もし、とか、たら、とか、れば、の話   作:bear glasses

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ちょっと難産。
⋯おじいちゃん難しいよお。


昔日の春雷

――――――獪岳が、死んだ。

 

上弦ノ壱に殺されたらしい。

しかしおかしい。

上弦ノ壱に殺された報告が来たのは()()

しかし、獪岳からの文が途切れたのは『二週間前』。

これは、まさか。

 

()()()()()なのか。

 

思い立ったらもうどうしようも無くなってしまい、久方振りに産屋敷へと向かう事にした。

 

 

――――――――――

 

産屋敷邸

 

ここ、産屋敷邸にて、現当主産屋敷耀哉に―――――――獪岳と我妻善逸の育手、桑島慈悟郎は謁見をしていた。

 

「久しぶりだね。慈悟郎」

「お久しぶりにございます。御館様」

「それで、話とはなにかな」

「話とは―――――――――――我が弟子獪岳の真実についてございます」

「―――――真実?」

「はい。御館様、これよりする質問に偽り無く答えていただけますか?」

「⋯いいよ。偽りなく応えよう」

「ありがとうございます。では、」

 

我が弟子獪岳は、鬼になったのですか?

 

「うん。鬼になったよ。上弦ノ壱に遭遇して、死するか、鬼になるかを選ばされ、鬼になったらしい」

「なんという⋯!!」

 

なんという事か。雷の呼吸の一門から鬼を出すとは。

今からでも遅くはない。帰り次第腹を切る準備を―――――

 

「まあ切腹は許さないけどね」

「なっ、何故ですか!?鬼殺隊から鬼を出せば、その育手が腹を切る決まりがある筈です!」

「それが善逸の意思だからだよ」

「善逸、ですと?」

「善逸は獪岳が鬼になった事を知って、先日退治したんだ。そして、君が自刃しないように、僕に直談判をした」

「なんということを⋯!!」

 

善逸、何故そんなことをしたんじゃ⋯!

 

「⋯善逸は君が大切だったんだよ」

「だからと言って、隊律を破る理由にはなりませぬ」

「隊律を理由に善逸の覚悟を踏み躙るのはやめてくれないかな?慈悟郎が責任を取りたいのはわかる。でもね」

 

腹を斬る事が全て責任を取ることになるなんて思わない方がいい。

 

底冷えするような声で、耀哉はその一言を発した。

 

「獪岳が鬼になり、それを弟弟子である善逸が討ち倒した。であるなら、これはもう解決された事だ。確かに雷の呼吸の一門から鬼を出した事は失態だ。本来なら切腹だって当然の措置だよ。でもね?」

 

そうなった場合、雷の呼吸が壱ノ型以外断絶する。

 

「それは鬼殺隊として1番痛い。雷の呼吸は始まりの呼吸に近い源流の呼吸。それを失ってしまったら鬼舞辻討滅がより難い事になる」

「それは⋯」

「鬼を出したことに責を感じるなら、雷の呼吸を受け継がせていく事で、雷の呼吸でより多くの鬼を討滅する事で償っておくれ。それに」

 

祖父が孫の思いやりを無為にしてはいけないよ。

 

「⋯ありがとう、ございます⋯ッ!」

 

そうか、儂は守られていたのか。泣き虫で、誰の前でも恥を晒して、誰よりも優しく、暖かったあの子に。

獪岳⋯すまぬ。まだ待っていてくれ。儂が死んだその時は、地獄に追いかけ回しに行くから、そこでまた、性根から鍛え直してやるからの。

じゃから、

 

―――――まだ、生き恥を晒させてくれ。

 

 

―――――――――――

 

爺ちゃんから、文が届いた。

 

旨を伝えるなら、

 

『獪岳について問い詰めた。理由も知った。一度屋敷に来い。共に行動する隊士が居れば、連れて来てくれ』

 

「これ絶対怒られるやつじゃん!?嫌だァああああああ!!行きたくない!やだやだやだやだやだぁ!!」

「こら!善逸、恥を晒すな!朝からうるさいぞ!」

「だってさ!?爺ちゃんがお前ら連れて屋敷に来いって言うんだよ!獪岳の事も知ったって!これ絶対俺が怒れるやつじゃんかぁあああああああ!!」

 

え?お前泣くの辞めたとか言ってなかったか?って?泣くのは辞めたし任務前にごねることもやめたけど泣き言言わないとは言ってないだろバ――――――カ!

 

あっまって調子乗りましたヒノカミ神楽は勘弁してください。

 

「⋯善逸もか?」

 

俺も近々顔を出してくれって言われたんだ。と、炭治郎が言った。

 

「へ?そうなの?」

「ああ、なんでも義勇さん達と上弦を倒した事が知らされたらしくてな。それで錆兎達が祝ってくれるから来いって。勿論お前たちも連れて」

 

まあ水屋敷邸(錆兎宅)でだけどな。

 

「なるほどねえ」

「じゃあ、どこから行く?」

「最初は善逸の育手の方のところに行かないか?急を要すると思うから」

「そう⋯だね」

 

ああ、憂鬱ぅ⋯ 

 

 

―――――――――

 

桑島慈悟郎の屋敷にて

 

「ぉおおおおお、凄い量の桃の木だな!」

「だろ?ここは桃で生計を立てる果樹園でもあるんだ」

「美味そうだな!食っていいか?」

「おやつか夕餉に出るからそれまで待ってろ!ってかその前にとりあえず入るぞ!」

 

ギャーギャー騒ぎつつ屋敷に向かう。

そして、玄関で。

 

「じーいちゃーん!!かえってきたよーーー!!」

「うむ、よく来たな、善逸。そして同僚の方々も、よく来てくれた。上がってくれ」

「はい!」

「おう!」

 

 

 

 

「さて、まずは善逸。上弦ノ参の討伐、良くやった」

 

くしゃり、と頭を撫でられる。

 

「強くなったのう。聞いたぞ。漆ノ型を開発し、上弦ノ弐の頸を斬ったそうではないか」

「えへへ⋯でも、そいつ頸斬られてても生きててさ。あんまり意味なかったよ?」

「それでも、上弦の頸を切った事は素晴らしい事じゃ。成長したのう。善逸」

 

良くやった。

 

言葉が心に染み渡る。

ああ、俺は、この言葉が聞きたかったんだ。

ずっと、ずっと。この人の口から、直接。

 

「同僚の方々も、共に上弦を討ったと聞く。今日はたくさん馳走を用意したから、是非食べて言って欲しい」

 

夜になるまで、俺達は沢山食べて、話して、笑い合った。

夢みたいだった。また爺ちゃんと笑い合えるのが、一緒に過ごせることが。

そして夜、俺たちが寝ようか、という時に。

 

「善逸や、少し来てくれ」

 

話があるんじゃ。

 

ああ、獪岳の事か。

爺ちゃんは、獪岳のことを知ったから、俺はきっと叱られるのだろうか。

 

 

俺と爺ちゃんは膝を突合せた。

 

「善逸」

 

すまなかった。

 

突然、爺ちゃんが頭を下げた。

 

「な、なんで!?謝らないでよ爺ちゃん!?じいちゃんはなんも悪くないんだよ!?俺が勝手に隠して、勝手に行動しただけなの!」

 

だから、そんなに泣きそうな音を出さないでよ。

 

「お主に重しばかりを背負わせてしまった。無理矢理に呼吸を覚えさせ、最終選別まで行かせ、鬼殺隊士にした挙句、兄弟子を殺させてしまった」

 

師範失格じゃ。と爺ちゃんが自嘲した。

 

「⋯そんな事ない!爺ちゃんが居てくれたから、爺ちゃんが鍛えてくれたから!俺は強くなれたんだ!大切な人も出来たし、それを守れる強さも掴めたんだよ!⋯寧ろ、謝るのは俺の方なんだ」

「善逸、なにを」

「俺がいなければ、獪岳もあんなふうにならなかったかもしれない。心を歪ませる事も、病ませることも」

「善逸⋯」

 

でもさ。

 

「過ぎ去った事はもうどうにもならない。だから、俺はあいつの分まで生きて、彼奴の分まで鬼を狩る」

 

そして、大切な人を守り続ける。

 

「善逸⋯お主は強くなったの」

 

お前は儂の誇りじゃ。

 

爺ちゃんの言葉が心に染み渡る。

あの日、『前』に獪岳を討った時にも、三途の川で聞いた言葉。

また、言ってくれるんだね。誇りだって。

 

「⋯じゃあ尚更、頑張らないとね!」

 

俺は俺の自慢の爺ちゃんの誇りなんだからさ!

 

 

 

――――――――――――

 

次の日の事。

 

「じゃあ、俺達昼にはここを出るね」

 

昼にはここを出て、今度は炭治郎の育手の鱗滝さんのところに行くのだ。

 

「どこか行くところでもあるのか?」

「うん。炭治郎の育手の鱗滝左近次さんの所」

「なんと!炭治郎の育手は左近次であったか!」

「え!?鱗滝さんのことを知ってるんですか!?」

「勿論じゃ!同期でもあり、柱として共に戦っておった。⋯懐かしいものじゃのう。顔が優しすぎて鬼に笑われたからと天狗面をつけた時は思わず笑ったものじゃ!決断が早く、よく冷たい、冷血だと言われていたが、心の底では誰よりも隊士を心配する優しい男じゃった⋯左近次はお主にとってどんな師範だった?」

「鱗滝さんは、俺が死なないよう、力の限り育ててくれました。とても厳しい人ですけど、本当に優しい師範です!」

「そうかそうか⋯」

 

そう頷く爺ちゃんの顔はとっても穏やかだった。

 

「あ!そうだ爺ちゃん!俺が行く前にさ、俺の作った型、見てよ!」

「そうじゃの!お主の進歩を見せてくれ!善逸!」

 

 

 

――――――――

道場で。

 

儂は構えを取る善逸を見ていた。

 

「先ずは壱ノ型から行くね!」

「うむ!」

 

全集中・雷の呼吸 壱ノ型・霹靂一閃 十連!!

 

すると、雷と紛う音が鳴り響き。

善逸は霹靂一閃を十連続で打ち出していた。

 

「なんと⋯!」

 

全盛の儂ですら、霹靂一閃は六連までしか出来なかったというのに。

⋯これが、才覚か。

 

「次、行くね!」

 

霹靂一閃 神速!!

 

瞬間に、儂が目で追うのがやっとの程の斬撃が放たれる。

速い。霹靂一閃よりも。正しく、神速だ。やはり善逸は――――――

 

「まだまだ行くよ!」

 

全集中・雷の呼吸 壱ノ型・極 霹靂一閃 鳴神!!

 

 

そうして、善逸は出立の時が来るまで今己に出来る最大を、儂へ見せた。

 

 

 

 

 

そして、善逸達が左近次の所へと出立する時が訪れた。

 

 

「行ってきます!爺ちゃん!!」

「お邪魔しました!桑島さん!」

「じゃあな!」

 

「⋯行ったか」

 

強くなっていた。見紛う程に。

鳴神、と付けられた霹靂一閃の極地。

作り出された、漆ノ型と()()()

今までの後付けの型とは違う、牽制では無い決着の一撃。

いつかお前に見た鮮烈な春雷の如き才覚は花開き、今では輝かんばかりの轟雷となっている。

今の善逸ならば、どれだけ遠いところにでも手が届くだろう。

取り零すことなく、(だれか)を救える英雄()になれる。

 

「善逸や⋯お主の行く末をわしはずっと見守っておるぞ。だから」

 

儂より早く死んでくれるなよ。

 

 

――――――――――儂の可愛い孫よ。

 

 


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