もし、とか、たら、とか、れば、の話   作:bear glasses

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今回は短めです。
この作品はかなり急テンポで進ませていきます!


夜明け

―――――ヒノカミ神楽 碧羅の天

 

 

『ギャアアアアアアアア!!』

 

不協和音のごとき断末魔が走る。

それと共に列車がガタガタ揺れて脱線する。

 

俺と伊之助、しのぶさんはそのまま体勢を立て直して、着地。他のみんなもきちんと着地出来たようだ。

む。善逸が禰豆子を姫抱きにして着地している。

⋯話が必要なようだ。

 

まあ、いい。今は―――――――

 

ガキィイイン!

 

こいつの相手だ

 

「――――ほう」

 

ああ。久しぶりに会うな。

 

「中々の反応速度だな。鬼殺隊の少年」

「上弦の、参⋯!」

 

猗窩座!

 

「いい反応速度だ。才能も感じる――――どうだ?お前も鬼にならないか?」

 

やはり聞くか。だが

 

「断る!」

 

むん!と己の意思表示をする。

刀と拳をまじえる。

透明な世界へと接続を続けながら

 

「何故だ?鬼であれば永遠の鍛錬の果てに力を探究できるぞ?人は、老いる。脆くて弱い生き物だ」

「脆くて儚いから、人間は美しいんだ!お前はその輝きを失った!俺はその輝きを失いたくない!」

「そうか、残念だ!」

 

拳が振るわれる。しかし

 

炎の呼吸 壱ノ型・不知火!

 

それは煉獄さんの技によって弾かれた。

 

「ぐっ!?」

「良くやった。竈門少年!加勢するぞ!」

「俺も加勢しよう」

「私も加勢しますよ」

 

柱が三人、更には、俺達もいる。

これなら―――――!!

 

「おやおや、随分と苦戦しているな猗窩座殿」

 

瞬間、恐ろしく濃い鬼の匂いがした。

 

「なっ!」

 

姿はまるで異国の人間のようで。その瞳に刻まれた数字は。

 

「上弦ノ、弐だと⋯!!」

 

そう、上弦ノ弐。

カナエさんを殺し、伊之助の母を殺し、しのぶさんを殺し、しのぶさんの毒に倒れた鬼。

そして、カナヲが片目の視力を著しく低下させられた原因にして、カナヲの心に大きな傷を残した、諸悪の根源!

 

「―――煉獄」

「どうした!冨岡!」

「俺としのぶ、善逸で上弦ノ弐を討つ。参を、頼めるか」

「わかった!頼んだぞ!冨岡!」

 

 

―――――――――――

 

 

「君たちが俺の相手か」

「そうだ」

 

水の呼吸・壱ノ型 水面切り

 

「随分とご挨拶だ、ね!」

 

相手は扇で防ぐ、が。

 

「貴様は随分と俺を舐めてるな」

 

そのまま寸断する。

透明な世界に置いて見えるのは人の弱点だけではない。

全てのものには壊れやすい『急所』がある。

それは生き物でも被造物でも同じこと。

それを的確に狙えば、どれだけ硬いものでも切り裂く事など造作もない。

 

「へぇ⋯!」

「何を余裕ぶってるんですか?相手は冨岡さんだけではありませんよ?」

 

蟲の呼吸 蜂牙の舞 真靡き

 

後ろからの突きによって上弦ノ弐の頭蓋が破砕される。

 

「鬼に突きなんてさ、あ――――?」

 

ギシリ、と上弦ノ弐の身体が固まる。

 

「麻痺毒です。分解時間もそれなりにかかると思いますよ?」

 

これこそ、しのぶのこの世界から得た『力』。前回の反省より作られた、超濃縮還元毒である。

藤の毒を煮詰めて煮詰めて、もう少しで固体化するという所まで煮詰めた末にできた毒だ。

まだ殺すには至らないが、いい進歩であると思う。

 

「そんな、の」

 

雷の呼吸 漆ノ型・火雷神

 

瞬間、雷と聞き違えるほどの轟音と共に上弦ノ弐の首が飛んだ。

善逸の火雷神だ。

 

「え?」

 

上弦ノ弐は何も認識できていない。

というより、困惑して状況を整理できていない。

決まっている。()()()()()()()()()()()()

本来であれば、上弦ノ弐相手に犠牲無く戦うなど不可能に近い。

しかし、仮定一撃目で何かしらの動揺を誘えたのならば?

そのまま畳み掛けるように瞬く間に勝負を決めてしまえば?

どんなに強力な血鬼術であれど、発動しなければないのと同じなのだから。

 

さあ、決め手だ。

 

「水の呼吸 ()()()()

 

これこそ、俺の集成。

()()()()()()()()()()()()()()()()、俺だけの技。

 

―――――――天気雨

 

瞬間、俺の刀は赤く染まった。

 

―――――――――

 

水の呼吸 壱ノ型・水面切り

 

ああ、技が来たね。

扇で受け止めてしまおう。

 

バキィン!

 

え?なんで扇が砕かれて―――

 

「へぇ⋯!」

「何を余裕ぶってるんですか?相手は冨岡さんだけではありませんよ?」

 

蟲の呼吸 蜂牙の舞 真靡き

 

僕の頭が砕かれる。

馬鹿だなあ。鬼に突きなんて意味ないのに。

頭を再生して、あの女の子を殺してあげよう。

 

「鬼に突きなんてさ、あ――――?」

 

あれ?なんで動かないの!?

まさか、

 

「麻痺毒です。分解時間もそれなりにかかると思いますよ?」

 

毒!?まって、そんなの、僕が殺したあの子しか使ってなかったはず、ましてや、こんなに強力なのなんて――――!?

 

「そんな、の」

 

関係ない。血鬼術で!

 

雷の呼吸 漆ノ型・火雷神

 

突如。雷と聞き違えるほどの轟音が轟いた

 

「え?」

 

なんで?なんで俺の目の前に()()()()()()()()()()の?

 

「水の呼吸 ()()()()・天気雨」

 

すると、鬼狩りの刀が、紅く染まって。

俺の身体を細切れにする―――――

馬鹿だな、まだ、再生出来―――――

 

痛い、痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイ!?

なに、なにこれ!身体が治らない!痛みが治まらない!?

まるで、()()()()()()()()()()()()痛い!!

なに、なんなの!?これ?

意識が遠のく、待って、まだ俺は死にたくないのに、まだまだ―――――――――!?

 

―――――――――

 

一息で上弦ノ弐の身体を細切れにする。

次は頭の方だ。

 

「――――ずっと、考えていたんだ。お前が居なければ、と」

「え?」

 

上弦ノ弐が、痛みも忘れて、何を言ってるのかわからない。というように俺を見る。

 

「お前が居なければ、胡蝶カナエが死ぬ事も」

 

これは勝手な八つ当たりだ。

 

「しのぶが心を壊して自身を偽る事も」

 

わかってる。

 

「しのぶが毎晩の如く藤の毒を食む事も」

 

こんな事を言っても、何も変わらない。

 

「しのぶが、貴様を殺すために自身を犠牲にする事もなかったのではないか。と――――」

 

何の因果か過去の並行世界(ここ)にいるが、本来、時を巻いて戻す事等出来ない。

これはただの八つ当たりで独り言。

それでも、俺は。否、

 

「だからこそ、俺は上弦ノ弐(キサマ)を恨む事を止められない。だからこそ。死ね。上弦ノ弐、俺の、俺たちの幸せの為に死に絶えろ」

 

そして、赤く、紅く染まった刀が上弦ノ弐の頭を切り刻み、その直後、上弦ノ弐の全てが灰に還った。

 

―――――――

 

「ヒノカミ神楽・炎舞」

 

透明な世界に入りながら、技を放つ。

 

一撃目

 

「甘いぞ!」

 

続けて二撃目。

 

「なっ!」

 

猗窩座は更に身体をねじって避ける。しかし、

 

「炎の呼吸 壱ノ型・不知火!」

「ちぃっ!!」

 

破壊殺・乱式!!

 

「ぬぅ!?」

 

猗窩座は煉獄さんの技に迎撃を行う。しかし、

 

「獣の呼吸―――――参ノ牙ァ!」

 

喰い裂き!!

 

「なっ、くっ!」

 

破壊殺・脚式 飛遊星千輪!!

 

ガキィイイイイイ!

 

「ぉおおおお!!」

「ぐっ!」

 

やはり力較べでは適わない為、吹き飛ばされる。

 

「くっ!何故あの花札少年と猪頭の攻撃から()()()()()()()()()!?」

「勝負中に考え事か!?」

 

ヒノカミ神楽・幻日虹!

 

 

「くっ、な、あ――――――――!」

 

上弦の高い身体能力のせいで、より撹乱されている。

ここで!

 

ヒノカミ神楽・炎舞一閃!!!

 

雷の呼吸の踏み込みを利用して、猗窩座の懐に高速で入り、刀を振るう。()()()()()()()()()()()()()―――!

 

その一撃は、確かに猗窩座の首を引き裂いて。

 

 

――――――――

 

 

夢を、見た。あの日の夢、俺の弱さ。人の醜さ。全てを見た。

嗚呼、結局の所。

俺は、大切なものを守れない『弱い自分』が、どうしようもなく大嫌いだったのだ。

 

見事だ。

俺の頸を切り裂いたその一撃に、思わず感嘆した。

俺を撹乱させたあの歩法から、流れるように歩法を変えて踏み込み、俺の頸を切り落とした。

 

嗚呼、きっと、俺はみんなの所には行けないだろう。

ごめん。親父。俺、変われなかったよ。

すみません。師範、俺は貴方の技を人殺しに使ってしまった。

ごめん。恋雪。約束を守れなくてごめん。こんな俺でごめん。弱くて、ごめん―――――

 

「狛治さん」

「え――――」

「狛治」

「狛治」

「親父に、師範。恋雪――――?」

「一緒に行きましょう、狛治さん。地獄の果てまで、お供しますから」

「お前が俺達の仇を打ってくれたんだ。俺も一緒に行くさ」

「お前に盗みをはたらかせたのは俺のようなものだ。共に償わなくてどうする?」

 

どうしようもなく、涙が溢れる。

俺は気づいたら情けなく走って、3人に抱きついていた。

 

「守れなくてごめん⋯!大事な時傍にいなくてごめん!約束を何ひとつ守れなかった…!許してくれ、俺を許してくれ。頼む⋯許してくれ…!」

 

ずっと、言えなかったんだ。ずっと、言いたかったんだ⋯!!

 

「私達のこと思い出してくれてよかった。元の狛治に戻って良かった。」

 

そして、恋雪は泣き笑いの顔で、こう告げた。

 

「おかえりなさい。あなた⋯」

 

 

―――――――――

 

ぼろぼろ、ぼろぼろと。

猗窩座の身体が崩壊していく。望むように。

身体から、鬼の匂いに混ざって、後悔と、贖罪と、恋慕と、様々な感情の匂いが溢れていく。

まるで、鬼に侵された精神を洗濯するように。

 

朝日が昇る。

()()の、煉獄さんとの別れを齎す明日じゃない。

明日も会える、『再会』を誓える明日を迎えたんだ。

 

 

――――――――

 

 

 

「馬鹿なっ⋯!!」

 

無限城で、鬼舞辻無惨は狼狽えていた。

まさか一夜にして、上弦の月が二つも欠けるとは思わなかったからだ。

更には、猗窩座を通して見えたものがある。あれは―――!

 

「あの時の剣士ッ⋯!」

 

『始まりの呼吸』を受け継ぐ、日輪の剣士。

嗚呼、早く!早く殺さねば!

 

「まずは上弦の補填が最優先か⋯!!」

 

クソっ、誰だ!下弦の鬼を皆殺しにしたやつは!

⋯私だよ!クソっ!やらなきゃよかったッ!

まあいい。後悔先に立たず。というやつだ、

最悪私が動けばなんとかなるだろう!

 

と、十二鬼月の上弦が一夜にして二つも欠けたせいか、割と馬鹿なことを考えている無惨だった。


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