TSしたけど俺はぜったいに女にはならない   作:ペルー来航

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りんこ:右に二つ、左に三つピアス
まりな:ピンキーリングをたまに着ける
みゆき:何もしない。


今日の放課後 下

 

 

 

 

「あっ降りなきゃ。じゃーねりんこ! みゆき!」

 

「おう」

 

「また明日ねー」

 

 

 サラリーマンやらOLやらで、冬なのに蒸し暑くて叶わない満員電車からまりなが降りて見えなくなる。

 はぁ、と一息ついて吊革を握り直せば、俺の目の前の席でさぞかし楽そうに座っているりんこがにやにやと笑った。

 

 

「彼女いっちゃったなー。ごめんねー、ここから七駅私と一緒で」

 

「なんも言ってねーだろが。お前ほんと殴るぞ」

 

「きゃー、怖い」

 

 

 

 りんこは怖い怖い言いながら、しかし口角はにやにや釣りあげたままだ。

 そして、吊革を両手で持って体重を預ける姿勢の俺にスマホを向けると、そのままストーリーの撮影を開始した。

 

 

「みぃちゃんこっち見てーっ」

 

「おい。迷惑だからやめろよバカ」

 

「怒ってるみぃちゃんも可愛いよーっ」

 

「うるせっ」

 

 

 別に撮られることに抵抗はない──というか他人からどう見られようとなんとも思わないから──そういうのに不快感は無いが、電車の中でそれをやるのは何となくマナー違反な気がする。

 ほら。隣のサラリーマンがさりげなく顔を背けたし。

 

 辞めさせたいが、そんなこと口に出して言うわけにもいかないので、非難めいた視線を向けることで怒ったこととした。

 しかしりんこは勿論止める様子は無く、たっぷり30秒近くこちらにカメラを向けてから漸く、満足そうに携帯を下ろした。

 

 

「……おー盛れてる。ねー、なんでみゆきって急に化粧辞めたの? マジで勿体ないと思う」

 

「…………なんでも何も、面倒臭いからに決まってるだろ」 

 

「えー。知らなかったのかもしれないけどマジでみゆきとまりなって夏前まで人気だったんだよ? あ、まりなは今でも人気だけど。勿体ねーって」

 

「別にモテたくない」

 

 

 かーっ、勿体ねー、と再三口にするりんこ。正直言いたいことは分かる。風呂上がりに鏡で見る女の自分は贔屓目ぬきでも整った容姿をしていると思うし、スタイルもかなり男好きする感じなのだ。

 化粧すれば可愛くなって当たり前のレベルなのだ、今の俺は。

 

 だが。男にモテてどうする。というかそれ以前に、そういう『女性らしい行為』をするっていうのがもう気持ち悪くて無理だった。

 

 俺は男だ。今は女なのかもしれないけど、性自認とか自意識の部分で俺はどう足掻いても男である。

 さらに、変に憑依したみたいな感覚があるせいで、そういう行動をしようとすると自分が変わっていくような錯覚を覚えてしまって、薄ら寒い感覚がするんだ。

 

 

 

「……まりなだってさ、みゆきは女の子っぽくしてる方が嬉しいと思うけど?」

 

「…………知らねーよ。別にまりなは関係ねーだろ」

 

「いや、だってまりなめっちゃ心配してんじゃんみゆきのこと。正直よく今まで通りに接せれてると思うよあのこ。変わりすぎてて私はちょっと怖かったもん」

 

「…………そか」

 

「せやせや。あ、いや別に今は大丈夫だけどね。でも私は夏に男関連でやばいことに巻き込まれたのかなーって正直思ってる。別に言いたくないなら言う必要は無いけどさ、周りみんな心配してるって。馬鹿な男子はあんたのことディスってるけど」

 

 

 

 結構心にグサッとくることを言われて何も言えなくなる。

 こういうのが人間の怖いところというか、二面性とも言うべきか。さっき木村をきもいきもい言っていた女の吐く言葉かと。

 

 それを有り難がればいいのか、非難すればいいのか。ただ、今現在の女の俺に向けられているのは間違いなく『心配』であることは確かで───性転換憑依しました、なんて荒唐無稽なことも、ついポロッと言ってしまいそうになる、こともある。

 

 

 

「…………ありがとな。整理がつきゃ絶対言うよ」

 

 

 

 なんとはなしに、上目遣いでこちらを見上げるりんこの視線が居た堪れなくなった。

 だからその頭にぽん、と手を乗せて、目を逸らして返事をする。

 

 

「…………そのさり気ない撫で方はさ、私を堕とそうとしてんの?」

 

「な訳あるか。フケだらけだぞ」

 

「はーーーっ! 最ッ低! お前最低そんなわけなーだろバカ!!!」

 

 

 ばす、と振り払われたままに手を下におろして、髪の毛をくしくし確認するりんこを眺める。

 今度は上目遣いに、というよりもがっつり俺を睨みつけてくるりんこを相手に、何やかんやと軽口を叩きあった。

 

 

 

 

 

『次は〜、鴨ノ瀬ー、鴨ノ瀬ー』

 

 

 

 

 

 そんなこんなで時間を忘れてすぐ。

 気づけば車内アナウンスは俺の最寄り駅の名前を繰り返していた。

 そこまでに二、三大きめの駅を経由したことで、すっかり人の居なくなった電車。

 登校中とかもこんな感じなら楽なのになぁ、とこれは男の頃から継続して思う。

 

 

「あ、もうじゃん。フケだらけとか言ったの絶対許さないんだからね! 明日覚えてろよ!」

 

「ごめんって。じゃ、気をつけて帰れよ。りんこ」

 

「言われなくてもそうしますー!」

 

 

 

 プシュー、と開く扉と、ふしゃー!と此方を威嚇するりんこに見送られながら電車を出る。

 ……いやぁ、正直楽しかった。こういうイチャイチャは男のときなんか全くできなかったからすげぇ楽しい。

 もうこれで今日だけで五回目だ。これで俺が男だったらなって思ったの。

 

 内心でさっきのりんこみたくニヤニヤ。無骨な定期入れで改札をパスして、今日のことを思い返しながら帰路につく。

 

 

 

 タピオカの抹茶ミルク味はまぁまぁ美味しかったな、とか。

 

 りんこが俺にもピアス開けたらどうって言ってたな、とか。

 

 キャピキャピとアクセサリーを物色するまりなとりんこにちょっと疎外感を感じたな、とか。

 

 

 なんだろう。正直しんどい、しんどくはあるんだけどでも、思い返してみると今日も楽しいことばかりだったことに気づく。

 

 戻りたいと思っているのに、こういう楽しいもアリだっておもってしまっている自分がいる。

 

 ……もしかしたらもう半年もすれば、こうやって変化をこわがっている自分さえ居なくなるんじゃないか、とかぞっとすることを考えてしまって後悔した。

 

 

 

 どうなるのが正解なんだろうな。

 このまま変わっていった方がいいんだろうか。

 それとも、変わらないままで明日を恐がり続けていても、いいんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆side燐子☆☆☆

 

 

 

 

 

 最後に、まるでイケメンの彼氏みたいなセリフをサラッと吐いて消えていったみゆきのことを考える。

 

 あの子は変わった。本当に。

 夏休み前までは普通に可愛くて、男子人気もかなりあって、正直私からしてみれば鼻についたとこもある女の子だった。

 

 軽くぶりっ子も入ってた気がする。だからあんまりあの頃のみゆきは好きじゃなかったし、こうやって遊ぼうともしてなかった。

 

 

 それが夏休みを経て、本当に変わってしまった。

 

 私にしてみればみゆきは前よりも凄い接しやすくなった。

 清楚ぶったメイクもなりを潜めて鼻につく感じもなくなって、今なら友達になりたいと思うし、実際もう結構深い仲の友達だと自分でも思ってる。

 

 

 でも、まりなは。

 高校が始まった頃から同じクラスで、番号順が前後ろってのからずーっと二人で一緒に居たのを覚えている。

 

 だから夏休み明けに急に変わって学校に来てたみゆきをみて、ほんとに信じられないものを見る目で見ていたし、みゆきがいる前じゃそんな素振りこれっぽっちも見せないけど、私と二人でだべる時とかは必ず話題に出して心配を吐露するんだ。

 

 みゆきはそれに気づいてないみたいだけど、ちったぁまりなのことも考えてやれ、とは思うね。

 

 

 

 

 がたんごとん、がたんごとん。

 最寄まで後三駅。スマホを弄る気にもなんだかなれなくて、手持ち無沙汰な掌で、さっき撫でられた頭をその感覚を思い出すように自分で触れ直す。

 

 まりなはだいぶ変わっちゃったなぁ。主に心配しいな方に。

 それにひきかえ、みゆきは特に最近彼氏みたいな行動が多くて困る。

 

 別に私にそっちのけがある訳じゃないし、みゆきに撫でられたり優しい言葉を投げかけられることにときめく訳じゃ無いけど。

 なんというか、なんだろう。ホントにレズなのかなって思っちゃう。

 

 …………そして困ったことに、そういう行動を不快に感じれないのだ。私は。

 

 

 

「……くっそー。あいつマジでなんか奢らせてやろうかな……っ」

 

 

 

 うーうー唸って頭をふるう。

 うーん、そうだ! 確か使おうと思ってそのままのピアッサーがあった気がする、明日持ってってみゆきにピアス開けてやろう!

 

 

 覚えてろよぉ、と考えながら、人影まばらな電車の中ですっくと立ちあがる。

 

 

 

 ……別にお前に言われなくても、気をつけて帰るっつーの。

 

 

 

 ちょっとだけ心の中で恨み節を飛ばしてから、プシューと開くドアを経て、寒空の下に身を踊り出した。

 

 

 

 

 

 

 

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