西住みほの舎弟が往く!ーたとえ世界が変わっても貴女についていくー 作:西住会会長クロッキー
その日の夕方、みほは新たに仲良くなった麻子や沙織、華、優花里といったメンバーと集まって自宅でご飯会を開いていた。
色とりどりのおかずがテーブルを覆い、部屋の中は五人の乙女の楽し気な声で溢れていた。五人で肉じゃがを作り食事を楽しんでいるのであった。
「男を落とすにはやっぱり肉じゃがだからね~」
「落としたことあるんですか?」
「まだ無いのに何言ってるんだ?」
「何事も練習でしょ?それに、麻子はいつもストレートなんだから」
「というか。男子って本当に肉じゃがが好きなんですかね?」
「都市伝説じゃないですか?」
「そんなことないもんっ!」
二人の突っ込みに対して少し残念そうな調子で沙織が答えるが、再び華と今度は優花里の二人が突っ込みを入れると頬を少し膨らませて言い返す。
彼女は、話題を切り変えようと麻子に話を振る。
「そういえば、何で今日。麻子は誠也君に抱きついていたわけ?」
「沙織、忘れたのか?あの子は私が小学生の頃、お父とお母を死にかけてまで助けた私の一生の恩人だぞ」
『えぇっ?!』
他の四人は、声を上げて驚いている。特にみほは、心配の方が勝ったのだろう。一番驚いていた。
「冷泉さんっ!わ、私そんなの聞いたことないよっ!誠也君は、原付バイクで調子に乗ったから病院送りになったと言ってたもん」
「そうなのか。あの子って女の子みたいな見た目をしているのに強がりなんだな」
麻子は、微笑みながらみほに対してそう言うと過去の彼との出会いについて語り始めた。
大友は小学生の頃。気分転換に一人で大洗町に訪れていたことがあった。何気なく町を散策していたところ。横断歩道を渡っていた夫婦に向かって様子がおかしい自動車が猛スピードで走行していたところを目にする。
彼はこの夫婦の身に危険が迫っていることが即座に理解できてしまい。
自慢の脚力を活かして大急ぎで二人に向かって走り出し、あと数十メートルでぶつかるというところで夫婦を突き飛ばし、大友は運転中に突然死した人が運転する車にぶつかって三メートルくらい吹っ飛んでしまった。
そのまま意識を無くして三日ほど生死をさまよったが、幸いにも軽傷で済んだのであった。それからすぐに退院してからしばらく経った時に、麻子と大友は出会ったのであった。
『あ、あの。お父とお母を助けてくれてありがとう……君のおかげでお母とも仲直りできた』
『人として当たり前のことをしただけさ。それより、お父さんとお母さんに怪我は無かったかい?そうそう、俺は大友誠也っていうんだ』
『私は冷泉麻子。何で誠也君は自分の心配をしないんだ?』
『別にあれくらい大したことないから気にしなくていいよ。じゃあ、麻子ちゃん。これからもお母さんいや、家族みんなと仲良くな』
『うん!仲良くする!それとお礼をさせて欲しいから私の家に来てくれないか?』
『じゃあ、お言葉に甘えてそうするよ』
その後、大友は麻子の家に招かれて家族の温もりを彼女と共に楽しみ、僅か一日ではあったが。彼と彼女の仲は十分に深まったのであった。
そう語る麻子は、どこか嬉しそうになり。それを聞いていた四人も同じように舞い上がりそうになっていた。
「ふふっ。やっぱり誠也君はかっこかわいい自慢の舎弟でボコみたいにタフだと思うな~」
「西住殿に同じく。私もそう思いますっ!」
「私も今の話を聞いて彼は見かけによらず。器量が大きい人だと思いました」
「あーあ。私も誠也君みたいな彼がいつか欲しいな~」
「やっぱりまた会えてよかった。ところで誠也君は何の授業を取るんだ?」
「えーっと。誠也君は私たちと同じく戦車道を取ります」
「麻子も一緒にやろうよ!単位が三倍だし、それに特典もたくさんあるんだよっ!」
二人のこの一言で麻子は、少し唸ったが答えがすぐに出た。
「分かった。私も戦車道……取ろう」
「おぉ!決まりましたね!五人も居れば、ティーガーやT-34といったベストセラー戦車に乗れますよ。西住殿!」
「そうだね。でも何の戦車があるんだろう?楽しみになって来たな~」
「てか、あんた単位が欲しいだけでしょ?それともしかして」
「それ以上言わなくていいぞ。全くドラマの見過ぎだぞ」
こうして夜が更ける前に乙女たちの晩餐会は終わりを迎え、みほ以外の四人は帰路につくのであった。
「はっくしょん!」
「親分、大丈夫ですか?寒くないのに何でだろうなぁ」
「俺にも分からん。それより、こいつもだいぶ良くなってきたな」
大友は、自宅兼事務所の車庫でひときわ大きなくしゃみをしていた。戦車道チーム大友連合会の若頭である水野が彼の調子を気にかけている傍ら、他の組員が角ばりと丸みが混ざった戦車を整備している様子を二人で眺めている。
「親父、一年前に派手に暴れたのが昨日みたいですねっ!」
「たくっ。慎司、忘れたのか?こいつに乗って戦っていた俺たちやお前達はその……色んな意味で焦ったんだぞ」
「……言われてみれば大変そうでしたね。でも今思えばスリリングだったじゃ無いすか」
同じく大友連合会の若頭補佐の一人であり、スタイル抜群な双子の姉を持つ『
因みに一年前の暴れ回った出来事というのは、彼が強豪校の戦車道チームのスカウトを辞退したために、各学校の隊長たちが戦車道の非公式試合(タンカスロンとは別)で彼をめぐって一対一の勝負をしたというものである。
結局腕の差もあり、大友が辛うじて勝利したためにスカウトは破棄されたが、今度は個人的に狙われつつあるために一難去ってまた一難の状況である。
「しかし、E-25よ。お前さんも明日からまた現役だから頑張るんだぞ」
「そうだぞ。一年前みたいに派手に暴れてくれよ。とは言ってもあの一回だけだったけどな」
『はははっ!!!』
三人の笑い声に合わせるかのように、組み立て直されたE-25のエンジンが勢い良く掛かった。
このE-25という戦車は駆逐戦車に分類され、史実ではモックアップが作製された程度にとどまったが、知る人ぞ知る一台の名戦車である。
「おぉ。すげぇなっ!親父のE-25が動いてらぁ!」
「ははっ。また一年前の興奮を思い出したよ!」
エンジン音を聞いたのだろう。事務所の上から木村と安倍が降りてきながらそう言う。大友は、嬉しくなってきたのだろう。そのままE-25に上り、ハッチを開けて乗り込む。
彼に合わせるようにして三人の子分達も乗り込み、動作に異常がないかどうか確認する。
「機関銃砲塔も異常なし、主砲も異常なし。最後に機関部も異常なしっ!慎司、整備ご苦労だった!」
「ありがとうございますっ!親父、これから全国のライバル校とガンガンかち合ってくださいっ!一緒に頑張りましょうっ!」
「おうよ。任しとけっ!じゃあ、行くぜ……戦車前進!」
慎司によって車庫のシャッターが開かれると、夕焼けに染まった学園艦の道路を走り出すのであった。26.3tの車体を支える履帯が軽快な音を立てて道路を走り回る。
道行く人々はそんな彼らを楽しそうに見つめ、あるいは彼らに対して手を振ったりする。大友達も愛想よく手を振り返したりする。そんなやり取りをしながら走っている内に、事務所の前まで戻ってきていた。
大友連合会は、いよいよ本格的に戦車道に足を踏み入れようとしている。果たして、彼らを待ち受けるのは勝利の女神か……その結末は、まだ誰も知る由が無かった。
ありがとうございました!今回も原作とは違う展開を入れてみました。次回は第五話を投稿する予定です。
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