fate/spiral   作:ミュース

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勢いで書いていますのでアラが多いですが、ご容赦いただければ幸いです。


開戦

 聖杯戦争開始の合図を確認した日の夜、進藤光はセイバーと共に渡辺綱とともに市街地をうろついていた。

 徳島は人口の衰退の激しい地域であり、市内といえどハズレた道には人などほとんどいない。ましてや夜ならなおさらだ。

 そこでぴくりと、進藤の肩が揺れた。

「これがサーヴァントか」

「気づいたか」

「たしかに感じる。他にも、いくつか気配があるな」

「ああ。大方様子見の連中だろう。まずは俺達の戦いを見て、色々と推し量ろうというわけさ」

「面倒な。全員が集まって正面からやりあったほうが手間が省けていいだろ」

「そんなことをすれば勝つのは三騎士の誰かだ。キャスターたちも頭を使えということだろうよ。ーーー出てこい。そちらももとよりそのつもりなんだろう?」

 戦闘準備に入った二人の前に三人連れが現れる。

 二人は西洋風のいかにも時計塔の魔術師と言ったよくある魔術礼装に身を包んだよく似た顔立ちの男女。ハリソン兄妹だ。そしてその前に守るようにしてランサー九紋竜史進が立つ。

「それもそうだな。やっぱ先人をきって戦うのは俺たちの仕事だろ?なあ、セイバー」

 そういってランサーは肩に槍を担いでけだるげにセイバーに向かってにらみをきかせる。

「そういう貴様は、ランサーだな」

 セイバーもまた鯉口を切る。

「そのとおり。まあ、見りゃ分かるだろうけどな。覚悟はできてんだろうな」

「無論だ」

「やるぜマスターさがってな!」

「え、ええ!やってやる。あなたの力を見せて!ランサー!」

 応とランサーは答えるや否やセイバーと距離を詰める。

 槍を抜き放ち、鋭い一撃を放つ。

 セイバーはそれを危なげなく防ぐ。

 ランサーは距離をとることなく荒れ狂う龍ののように連撃をたたき込む。

 一合。セイバーはこの程度かと拍子抜けした思いだ。彼は達人である。使い手の技量など一度武具を打ち合わせればそれだけで把握できる。長年の経験によって培った自分の勘に従えば、目の前の男はたいしたことがなかった。それこそ返す刃で斬り殺せるほどに。

 二合。セイバーは思い直す。偶然か否か、槍が先ほどよりもよい延び方をする。

 三合。反らそうと添えた刀がはじかれた。

 セイバーはこの時点で先ほどの考えを捨てた。

 四合。ランサーの槍はセイバーのそれと同程度。だが目の前の男の獰猛な笑みからこの程度などまだ半ばだと察する。

 その槍の速度は振るうたびに早くなる。

 セイバーはたまらず五合目にて距離をとった。

「手練れだな。それに、面妖な技だ」

 そう言ったセイバーの腕にごく浅くだが服が切れ一筋の血が流れる。

「まあな!誇りに思え。この俺の連撃を五合目まで受けれるやつなんてそうはいねえよ。ーーーやっぱこの戦いはおもしれえな。断言してやる。俺に七本目の突きを出させた時、てめえは負ける」

「面白い」

 セイバーは刀を青眼に構える。

 ぷっとその頬から血がにじんだ。頬がまるでようやく斬られたことを認識したかのように傷が開いたのだ。そのことにセイバーは闘志を燃やす。

 なぜならこの正々堂々の戦いこそがセイバー・渡辺綱の望んだものなのだから。

 

 

 

 これが聖杯戦争!

 ジェシカは気を抜けば震えそうになる自分を叱咤してなんとか動揺を外に出さないようにした。兄は隣で腰を抜かしている。そのことに落胆を覚えながらも、同時に無理もないと感じていた。

 ジェシカには先ほどの打ち合いがほとんど見えなかった。だが史進の持つ両刃三尖刀には確かに血がほんのりついていた。その血が刃を流れ落ち、地面にしみこむ。

 それがジェシカに戦いという者を否応にも認識され、その迫力に圧倒されそうになっていた。だが敵の、間違いなくセイバーのマスターであろう東洋人は全くうろたえていない。そのことがジェシカを奮い立たせていた。

 でも史進がここまで強いとは思わなかった。そのことに安堵を覚えていた。実際ジェシカからは先ほどの打ち合いでは史進は全く手傷を負っていない。

 問題は敵の宝具だが、それはこちらにもある。

「ランサー。宝具ならいつでも使っていいから。がんがんやっちゃって!」

 これぐらいならつながったパスで伝わりそうなものだが興奮したジェシカは思わず口に出していた。

 

 

 

 これが聖杯戦争か。

 進藤光は先ほど繰り広げられた打ち合いに心を揺さぶられていた。このとき彼の心の内は平穏とは真逆の燃えさかるような情熱と歓喜に打ち震えていた。

 あの戦闘に混ざりたい、できるならば綱と替わりたいと願うが、それだけはできなかった。

 なぜならば、それがセイバーとの約束だからだ。

 こうして戦う直前、光は一つの約束をさせられていた。それは絶対に一騎打ちの邪魔はしないというものだった。それだけが、綱との間にある約束であり、そして二人にはそれだけで十分だったのだ。その約束を交わした時の、言葉、表情、それだけで二人は万の言葉何十年にもわたる関係性を超えた絆を手にしていた。それほどに二人の奥深くにつながる言葉だったのだ。

 だからこそ今の自分にできることはただ目の前の英霊が全力で戦えるようにすることだけだった。ランサーのマスターが声を上げたので光もそれに呼応するように声をかけた。

「セイバー。遠慮はいらない。もし、何かあったとしても俺は本望だ」

 光のその言葉を聞いたセイバーはにっと笑みを浮かべた。

 そしてそのすぐ後光はとてつもない疲労感を味わった。セイバーが宝具を開帳したのだ。

 

 

「ランサーよ。許しが出たのでな。次は本気でいかせてもらう」

 言うやいなや、セイバーの周りに張り付いていた当機のようなものが刀に集中する。そして淡く青く輝き始めた。

 その圧倒的な密度に全ての者が理解した。

 あれは、触れてはならない者だと。

「吸え、髭切」

 セイバーは隠すことなく己の宝具の名を口にする。

「あらかじめ言っておく。この刀は、全てを切り裂く」

「ははははは!おもしれええ。行くぜ、マスター魔力を回せ!」

「う、うん。分かった!」

「見ててくれよ、先生!武芸十八般九竜星」

 ふっとランサーの周りにいくつもの武具が浮かぶ。その数は手に持つ変わった形状の槍と併せて全てで十八。それが輪になった龍の軌道を惑星のように回っている。

 セイバーがその場で剣を振り下ろした。

 当然刃は届かない。だがランサーは刺すような殺気を感じ、自身の周りに浮かぶ衛星のうちの一つを頭上にあげる。

 金属を力尽くでねじ切るような音とともにランサーの頭上の空間がゆがむ。そこから飛び出すのは青白い魔力をまとった日本刀。

 その前に現れた盾が接触。だが、一切の抵抗なく、まるで空気でも切るかのように刀は盾を素通りしたように見える。だが盾はぱっくりと二つに分かれた。

 ランサーは驚愕した。上体を反らし、刀をすんでのところで交わす。

 刃が浅く額、左胸、脇腹をかすめる。

 血は流れ出る。だというのに、一切の痛みがなかった。それこそ切られている最中でさえ何も感じなかった。

「面白え」

 ランサーは流れる血を拭う。ピッと手を払うと地面に血のまだら模様ができる。

「ランサー!」

 すかさずジェシカは魔術でランサーに治療を施す。呪いの類いはかかっておらず、傷は瞬時に癒えた。

「サンキュー、マスター」

 傷が治るとすぐに、ランサーはセイバーに詰め寄る。技の性質からして、距離、防御を無視する超攻撃に特化した宝具。距離を置いて戦えばそれだけ不利だと判断したのだ。何より、接近戦の方がランサーの得意分野でもあったのだ。

 それをセイバーは腰を低くして、刀を上段に構え迎え撃つ。火の構えだ。

 これこそセイバーの戦術。接近戦を望んでいたのはむしろセイバーの方だったのだ。彼には敵がどのような手立てをとろうが一刀で首を跳ね飛ばす自信があったのだ。

 それこそがこの雅な日本刀、髭切を扱うということなのだ。

 だがその目算もランサーの企みで灰燼と化す。

「そらよ!」

 ランサーはまだ両者の間合いに入っていないところで槍を投擲したのだ。

「ぬ!」

 雷鳴のように空気を切り裂き両刃三尖刀がセイバーに迫る。交わすこともできず、セイバーはこれを上段からの振り下ろしにて迎撃。

 一撃必殺の技を外し、俄然ランサーが有利となる。

 そのままランサーは己の周りで公転する武具のうちの一つ、弩を手にする。

「がんがんいくぜ!十はもってくれよ、セイバー!」 

 その鏃が放たれる。

 弓から放たれた途端、矢は九つに分かれる。

 その各々が魔力をまとい、竜をかたどる。

 一矢にて九つの竜を放つ。その一つ一つが必殺の威力を秘めていた。

 対するセイバーは振り下ろしたばかりで体勢は崩れている。

 その類い希なる動体視力により、矢の軌道を把握。身をよじり、5つの矢を交わす。

 だが四つは交わしきれず身をかすめていく。そのうちの一つが右腕の上腕部を貫く。

「行け!」

 ランサーは次は矛を右手に取り、左手をセイバーに向かって振り下ろす。

 その途端ランサーの周りに漂っていた武具が一斉にセイバーに襲いかかる。

 襲い来る武具の群れ。だがそれが襲い来るのは前方のみ。

 セイバーは後ろに活路を見いだした。

 後退し、下がる。それを見たランサーが笑みを浮かべる。そして叫ぶ。

「曲がれ!九紋竜!」

 その瞬間先ほど外れた五つの矢が向きを変え、背後よりセイバーに襲いかかる。

 すでにセイバーは体勢を立て直している。

 一刀のみならば、刀を振るえる。

 だがランサーの攻撃は前後より襲い来る。前を迎撃すれば五つの竜が。背後を守れば前方の武具とランサー自身が襲い来る。この挟撃にジェシカは勝利を確信し、光はなにも言わずただセイバーを見つめる。

 とその瞬間セイバーはくるりと背を向けた。矢の迎撃に入ったのだ。

 通常ならばあり得ない選択。だがその迷いのない動き、全く衰えていない闘気に薄ら寒いものを覚えながらもランサーは決着の一刺しを放つ。

「とどめだ!セイバー!」

「裂けろ、髭切!」

 セイバーは下段からの振り上げにて五つの竜と化した矢を迎撃。

 ランサーの体に悪寒が走る。頭頂から足下まで氷の針を突き通したかのような恐怖。そしてセイバーの振り上げに同調するようにランサーの体が空間ごと横に避けた。

「があ!」

 直前で身をひねり、直撃は免れた。だがーーー。

「そんな!ランサー!」

「くっそ!まずったぜえ」

 ランサーは右腕を押さえ、血を止めようとする。すぐにジェシカからの補助が入るが失ったものは大きい。右腕は肘より先が引き裂かれていた。

「あれを、交わしたか」

 対するセイバーは五体満足。ランサーの放った武具の全てを迎撃することはできず、いくらか負傷していたが、それでも戦えないほどではない。 

「それではつらかろう。介錯させていただく」

 セイバーは左腕のみで刀を振り上げ、せめ苦しまないようにとその首めがけて振り下ろす。

 ランサーも己の敗北を悟り、おとなしく運命を受け入れようとした。もうほとんど体が動かなかったのだ。

 だがこれは聖杯戦争。二人だけの戦いではない。

「だめ!ランサー!」

 首に達する直前、ジェシカは令呪を使ってランサーを強制的に転移させる。己のすぐそばだ。

「兄貴!」

「わ、分かった」

 イーサンはランサーを背負い、じりじりと後退していく。

 ジェシカは冷や汗を流しつつも毅然としてセイバーと向かい合った。

「一騎打ちの邪魔をすんじゃねえ!俺の負けだ!」

 そう言ってランサーは暴れようとする。だがジェシカはそんなランサーの頭をしばいた。

「うっさい馬鹿!そんな軽々しく負けだなんて言わないでよ!こっちには負けられない訳があるんだから!」

 ランサーの首ががくんとおれ、何も言わなくなる。

「ちょ、ちょっと!」

「お前、なにとどめ指してるんだ!」

「いや。だって勢いで、その」

 そのやりとりにセイバーは思わず、口がほころぶ。毒気を抜かれてしまった。先ほどまであった興奮は過ぎ去り、ただ心地よい疲労感だけが残った。

「いいだろう」

 セイバーが言葉を発すると、ランサーが顔をあげて再び騒ぎ出す。

「ふざけんな!情けなんかかけんじゃねえ!」

「ちょ、ちょっと!ランサー!」

「ーーーだが、一つだけ約束しろ。必ず俺と立ち会え。この俺以外に仕留められることはゆるさん」

 セイバーのその言葉にランサーは息を飲み、互いに視線を交わす。セイバーの目の奥にあるものを感じ取ったのかランサーは素直になってうなずいた。

「ーーーかわった野郎だ。いいだろう。約束だ。この雪辱はかならず晴らさしてもらう」

「楽しみしている。行け、ランサーとそのマスターたちよ」

 セイバーが背を向け、己のマスターの元へ向かうとランサー陣営は慌ててその場を後にした。

「すまない、マスター。見逃してしまった」

「かまうな。俺にも理解できる」

 進藤光はそういうと令呪を一画使う。

「セイバー、その傷を癒やせ」

 令呪から流れ出た魔力が渡辺綱に行き渡り、負傷していた腕を始め、全快へとその体を整える。

「使ってしまっていいのか?」

「かまうな。俺たちの願いは常に勝負にある。それは結果より、過程が大事なんだ。悔いを、残したくはないだろう」

「ありがたい」

「さて、どうするか。一応戦って見たものの、ほかの連中は一人も現れなかったな。一応不意打ちには警戒していたんだが」

「だからだろうさ。マスター。あなたの闘気はなかなかのものだが、少々物騒だ。もう少し押さえなければみな逃げてしまうさ」

「むう、そうか」

 サーヴァント何するものぞと思っていた光だったが先ほどの見事な戦いをを通して、サーヴァントに対してを仰ぐような気持ちになっていた。貴重な教えを授かったとばかりにうなずいてしまう。

 だがその瞬間、セイバーの表情が揺れる。

「マスター、走るぞ!」

 一泊遅れて光もことの原因を悟る。

「くっそ!そういうことか」

 二人はかけだした。今し方ランサーたちが去った方へと。

「ああ。間違いない。ランサーたちが、襲われている!」

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