今回もオリジナルエピソードになります。
今回はセントラルシティの下に潜んでらっしゃる原作黒幕でラスボスがちょろっと手を出そうとして……?
少し汚物などの表現がありますので苦手な方はご注意。
それでもOKって方だけどうぞ。
いいですね?
「…えっ?」
その女性職員は思わずそう声を漏らしてしまった。
すぐそこを歩いていた赤毛っぽい男性が消えた。
いや正確には床の下に消えた。
なにかのお笑いコントやドッキリみたいに床が開いてボッシュートだ。
男が綺麗に落ちた後の床の穴はすぐに閉じた。
「えっ…?」
自分はいったい何を見てしまったのだろう?っと突然のことすぎて固まってしまっている女性職員の後方からドタドタと足音が近づく。
「クサナカさーーん! あっ、すみません、こっちに赤毛っぽい男の人来ませんでしたか?」
集団の先頭にいたエドワードが駆け寄りながら女性職員に聞くと、やっと我に返って顔を青くさせてオロオロと慌て始めた。
その様子にエドワード達が訝しみ、落ち着くよう声を掛けて事情を聞いた。
「そこの床が開いてボッシュートされた~~~~!?」
そんなコントみたいな仕掛けが真面目なこの研究所にあるなんて誰も知らなかった。
「兄さん! ここだけ他の床素材と微妙に違うよ!」
「見た目はそれっぽく細工されているのか。修繕したという理由付けをされれば深く疑われなかったのかもしれん。」
「なら…。」
「待て鋼の!」
ロイが止めるより早く両手を合せて錬成を行ったエドワードによってボッシュート偽装床とその周りが少しだけ分解されてその下にある穴が露わになった。
「水道管でも、空気管のための穴じゃない…。滑り台式のダストボックスっぽい造りで人間ひとりは底まで滑り落ちれるな。」
その穴は人間の男の大人が体をまっすぐにした状態で滑り落ちるには十分な大きさと造りになっていた。ウォータースライダーとも違い、ゴミ袋を滑り落とすための角度という感じでまっすぐに真下に落ちるようにはなっていない。
どこまで続いているのかは不明だ。かなり深いようだ。
「ソウゲンさんは? ソウゲンさーーん!」
「さっき『孫がボッシュートされた!』って言ってきたのに…、まさか一緒に…?」
「可能性は高いな。彼はクサナカくんに取り憑いているそうだから。」
「…あの…、なにか聞こえませんか?」
「えっ?」
クサナカがボッシュートされた時の目撃者になった女性職員がボソボソと聞いた。
するとボッシュート穴の底から何かが這い出てきた。
「なっ、キメラか!?」
サソリとネズミをかけ合わせたような見た目だが実物のそれらよりずっと大きなキメラが鋭い爪で登ってきたのだ。
素早く出てきたキメラをエドワードが右腕のオートメイルの一部を錬成して刃にし、巨体の割に小さな頭部を半分に切り裂いた。しかしそれだけでは死にきれず、最後のあがきとばかりに鋭い手足をバタバタと振り回すキメラを背後からアルフォンスが床に押え付けて脊椎を損傷させトドメを刺した。
ロイは武器である焔の特性上建物内で使用ができないため加勢できなかった。
「まさか……、クサナカさん!」
ボッシュート穴から出てきた出来の悪いキメラが他にたくさんいてクサナカが落ちた先にいるとしたらと想像しエドワード達が青ざめる。
「あ、兄さん!」
「鋼の!」
クサナカの危機にいてもたってもいられなくなったエドワードがボッシュート穴に飛び込み、その下へ滑り落ちていった。
***
一方、その頃。
コントみたいな仕掛けで床の下にあった滑り台式のダストボックスっぽい管を落ちていったクサナカ。
そこはセントラルシティの下水道らしく腐った水とカビの臭いに混じって浄化しきれていない生活排水の独特な臭いがしていて鼻を強く刺激する。
悪臭に慣れていない常人ならそれだけで気分が悪くなったり目にも影響しているだろうが、クサナカは元自宅の裏に墓場がありそこで墓守をさせていた犬デーモンの存在で臭いには慣れっこであった。むしろ犬デーモンよりマシに感じているぐらいだったりする。
壁の高い位置にボッシュート穴の終点があったのでそこから落ちて尻を打ったが、まあそこまではいい。
『雑な扱いじゃのう…。』
「生きていようが死んでいようがどうでもいいからだ。」
尻をさすって座り込んでいたクサナカの気配を察知したらしい下水にいる無数のキメラ達がゾロゾロと下水道の闇から現れて近づいてきた。
キメラ達はどれもこれも形が異なり、それぞれが異なる動物の組み合わせや割合で造られていることが伺えた。そして人間の制御を受けておらずその気性は完全に飢えた獣だ。
腹を空かせた彼らにとって生きた人間の柔らかい肉はきっとご馳走だろう。全部のキメラではないが多くはヨダレを垂らしながらジリジリと距離を詰めてきている。
「……下水でよかった。」
『そうじゃな。生活排水は色々と…混ざって最高の材料じゃからの。デーモンの。』
クサナカは座り込んだまま下水の水たまりに指を這わせた。
紫電の光が大きく弾け、その紫電が流れる下水にも及んだ。
そこへ。
「クサナカさん! 無事…、って……えっ!?」
滑り落ちてきたエドワードが下水道の歩道部分に着地した時に見たのは……。
セントラルシティ全体に家屋が軽く揺れるほどの地震が発生した。
整備された道にあるマンホールが吹っ飛び、その下にある下水が噴出。たちまちアメストリスの中心地は生活排水の臭いに満ちあふれた。
研究所の敷地内の大きな下水道への出入り口も内側から強引に破られ、いきなりのことに周囲が騒然とする中、ドロドロの下水のヘドロが生き物のように這い出てきた。
ヘドロの怪物の体には無数の眼球のような赤い目があり、ギョロギョロとそれぞれ違う動きをしていて、大きな両腕と手で足の無い体を引きずりながら移動する。
その巨体の背中なのか頭なのか分からない位置に、悠々とくつろぐようにあぐらをかいて座っているクサナカと、そんなクサナカに抱えられていて口から泡吹いて白目を剥いてるエドワードがいた。
その後にこの大騒ぎに駆けつけたヒューズがロイ達とも合流したクサナカとエドワードと、その後ろに控えてる生活排水ヘドロデーモンを見て頭で認識した瞬間にこう叫んだ。
「風呂入ってこい!!」
下水が一部噴出したセントラルシティの中で、今現在この場所が一番臭くて不潔な状態だったのだ。
『そりゃトイレの排水溜まりのヘドロじゃからのう。』
ソウゲンはケラケラと笑っていた。彼は死後に自らの意思でデーモンとなったのだから悪臭なんて気にならない。むしろデーモンの触媒としてこういった汚物を利用していたこともあるから得意な方なのだ。
それにたいしてクサナカは顎に手を当てて。
「……肥溜めの方が薄めてないからもっと良い。」
「サラッと恐ろしいこと言わないでくださいよ~!!」
気絶しているエドワードを介抱するアルフォンス。彼に涙が出せたならきっと泣いてる。
「しかしこれでも、あの犬よりはマシなのがね…。」
ロイは鼻をハンカチで塞ぎつつ、犬デーモンの臭いの方が臭かったという感想を呟いた。
***
その一方で。
「……お父様…、さすがに雑すぎたのでは?」
『……。』
「下水も死霊魔術師にとってはお手頃な便利道具にしかならないのかー……。アイツに弱みってないの? お父様?」
『……。』
「お父様?」
年を重ねてはいるが年寄り過ぎないぐらいのシワのある顔立ちをした男に、ウロボロスの印を持つ妖艶な女と、良いところのお坊ちゃんのような品の良い服を纏った少年が何度も話しかけても男は何も答えず、無数の奇妙な管が繋がった奇妙な椅子に座った状態でジッと動かない。
二人から『お父様』と呼ばれている男は、硬い表情で腿の上に分厚い本を置いてその上に手を添えたような状態でジッとしていた。
『(………………あの魔女の子孫だというのを、失念していた……)』
痛恨の凡ミスでだったようだ。
『お父様』の記憶に残る、褐色の肌と赤い瞳と長すぎるほど長い癖にある黒髪の女。
女は死霊魔術師であった。
死霊魔術師とは名乗らず、魔女を自称し生計を立てていた。
女は自由自在に土や泥を触媒に大きなクモのデーモンの軍団を造り上げてみせ、当時としては大軍といえる兵力を蹴散らし逃げ帰らせたのだ。
満月を背景に、奇妙な光沢の一つ目を持つ巨大な土のクモの背に立って、平地を埋め尽くす他の土と石と泥の巨大なクモを率いるその姿は……、この世のものなのかとうっかり考えてしまうほど圧倒的過ぎた。
クサナカを下水道までボッシュートしたのは、地下にひしめいているキメラ達にクサナカを襲わせて食い殺させるか、下水道という不衛生極まりない場所で感染症を起こさせて弱らせてから回収しようとした感じ。
でもそんな雑なやり方じゃダメだった上に、下水を触媒にデーモンを造りだしてあっさり脱出。
ただしセントラルシティが下水でえらいこっちゃになるといういらないオマケ付きで……。
生活排水には動物植物…色々と混ざりに混ざった不浄そのものだからデーモンの素材にするのに最適という設定にしました。
登場した下水ヘドロデーモンは、特にトイレの排水溜まりのヘドロなので……、肥溜めに近い…かも?
最後の方で『お父様』が大昔に出会った先々代の死霊魔術について思い出していますが、彼女がソウゲンの祖母にあたる人物。
『お父様』がクセルクセス王国の一部の兵力を利用して彼女に戦いを挑んだけれど、あっさり返り討ちにあったという過去です。
『お父様』が死霊魔術師と直接面識があるということは、もちろん……。
次は……どうするか……。
犬デーモンがあれこれ活躍するのを書こうか…。
それともウィンリィやシン勢を出すか……。
それともエド達の師匠…?