もし、とか、たら、とか、れば、の話   作:bear glasses

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短編つらつら書き連ねてます。
本日二話目


幕間

――――――――

 

衣の着いたあれ

 

無限列車から帰還した伊之助は蝶屋敷はアオイのところに訪れていた。

 

「よぉ、アオイ」

「伊之助さん!?帰ってきたんですね!」

 

アオイの屈託のない笑顔に伊之助はほわほわとしてしまう。

 

「おかえりなさい。伊之助さん」

「ただいま。アオイ」

 

ふわり、と花の綻ぶような笑顔を浮かべるアオイと、ニカッ、と悪戯小僧のような笑顔を浮かべる伊之助。

ああ、帰ってきたのだ。と伊之助の中に確かな実感が湧いてくる。

 

「な、蝶屋敷のこと色々手伝うからよ」

 

天麩羅、作ってくれねえか?

 

と、遠慮がちに聞く伊之助が可愛らしく、思わずアオイは笑ってしまう。

 

「ふふふふっ、良いですよ。上弦ノ参を倒したそうですから。うんと奮発しますからね」

「よっしゃあ!やる気出ててきたァ!最初は何すればいい!?」

「じゃあ――――」

 

――――――

 

仲睦まじく話す二人を、遠目で見るものたちがいた。

 

「伊之助さんとアオイさん、仲いいね」

「伊之助さんと話してる時のアオイさん、とっても綺麗だね」

「アオイさんと話してる時の伊之助さんも、とっても楽しそう」

 

きよ、すみ、なほの三人だ。

 

「夫婦になるのかなぁ?」

「なるよ!」

「絶対なるよね!」

 

こんな日々がずっと続けばいい。鬼になんて負けずに、残酷な現実なんて打ち壊す勢いで。

 

――――――――

 

「アオイがあんなに変わるなんてね」

 

笑い合う二人を見て、花柱―――――胡蝶カナエは頬を緩めた。

心に傷を負った少女だった。

鬼に恐怖を抱いて、それに追い立てられるような少女だった。

いつも気を張っていて、余裕が無くて。

とても苦しそうにしていた少女だった。

でも、

 

「平行世界の記憶を得てからは、見違えるように変わったのよね」

 

表情が緩まった。

がなりたてるように、叱り付けるようにしていた心配は、慈母の様な暖かな物になった。

余裕が出来て、気の緩急も着くようになった。

なにより、伊之助君と居る時のアオイは、美しくて可愛らしい。

正しく恋する乙女だ。

 

なにもアオイだけでは無い。

変わったのはカナヲも一緒。

判断をコインに任せていたのに、いつの間にやら心の声を取り戻して。

貼り付けたような笑顔は、花の綻ぶような笑顔になって。

炭治郎君の事を話す時の表情、声、雰囲気は愛慕と恋情に溢れている。

 

あの子達のおかげで、二人は変わったのだろう。

――――――そして、妹も。

 

変わっていた。

私が死んでから、笑顔を張りつけたのだと、妹の同僚だと言っていた青年は告げた。

何時も笑顔で、苦しんでいたと。

私と話している時は、この世界のしのぶが生きていた時とそんなに変わらないのだけれど。

義勇君の話をしている時のしのぶの顔は、私の知らないしのぶだったのだ。

『まったくもうあの人は』と告げる声ははずみ、頬は緩んでいる。

『義勇さんは全く、』と愚痴る声も、どこか愛おしげで。

何よりも愛しているのだろう。と確信する。

 

「義勇君、炭治郎君、伊之助君」

 

私の大切な妹達を愛してくれて。ありがとう。

 

その声は風に乗り、誰の耳に届くことも無く消えて行った。

 

 

 

私は貴方の虜

 

炭治郎が、帰ってきた。

無限列車から、重傷もなく、また、上弦ノ弐、参の討伐という大きな戦果を上げて。

 

「ただいま。カナヲ」

「おかえりなさい。炭治郎」

 

炭治郎が私の事を抱き竦める。

 

「は、はわわ」

 

暖かな陽だまりに包まれたようだ。

炭治郎の両腕は、私の身体を優しく包み込んでいて、その顔は私の首筋に埋まっている。

 

「―――――逢いたかった」

 

愛おしげに、私に告げる。

 

「⋯うん。私も」

 

何時も、こうなのだ。炭治郎は。

一度家族を喪ったから、大切なつながりであればあるほど、片時も離れようとしない。

怖いのだろう。手が届かない事が。救えない事が。

 

「大丈夫。私は強いから、そんな簡単に死なないよ」

「⋯そうだな。カナヲは強いから」

 

でも、と炭治郎は続けた。

 

「カナヲは魅力的だから、少し目を離したら他の誰かに摘み取られてしまうかもしれないだろう?」

 

俺はそれが怖いんだ。

と炭治郎は言う。

な、にを、言うのかこの人たらし旦那は。

私の方が、怖いのに。

貴方は誰にでも優しいし、欲しい言葉をくれるから。

男であっても女であっても、貴方に惹かれる人は数多いる。

貴方の方が余程魅力的で、ほかの人に取られかねないというのに。

困った旦那様だ。

 

「⋯大丈夫。私は貴方しか見えてないよ」

「――――ッ、カナヲ⋯!」

 

ぎゅう、と抱き竦められる。

そして、

 

「結婚したら、覚悟してくれ」

 

初夜は優しく出来る気がしない。

と艶やかに告げる貴方の声は、何時もより低くて、

 

「⋯ぁっ」

 

とんでもない炭治郎だ。

こんな魅力的な旦那様にこんなに艶美な誘惑をされてしまって、逃げられる女がいるのか。

 

「⋯はい⋯っ!」

 

私は、もうこの旦那様から逃げる気もなければ、逃げられる気もしないのだけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

稲妻がまた奔れるように

 

善逸さんが、帰ってきた。

 

「おか、えり!ぜんいつさん!」

「ただいま。禰豆子ちゃん」

 

元気がない。見ると、首元に勾玉を下げていた。

 

「その、まがたま、どうしたの?」

「⋯っ!これはね、」

 

兄弟子を殺したから、これだけでも、と思って。

 

「あ⋯」

 

そうか、善逸さんはもう、決着を付けてきたのだ。

『前』に祖父が死んだ、直接の原因―――――兄弟子について。

 

「⋯そう、ですか」

 

なら、する事は一つしかない。

 

私はとてとてと走り、善逸に飛び付いた。

 

「へっ、ア゛ーーーーーーッ(汚い高音)まってまってちょっと心の準備が整ってないの!?お願い許して勘弁して心臓まろび出ちゃうぅぅぅぅ!!」

 

やっといつもの善逸さんらしくなりましたね。

頭に手を添えて、弟妹にしていたように、頭を撫でる。

 

「がん、ばったねえ。ぜんいつさん」

 

いいこ、いいこと舌の足らないままに、どうにか言葉を紡ぐ。

 

「むり、しなくていいからね。いまは、ないていいからね」

「っあ、」

 

そのまま抱き締める。

 

「あしたから、がんばれる、ように。いまなこう?」

「う、あ、ああ」

 

善逸さんは、私の言葉で、堰を切ったように泣き始めた。

 

「うぁああああああああ!!」

「よし、よし」

 

そのまま、泣きながら、善逸さんは言葉を紡いだ。

 

「嫌い、だったんだ。でもね。兄貴だったんだよ。大事な家族だったんだ」

「うん。うん」

 

聴く、ひたすらに聴く。

 

「殺したくなかった!一緒に戦いたかった!肩を並べて、胸を張って弟弟子です!って言いたかった!」

「うん」

 

なでて、聴いて。傷ついた心に寄り添っていく。

 

「でも無理だったんだ!あいつは平然と人を殺してたし、人を喰ってた」

 

ねえ、と善逸は続ける。

 

「もしも俺がいなかったら、獪岳は幸せになれたのかなあ」

「わからない」

「そっか、だよねえ」

「でもね」

 

これから告げるのは、偽りのない本音だ。

 

「ぜんいつさんがいたから、わたしはしあわせになれたんだよ」

「⋯え?」

「わたしがおにでも、わたしが『わたし』だからすきになってくれるひとなんて、そうそういない」

「そんなこと」

「あるよ。わたしにまいにちはなしかけてくれて、いっぱいつれだしてくれたの」

 

それにどれだけすくわれたか、あなたはしらないけど。

 

「あなたがいたから、わたしはしあわせになれたんだよ」

「そっ⋯かぁ⋯!」

 

また泣きそうになってる。もう、泣き虫なんだから。

 

「ありがとう、禰豆子ちゃん。俺、これからも頑張るよ!」

「うん、がんばってねえ。ぜんいつさん!」

 

あなたが頑張れるように、私は何回でも貴方を支えるね。

 

 

 

 

 

 

 

 

今度こそ

 

無限列車の任務を終え、義勇としのぶは家に戻っていた。

 

「⋯近々、鱗滝さん⋯俺の育手のところに行こうと思うんだが」

 

一緒に来るか?

 

と、義勇はしのぶに問うた。

 

「⋯何故ですか?関連性がよくわからないのですが」

「俺がこの世界に来たことで、鱗滝さんから文が届いた。それでしばらく文通していたら、しのぶと共にこちらに顔を出してくれないか。と言われてな」

 

なるほど。筋は通っているがしかし。

 

「私の事をどう伝えんたんですか?一緒に来るように言われるなんて」

「とても大切な人だと伝えた」

「なっ!?」

 

何を言っているのかこの天然ドジっ子は!?

 

「事実だろう?」

「それにしたって伝え方というものが⋯!」

「俺はそれ以外の伝え方をしたくなかった。ああ、だが、」

 

今伝えるなら、生涯を添い遂げたい人になるのだろうな。

 

「なっななななな⋯!!」

「上弦ノ弐は打ち倒した。であれば、後は鬼舞辻無惨以外の因縁など無い」

 

だから、と義勇は続ける。

 

「俺はお前を必ず幸せにする」

 

だから、鬼舞辻を打ち倒した後に、添い遂げてくれないか。

と、熱の篭った瞳で、しのぶを射抜く。

 

「⋯悪趣味な人ですね」

 

後悔しても知りませんよ?

と強がってみれば。

 

「後悔などするはずもない」

 

もとよりお前以外見えていないのだからな。

その言葉に、しのぶは泣きながら笑い、言葉を返す。

 

「なら⋯幸せにしてくださいね?」

「任せろ。今度こそ、一緒に幸せになるぞ」

 

その言葉ともに、義勇は口付けを落とす。

 

「今度は、離さないからな」

「今度は、離れませんからね」

 

だから、幸せになろう。

 


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