西住みほの舎弟が往く!ーたとえ世界が変わっても貴女についていくー   作:西住会会長クロッキー

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今回は前編と後編に分けることにしたため、戦闘描写は少なめです。
引き続きお楽しみください!


第八話 強豪校との練習試合です!前編

新たに発見された三輌の戦車のレストアが無事に完了し、本格的に練習が始まったのであった。

戦車に関する基本的な動作や試合における戦術の学習といった基礎固めからはじまり、みほや大友は自らの経験を交えながら他のメンバーの指導をしている。

この二人の教え方が功を奏したと言うべきだろうか。乙女達の腕は日々上達しつつあった。

 

「西住隊長の教え方って上手だよね~」

 

「うんうん。今度の練習試合では、こそこそ作戦ってやつで町の設備をフル活用するんだって!」

 

「へぇ。でも、相手は装甲が分厚い戦車と足が速い戦車を使うんでしょ?すぐに弾かれたり追いつかれたりしないかな?」

 

「もう。あゆみったら、そのためのこそこそ作戦なんだよ。犠牲を減らすための作戦だって西住先輩が言ってたじゃない」

 

「さすが西住流。良い意味で半端ない!」

 

Dチーム改めウサギさんチームの面々は、休憩時間に今度行われる練習試合について語っていた。

みほは、各戦車のチーム名の提案で杏にその才能を見込まれたため大洗学園戦車道チームの隊長に抜擢されたのであった。

大友に関しては当初副隊長補佐という立場だったが、彼と隊長である彼女の関係に目をつけた杏によって副隊長に任命された。

当初は困惑していたみほであったが、舎弟の大友や各戦車の車長達の後押しもあってか。順調に隊長としての務めを果たしつつある。

 

「いよいよ今週の土曜日だね。相手はどんな編成で来るんだろう?」

 

「練習試合といえど、短期間で十輌も揃えた我々ですから相手さんも手は抜いてこないでしょう」

 

みほと言葉を交わしていた大友は、対戦相手である聖グロリアーナ女学院戦車道チームのメンバーに心当たりがあったのだろう。顎に右手を当てながら考え事に耽り始める。

 

「まぁ、相手がどうであれ全力を尽くそうよ。正直練習相手にあの強豪校だって聞いた時は少しびっくりしたけど。みんなで今の調子を維持して頑張れば勝てるかもしれないし」

 

「そうですね。こっちには斬新な作戦を思いつく最高の隊長がいますから。全力が尽くせます!」

 

「ありがとう!じゃあ、こっちには武闘派だけど仲間思いでかっこかわいい副隊長がいるから安心できるな!」

 

「そ、そんな。かっこかわいいなんて……はっくしょん!」

 

「ふふっ。くしゃみをするって事は、私以外にも誠也君の事が気になっている人がいるのかな?」

 

「ははっ。冗談はよしてくださいよみほ姉貴。俺みたいなパンツァーハイ野郎なんかより良い男がいるのに。噂話なんてされてる訳ないじゃないすか」

 

他のメンバーが再び戦車を使って練習に励んでいる中、みほと大友の二人は木の下でくつろぎつつ笑い合いながら会話を続けるのであった。

 

 

 

その頃、聖グロリアーナ女学院戦車道チーム隊長室では合わせて五人の少女が紅茶とお菓子を手に取りながらお茶会を楽しんでいた。

彼女達の中で一番お淑やかかつ大人びた少女、ダージリンは一枚の写真を片手に普段のお淑やかさとは打って変わって少しウキウキしていた。

 

「ダージリン様、いつも以上に機嫌が良さそうですね」

 

「ダージリンったら、本当にあの子が好きなのね。あの子には恋人同然に慕っている子がいるのに」

 

「アッサム。本場のイギリス人は恋愛と戦争には容赦は無いのよ。それにお付き合いをしている訳じゃ無いんだから問題ないわ。いつかこの子をわたくしのもとに……」

 

一人の少女、オレンジペコの言葉を皮切りに彼女達の会話が始まったのである。

ダージリンは、左目を閉じながら写真に映された戦車のキューポラから身を乗り出した少年……大友を眺めているのであった。

 

「再びあの子と会えるなんて神様は本当にいたずら好きね。一年前のタンカスロンの交流試合とスカウトの辞退を巡っての戦い……あれほど楽しかったものは無いわ。今度会った時は何を話そうかしら」

 

「そういえば、そんなこともあったわね。私も今みたいにダージリンのチャーチルで砲手をやっていたのだけれど、あの子の操るE-25の砲手の水野君も気になるわ。どうやったら横滑りしながら砲弾を命中させることができるのかしら」

 

ダージリンに同調するかのように、アッサムも水野について語り始める。

その傍らでオレンジペコやもう二人いた女子生徒のローズヒップとルクリリは初めて聞く大友たちの話に興味津々だった。

 

「昨年はまだ別の先輩の下で操縦手をやっていたので大友さんのことはダージリン様との決闘の中継でしか見たことがなかったのですが。本当に男の子なんですかね?」

 

「ええもちろんよ。それに、ああ見えてタンカスロンでは結構な武闘派なのよ。ルクリリ、貴女もタンカスロンへの参入を考えているのならあの子のことを調べることをお勧めするわ。それとローズヒップ」

 

「なんでございましょうか!ダージリン様!」

 

「貴女のお気に入りの慎司君だったかしら?あの子も誠也君と同じ大洗学園に通っているわよ」

 

「マジですの?!何も聞かされていなかったので気になっていましたの!」

 

ダージリンはルクリリの疑問に答えつつ話題を切り替えるべくローズヒップに声を掛ける。

彼女に話題をふられたローズヒップは、何かを思い出したかのようにその場から立ち上がってテンションが高くなる。

 

「あら、向こうに知り合いが居たのはわたくしだけではなかったようね。ローズヒップ、ルクリリ。整備員さん達に特別仕様を施すように言って頂戴。あの子は一筋縄では行かないのだから」

 

この時のダージリンが見せた惚れ惚れした目つきは、この場にいた他の四人を更なる関心に駆り立てた。

何せ彼女の本心を初めて他の面々の前で見せたからだった。ダージリンは練習試合といえど水面下でも戦術を練りつつあった。

 

 

 

それから五日後の土曜日、大洗学園高校の学園艦は大洗港に寄港し、学園艦と港を結ぶレーンから住民の自動車が次々と流れ出てくる。

その中に大洗学園戦車道チームの車列もあった。車列の先頭をあんこうチームのⅣ号戦車とイタチさんチームのE-25の二輌が走行していた。

 

「みほ姉貴。今日は何なりとお申し付けください」

 

「ありがとう。一応作戦通りに動いて後は、状況が変わり次第独断で動いてもらって構わないよ」

 

大友とみほは戦車から身を乗り出しながら今日の試合について打ち合わせをする。

すると、大きな影が大洗学園戦車道チームの戦車を覆い尽くす。

 

「でかっ!」

 

「あれが聖グロリアーナ女学院の学園艦そして、戦車道チームですか……」

 

「みほ姉貴、いよいよお出ましですね。(あの人とやり合うのも一年ぶりってところか)」

 

「うん。そうだね」

 

聖グロリアーナ女学院の学園艦は大洗学園の学園艦よりも何倍も大きく、その維持費や学園艦内の豊かさを象徴するかのように十輌の戦車が車列を作って走行しているのが目に入る。

その編成は以下の通りだ。チャーチルMk.Ⅶ×一輌、マチルダ歩兵戦車×五輌、クルセイダー巡航戦車Mk.Ⅲ×三輌、クロムウェル巡航戦車Mk.Ⅳ×一輌の計十輌編成である。

遠くからなのでよく見えないが、強力な編成ということが分かった大友は武者震いする。

それからしばらくして試合開始地点に移動した一行は、聖グロリアーナ女学院戦車道チームと対面していた。

 

「本日は急な申し出であったにもかかわらず。試合を受けていただき感謝する」

 

「構いません事よ。こちらも公式試合と同じように十輌で挑んでいただけるなんて光栄ですわ。それと、戦車のエンブレムに動物を使用するなんて斬新ですわね。ですが、わたくしたちはどんな相手にも全力を尽くしますの。量や火力でごり押しするサンダースやプラウダ、統制がズタズタなBCみたいな下品な戦い方は致しませんわ。お互い騎士道精神で頑張りましょう」

 

桃と挨拶を交えたダージリンは、大洗学園側の戦車のエンブレムを見て率直な感想を口にする。その直後、ダージリンは我々は他校と違って気品があるのだ。というアピールをしたのであった。

 

「最後に……誠也君お久しぶりね。貴方の腕が落ちていないか全力でやらせていただきますわ」

 

「ええ。ダージリンさんも相変わらずお元気そうで良かったです。こちらも全力でやらせていただきます」

 

最後に彼女は大友に声を掛けて自身のやる気を彼にアピールし、彼もダージリンに対する敬意を交えて返事をしたところで審査員である笹川香音の一声によって試合が始まるのであった。

 

 

 

 

みほから斥候を任された大友は、ごつごつした岩場が広がる崖から楔形陣を組んで悠々と前進する聖グロリアーナ女学院側の戦車を睨みつけていた。

彼がいるこの場所と距離からだとE-25が持つ75mm戦車砲でチャーチルの車体側面に対して有効な一撃を放つことも出来なくはないが。五輌のマチルダMk.Ⅲに阻まれているうえ、狙撃に失敗してしまえばローズヒップが指揮するクロムウェルに率いられた巡航戦車隊に追い回されかねないのである。

 

「いいか。ローズヒップって子が乗るクロムウェルの走り方は並みの戦車乗りじゃ真似できねえ走り方をするから桔平が二発撃った後は十分に注意しながら退くんだぞ。それと雄飛、早めの装填頼めるか?」

 

「おう。何せうちの慎司からコツを教わっちまったからなあの子は」

 

「分かりました親分。秋山先輩を超える勢いでいきます」

 

大友や木村、安倍が何気ない会話をしながら射程圏内に入りつつある戦車たちを凝視し続ける。あと少しで射程圏内に入るというところで大友達は戦車に乗り込む。

彼らが乗り込むと同時に相手は一輌づつE-25の射程圏内へと入って来る。

無論、それを見逃さなかった水野は手始めにチャーチルの左隣にいたマチルダを一輌撃破し、次にそのままクロムウェルの履帯の切断を試みるも。これは避けられてしまい、相手は大友達の存在に気づいたのか。

そのまま崖の上に向かって集中砲火が行われ、四輌の巡航戦車が彼らの後を追い始める。

 

「こちらイタチチーム。敵一輌の撃破に成功。ウサギさん及びアリクイさんはそのまま崖の上で布陣されたし」

 

「こちらウサギさんチーム。足止めなら任せてくださいっ!」

 

「こちらアリクイさん。一輌でも多く足止めするのにゃー」

 

大友は逃げている間にも他のメンバーに対して必要な指示を行う。今この近辺に居る大洗学園側の戦車は彼が乗るE-25を含めてウサギさんチームのM3Lee、アリクイさんチームの三式中戦車・チヌの計三輌のみである。

残りの七輌は町の方で布陣し、こそこそ作戦の名の通り。

フィールドである大洗町のどこかに潜んでゲリラ戦術を展開しながら相手をじわじわ撃破するという戦法を取るのであった。

これには、みほの犠牲を極力最小限に抑えるというこだわりがあり。彼女が今まで強制されて来た西住流とは真逆の戦法を取るに及んだのであった。

無論、各車長の支持は大きく。同時にみほは車長達を含めた戦車道チームのメンバー全員の信頼を得ることが出来たのだ。

特に彼女を慕っている大友は、そんな彼女の期待に応えるかのように機動力が高く、火力もそこそこあるM3Leeとチヌに目をつけて足止めのみに限定した囮作戦に出ることにしたのであった。

 

「みんな。そのまま左の坂に繋がる岩を撃ってそのままちょっとしたバリケードを作るんだっ!包囲されたら元も子もないからな」

 

『了解!』

 

彼の指示を受けたこの二チームは、左側の坂道にあった大きめな岩に向かって砲弾を撃ち込み、崩れた岩でバリケードを作る。

それからE-25は右側の坂道から登っていき、他の二輌と同じく崖の上で布陣して相手を待ち構える。

それから一分も経たないうちに四輌の巡航戦車が土煙を上げながらV字隊形で彼ら三輌に対して向かってくる。

 

「今だっ!撃てぇ!」

 

大友がそう叫ぶと三輌の戦車から砲弾が放たれるが。最初の数発は距離が離れているため、ほとんど当たらなかった。

四輌の巡航戦車は崖に近づくにつれて密集しはじめていた。

これを見逃さなかった大友や他の二チームはチャンスだとばかりに訓練で培ったチームプレーを活かしてクロムウェルを守るようにしてその前方を走行していた三輌のクルセイダーの履帯を切断し、真ん中を走行していたクルセイダーは梓の判断により。

副砲で切断後、主砲で装甲が薄いエンジンルーム上部に命中させることに成功し、そのまま撃破する。履帯が切断された二輌のクルセイダーと撃破されたもう一輌のクルセイダーによってローズヒップが乗るクロムウェルは、道を塞がれたのであった。

 

「よし、みんなよくやった!そのまま町へすたこらさっさだ!」

 

『了解!』

 

「それと梓ちゃん。良い判断だ。そのまま調子で今日は勝とうなっ!」

 

「ありがとうございますっ!大友先輩」

 

町の方へと退いている最中、戦車から身体を乗り出していた梓に大友は彼女の咄嗟の判断を褒め称える。

彼にそう言われた彼女は緊張したままの表情から自信に溢れた表情に変わった。こうしてこそこそ作戦は次の段階へと移るのであった。

 

 




ありがとうございました!
原作とは異なり、クロムウェルに搭乗するローズヒップさんにしてみました。
プラウダ戦記のローズヒップのアールグレイに対する反応を見て個人的にありかなと思ってそうしてみました。
次回は後編にあたる第九話を投稿する予定です。
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