ライザのアトリエ ~白銀の殺意と錬金術師の憂い~   作:椎葉 如月

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本編をプレイして、制作側がライザの涙を特別なものにしているとも思ったので、あまり泣かせたくなかったんですけどね。
彼女も女の子なので。




2話 ライザと錬金術の先

竜が去った後、流石に王都へ進む気にも慣れず、時間的にも丁度いいということで、三人は野営の準備を始めた。

 

錬金術は天才的でも、その他は平凡なライザは料理など全くしたことがなかった。

故に、旅の前に大量に保存食を錬金術によって作っていたのだが、物を見たアンペルとリラが「流石にそれは無理だ」と二人揃って言い放ち、あえなく調理開始となった。

錬金術で作った食物は、手作りほどの温かみも無く、食材の味8割・ゴムの味2割と表現されるもの。流石に好んで食べたくはないだろう。

 

そういうことで、調理担当となったのはアンペルだった。

見慣れないアンペルのエプロン姿に、ライザは興味深そうに声を漏らす。

 

「大抵の錬金術師にとって、料理は得意分野に入るんだがな。ライザ、お前ができないのは単に練習不足というだけだ。よくそれで旅に出れたもんだな」

 

「確かに方法は錬金術と似てるかもしれないけどさ。こう、ばーんと調合した方が早いじゃんって思っちゃうんだよねえ」

 

「それはある意味錬金術の才能に恵まれているとも言えるが……兎も角早めに身につけることだ。料理をしていて新たなレシピを思いつくこともあるぞ」

 

「んー、そう言われるとやってもいいかなぁ」

 

そうは言ったが、それからも「いや、でもなぁ」とウンウン唸っていた。

錬金術に興味は持てても、料理はまだ早かったのかもしれない。

 

「じゃあリラさんも料理できるの?」

 

「できるにはできるが、オーレン族特有の味付けだけだ。私は兎も角、こっちの人間にはお勧めできない」

 

「一度作ってもらったことがあるが、アレは獣臭くてかなわん」

 

「私はこっちの味付けに文句がある訳ではないし、基本調理はアンペルに任せている」

 

そうしないと私が餓死してしまうからな。そうアンペルは冗談めかして笑った。

そこまで言われると逆に興味が出てくるライザだった。

そういえばと、キロの野営地を思い出す。あそこにあった鍋からはいい匂いがしていたけど、部族ごとに調理方法が違うのかな、と想像する。

そこらへんはこれからの旅で知れるだろう。

 

出来上がったのはシチューだった。

スタンダードな献立だが、だからこそアンペルの腕が良いことがわかる。

食材も良いのだろう。鮮度が抜群で、不良な部分は見当たらない。

 

トロトロのそれをスプーンで掬い上げると、良い匂いが鼻をくすぐる。

いやに減っている腹が早く口に入れろと要求してくる。

 

ライザは次々にシチューを口に運んだ。味わうという概念を知らないらしい。

 

「んで、アンペルさんたちはなんでこっちに来たの? まさか、あの竜を追って?」

 

「それは間違いではない。しかし、正解でもないな」

 

「その勿体つけた言い方、変わってないんだね~」

 

アンペルは満点の星が輝く空を見上げる。竜の姿を思い浮かべていた。

 

「ここ最近、凄まじい力を持った魔物の目撃情報が相次いでいた。私たちはそれを追っていたんだ」

 

「各地で情報が上がっていたから低かったが、フィルフサである可能性は捨てきれないからな」

 

「『門』の封印が一斉に解けたのではと、最悪も想定していたはずなんだが……事態はそれ以上に深刻らしい」

 

月光が反射してアンペルのモノクルが妖しく光る。

憂いを帯びたその表情に、ライザは不安を募らせる。

 

「結論を言おう。私たちはあの竜に関して何も知らない」

 

「そう、なんだ……」

 

「あれは生物が太刀打ちできるようなものには思えない」

 

「リラさんがそんなことを言うほどの敵なんだ……」

 

二人の内、戦士であるリラが言うことなら、ある程度正しい。長年魔物と闘ってきた勘がある。

 

それに、ライザも竜と直接戦闘をしたのだ。ライザの魔法が一切通らなかった。魔法耐性が高いのは確実だ。

そうでなくても、物理攻撃も効果があるとは思えなかった。

 

なぜだろう。あの竜の一切が、自分たちとは隔絶していたように思えるのだ。

自信のあったイージスアリスも、容易に破られかけた。

アンペルの補助がなかったら――――

 

「そういえばアンペルさん。あの金色の膜はなんなの?」

 

「あぁ、あれか。いやなに。お前と、考えることは同じってことさ」

 

こともなげに、アンペルはそう言い切った。

しかし解せないことがある。イージスアリスは理論的に魔法攻撃の一切をシャットアウトする。それを破られたのならば、アンペルの防御膜を加えたとて、防げるとは思えない。

いや、単純に防御が上がったのだと言われればそうかもしれないが、ライザの錬金術師としての勘は納得しなかった。

 

「…………そうだな、教えておこう。これは、お前たちと別れて錬金術の研究を再開して発見したんだが」

 

アンペルは顎に手を当てて、説明を始める。

 

「錬金術で調合をしてできたものは、金色であればあるほど完成度というか……強度…………上手い表現が見つからないな。とにかく、そういったものが上がる。そんな感じだ」

 

「金色――――っ! あの竜も……」

 

「そうだ。だが、違う。あの竜はもっと深いものだ」

 

確かに、言われてみれば竜の放ったブレスは、アンペルの膜よりも強く輝いていた。

そこにあるだけで押しつぶされるようなそれを前に、ライザも半分諦めかけていたのだ。

 

「私の退魔の衣はただそれを模しただけ。模造品だ。だが――――あの竜はいわば完全」

 

「そうなんだ……。でもどうして?」

 

「それはわからない。本当に、発見しただけなんだ」

 

「ライザ。あまりアンペルをいじめてやるな。これでも毎日考えているんだ」

 

「錬金術師として、自分でも理論が説明できないことは言いたくはないんだがな。私も調合して偶然完成しただけだ。狙って作れるものではない。だが、お前ならば解き明かせるかもしれない。そう思ったから言うべきだと判断した」

 

そう言うアンペルは若干悔しそうだった。

腕を壊していた頃は、錬金術の探求などできなかったからか、ライザの成長はただただうれしいものだった。己の望みを叶えてくれるのではと。

しかしライザに腕を治してもらってから、欲求が増えたのだろう。

 

「錬金術、金色……竜、か」

 

そう呟いたライザの口元は、緩まっていた。

アンペルとリラはやれやれと呆れている。

 

「まったく、私の話を聞いていなかったのか?」

 

「変わっていないようで、安心したぞ。お前のあんな姿、前は見られなかったからな。手弱女になってしまったのかと思った」

 

咎めながらも、二人も同様に嬉しそうだ。

いつでもどこでも、冒険を求め突き進んでいく子どものようなライザは、今もなお変わっていないのだ。

 

「あったりまえでしょ! あたしはあたし! どのみちあの竜をどうにかしないと安心できないし」

 

「そうか……なら、私たちも協力しよう」

 

アンペルから言われた言葉は、予想外のものだった。

アンペルたちの旅の目的はあくまで『門』の封印。さきほども話していた通り、ここに足を運んだ理由が、フィルフサがいることを憂慮してのことならば、また別の場所に旅立ってしまうと思っていた。

 

「なんだその顔は。私たちはそんなに薄情に見えるか?」

 

「あの竜を倒さなければ、今度こそ各地の封印が破壊され未曾有の事態に陥るかもしれない」

 

「そういうわけだ。要するに、これもフィルフサへの対抗策の一手というわけだ」

 

ここでお別れだと思っていた二人からそんなことを言われると、どうにも嬉しくなってしまう。

 

「もうっ! 素直に助けてやるって言えないの?」

 

「悪いな。私たちはどこまでも、お前の言うところの『回りくどい大人』ってやつなんだ」

 

「私とお前を一緒くたにするな」

 

心底心外だと言わんばかりの顔をするリラ。だが、隠しきれない信頼が滲み出ている。

やっぱり二人はいいコンビだと、ライザは思う。

 

「えっと、じゃあまずはどうしようか」

 

「そうだな……少し気になることがある。王都の図書館で調べものがしたい」

 

「なら、行先は決まったな」

 

「あたしも丁度王都に行こうと思ってたし。やっと冒険が始まった感じ!」

 

クーケン島以外の生活圏を知らないライザ。別の街に行くというだけで心が躍る。

新しい文化や物。レシピを思いつくような本などもたくさんあるだろう。

 

「早く行ってみたいなあ」

 

「そうだな。お前に私の師を紹介するものいいかもしれない」

 

「アンペルさんの師匠!?」

 

自分に対しては師匠になれないと言った人物の師匠というのは、なんとも気分が悪い。

それに、彼が見た目通りの年齢ではないことは聞いている。ならば、その師匠という人は相当な高齢なのでは?

 

「ふふっ、楽しみにしていろ。あの人にはさしものお前でも、苦労するだろう」

 

「なんか、いやな予感が……」

 

「私も、アイツは苦手だ……」

 

リラがげんなりと項垂れる。

恐れを知らないリラをしてそう言わせる人物とはどういう人なのか、ライザは戦々恐々だ。心なしか、色白な肌が青ざめている気がする。

 

「二人とも、人の師匠に散々な言い様だな――――まあ、気持ちはわかる」

 

アンペルも、己の師を想起しているらしい。苦笑いを浮かべている。

 

それからも、別れた後の話をそれぞれが語った。

ライザは己が調合したものを誇らしげに見せ、説明をした。

アンペルとリラは、『門』をいくつも封印したとのこと。アンペルの腕が回復したことで、これまで以上にスムーズに作業を行えたのだろう。

 

語りだした夜はいつもより長く、そして短かった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

三人は地図を広げて、これから通っていく道を確認していく。

 

「さて、王都へと向かうわけだが、実質ルートは一つしかない」

 

そう言ってアンペルが指したのは火山ヴァイスベルクだった。

 

「この山さえ越えればあとはこれと言った障害はない。強いて言えば、道中に街や村が少ないことか」

 

「えぇ、じゃあ他の道から行こうよ」

 

「そうもいかん。ピオニール聖塔を囲んでいる険しい山脈を越えるのは現実的じゃない。崖を登るのと同じだ、専用の装備が必要になってくる。加えて、山間には強力な魔物が住んでいるという話だ」

 

「私たちも出会ったことはないが、手は出さないほうがいいと言われている。旅人の間では有名だ」

 

竜だけでも大変なのに、まだそんな魔物が潜んでいるのかとライザは大げさに震えて見せた。

 

「そしてメイプルデルタの向こうだが――――絶対に近づくな」

 

「えっ」

 

鬼気迫るようなアンペルの口調に、ライザはやってもいないことで怒られたかのような居心地の悪さを感じた。

あの美しく、平和な光景のメイプルデルタ。その先になにがあるのかというと、

 

「あの一帯の大地には巨大な亀裂が奔っていて、越えるには一度谷へ降り立たなければならない。しかし、谷間は信じられないほどに巨大で、非常に過酷な環境だ。すべて、伝え聞いた話だがな」

 

「数少ない踏破者からフィルフサの目撃情報も挙げられているが、私たちでは近づけない。幸いにも、フィルフサでさえ、あそこで生き抜くことは難しいらしいからな。『門』が存在していることは確実だが、周辺での被害は確認されていない」

 

いつか、閉じなければならないけどなとリラは付け加えた。

 

二人の言葉はすべて注意するような口調だが、話を聞くたびにライザの冒険心はくすぐられている。

二人は気付いているのだろうか。

どちらにせよ、知識として知っているだけで、もしもの状況に陥った場合の対処は違ってくる。そう思ってのことだろう。

 

「とにかく、そういうわけでその2ルートから行くことはできない。さらに遠回りする道だと時間がかかりすぎる。だから、火山を越える」

 

「そういうことね。とりあえず、わかった」

 

「そのとりあえずってのが怖いな」

 

いつか、挑戦してしまうのだろう。ライザはそういう人間だ。

常に冒険することを忘れずに、やると決めたことには真っすぐ。

だがどうしてだろう。ライザならどうにかしてしまうのではと思わされる。

 

「じゃあ、さっそく火山に向けて出発っ!」

 

ライザはみんなのアトリエのエンジンを始動する。二人は慣れない感覚に戸惑うが、そんなこと関係ないと言わんばかりに平原をアクセル全開。

一直線で火山ヴァイスベルクを目指す。

 

 

 




設定の間違いや誤字などを教えていただけると助かります。
違和感ないように書き換えるようにするので。
一人称の間違いなど、細かい部分でも有難いです。
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