紅蓮と深紅の決闘   作:◆.X9.4WzziA

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【8】

 シルバルド・民族自治区代表による緊急の記者会見が行なわれるとの一報は、多くのマスコミ関係者が想定した通りこの日の晩……20時を回った時点で告知された。

 会場となる民族自治区庁舎を取り囲む、無骨な鋼鉄の城壁。徐々に月明かりがぼんやりと照らし、城壁は淡く儚い輝きを帯び始めた。

 その外周には民家ほども大きい多数のゾイドが、後方に台車をつないだまま待機している。種類は様々で地球のイモムシに似たものもいれば牛や狼に似たものもいる。その多くは自治体や企業が管理している輸送用のゾイドだ。通常ならおとなしくしているものだが、今晩はそうはいかないようだ。何やらソワソワと幾度も首をもたげたり、尻尾を揺らしたりの繰り返し。

 理由の一端は常の晩なら閉鎖されているはずの、高さ20メートルを超える巨大な城門付近を見れば明らかだ。収穫祭の晩でもない限り、これほどまでに大きい都市の門が夜通し完全に開放されたままなどということはまずあり得ない。

 その城門付近には、人がまたがれる程度に大きい二足・四足の鋼鉄の獣達が米粒のようにひしめき合っている。騎乗者はいずれも両手にカメラらしきものを携帯し、或いはゾイドの背中などに同様の道具を固定している。彼らはマスコミ関係者だ。スクープの瞬間を今か今かと待ち構えているのだ。大声で怒鳴り合ったり談笑したりと気忙しい。

 そして万が一のマスコミ連中の暴走を食い止めるべく、城門前から民家並みのゾイド数匹分に渡りバリケードが設置され、そのそばには等間隔で鋼鉄の鎧をまとった兵士達が立哨中だ。この辺りだけで100名を超える人間がひしめき合いギスギスした雰囲気になっている。これでは輸送用のゾイド達が落ち着かないのは無理もない。

「来たぞ!」

 マスコミの誰かが叫んだ。皆一斉に、想定していた城門の正反対側を振り向く。

 満天の星空なれど、地平線に街の灯は見えない。立ちこめる土煙の中を、サーチライトの閃光が左右に、上空に入り乱れ、浮かび上がってきたのが沢山のイモムシ達。そしてそのすぐ後ろに巨大な所謂「ブロックス棺」が引き摺られてくる姿が見えてくるにつれ、途切れなきフラッシュとスイッチの音がけたたましくなっていく。

 あるマスコミ関係者は……この場に居合わせる他の関係者と比べても経験年数が長そうな白髪頭の男性は、時折騎乗している我が相棒(彼らが乗るロードスキッパーは砂埃で薄汚れている)の様子を伺うと何やら首をひねった。

 すぐそばでやはりゾイドに騎乗し撮影中の後輩らしき若者が声をかけた。

「どうしたんですか? 何か気になることが……」

「こいつ、ビビってるわけじゃあなさそうだけど、ずっと見ているんだ」

 ブロックス棺の方を、顎をしゃくりながら返事する。

「ゾイドコアの反応があればビビるはずだ。あんなに大きいからな。仮死状態は本当のようだ。

 でも警戒を解く様子もない。これっぽっちもだ」

 彼らが話している内に、ブロックス棺に続くイモムシ「モルガ」数匹とそれに引き摺られた黒いガラス張りの車両数台が続く。恐らくあの中にこの後の主役たる民族自治区の長が乗っているはずである。二人も、他のマスコミ関係者も盛んにフラッシュを焚いた。

 

 庁舎内の大広間は既に多数のマスコミ関係者でひしめいていた。部屋の四隅には鎧をまとった兵士がいつも通り立哨し警戒にあたっている。

 この場に集まる所謂「記者」の多くが、見慣れない民族衣装を着用していた。野心家と目されるシルバルドとこの民族自治区の動向を探るべく、他の地域からも沢山の記者が送り込まれているのである。

 十数名単位の靴音が地響きのように近付いてきたところで、室内は一気にざわめく。シルバルドと秘書官数名、そして前後を固める兵士数名が列車のように連なって入室、そして壇上にシルバルドらが着席したところで司会者がマスコミ関係者に対し、静粛に願うよう訴えた。

 記者会見で、シルバルドは自らマイクを握った。彼は昨晩発生したゾイドバトルチーム襲撃事件から、昼間起きた未確認ゾイドとの交戦、そしてブロックス棺による捕獲・運搬を完了したことまでを手短に説明した。

 だが説明がそれだけでは済まないのがゾイドが絡む事件の特殊性だ。

「……当該ゾイドの構造については既に調査に入っておりますが、現時点でコクピットの存在が確認できません。無人と考えられますが万一パイロットが確認された際は速やかに逮捕します。

 分類・所属は不明。既にヘリック共和国軍・ゾイドアカデミーに資料を引き渡し、確認を依頼済みです」

 この「分類・所属不明」という言葉に対し、会見の場はざわついた。

 ゾイドが絡む事件において、「どんなゾイドか?」というのは個体の未知・既知に関わらず常に問題になる事柄だ。既にヘリック共和国の完全統一が実現された惑星Ziにおいて、記録が確認できないゾイドは何らかの反ヘリック勢力に属する可能性が極めて高い。万が一野生種だったとしても大規模な駆逐作戦を展開するのが普通である(例えば生息地域を特定し、万が一地域内に同一種がいれば、それらも駆逐しなければいけない)。調査結果がどう転ぼうが相応の戦闘が行われる可能性は極めて高いのである。

 会見はすぐに質疑応答の場に切り替わった。司会者が、挙手するマスコミ関係者を次々に指名していく。

 シルバルドに向けられた質問は、民族自治区内で発生中の例の事件との関連性について尋ねる内容が非常に多かった。

『先日から民間のゾイドが食い殺される事件が相次いでいますが、関係があるのですか?』

「それについては現在調査中です」

 飛び火しかねない質問に調査中、確認中、などの言葉が並ぶのはどの星でも変わらない。

 次いで、今後の展開。

『捕獲したゾイドはこの後、どんな処置を施す予定ですか?』

「既に我が民族自治区の自警部隊スタッフが調査と並行して解体作業に取り掛かっております。

 当該ゾイドの背景は依然不明ですが、起きた事件はテロそのものです。

 他のテロリストに悪用されぬよう、当該ゾイドは即時解体します。

 我が民族自治区はテロを許しません」

 そんな中、とある記者の投げかけた質問に場内は先程とはまた雰囲気の異なるざわめきが起きた。

『丁度ゾイドウォリアーのギルガメス選手とジェノブレイカーがこのゾイドと戦闘したと伺っておりますが……』

「被害を最小限に食い止めてくださった勇敢な彼らには、感謝しています」

 ギルガメスとジェノブレイカーに対し世間が下す評価は「ゾイドバトルの強豪」のみならず、春先に起きた「大統領暗殺事件」を事実上解決したことなどから、英雄とも危険分子とも目される位置づけにある。そういった人物でも手に余る事態を収めたことについて、記者達の多くは何かしら誇らしげに語るのかと思っていた。この内容は肩透かしを食らった格好だ。

 傍目には青年政治家シルバルドの毅然とした態度や驕りなき姿勢がアピールされる記者会見となったのである。

 

 エステルは膳の上に乗せていた端末をそっと閉じた。中継で語られた「当該ゾイド」……彼女が言うところの「デスレックス」なるゾイドの成り行きを可能な範囲で知っておきたかったのは言うまでもあるまい。

 左にはギルガメスがある意味彼女よりも真剣に端末を見つめていた。一段落して彼は低いトレーラー内の天井を見上げつつ、深いため息をつく。もう、気持ちを切り替えて、再戦の時はどう立ち回るべきか、ずっと考えているに違いない。切れ長の蒼き瞳が自然と流し目になる。

「寝ましょう。明日は多分、相当早いわ」

 ギルガメスは円らな瞳を投げかけると苦笑交じりの微笑みを浮かべた。

 

「ブレイカー、何かあったら起こしてね」

 ギルガメスはトレーラーの外で丸くなっている深紅の竜に声をかけていた。彼の優しき相棒は、鼻先を若き主人の顔に近づけて小気味よく鳴いてみせる。

 彼が言う「何か」について、今日だけは……いや、今晩だけは特別な意味があると承知していた。だからこそ、今一度この主人と決意を共有する。

 今や満天の星空だが、いずれ地獄の業火に焼かれる時間がやってくる。その果てに昼間の宿敵がいるのだ。深紅の竜は若き主人と彼が愛する者を守るために戦うことを誓った。

 

 丁度その頃、黒覆面の男グラベルが歩く廊下は薄暗く、鉄骨とコンクリートが縦横に張り巡らされる誠に殺風景な空間であった。ここは民族自治区庁舎の最深部にある格納庫だ。庁舎は大理石造りの立派な、そして古めかしい建物だが、惑星Ziにおける政治拠点はイコール軍事拠点でもある。国家に準ずる民族自治区の庁舎ともなれば相応の装備が整っているものだ。

 やがて目前の扉を開いた時、鮮烈なまでに眩しい照明の輝きがグラベルの顔に差し込んだ。彼は唯一露出する両眼を細め、手をかざす。

 目前には手すりがあり、そのすぐ目の前には吹き抜けが広がっている。彼はキャットウォークのとある一角に姿を現していた。

 奇妙なことに、キャットウォークの各所には鉢植えが設置されている。およそ太陽光など差し込む余地がないのにどの鉢植えも生気に満ち溢れている。……植物はある種の「ゾイド除け」になる。Zi人といえども植物なしに生きてはいけない。それくらい重要な代物をみだりに排除するのはZi人への背信行為になり得るからだ。植物を踏み潰したり焼き尽くしたりするのに躊躇いがないゾイドというのは、大抵が相当なレベルの洗脳・思考矯正が施されている。ゾイドが発狂する例もその一種に過ぎない。

 それでは、吹き抜けの向こうに横たわるブロックス棺の中にいるゾイドはどうなのか。グラベルはそんな事を考えながらキャットウォークから階段で下に降りていく。

 40メートルは超えるであろう尋常ならざるブロックス棺の外周には既に何箇所か、足場が設置されている。傍らには人よりは大きい一つ目巨人のようなゾイド・ゴーレムが十数匹、群がっているが、見た限り恐れを抱くような素振りは見られない。棺の中にいる者が仮死状態にあるためか、ゾイドの存在を認識できていないのだろう。

 グラベルの存在に気付いたゴーレムは次々に道を開けていく。手を上げて挨拶に代えた彼は一人、足場の階段を使って最上部まで登り詰めた。

 そこには白衣をまとった数名の男性がグラベルを待ち構えるようにしていた。彼らが間近で見るブロックス棺は、その一個一個が各面に回路図のような彫り込みが確認でき、脈打つように明滅している。……間違いなく各ブロックスが起動している証だ。この内側で仮死状態になっている「例のゾイド」は、各ブロックスが合体する時に放出される強大なエネルギーを浴びせられることで、全くと言って良いくらい身動きが取れなくなってしまった。そこで自ら仮死状態となることを選び、ダメージを防ごうとしたのである。

「グラベル卿! お待ちしておりました」

「早速取りかかれ」

 彼の一声に応えて、真正面に見えるブロックス群の上面部分に数匹のゴーレムが集まる。各ブロックスの各面各所に仕込まれたスイッチに触れることで、脈打つような明滅は消えた。一方天井からは人の胴並みに太いロープが数本降ろされる。ゴーレム達は先端にフックが付いているのを確認すると、ブロックスの各頂点に引っ掛けた。……極めてゆっくりとだが、確実に、この人の体以上の大きさを持つ鋼鉄の立方体は天井まで釣り上げられていったのである。

 内部にはルビーのような、分厚いキャノピーが確認できた。そう、ブロックス棺のこの箇所は、丁度捕獲された「当該ゾイド」紅蓮の竜の背部コクピットの直上部だったのだ。

 一方、グラベルはといえば、その間に白衣の者達に無言で頷いてみせる。

 足場の向こうから台車に積まれた物品がよこされる。トランクと言うには分厚すぎる代物。白衣の者達がトランクをゆっくりと開放する。中身を開けた瞬間、ただでさえ静かなこの巨大な部屋が一層静まり返った。

 円筒状のガラスケースが入っている。成人男性の腿並みに太く長い。そして液体で満たされた内部に浮かぶものを目にした者は、その多くが理性を保ち難くなることが想像に難くない。

 ガラスケースの中には極めて……極めて有機的な肉の塊とでも言うべきものが浮かんでいた。時折笑顔らしきものを浮かべるそれは、ひと目見れば誰もがその名称が脳裏に浮かぶだろう。しかしその実、機会がなければ一生の内に実物を見ることなど一度たりとてないだろうし、見てしまったことに後悔したり酷い嫌悪感を覚えたりするに違いない。有機的なそれは、人の胎児に極めてよく似ていたのである。

 するとグラベルは奇妙な行動に出た。……彼は自らの顔を隠す黒覆面に両手をかける。額から目の辺りにかけてのみ、覆面を降ろし、素顔を晒した。

 酷い、火傷の痕。これによってグラベルという人物の老若も顔の造作も一切が隠れてしまっている。

 すると額の火傷痕の隙間から、ぼんやりとした輝きが浮かび上がる。……青白い。輝きはギルガメスが額に浮かべる刻印の色とよく似ていた。

 輝きに応じて、ガラスケース内の胎児は残酷なまでに無垢な笑顔を浮かべる。それと共に胎児の額にも、青白い輝きが浮かび上がった。連動して、ガラスケースの両端にはめ込まれた機械類がまばゆく明滅を開始する。

 他の、白衣の者達は感嘆の声を上げた。無言のまま黒覆面を被り直すグラベルとは対象的だ。

「今現在、積み込まれているものを交換して……これを繰り返せば人を容易に越える最強パイロットチームの誕生ですね」

「そうだな。そして最強の無人ゾイド誕生でもある」

 そして狂気の実現でもあったと言える。……このガラスケースに収まった胎児らしきものはどうやって生み出されたのか。時が経てば健やかに子供から大人へと成長していくのだろうか。それを本稿で描く余裕などない。しかしこの時点で、胎児らしきものは人としての要件を満たしていると言えるのか。

 そのようにあやふやなものが今もゾイドに積み込まれている。言わば「生体コンピュータ」として。

「『刻印』のおまけがつかないとまだまだだが、まあ、貴重な一歩ではあるな」

 そう応えたのはグラベルだ。つまり生体コンピュータとしては刻印が浮かぶ存在……例えば古代ゾイド人、例えばギルガメスと同種の胎児でないと実現は難しいということだ。

 だがそういった問題があったとしても、あれほどまでに凶暴かつ狡猾、老獪な「例のゾイド」をこの生体コンピュータが操縦しきっていたというのなら、今までのように一人ひとりを徹底的に鍛え上げパイロットとする必要はなくなってくる。

 さてそんなときのことだ。ルビーのキャノピーの方で素っ頓狂な声が上がったのは。グラベル他、足場に乗っている者達が一斉に振り向く。

 キャノピー前に立つゴーレムの頭部ハッチが開き、中から白衣の者が蒼白の表情を浮かべている。

「グラベル卿、これを、これを……」

 早速この黒覆面の男は足場を伝い、キャノピーのそばまで近寄っていく。

 声を上げたゴーレムの両手に、厳かに捧げられたガラスケースを見てさしものグラベルも一瞬声を失ったかのようだ。

 ガラスケースの中身はどす黒く濁っていた。内部にいたはずの胎児はどうなったのか。腐ったのか。溶けたのか。

「これはどういうことだ。このゾイドは完全に死んでいたのか」

 グラベルが黒覆面の上からでもはっきりわかる迫真の形相で白衣の者を睨みつけた。紅蓮の竜が完全に死んでいれば、内部に搭載された胎児の生命を維持するのは不可能だ。

「そんなことはないはずです。内外に損傷は確認できません。無論このコクピットも、です。

 そもそもこのゾイドが死んでいたのであれば、既に石化が相当進んでいるはずですし、何より自重でブロックス棺自体が崩壊しているでしょう。

 仮死状態なればこそ、必要最低限の器官は起動しているはずで、そこにはパイロットの生命維持管理も含まれます」

 唸ったグラベル。彼は即座に、極めてシンプルな結論に達した。だがその結論は容易には受け入れ難いものだ。感情的な意味合いのみならず、理屈の部分でも。

「まさかこいつは、ずっと『勝手に』起動し、続けていたのか……?」

 あくまでも自分の意志で起動し続けていたのならば、仮死状態に見せかける「死んだふり」も、パイロットとして搭載された生体コンピュータである胎児の生殺与奪も思うままだ。

 つまりこのゾイドは自らを仮死状態に見せかけた。そしてその裏で、自らを完全に拘束する胎児の生命維持活動を停止したのではないか。

 その時、このブロックス棺が収められた格納庫全体が急に薄暗くなった。

 グラベルも他の者達も左右を見渡す中、他の足場にいるゴーレムから声が上がる。

「グラベル卿! ブロックスが、ブロックスのエネルギーが!」

 そう言われて真正面のブロックス群を今一度見遣ると、各面に彫り込まれた輝きが弱まったり箇所によっては消失していることに気がついた。格納庫の薄暗さはこれらの急な変調が原因だったのだ。

「グラベル卿、このゾイドの側面部分にエネルギーが急速に流れています!」

 側面……つまりはあのおろし金のような翼の部分だ。

 そこに気がついた時点で、グラベルは大声を張り上げた。

「全員、ブロックス棺から離れろ!」

 だが彼の大声が届くよりも前に、格納庫全体がグラグラと揺れ始めた。次々にゴーレムが足場を伝い、或いは飛び降りて着地していく中、無敵を誇った鋼鉄の棺桶が、そして周りを取り囲む足場が崩れ落ちていく。いかに広いとはいえ密室の惨事は大音響がこだました。

 グラベルはといえばすぐそばで濁ったガラスケースを見せたゴーレムの腕に乗り、難を逃れたかに見えた。だがそのゴーレムも足場の崩壊に飲み込まれどうなったかわからない。かくして全身を強く打ちながらもこの黒覆面の男はどうにか立ち上がった。

 その、男の前に。

 砂と土と、鉄粉の埃が立ちこめる中、ゆらりと姿を表した巨大な影。……紅蓮の竜だ。側面を覆うおろし金の翼は眩しく輝いている。そこからエネルギーが吸収されたようだ。

 巨大な顎を半開きにした紅蓮の竜。人が為す全ての行為を嘲笑うかのように見える。

 紅蓮の竜は格納庫の高い、高い吹き抜けを見上げた。充血したような二つの瞳で頭上高くに見える分厚い鋼鉄の天井をしっかり見定めると、飲み込んでみせんとばかりに巨大な顎を開き始めた。背中を覆うひだから光の粒が吸収されていく。

 

 真っ暗なトレーラー内にアラームが鳴り響く。

 眠っていたギルガメスは枕元に手を伸ばし、腕時計型端末のスイッチを押しつつ体を起こした。三時過ぎだ。勿論こんな時間帯に目覚ましをセットする予定はない。

 隣りの布団ではタンクトップ姿のエステルが上半身をようやく起こしたところだ。まだ寝ぼけているのか、ウツラウツラしているものの少年はこれなら大丈夫とばかりに自分も体を起こし、すぐさまトレーラーの外に出た。もとより決戦の覚悟ゆえ、大きめのTシャツに膝下だけの半ズボンといういつも通りの出で立ちで眠っていたのだ。

 就寝前に頭上を覆っていた星屑のカーテンは、今や白煙と閃光が立ちこめていた。

 そして、ブレイカーといえば上半身を起こし、首をもたげて遥か彼方を睨みつけている。優しき深紅の竜は起きてきた主人にすぐ気がつくと小気味よく鳴くものの、やはり視線はその方角に釘付けだ。

 稜線から、一条の閃光が駆け上り、星空を貫いていく。

「荷電粒子砲かよ!」

 少年は寝起きかつ壮絶な光景に頭の血の巡りがおかしくなるような気分だ。だがそれでも、約束した。

「先生を……」

「お待たせ」

 既に少年のすぐ後ろには、漆黒のパイロットスーツに身を固めたエステルがヘルメット片手に颯爽と立っていた。……決戦の際には必ず着用する彼女の服装を目にした時、少年はいつもハッと息を呑む。長身かつしなやかな彼女の美しき肢体のラインがくっきり浮かび上がるその姿。いつだって格好良く、そして艶めかしい。

「いつでも良いわ、行きましょう」

 二人と一匹は互いの準備を確認すると笑顔で頷きあう。既に視線は、稜線の彼方に向いていた。

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