もし、とか、たら、とか、れば、の話   作:bear glasses

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趣味が爆発しますが、すべてはぎゆしのの幸せの為です。お許し下さい。


遡っていた太陽達

二日程たち、この世界の今の暮らしにも慣れた頃。

 

先日錆兎から文が届いた。

今日、錆兎と胡蝶姉、真菰、炭治郎、善逸、伊之助、カナヲ、アオイでこちらに赴くそうだ。

 

自身達のこの世界の初任務予定日の昼なのは、偶然ではないのだろう。

 

「しのぶ。茶菓子等は昨日買ったが、なにか足りないものはあるだろうか?」

「いえ、義勇さん。なにもありませんよ。そんなにそわそわしなくても炭治郎くん達は逃げませんよ?」

「そわそわ等していない」

 

互いの呼び名は『しのぶ』と『義勇さん』で固まった。

自身がそうしたかったからだ。

これで何か言われても知らん。

 

「来たぞー!義勇ー!」

 

声が聞こえたので、玄関まで行く。

扉を開いて

 

「よく来たな」

「ああ!久しぶりだな。元気そうでよかった」

「久し振り!義勇!」

「ああ。久しぶり。真菰」

「お邪魔するね。義勇くん」

「ああ。ゆっくりして行ってくれ」

「お邪魔します!義勇さん!」

「ああ。ゆっくりしていけ」

「お、おおおお邪魔します!」

「緊張しなくていいぞ。善逸」

「邪魔するぜ!」

「お前は⋯」

「もう!ちゃんと敬語を使ってください!伊之助さん!お邪魔します!義勇さん」

「ああ。よく来たな。ゆっくりしていけ」

「お邪魔します」

「ああ。ゆっくりしていくといい」

 

一通り挨拶が終わったので、居間に通す。

 

「こっちだ」

 

「よく来てくださいましたね。姉さん、アオイ、カナヲ、錆兎さん達も」

「俺は茶菓子を持ってくる。しのぶ、茶を頼む」

「はい。わかりました。義勇さん」

 

そのやり取りに、錆兎達が驚く。

 

「ちょ、ちょっと待て義勇!」

「?どうした」

 

見ると、炭治郎たちも驚いている。どういう事だ?()()()では初対面のはずだが。

 

「な、何故胡蝶妹を呼び捨てにしている!?前は胡蝶と呼んでいたじゃないか!」

「胡蝶は2人いる。それを胡蝶姉、妹ではあまりに失礼だろう。ああ、胡蝶、カナエと呼んでもいいか?胡蝶呼びでは恐らくしのぶが混乱する」

 

その言葉に、胡蝶――――――カナエが狼狽えつつ答える

 

「え、ええ。いいけど」

「ではそうさせてもらおう」

「では何故胡蝶妹は義勇の事を『義勇さん』と呼ぶ!?前は『冨岡さん』呼びだっただろう!」

「義勇さんが一方的に私の事を『しのぶ』と呼んで私が義勇さんの事を『冨岡さん』と呼んでいたら町の人が違和感を感じるじゃありませんか。町の方は私に姉がいる事を知りませんし、なにより屋敷に二人暮しですからね。それで苗字呼びなんて邪推しろと言っているようなものです」

 

と、前から用意していた言葉で押し切る。

 

「し、しかしそれでは夫婦に間違えられるかもしれないだろう!?」

「もう間違えられていますよ。言ったでしょう。邪推されると。もう少ししたら誤解もときますけど、今は無理ですよ」

 

さて、俺は茶菓子を取りに行くか。

 

「では私もお茶を入れてきますね」

 

少しして、

俺は見繕った茶菓子を、しのぶはお茶の入った湯呑みを持って居間に戻った。

 

「飲むといい」

「あ、ありがとうございます」

 

そのまま、取り留めのないことを話し、暫くして。

 

「そう言えば、なぜ炭治郎達はこちらに来た?()()()()()()では兎も角。こちらでは初対面の筈だが」

 

そう言うと、炭治郎は神妙な表情になり、話す。

 

「義勇さん、これから俺が話すこと、信じてくれますでしょうか」

「内容による」

「⋯ですよね。実は」

 

炭治郎は、話す。自身達に、別の未来の記憶がある事を。

なんと、善逸、伊之助、カナヲ、アオイ、そしてカゴに入った禰豆子も一緒らしい。

 

「⋯信じて、くれますか?」

「では、炭治郎。俺とおまえくらいしか知らない言葉を言ってみろ」

「はい。

 生殺与奪の権を他人に握らせるな。

 惨めったらしくうずくまるのはやめろ!

 そんなことが通用するならお前の家族は殺されてない。

 奪うか奪われるかの時に主導権を握れない弱者が妹を治す?

 敵を見つける?笑止千万!!

 弱者には何の権利も選択肢もない。

 悉く力で強者にねじ伏せられるのみ!!

 妹を治す方法は鬼なら知ってるかもしれない。

 だが鬼共がお前の意志や願いを尊重してくれると思うなよ。

 当然俺もお前を尊重しない。それが現実だ。

 何故さっきお前は妹に覆い被さったあんなことで守ったつもりか。

 何故斧を振らなかった。

 何故俺に背中を見せた!!

 そのしくじりで妹を取られている。

 お前ごと妹を串刺しにしても良かったんだぞ

⋯これで、良いでしょうか」

 

確かに、これは俺と炭治郎しか知らない。本物のようだ。

 

「⋯ああ。久し振り。でいいのか?炭治郎」

「⋯はい!義勇さん!」

 

すると、しのぶが若干引いたような目で俺を見る。

 

「⋯なんだ」

「いえ、あの義勇さんが随分饒舌に話したものだと。しかも貴方の事だから絶対に伝えきれてない部分がいくつかあるでしょう」

「なぜそう思う」

「だって義勇さんは天然ドジっ子さんですから。圧倒的に言葉が足りませんし言葉選びが壊滅的に下手です。そんなだから嫌われるんですよ?」

「俺は嫌われていない」

 

すると、

 

「「ふふっ」」

 

炭治郎とカナヲが同時に笑った。

 

「どうした?」

「なんですか、炭治郎くん。カナヲ」

「い、いえ。変わらないなあって」

「義勇さんも師範も楽しそうなので、つい笑ってしまって」

「⋯さすが夫婦だな。よく似ている」

「なっ」

「へあっ」

 

かぁああああああ。と顔を染めあげる2人はやはり似ていて、

 

「仲睦まじいのは良い事だ。こちらでも祝言はあげるのか?ぜひ呼んで欲しいものだ」

 

あの時は俺がカナヲの親役、鱗滝さんが炭治郎の親役だったからな。と、続ける。

 

「ちょ、ちょっと待って!炭治郎君とカナヲが夫婦!?そんなこと言ってなかったじゃない!」

「伝える必要もなかったからな」

「じゃ、じゃあアオイは!?きよ、すみ、なほは誰と結婚したの!?」

「あ、義勇さん待っ「アオイは伊之助と結婚した。あの時も俺が親役をしたからな」あぁあああもう⋯」

「なんだ、言ってなかったのか!アオイ!!」

「そんな事照れ臭くて言えるわけないでしょう!」

 

馬鹿!と、無邪気に聞く伊之助にアオイは返す

 

「あらあら、そうだったの。幸せねえ。あ、きよ達は!?」

「それは教えられない。そいつらが戻ってなければ、何かの拍子に結婚相手が変わってしまうかもしれないだろう」

「⋯それもそうね。ごめんなさい」

「気にする必要は無い」

 

と、茶を啜る。

 

「あ、じゃあ善逸君は?」

「善逸は禰豆子と結婚した」

「あらぁ!一途に想ってたものねえ」

「義勇さん!なんで答えちゃうんですかぁあああ!」

「不公平だろう?」

「そうですけど!そうですけどぉ!」

「流石天然ですね義勇さん。駄目ですよ。あんまりこの子達をいじめては」

「虐めたつもりなど⋯」

「でしょうね。でも駄目です」

 

むむ。と不平を顔で表す。

 

「なんか、夫婦みたいだね」

 

突然。真菰が爆弾を落とす。

 

「なっなななななな何を」

 

しのぶの顔が耳まで赤くなっている。

 

「そうか?」

「うん。なんかね。雰囲気が夫婦っぽいよ!お似合いだね!」

「そうか⋯ありがとう」

 

ふわり。と微笑みを零す。

 

「⋯ふぅん。へぇー。ほぉーん」

 

と、真菰がニヤついている。カナエもだ。

 

「そっかあ。義勇君もそうなのね」

 

なんだか、居心地が悪い。

 

「⋯そうか。義勇にも春が来たか」

 

何を言うか錆兎。春などもう過ぎたろう。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!お昼ご飯の準備をします!」

「手伝おう」

 

ゆっくりしていてくれ。と錆兎たちに言って、台所に向かう。

 

「⋯なんで来たんですか」

「1人で10人分はさすがに骨が折れるだろう?手伝うさ」

「そうですか⋯ありがとうございます。義勇さん」

「何を作るんだ?」

「鮭大根に、お味噌汁。しょうがの佃煮、沢庵に、ほうれん草やにんじんの胡麻和えです」

「では味噌汁を俺が作ろう」

 

鮭大根はお前が作った方が美味い。

 

「―――――――あなたって人は、もう!」

 

さて、調理をしよう。

 

 

 

――――――――――

ところ変わって居間。

 

「ふふふ。ほんとに夫婦みたいねえ」

 

と、料理している二人を覗くカナエが嬉しそうに話す。

 

「なんだか、義勇さんが前より柔らかいな。カナヲ」

「そうだね。前は、もっと、柔らかくなったけど、寂しそうだった」

「ずうっと寂しそうな音をしてたけど、今は泣きたくなるくらい幸せそうな音がしてる」

「なんつうか。変わったな!」

「そうですね。余裕が出来たというか」

 

心の贅肉が出来たのでしょうか。

 

「⋯そんなに義勇は()()()では無表情だったのか?こっちの義勇は⋯なんというか、もっと表情が豊かだったんだが」

「⋯多分。あっちの世界の義勇さんは、心が砕けかけてたんです」

 

と、炭治郎が漏らす。

 

「お姉さんが死んで、錆兎さんや真菰さんが死んで、どうしようも無い無力感に、ずっと襲われていたんだと思います」

 

そこに、

 

「しのぶさんが死んで、その直後の義勇さんの匂いは――――――」

 

際限のない絶望と失望と無力感の匂いがしてました。

 

「蝶屋敷に住んで、暫くして。その匂いも和らいだんですけど」

 

きっと、ずっと後悔していたんだと思います。

 

「だから、多分義勇さんは今『後悔しないための選択』をしているんだと思いますよ」

「そう⋯か」

「じゃあみんなでいーーーっぱい義勇としのぶちゃんを幸せにしないとね!」

 

と、真菰が続けて、みんなが笑顔になった。

 

「そうね。みんなで幸せにしましょう」

 

みんなで、幸せになりましょう。

 

という、カナエの言葉に。炭治郎は決意を新たにする。

 

その為に、強くなろう。あの時よりも、今よりも。

 

 

 

 

――――――――――――――

 

昼飯が出来た。

 

『いただきます』

 

10人の声が重なる。

 

ああ、こんな賑やかな食卓はいつぶりだろうか。

む、茶が無い。

 

「しのぶ」

「はい」

 

茶を注いで貰う。

 

「ありがとう」

 

茶を呑み、鮭大根を食べる。

思わず笑顔が溢れた。

 

「ぎ、義勇さんが満面の笑みを⋯!!??」

 

何故か炭治郎たちが慄いている。

まあいい。今は鮭大根だ。

 

もぐもぐと鮭大根を食べ、ご飯を食し。

胡麻和えを箸休めに、鮭大根を食べ、ご飯を食べ。

味噌汁を飲み、鮭大根を食べ、ご飯を食べる。

その様子を、何故かしのぶが微笑みつつ見ながら、生姜の佃煮に箸を伸ばしている。

俺も生姜の佃煮をご飯に乗せて、食べる。

嗚呼。美味い。

 

そんな、静かな昼飯が終わり、

 

「俺と真菰はここら辺で失礼しよう」

「私とカナヲとアオイもそろそろお暇するわ」

「俺達もこのまままっすぐ任務地に向かいます!」

 

と、3人が言う。

 

「そうか。気をつけてな」

 

と。送り出す。炭治郎には、

 

「余り気負わずにな。頑張れ」

 

と言って、頭を撫でる。

何時も気を使って、誰かの為に怪我するやつだ。

これくらいはいいだろう。

 

「は、はいっ!頑張ります!」

「ああ。行ってこい」

 

すると炭治郎は笑顔で手を振り、元気に屋敷を出た。

 

「――――――珍しい。貴方もそんなことするんですねぇ」

「悪いか?」

「いえ、新鮮で」

「そうか」

 

コロコロ、と笑うしのぶは変わっていない。

 

「―――――なあ。」

「なんですか?いきなり」

「そろそろ、戻ってもいいんじゃないか」

 

前のお前に。

 

「⋯なんでいきなりそんなことを言うんですか?」

「お前の姉も生きているからだ」

「今更戻れませんよ。あの頃には」

 

もう染み付いてますから。と、しのぶは自嘲する。

 

「⋯そうか」

 

勝気で騒がしかったお前も、好きだったんだがな。

等とは言えずに、すこししんみりとしてしまう。

 

「しのぶ」

「はい。なんでしょう、義勇さん」

 

――――――頑張ろうな。

と言うと、

 

「はい!」

 

その笑顔は、どこかあの時の勝気なお前の笑顔に似ていて、少し、救われた。

 

 

夜。

 

 

「カァアアア!!冨岡義勇!任務ダ!近クノ山ニ出没スル鬼ヲ討テ!案内スル!!!」

「了解した。では、しのぶ」

 

行ってくる。

 

「はい。行ってくらっしゃい。義勇さん」

 

 

近くの山で

 

「ココダ!」

「わかった」

 

瞬間、鬼の気配。

 

「ガアアア!!!」

 

爪で斬りかかって来る。それを身体をねじって避けて、その返しに。

 

全集中・水の呼吸 陸ノ型 ねじれ渦

 

ねじれ渦で頸を斬り落とす。

まずは1体。続けて―――――――――

 

六方から鬼の気配。全方向ではない。続けてくる。ではあれば―――――

 

全集中・水の呼吸 拾壱ノ型――――――――

 

「凪」

 

襲い掛かる鬼の頸を全て。凪で認識する前に斬り落とす。

俺は炭治郎の助言で、殺意を伴わずに鬼を殺せるようになっていた。

曰く、『透明な世界』だというそれは、鬼との戦いにかなりの優位性を持っていた。

殺意の乗らぬ剣閃は鬼には察知できないもので、鬼を討つには、この技能は最適だった。

 

「――――――あっけないな」

 

この技能があれば、そして、炭治郎達がいれば。

より速い段階で、童磨を殺せるのではないだろうか。

そうすれば、あるいは―――――

 

幸せな世界に、たどり着けるだろうか。


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