コンビは一号戦車C型の砲塔や車体に座って学園艦の山から見える海や夕日といった風景を見収めるためにかれこれ一時間近く眺めていた。
「もう終わりか……この学園艦でしか育たない珍しい花があるってこの前五十鈴先輩が見せてくれたんだけどそれも見れなくなるのか」
「そうだな兄貴。小さい頃は妙子姉と虫取りとかして遊んだりとか親に内緒で夜に家から抜け出して星空を眺めたりとか。今思えばさっきは素直にすれば良かったのかもな」
「そうだよ。ここで柚子姉と虫取りもしたしウチの父さんが昔タンカスロンで使っていた7TPを始めて操縦したのと一年前に大友の親父が初めて学園艦に来た時にここで大友連合会の結成式も兼ねて戦車集会なんてのもやったよな。もうそれとここからの夕日見れなくなったりできなくなるのか……」
「兄貴、もう俺泣いて良いか?我慢できねえよ。他の皆は我慢してるけど俺は限界だ」
「ああ。男二人ならバレねえからな。一緒なら……っ……っ」
「「……っ……っ!!」」
二人の少年はそれぞれの思い出に浸っている内に堪えきれなくなったのだろう。目から涙が零れ落ち、制服のズボンがどんどん濡れていく。
彼らが泣き出して一分も経たないうちにもう二人の足音が戦車の近くまで聞こえてくる。泣くことで精一杯だった二人は涙を拭うことなくその方向に目を向けると妙子と柚子が慈しみに溢れた眼差しで弟たちを見つめる。
「二人とも何してるの?お姉ちゃんも混ぜて」
「やっぱりここに来てたんだ。ここから見る夕日って綺麗だよね~何で戦車なの二人とも」
「た、た、妙子姉。これから兄貴と海岸線を攻めようと思ってたんだ。だよな兄貴」
「そ、そうそう。一号のC型って二次大戦の戦車なのに七九キロも出るから。最後にドリフトをしてみたいと思ってさ……ははっ」
母性を感じさせるような調子で声を掛ける姉たちに対して目から零れる涙を拭いながら咄嗟に嘯いて何もなかったかのように作り笑顔をする。
「「放してくれよ……っ……っ」」
「いや!シンちゃんは嘘つく悪い子じゃないから素直になるまでこうする。柚子先輩、こういう時はアレですよ」
「そうだね。妙子ちゃん」
「「せーの。ちゅっ♡」」
「「……っ……っ……」」
そんな弟たちの態度に呆れると戦車から降りて突っ立っていた二人の前まで行き、そのまま強く抱きしめると同時にジタバタする二人の顔を両手で支えるとそのまま左右の頬に四回キスする。
それが効果を発揮したというべきだろうか、再び我慢できなくなった慎司と秀人は泣きながら姉たちを抱き返す。
「ふふっ。シンちゃんは本当にいい子。いっぱい泣いたり甘えたりして良いんだよ」
「ひで君もいい子。いっぱい泣いて甘えてまた元気になってね」
「うぅ……っ……っ。こうなったら甘えまくってやる!!」
「家族なんだしやましいことはない。妙子姉はさっきそう言ったよな。だったらそうするまでだ……っ……っ」
大人しくなった弟を優しく抱きながら頭を撫でる。どこか吹っ切れた弟たちは涙を流しながらそう言って姉たちの胸に顔を埋めるのであった。
この間にも戦車道履修者たちは彼ら彼女ら四人のように心残りが無いように残された僅かな時間を過ごしているのだった。
大友はみほの手伝いに来てからいつの間に寝ていたのだろう。ズボンのポケットに仕舞っていた携帯電話の着信で目が覚めた。
眠たい目を左手で擦りながら電話をポケットから出して着信主を確認すると、あんこうチームの沙織からだった。何かあったのかと思い、電話に出る。
「もしもし。どうしたんだ沙織ちゃん」
「もしもし。誠也君今起きた感じ?私達の戦車なんだけどね。ある人のおかげで待機場所へ持っていけることが決まったの!それに他の皆も来てるから。今からみぽりんも誘って来てくれない?」
「そうなんだ。それは良かった。だったら今からみほ姉貴も誘ってそっちに行くよ」
「分かった待ってるからね。バイバイ」
この時まで寝ぼけていたのだろう。電話を切ってからようやく誰かの膝の上で寝ていることに気付く。それだけじゃない。
そんな彼の姿を見つめている三人の人影も目に映る。意識がはっきりして分かったのは、そんな様子に微笑んでいるみほに膝枕をされていることと待ってましたとばかりに彼を嬉々とした表情で見つめる継続高校のミカやアキ、ミッコの三人であった。
「み、みほ姉貴すみません。そこにいるのはミカさんにミッコちゃん、アキちゃんじゃねえか元気だったか。今日のエキシビジョンを見に来てたのか?」
「そうさ。それに今の君も何となく気になったんだ」
「珍しくミカがストレートだ。それと誠也が元気そうで良かった」
「久しぶりだね誠也君。けど、こんな大変な時に来てごめんね」
「いえいえ。ミカさん達を招いたのは私の方ですし。それに誠也君の事が気になるのなら良いかなって思ったんです」
ミカやミッコ、アキは久しぶりに大友と話せることが出来たて嬉しかったのだろう。嬉々とした表情で彼に話しかける。
大友と彼女ら三人との接点はこれも一年前に遡り。プラウダ高校と継続高校合同の交流会の際、継続高校が戦車不足であることを知った大友は、この問題を放っておけないと感じたため。
プラウダ高校のカチューシャと交渉したうえで大友連合会・継続高校合同チームが勝利すれば使用していないまたはレストアが可能だが手を付けていない戦車を格安で継続高校に売却することを前提にタンカスロンで勝負を挑み。勝利したこともあり。
彼と彼女ら三人は親しく。また、大友を引き抜いて継続高校の戦力に加えることと私的感情で彼を自分の物にするために決闘に臨んだルミの説得役に回ったことから信頼し合っていた。
「せっかく君たちに会えたところだけど。私達は君たち二人でいたところを邪魔したみたいだね。じゃあ、また会える日までさようなら。行くよミッコ、アキ」
「そうだね。いい感じにの雰囲気になってきたし。じゃあね二人とも」
「みほさん失礼しました。バイバイ誠也君」
「ああ。みんなさようなら。また会える日まで。行きましょうかみんなのもとへ」
「そうだね。行こうか」
大友とみほは学校で待つ仲間のもとへ向かうためにマンションの下までミカやミッコ、アキを見送ると同時に手を繋いで学校の方に走り出した。
「やっぱりあの二人はくっついちゃったね。そんな気はしてたけど」
「戦車道カップルか。初めて見たかも」
「ついに舎弟を飛び越えてくっついちゃったんだ……でも幸せならいいや」
「アキ、戦車道を続けているとこんなこともあったりするから私は続けているんだ。私は今の君と同じ気持ちだけど、二人の幸せを祈ってあげよう」
大友とみほが手を繋いでいる姿を見たアキはどこか寂しそうにしていたが。すぐに気にするのを辞めて一人でころころと笑っていると、ミカは彼女に共感しながらカンテレを軽く弾くのだった。
二人が校庭まで向かうと、戦車道の履修メンバーが全員集合しており。二人を見たメンバーは手を振って二人の名前を呼んでいたのだが。
よく見るとそこには夏の夜であるにも関わらず。黒のスーツに身を包んだ初老の眼鏡の男性がパイプ椅子に座って手を振るメンバーや二人の方を見て静かに微笑んでいる。
「西住先輩と大友先輩が来てくれた!やっぱ二人が居ないと始まらないよね」
「そうそう。戦車なんだけどねぇ。何と学園長先生の所有物ということで話が済みそうなんだよ」
「ほら。ここに書類もあるし。文科省なんてへっちゃらよ」
嬉々とした表情でウサギさんチームのあやや生徒会の杏、柚子が二人の前まで行き。これまでの経緯を二人に説明する。
その後ろで一旦落ち着くことが出来た慎司や秀人の二人が学園長の方を向いて改めて頭を下げる。
「この器量……さすが江城連合会初代会長に相応しいですね。色んな学校の不良戦車道乙女とのドンパチを最前線で指揮していただけあります」
「それだけじゃないだろう。何てったって学園長先生はその昔。中学生、高校生時代に義理人情と弱きを助け強きを挫く任侠精神を重んじた上で江城連合会を率いていたことから戦車道界の侠客と呼ばれてたこともあっただろう。本当にありがとうございます。学園長先生」
「気にする事はないよ。少しでも君たちのためにも動いてみたかったものだからね。ははっ。それはもう昔の話だよ近藤君、小山君」
学園長……『
「不良戦車道乙女とのドンパチってそんな事もやってたんですか?!学園長先生もしかしてその右頬にある斜めに横切るような傷跡は……」
「昔ね。タチの悪い戦い方をする連中にしてやられたことがあったんだよ。大したことなかったんだけどね」
「猫に引っ掻かれたんじゃないんだ」
「うそっ?!学園長先生意外とやんちゃだったんだ」
江城がそど子に自身の右頬にある傷跡について訊かれると少し困った表情で過去の事について少し話すと彼女の後ろに居たパゾ美とゴモヨが彼の顔を二度見して驚く。
「戦車道界の清水次郎長ぜよ……」
「「「それだっ!!!」」」
そんな彼の過去のエピソードを聞けたこともあってかカバさんチームのおりょうの一言にエルヴィンやカエサル、左衛門佐の三人が彼女に指をさして共感する。
「君たち以外の生徒の殆どは既に実家へ帰ったか転校が決まるまでの待機場所へと行ってしまったよ。だけどこうして大事な生徒と二十年近く働いてきた学校で残された時間を楽しく過ごせてよかったと思っているよ」
「学園長先生。みんな為にここまで動いてくれるなんてありがとうございます。でも先生はこの後どうされるつもりなんですか?」
「実はね。角谷さんから話は聞いていると思うけど。例の高大一貫校の戦車道チームの顧問として迎え入れることを打診されているんだよ。まぁ、私としては乗るつもりは毛頭ないんだけどね。それに幸いにも早速世間様から大洗学園廃校に対して文科省を批判する意見が上がっているから私もしかるべき手は打つよ」
江城はそう言いながら生徒達のイキイキとする姿を見て感慨に耽っていると、みほが彼の今後を案じて彼に問いかける。
彼は彼女に対して自分の意志を伝えたうえでこの後の行動について話す。
「学園長先生。俺はそうして文科省の教育局が世間様といった多方面から批判される前提で廃校を進めていることで裏があるようにしか……そう思わないか優花里ちゃん。それに辻さんはたしか」
「私も同意見であります。確か廃校及び廃艦を推進する学園艦教育局局長の辻廉太氏は私費を投げうってまで自身が経営する孤児院の子供たちと自身を総統とした統心機甲団を率いていますから。高大一貫校に我々を引き入れていずれは強豪校入りするつもりでしょう」
「そう考えることで辻褄が合うかもしれないけど。その証拠が何一つ挙がって無い以上、真実も分かりそうにないよ」
大友が自身の顎に手を当てると常識的な範囲で考えた後に優花里と共に間違いではない辻の思惑を言い当てるのだが、江城は二人の考えに共感しつつ同じように物思いに耽るのであった。
警察庁・捜査二課
この日の晩、警察庁捜査二課の三人の警部と刑事が机の上に置いたファイルやホッチキス止めした紙束といった資料などを手に取っては睨みつけていた。
その資料には文科省学園艦教育局局長、辻廉太と銘王造船株式会社代表取締役を務める木下の写真や経歴がまとめられている他、辻が運営する孤児院『たいよう園』や彼が総統を務める統心機甲団の経歴そして、この二人の行動を隠し撮りしたかのような写真といったものが取り揃えられていた。
この三人の中をまとめている警部の『
「しかしまぁ。この二人は何を考えてやがるんだ。大洗学園を廃校にして陸の政府機関跡を改装して高大一貫校建設か。こいつらは自分達が慈善者にでもなったつもりかもしれんが。腹の中では何を考えているのかよく分からん」
「全くその通りです。この二人、主だった経歴としては高校一年の夏休み後に北海道の陸上に建てられた私立高校に転校してきてそこの戦車道部の相談役として辣腕を発揮していたようです。その翌年に戦車道連盟で男子戦車道と女子戦車道に分けられたものの。特別な事例として女子戦車道でも相談役の地位を維持し、高校三年生になるとその学校を準優勝まで導いています。高校卒業後は戦車道の大学選抜チームからのスカウトをなぜか辞退し、大学時代及び大学院生時代は戦車道教導塾のアルバイト講師として過ごし。卒業後は辻氏が文科省学園艦教育局職員を経て一年前に局長に就任。木下氏が会社の幹部から実力を買われ、更には代表取締役と社長だった倉橋夫妻から推薦を受けて代表取締役に就任しました」
「それに加えて辻氏は私費を投げうってまで様々な手続きが必要だった戦車道家の遺児たちやその他の孤児達を引き取ってたいよう園を設立し。戦車道を通じて入所する子供たちをケアしているそうです」
鬼瓦の一言に応えるようにこの中でも若い刑事、『
千葉の文を補うかのようにインターネットを用いてこの二人を調べていたもう一人の刑事である『
「そうか戦車道を通じて……だが、大企業の代表取締役との癒着まがいのことをしている疑いが出ている以上。シロかクロかも分からん状況だ。引き続き手の抜かりが無いように捜査するんだぞ二人とも」
「「はいっ!!」」
辻と木下の思惑通りにいかせないためにもこうして水面下で抗う者達の姿がここにもあった。ここで鬼瓦はふと何かを思い出したかのようにこの二人の刑事を置いて別の資料室へと行き。
二十二年前に起きた様々な事件や社会問題となった出来事に関するもので世間に公表されていない報告が集められた資料を手に取る。
「この辻という役人と木下という代表取締役の二人が戦車道を採用する陸上の私立高校へと転学した時期を考えるとあの忌々しい真闘派が解散した時期と被ることになりそうだな。いや、私の考えすぎか?いいや、あの出来事の後。
彼が今、手に持つ資料は世間には公表されずに家庭裁判所と教育委員会を通じて警察庁に流れて来たものであり。その資料には神宮と倉橋が率いていた真闘派の情報について詳細に記されていた。
この鬼瓦もかつては淳五郎や好子と協力し、真闘派の悪事を叩き潰した内の一人だった。彼はその事を思い出しながら夜も活発な勢いで光り続ける東京の街を資料室の窓から見つめるのであった。
ありがとうございました。オリキャラとしての学園長登場でした。次回は第二十六話を投稿する予定です。
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