もし、とか、たら、とか、れば、の話 作:bear glasses
俺達は、蝶屋敷で那谷蜘蛛山で負った怪我を治し、機能回復訓練を受けていた。
とある日の朝。
凄まじい鈍痛が頭を襲う。
「がっ、あっ⋯!」
知る筈のない景色が広がる。
全てだ。そう、全てを思い出した。
そして、
何故、義勇さんがいない?
何故、錆兎と真菰が生きている?
何故、俺はこの世界の義勇さんを
何故、この世界の義勇さんは幼い?
何故、この世界にしのぶさんが居ないんだ?
カナエさんは、
「ま、さか」
この世界は――――――――――――
「義勇さんとしのぶさんが死んで、錆兎と真菰、カナエさんが生き残った世界?」
隣を見ると、善逸と伊之助も頭を抱えていた。
「善逸、伊之助、お前ら、まさか」
そう聞くと、2人は、
「炭治郎⋯お前も、か」
「炭治郎⋯チビになったか?」
「「だぁあああ!」」
そうだ!そうだな!伊之助はそうだよな!
「んお!?俺もチビになってやがる!?っつうか変な感じだ!記憶が途中まで2つありやがる!」
「違う。チビになったんじゃない!俺たちの記憶が戻ってるんだ」
記憶が戻ったのは俺たちだけか?確かめたい⋯確かめたい!
「ごめん善逸!伊之助!俺カナヲの所に行ってくる!!!」
善は急げだっ!!
「わかった!俺は禰豆子ちゃんのところに行く!待っててね!禰ぇえええええ豆子ちゃああああああああああん!!!」
「しゃあっ!よくわかんねえけど俺もアオイのやつの所にいくぜ!うぉおおおおお!猪突猛進!!」
――――――――――――――
カナヲの匂いを辿って、走る。走る。走る。
カナヲの匂いは、カナエさんと少し違う。
カナエさんよりも、柔らかくて、愛おしくて。
暫く走って。カナヲの所に着く。
「カナヲ!」
「へっ!?」
カナヲが、驚いた様に俺を見る。
同時に、確信する。
この頃のカナヲは心の声が小さくて、何をするにもコインで決めていたし、なにより。
この頃のカナヲは
感情の起伏も小さかったから、どちらかと言うと顔に出るけど、それすら小さな変化だった。
それが、驚きが声に出たし表情も豊かだ。
間違いない。
「カナヲッ!
「覚えてる?どういう事?炭治郎」
ああ。受け答えにコインを使っていない。
「しのぶさんと、義勇さんの事!」
その言葉に、カナヲが驚く。
「え?じゃあ、炭治郎も?」
「ああ!覚えてる!カナヲ!」
抱き竦める。
「た、炭治郎!?」
「カナヲ。愛してる。また、一緒になろう。」
今度も、絶対に離さないから。
その言葉の後に、カナヲから、歓喜と恋慕と涙の匂いがした。
「うん。うん。また、また一緒になろう。よぼよぼのおじいちゃんとおばあちゃんになっても、一緒に居よう」
愛してる。炭治郎。
その言葉に。泣きそうになる。
「色んなところを、また見に行こう。また、夫婦になろう」
「うん。また、お嫁さんにしてね?」
「嗚呼。勿論だ」
鬼の居ない平和な世界で、笑顔に溢れた家庭をつくろう。
―――――――――――――
短くなった手足で、懸命に走る。
そして、禰豆子ちゃんの部屋につく。
「禰豆子ちゃん!」
驚いた。禰豆子ちゃんが箱の外に出ている。
まだ明朝とは言え、日も出ていない訳では無いのに。
俺が部屋に入ってくるのを見ると、禰豆子ちゃんは驚いた様に目をぱっちりと開いていた。
そして、
「むー!!」
飛び着かれた。
え?
頭の中を疑問符が駆け巡る。
同時に、柔らかい感触が自分を襲う。
飛びつかれた。抱きしめられた。誰に?
決まってる。禰豆子ちゃんだ。
「ね、ねねねねねね禰豆子ちゃん!?どうしたの!?」
「むー!むー!!!!」
禰豆子ちゃんは、もどかしいのか、竹の口枷を無理矢理解くと、
「ぜん、いつさん!」
ぜんいつさん。――――――善逸さん?
待て、
だって、俺を善逸さんって呼ぶようになったのは―――――――
「禰豆子ちゃん」
おぼえてるの?と聞くと。禰豆子ちゃんは
「おぼえてる。おぼえてるよぜんいつさん。また、またしあわせになろうねえ。だいすきだよ。ぜんいつさん」
「禰豆子ちゃぁん」
思わず、泣いた。
決まってる。覚えてくれたんだ。禰豆子ちゃんが。
1度結婚してくれて、死ぬまで一緒に居てくれただけでも幸せなのに。
また幸せになろうと言ってくれた。
俺は、幸せ者だ。
「ぜんいつさんはあいかわらずなきむしだねえ」
「禰豆子ちゃんは相変わらず可愛いよ」
「ぜんいつさんだってかわいいよお」
と言って、さらに抱きすくめてくれる。
それがまた愛おしくて。
抱き締め返す。
「禰豆子ちゃん。俺、頑張るよ。禰豆子ちゃんが早く人に戻れる様に。そんで、鬼舞辻も殺して、禰豆子ちゃんも人に戻して。平和な世界で――――――」
また、夫婦になろう。
「――――――うん!」
泣きながら笑う禰豆子ちゃんはやっぱり綺麗で。心の中で、覚悟の炎が更に燃え上がった。
――――――――――――――――――
伊之助は駆けた。アオイの元に。
「アオイ!」
そして、アオイを見つけた。
「⋯伊之助さん?」
珍しい。あなたが名前を間違えないなんて。とアオイが続けた。
「⋯お前、覚えてるか?」
「覚えてる⋯?なにか約束しましたっけ?」
「ちげえ。俺と夫婦になってたこと。しのぶと義勇の事だ。」
「―――――まさか」
貴方も?というアオイの問に、伊之助は答えず、ただアオイを抱き締めた。
「ちょ、ちょっと!伊之助さん!?質問に答えて!」
「答えなんざこれで十分だろ」
もう二度と離さねえ。
と言う伊之助に。アオイは仕方が無いように笑う。
「仕方ありませんね。伊之助さんは」
「当たり前だ!俺は山の王だからな!」
そう返す伊之助にアオイは笑いを零す。
「――――――アオイ。俺達はまた鬼舞辻を倒す。だから。全部終わったら、平和な世界で」
また俺の嫁になれ。
「――――――勿論ですよ。伊之助さん」
貴方の面倒を見れるのは私くらいのものですから。
と、屈託のない表情で笑うアオイに、伊之助は。
「(適わねえなあ)」
と、愛おしげに笑顔を向けた。