西住みほの舎弟が往く!ーたとえ世界が変わっても貴女についていくー 作:西住会会長クロッキー
引き続きお楽しみください!
かつて自らが標榜した“行き過ぎた正義“によって傍若無人の限りを尽くした神宮征四郎こと辻廉太は、法務省のエリート官僚だった父のコネで顔と名前を変えて更生し、第二の人生は真っ当に歩むはずだった。
行き過ぎた正義を標榜したことを悔み続け、今度は転校先の学校で親友の倉橋と罪滅ぼしに戦車道を嗜む者達の良き相談役として更生の道を歩み始めた。
高校卒業が間近となった彼ら二人は相談役としての腕を買われて大学選抜チームから推薦が来たものの。
かつて自分達が苦しめてきた者達の他に対立した西住しほといった者達と再び顔を合わせる事によって自分達の正体がバレることを危惧した後に推薦を辞退し、戦車道教導塾の講師として戦車道に関わり続けた。
二人は講師としても成功し、多くの人々から慕われたのだった。
「辻局長いや神宮。一度更生し、多くの人から慕われたことやこれ以降の経緯は調べさせて貰ったよ。どこで道を誤ってしまったんだ。せめてこの子達の為にも話してやってくれないか」
「警部さんその前に僕達から……父さん。僕達みんな父さんに隠し事をしていた事があるんだ。それにみんな黙っていたんだ」
「隠し事?」
鬼瓦は今回の一件にまで踏み込んだ理由を辻に聞こうとするが、彼より早く伊庭の口が開き。
彼の後ろから次々と養子達が全てを悟った表情で辻の前まで集まってくる。
「……本当は父さんにもう一人僕と同じ名前の“宏斗“という名前の子供がいた事をみんな知っていたけど隠していたんだ」
「総統いえ、父さん。私達は今までお父さんのお陰でここまで来れた事に感謝しているわ。だけど、警部さんの言う通りどうして道を誤ってしまったの?教えて」
「みんな本当にすまなかった……私が愚かな欲望に負けたせいだ。二人の言う通り。私には血の繋がった宏斗という息子がいた」
辻は伊庭や吉良といったお互いを信頼し、慕いあっている子供達から事の発端について聞かれると。
彼は自身の過ちを彼ら彼女らに詫びながら真相を語り始めた。
辻宏斗……辻廉太とその妻である
辻と彼女が息子の宏斗に幼年向けの戦車道教導塾に通わせたところ、優秀な戦績を出し続けたのであった。
男子ではあったが、男女問わず周囲から慕われており。そんな彼の将来は後に男女再混合化される事が審議されていた戦車道界に貢献し、その発展を支える事であった。
父であった辻はかつて自分とは異なり。正しき道を歩み多くの人々から慕われる息子の宏斗が彼にとっての生きがいであった。
また、中学生の戦車道連盟選抜チームへの推薦が来たことで宏斗の人生は良い方向へ進むはずだった。
だが、それは長く続かず。辻が妻と息子を連れて千葉県の実家へ帰ろうとした時にそれは起きてしまった。
森林沿いの国道を自動車で走行中、突然飛び出してきた重戦車を避ける事が出来ずにそのまま衝突するという事故であった。
「こうして私はこの事故で愛する妻と愛する我が子を失ったのだ。そして思わぬ事実が明るみになったのだ」
「思わぬ事実……」
「これも調べさせてもらったよ父さん。飛び出して来た重戦車を操縦していたのは当時現役だった西住流門下生が事故直前に酒を飲んだ末に起きた酒気帯び事故だったそうじゃないか」
「その通りだ。私はその時、文科省学園艦教育局副局長だった。私はありとあらゆるコネとツテを使い。そいつを無期懲役にまで追い込んだ。だが、私の怒りはこれで収まることは無く。次にその矛先を西住流本家に向けようとしたが。そんな時に私の親友である木下君から親が居ない子供達の為の孤児院を作り社会に貢献しないかという提案が舞いこんできた。そして宏斗や玲名、君達と巡り合い。心に深く負った傷も癒えていった。しかし、五年前に……」
辻は妻子を同時に失った怒りと悲しみから西住流を戦車道界から排斥しようとする算段をしている時に木下こと倉橋と共に孤児院たるたいよう園を設立した後に伊庭や吉良といった血は繋がらないものの、かけがえのない存在に出会い。
同時に彼の心身は癒えていったのだが。五年前に戦車道が再び男女混合化されると、心の奥底に押し殺していた闇の自分……かつて真闘派の総統として多くの混乱を招いた神宮征四郎としての彼が目を覚ましたのであった。
そして、自身が率いる統心機甲団に準ずるもう一つの戦力を確保しようとした結果が再び同じように闇に身を落とした倉橋と共に高大一貫校の設立を思い立ったことだった。
「そこで私たち大洗学園に白羽の矢が立ったという訳ですね。辻局長」
「君の言う通りですよ角谷さん。一年前に局長に就任した私は、統廃合準対象校だった大洗学園を私の権限と根回しで一気に統廃合対象に引き上げてテストも兼ねて君達に戦車道の復活を勧めたのです。その後にこの試合の参加者も配下に加える予定でした……また、最終的には西住流と島田流といった流派も配下に収めることも」
「そんな復讐の為に私達を危機に晒した後に今度は自分の権限で廃校を撤回しなかったのか……ふざけるなっ!!私達だけで無く。こうして今ここで試合に参加している他の学校の子達まで巻き込んだのかっ!!」
杏の的確な一言を耳にした辻は、自身が計画した事を彼女ら大洗学園の生徒達だけで無く。騒ぎを聞きつけてやって来たミカ達にも語る。
大洗学園が廃校という危機に立たされた本当の理由を知ってしまった桃は堪えて来た怒りを爆発させるかの様に大きな怒鳴り声をあげると地面に転がっている石を手に取り。
力強く辻の方向へ投げつけるのだが、石が当たったのは辻では無く。彼の前に立った伊庭の額であった。
「何故だ。何故君はそいつを庇うんだ。そいつは君達を良い様に利用し、汚名を一緒に被せようとしたんだぞっ!!」
「僕もこの人がしようとしていた事は間違っていると思います。それでもこの人は僕と」
「私達にとって……」
「「大事なお父さんなんだっ!!」」
桃は、伊庭が辻を庇ったことに疑問を投げかけながら同じ調子で再び辻を罵ろうとするが。
それに対して伊庭は、辻がして来たことを間違っていると認めながら吉良と共に父である彼に対する想いを口にする。
「宏斗、玲名。みんな……本当にすまなかった。皆という宝物が在りながら愚かにも私は道を踏み外してしまった……それでもこの私を大事に思ってくれるのか……っ……っ……」
「父さん。みんな父さんがまた元の優しい父さんになって戻って来てくれる事を信じているよ」
「戻ってきてくれたらまたみんなと一緒に色んな人達と一緒に戦車道をやろう!」
泣き崩れる辻に対して伊庭と吉良は優しく語りかけながら彼との再会できる日を楽しみしている事を口にする。
周りに居た他の団員達も優しい表情で静かに頷いている。
「ありがとう。今度はちゃんと反省してみんなの前に戻ってくるよ。また会える日まで」
「神宮……さあ、行こうか」
辻は子供達に感謝の言葉を口にすると、鬼瓦と共に到着したパトカーの後部座席に乗り込んだのだった。
伊庭や吉良達統心機甲団団員達は、養父または恩師である辻を乗せたパトカーが見えなくなるまで見つめ続けたのであった。
その次に伊庭は静かにこれまでのやり取りを見つめていた大友の前まで行った。
「あなたが大友誠也さんですね。ただ今試合の継続が審議されていますが。あなたと正々堂々戦いたいと思っています!」
「宏斗君……分かった。今は混乱しているから混乱が収まるまで俺たちの間でちょっとした休戦にしよう」
「ありがとうございます!不束者ですが、よろしくお願いします!」
「ああ。お互い頑張ろう」
こうして残された統心機甲団団員達や大友達は、試合を続行する事を選択したのであった。
ここで逮捕された辻廉太こと神宮征四郎のこの後について語ろう。
彼は親友の倉橋と獄中で再会した。そして共に五年の刑期を務め上げて社会復帰し、日本の戦車道に貢献する人物として再評価される事になるのだった。
ありがとうございました。色々やらかした辻さん(神宮)と木下(倉橋)ですが、少し救済を入れてみました。
次回は戦闘メインの第三十四話を投稿する予定です。
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