西住みほの舎弟が往く!ーたとえ世界が変わっても貴女についていくー 作:西住会会長クロッキー
模擬戦闘が終わってから数日後、大友と組の構成員達はいつも通り車庫の前まで行くと異様な光景が目に入り、思わず卒倒しそうになった。
金色の塗装が施されたLT-38軽戦車やピンク色に塗装されたM3Lee中戦車、赤色と黄色に塗装されて六本の旗が飾り付けられたⅢ号突撃砲、バレー部員募集のメッセージが車体に書き込まれた八九式中戦車。
アニメキャラクターが砲塔にペイントされたうえ派手な色のネオン管が取り付けられた三式中戦車・チヌそして、Ⅳ号戦車は外見こそ変わらないものの雑貨で車内が覆われていたのであった。
深夜のコンビニエンスストアやド〇・キ〇ーテの駐車場に溜まっているヤンチャな人達の愛車や昭和後半を象徴した特攻服を身に纏い深夜の国道を集団でオートバイや自動車に乗って走り回りながら爆音を轟かせていた方達、成人式で最後のひと暴れとばかりに派手な格好をしてお巡りさん達を困らせる人達が乗っている自動車のようなカスタマイズが戦車に施されていた。
「ふははっ妙子姉。はっきゅんが成人式にいるヤンキーの車みたいになってるぞ。それにⅣ号以外はもうヤン車じゃん。輩だ輩ぁ」
「へぇ、シンちゃん。そんなにお姉ちゃんにお仕置きされたいんだ。ね、あけびちゃん」
「はーい」
「えっちょ待てっ!待って助けてぇ!親父助けっ……あーっ!!」
「黙ってたらよかったのに」
唖然として驚く大友連合会の幹部達の中で若頭補佐の慎司は一人ケラケラ笑いながら戦車を前に楽し気に会話する乙女たちの戦車に対して彼自身が思ったことをそのまま口にする。
慎司の一言を聞いた妙子は、意味深な笑みを浮かべながらそう言うとあけびと一緒に彼の前後に回り込んでそのまま自慢の握力と腕力で拘束し、ジタバタしながら大友に助けを求める彼を戦車の中に引きずり込んでいくのであった。
対する大友は、苦笑いをしながら静かに慎司に突っ込む。
「そうしたくなるのは分かるけどよ。悪いけどこれは戦車道の試合には不向きだぞ。それに金ぴかは狙ってくださいと言っているようなもんだぞ」
「え?他校は戦車をこんな風にはしないんですか?」
「ああ。みんな強化部品以外は特に何もつけないでそのまま戦っているぞ。戦車は車とか単車みたいに飾り付けたりしなくてもありのままの良さがあるんだよな」
「そっか……楽しかったんだけどなぁ」
彼の一言に気づいた梓は、大友に対して何となく思ったことを質問する。彼は彼女の質問に優しく答えてきつくない程度に指摘すると、梓はシュンとした表情になる。
他のメンバーも大友と梓のやり取りを聞いていたのだろうか、先程とは打って変わって真摯な目つきで何かを考えるような表情になった。
「そうだっ!西住ちゃん。派手な塗装とか改造がダメっぽいならなんか面白いアイディアとかない?」
「面白いアイディアですか?」
「そうそう。それこそ他校にないものとかそれに似たものでも良いからさ」
「うーん。明日までに考えておきます」
そんな空気を察したのか、杏が新しいアイディアについて隣にいたみほに提案する。彼女はそんな提案が面白いと感じたのだろう。今すぐには思いつかないので少し唸りながら首をかしげる。
すると、本部長の秀人が三枚の紙をファイルにまとめてやって来た。
「お取込み中すみません。親分、河嶋さん。まだ残っている三輌の戦車とⅣ号戦車用の主砲がある場所が記された資料が見つかりました。でも、二輌の場所はあやふやで……それに三輌あるうち一輌はめんどくさい所にあるんですよね」
「めんどくさいところ?どこにあるんだ」
「学園艦の深層部です」
「……あそこか。本当に面倒なところにあるな。あそこは危険だし私が行こう」
「河嶋さん。俺も一緒に行っていいですか?場所が場所なら知り合いがいるので」
「そうか。それならついてきてくれ」
「まだ戦車があったなんて……一気に数が増えますねっ!」
「そうだね。じゃあ、もう一回戦車探そうか」
桃は秀人から戦車の場所を一通り聞くと、自ら進んで学園艦の深層部に行くことにした。大友も学園艦の深層部には何らかのツテあったことを思い出し、彼女に同行することにした。
その間に、秀人からもたらされた情報を頼りに他の生徒達も再び戦車を探し始めるのであった。
大洗学園高校の学園艦深層部は、大洗のヨハネスブルグと呼ばれているほど極端に治安が悪く。リアルで不良漫画の世界が広がっているといっても過言ではなかった。
深層部は甘ったるい香水の匂いで覆いつくされ、人によっては匂いだけで酔ってしまいそうな場所だったが。それも気にせずに大友と桃は堂々と進んでいく。
しばらく進んでいると、二人の女子生徒が彼女達にに声を掛ける。
「桃さんに大友の会長さんじゃん。何で二人でこんなところに来てるわけ?」
「実はどん底の方に探し物があってな。それでここまで来たんだ。ババ、あいつらはいるか?」
「姐さんですか?居てますよ。じゃあ行きましょうか。いくぞトカタ」
二人はババとトカタ達に案内されて船底の奥深くへと進んでいく。正直ここまで作り込まなくていいだろうと言いたいほど通路は曲がりくねっており、更に奥には手すりがある。
そこを下った先は行き止まりのような感じであったが、壁の下に違和感があり。そこを手で押すと動くようになっていた。
「二人ともありがとう。そういえばこんな作りだったな。行くぞ大友」
「はい」
桃と大友は、彼女達二人に礼を言うとそのまま壁の奥へと進んでいく。その先では、合わせて五人の女子生徒達がソファーやカウンターの椅子に腰かけてだらけていた。
今まで殺風景な渡り廊下を歩いてきたのだが、ここは打って変わって絢爛豪華な装飾が施され、カウンターのそばにある棚には様々な種類のノンアルコール飲料が取り揃えられている。
何となく食欲を沸かせるかのように燻製肉の香りも少しずつ漂ってくる。
そんな光景に呆気にとられていると、カウンターの方で身体を伏せていた赤いパーマの女子生徒、ラムが二人に気づく。
「うほっ。桃さんに誠也じゃん。珍しいね今日は何しに来たの?」
「久しぶりだなラム。今日は探し物があってここに来た。ここにいるみんなに聞きたいのだが。戦車のようなものは見たこと無いか?」
「戦車?丘にある亀みたいなキャタピラがついたやつでしたっけ?」
「そうだ。キャタピラがついた……海賊船みたいに大砲がついたやつだ」
「何かどっかで見たような……」
「もしかしてこれ?」
桃から戦車について尋ねられたマイクを手に持った色白で高身長な生徒フリントが考え事をしていると、カウンターでノンアル飲料をジョッキに入れていた給仕服を身に纏ったマスター風の女子生徒のカトラスが棚の横にあった扉を開く。
扉が開かれると、重厚感があるビスで覆われた鉄製の壁が視界に入った。
「今まで来ていて気づかなかったけど、よく見たら戦車じゃねえか。それにしても相変わらずここの燻製は美味えな」
「そうだろ?何かの機械とは思っていたんだけど、これが戦車なのか」
「よかった。これで一輌戦力の確保が出来た!」
興味津々に戦車を見つめるガタイの良い女子生徒、ムラカミと大友は言葉を交わしながら燻製肉を頬張っている。
その傍らで桃は、手を小刻みに震わせながら素直に発見を喜んでいた。
「河嶋さん、この戦車は操縦に二人と砲手に二人、そして車長の五人が必要になって来ますよ」
「そうなのか。大友、お前の組の幹部はどうだ?」
「いいや、それならあたしらが乗りますよ。桃さん、誠也!こいつは大砲も付いてるし、陸の船なんだろ?まぁ、そうでなくても二人には良くしてもらってるからあたしらも一肌脱ごうじゃないの!あんた達もそうするわよね?」
『ええ』
「ありがとう、お銀!それにどん底のみんなが来てくれると鬼に金棒だ!」
二人の後ろからやって来たこの学園艦底にあるバーどん底にいるメンバーを束ねているリーダー格ともいえる褐色肌と鋭い目が特徴である生徒、お銀が高らかに戦車道に参戦するという一言でまた一人ずつ仲間が増えたのであった。
仲間が増えたことで桃はさらに嬉しそうな表情でそう言うのであった。
因みに大友が彼女達五人と知り合ったきっかけは、大洗学園の学園艦が母港に帰港した際に近くにある釣りの穴場でよく一緒になったり、水上バイクでレースをしたりしているうちに仲良くなったからである。
一方陸でも戦車探しは功を奏しており、旧部室エリアではⅣ号戦車用の75mm砲を発見した。
また、発見された戦車は重戦車と歩兵支援戦車であり。いずれも第二次世界大戦期に使用または試作されたルノーB1bisやポルシェティーガー、第一次世界大戦において初の戦車戦を行ったMk.Ⅳ戦車の計三輌の戦車を手にすることがであった。
「すごいっ!こんなに強力な戦車があったなんて」
「重戦車があればバランスが上手く取れますね。西住殿!それにポルシェティーガーとMK.Ⅳなんてロマン兵器じゃないですか!」
みほと会話する優花里は戦車好きの何かに火が付いたのだろう。この二輌について語り始める。
「河嶋。人員の配置はどうする?」
「MK.Ⅳはどん底のメンバーが搭乗することになりましたが、ルノーB1bisは四名とポルシェティーガーは五名の計九名が必要です。残り九名の大友連合会の者に任せれば良いかと」
「それも良いけどね。大友連合会の子達は整備とか担当してるし、他のメンバーにしてみようか」
「なるほど。では、募集をかけますか?」
杏は彼らの負担を配慮して、人員を学校内にいるメンバーにまで広げることにした。その直後、また新たに進展する
「会長、それならポルシェティーガーは私達自動車部が担当しますね。何か私達も戦車とか乗りたくなっちゃったし。大友連合会の子達が勧めてくれたのもあるんですよね」
「そうなんだ。じゃあ、P虎は自動車部に決定!あと、B1は誰が乗るの?」
「会長それなら風紀委員の僕が先輩方に頼み込んで人員を確保します」
「おっ伊達ちゃんは分かる子だね〜。んじゃあ、そど子達によろしく言っといて」
大友連合会の幹部の一人である『
こうして、とんとん拍子で戦車道を履修するメンバーが増えることになったと同時に、杏は脳内で次の行動に移ろうとしているのであった。
その日の夕方、大友はみほに誘われて彼女の部屋に訪れていたのであった。大洗学園戦車道チームにしかない個性を生み出すべく、共に考え事に耽っていた。
「みほ姉貴、今日のところは他の子達に突っ込みを入れすぎた気がするんですよね。派手な飾りの代わりになるものとかは無いもんですかね?」
「そうだね。私達女子高生にパッと受けそうなものとかが良いんだけどな……」
「でしたら、大学選抜チームのアズミさんやメグミさん、ルミさんの戦車についている独自のエンブレムやBC自由学園の戦車道チームが戦車に付けている自派閥のエンブレム的なのが良いと思います」
「独自のエンブレムか……だったら。動物に例えるとルノーB1bisはカモっぽいし、あとDチームのM3Leeはウサギ小屋で見つかったから。動物に因めば良いと思うな!」
彼の何気ない一言で彼女の脳裏に電撃が走り、後の大洗学園戦車道チームを象徴する基礎が今出来上がった。
「ええ、良いと思います!それに動物はみんなかわいいし、女子高生受けも良いんじゃないすか?変に個性が強すぎないし、俺は大賛成です!」
「そうだね!それにしよっか。じゃあ、私達Aチームは大洗町名物のあんこうに因んで……あんこうチームで!」
「うーん。俺らはどうしようかな」
「誠也君が乗るE-25は機動力が高くて隠蔽に優れているし、駆逐戦車らしくこそこそするから『イタチさんチーム』で!それに……」
「はい。それでい……うぉっと?!」
みほは、大友の隣で正座で座り直すとそう言いながら彼を自身の膝の上に寝転ばせて膝枕をする。
「誠也君は、他の女の子みたいにかわいいのに昔から自分から際どいところにガンガン突っ込んでいく武闘派だし。イタチも見た目はかわいいのに凶暴だから誠也君と似ているなと思ったんだ」
「ははっ。そうですか。というか起き上がって良いですか?」
「だーめ。えいっ♪」
彼女は少しだけ艶やかな頬をむっと膨らませると、蕩けたような表情でそのまま彼に覆い被さるようにして抱きつくのであった。
ありがとうございました!
原作とはかなり異なる展開を入れたうえ、原作より早くナカジマさん達やそど子達、お銀さん達が参戦することになりました。また、あんこうチームに改称も原作より早めました。
次回は第八話を投稿する予定です。ご感想や評価、お気に入りへの登録などお待ちしております!