「折れた一刀を突き返してやれ」
それが父の遺言だった。
竹刀を振る。汗が滴り、飛び散る。
若い男が一心不乱に素振りをしていた。その手には螺旋を描く刀の文様の令呪が刻み込まれていた。男の名を進藤光といった。
ひとしきり汗を流したところで手を握りしめる。そして己の気力が十分に高まったことがわかるとで目の前の魔方陣に向き直った。
その中心には先程決闘によって力つきた父親が横たわっている。
令呪を宿したのが光だとわかると、父は決闘を約束させた。優れた剣士として勝った方が今回の聖杯戦争に参戦することになった。ただ生き残った方が剣士として最強を証明せよと己の生涯をただその証明のためだけに捧げた父は息子に令呪が宿ったことが許せなかったのだ。
光は自分のルーツについてはある程度は知っている。自分の技が、追われた魔術と剣術の融合であることも。そしてかつてあっけなくあの名高き宮本武蔵に負け追われたということも。そして自分の祖先と宮本武蔵との戦いはかの御仁にとっては語るまでもなかったということも。そのことにひどく腹を立てた祖先は復讐を誓うがそれは結局かなわなかった。以後、光の一族は最強の剣士という呪縛にとらわれることになったのだ。
触媒は二つ。先祖代々伝わる錆びた折れた刀と祖父の死体。
その折れた刀は武蔵との戦いの際に二刀のうち一刀が折れた物だとされていたのだ。
さあ、誰がでるか。
宮本武蔵なら、その時は潔く決闘を挑もう。例え命を散らすことになったとしても、自分はそれ以外の生き方など知らないのだから。
不退転の決意とともに祝詞を紡ぐ。父の血で描かれた魔方陣が光に包まれる。
まばゆい輝きから現れたのは一人の剣士。年の頃は光よりわずかばかり上の男であった。
和装にただならぬ物腰。その腰には刀を一本だけ帯びていた。
そのことに気づいた瞬間拍子抜けした感情とともに、どこか安堵のような物を感じた。
恐怖していたか。俺も未熟だな。
心の中で自分を罵りつつ、光は目の前で頭を垂れていた男に問いかける。
「俺がおまえのマスターだ。セイバーでいいのか?」
「しかり。我が名は渡辺綱。此度の戦いセイバーのクラスで現界させていただいた」
「俺の願いは剣豪宮本武蔵との一騎打ち。セイバーおまえの願いは一体何だ?」
綱は顔を上げ、光の顔をじっと見つめた。驚愕していたのだ。人の身でありながら、英霊に戦いを挑むことなど尋常ではないからだ。
だが光が本気だとわかると、綱は厳かに答えた。
「はい、拙者の願いも一騎打ちにございます」
「相手は?」
「大江山の化生、酒呑童子にございます」