悪の舞台   作:ユリオ

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先に謝っておく。ごめん、ジルクニフ。


13話 設定

 ラナーとの邂逅が終わったあと、デミウルゴスはまずアインズに〈伝言〉(メッセージ)をいれ、今後の方針に了承をもらった。その後、コキュートスに〈伝言〉(メッセージ)をいれ指示をする。

 セバスが行った行為をなかった事に出来ないのならば、上手く利用するのが一番良いだろうと、デミウルゴスは判断した。

 ラナーからは正義の味方などと言われてしまったが、“ぷれいやー”がこちらに接触し易くするには、そんな風に擬装するのが一番良い。ウルベルトやアインズが冒険者として人助けをしていたのもそれが理由のはずだ。

 

 その為、セバスが予定外に行った善行もアインズの功績だと思わす事が出来れば、セバスの行動もマイナスではなくなる。

 本来なら八本指襲撃は、アインズにも来てもらうのが良いのだが、今はそんな気分ではないと思われるので、セバスとの繋がりをはっきり見せるのは後で良い。

 プレアデスにも手伝わせれば、“ぷれいやー”からはギルド全体の方針が善に寄っていると勘違いさせることが出来るだろう。これは、当然あくまで”ぷれいやー“をおびき出し、情報を集めるための手段に過ぎない。

 

 しかし、アインズが一人になりたいと言ったのをその通りにしている訳だが、本当に大丈夫なのか不安になる。〈伝言〉(メッセージ)をした時の声の様子からも、ウルベルトがナザリックを去るのではないかと言う不安が滲み出ていた。

 とは言え、ウルベルトの行動の理由を語る事を禁じられているため、デミウルゴスにはアインズにかける言葉がない。

 できる事ならば、この事態になったのはデミウルゴスのせいであり、アインズがこんな風に気を落とすべきではないと伝えたい。そうするべきなのではないかと、アインズの為にその言葉を伝えたくなる気持ちを押しとどめる。

 

 捨てると決めたはずなのに。

 ウルベルトの望みを叶える事以外の全ては捨てると決めたはずなのに、それが揺らいでいた事に今の今まで気づいていなかった愚かな自分を呪いたくなる。

 今度こそ本当に捨てるのだと、自分に言い聞かせる。

 ただ、本当にそれで良いのだろうかと、ウルベルトは本当にそれを望んでいるのだろうかと、不安が拭い去れないのはどうしてだろう。

 

 創造主と会う事を恐れたのは今日が初めてだ。

 決断の時はきた。

 ウルベルトは、何を選んでも許すと以前言っていたが、それでも選んで欲しいと思っている答えがある以上、その通りの答えを出さなければいけない。

 覚悟を決めて、デミウルゴスはウルベルトがいると思われる場所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずいぶん早かったな。俺がいる場所も教えていなかったというのに」

 

 ウルベルトは、バハルス帝国の王城に、皇帝であるジルクニフと何やら語らっている最中の様子であった。

 

「帝国の皇帝が、以前ウルベルト様の友人を名乗りナザリックに訪れた話は聞いておりましたので、一番可能性が高いのはここかと思い来た次第です」

 

 ジルクニフが、居心地悪そうに席をはずそうとする。

 

「そのままこの部屋にいてくれ、ジルクニフ。デミウルゴスも、あれは調度品か何かとでも思っておけ」

 

 ウルベルトがそう言うならばと、デミウルゴスはジルクニフを意識の外に出すが、調度品と言われた本人は、この場に残らねばならなくなったことに苦い顔をして、なるべく部屋の隅に移動した。

 

「一応確認するが、八本指の方も問題は終わらせて来たのか?」

「はい。王国の第三王女ラナーがその拠点を把握しているであろう事はわかっておりましたので、彼女に接触して、その後の動きはコキュートスに任せておりますので問題ありません」

「ラナー王女、ね。なるほど。それにしても、先ほどはよく俺を止めてくれたな」

 

 ウルベルトが、セバスに怒りをぶつけようとしていたのを止めた時。

 あの時、セバスについては彼の自業自得な部分もあったのでどうでも良かったのだが、アインズが辛そうな顔をしているのが耐えられなくなり、止めに入らずにはいられなかった。

 ウルベルトが、あんな行いをしたのは、デミウルゴスに責任があるのだから。

 

「ウルベルト様は、最初からセバスに対して怒ってはいらっしゃらないご様子でしたので」

 

 デミウルゴスのその言葉にウルベルトは嬉しそうに笑った。

 

「そう見えたか? 言葉自体は本音そのものだったんだがな」

「気づいたのは私だけのようで、他の者はウルベルト様がセバスの言動にお怒りになって出て行ったと信じております」

「そうか、お前だけか。お前だけが、俺の事を理解しているというわけだ」

 

 ウルベルトのセバスへの態度はただの演技だ。ウルベルトが内心楽しそうにしているのがデミウルゴスには伝わった。

 何より、あの内容はセバスではなくデミウルゴスにとある事を伝えようとしたものだ。

 

 デミウルゴスは今まで選択を誤ってきた。

 それをデミウルゴス自身に気づかせるために、あんな風な言葉を使ったのだ。セバスは、たまたま丁度いいタイミングで過ちを犯したものだからそれに利用されたに過ぎない。

 セバスがあのような行いをしなくても、いずれ今と同じような事態には間違いなくなっていた。それが少しばかり早くなっただけだ。

 

「では、具体的に八本指をどう対処するようにしたのか、教えてくれるか」

 

 そう問われて、アインズに報告したのと同じ事を伝えた。

 正義の真似事をする事に、もしかしたらウルベルトは反対するのではと懸念したが特にそんな様子もなく、むしろ機嫌が良さそうにすら見えた。

 ここは間違っていなかったと安堵する。

 だが、問題はここからだ。いや、むしろここで喜ぶという事は、最悪の事態が待っている事に他ならない。

 

「素晴らしいな。アインズ・ウール・ゴウンが正義を為す。お前は俺がやって欲しかったように話を進めてくれて助かるよ」

「ありがとうございます」

 

 そう返答するも、そのウルベルトの賛辞に喜びを見出す事が出来ない。

 ウルベルトはこちらを見て微笑んではいるが、この先の言葉を聞くのが恐ろしい。

 

「なぁ、デミウルゴス。お前は俺の考えの一端が分かると言ったが、俺が次にとる行動は何か、お前が考えたそれを教えてはくれないか」

 

 元は人間だと言うが、今目の前にいるこの御方は間違いなく悪魔だ。

 デミウルゴスは、自身が考えたウルベルトの行動を否定したかったが、それが合っていようがいなかろうが、口に出せばきっとウルベルトはそれを正解としてしまうのだろう。

 それでも、ウルベルトに乞われてしまえば、それを口に出すより他にない。

 

「……正義を行うナザリックに離反し、ウルベルト様の悪を示そうとされているものと考えております」

 

 その言葉に、ウルベルトは満足そうに微笑んだ。

 本当にそれだけが目的ならばここまでデミウルゴスは苦悩していなかっただろう。問題は、なぜ今になってそんな事をしようと考えたのかという事だ。

 

 原因は自分にある。

 デミウルゴスが、最初に心に誓った通りの言動が出来ていれば、こんな事にはならなかったはずだ。

 それでも、こうなってしまったのならばもはや仕方がない。

 最初に決めた通り、ウルベルトだけを選び、それ以外は捨てる。そうでなくてはいけない。

 

「それで、お前はどちらを選ぶ」

「私は、ウルベルト様を」

「違う」

 

 何が違っているのか、ウルベルトの言葉が理解できなかった。

 ウルベルトと、アインズ、どちらにつくかの問いではなかったのか。

 

「お前が、ウルベルト・アレイン・オードルを選ぶのは当然だろう。問題は、今の悪魔となってしまった俺を選ぶのか、それとも、『アインズ・ウール・ゴウンに絶対の忠誠を誓う』という文言を書いた過去の、人間だった頃の俺を選ぶか、そのどちらかだ」

 

 言葉が詰まる。

 そうなのだ。デミウルゴス自身、今まではっきりとした自覚はなかったのだが、ウルベルトが設定した『アインズ・ウール・ゴウンに絶対の忠誠を誓う』という言葉に束縛されていた。

 ウルベルトの為であるならば全てを捨てようと決めていたのに、ウルベルトがモモンガにアインズ・ウール・ゴウンの名を許可したことにより、潜在的にこの方に忠義を示さねばと自然とそんな言動をしていた。

 

 一番わかりやすくそれが出ていたのは、アインズが一人でシャルティアの元へ行くという話を聞いた時だろう。ウルベルトの態度に変化があったのもこのタイミングなのできっとここで気づいたのだ。

 そう、アインズが死んだ方がウルベルトの事を運ぶのに都合が良いと、考えればすぐに分かったはずなのに、デミウルゴスはあの時、アインズの事を心配してそれを止めようとしてしまったのだ。ウルベルトがそれを止める言葉を発するまで、アインズを殺すという発想すら湧かなかった。

 ウルベルトにその気がなかったとしても、その発想自体はすぐに考えるべきだったのにも関わらず、それが出来なかった。

 

 至高の御方二人が冒険者になった時だって、お二人が一緒に行動するのは効率が悪いのは分かっていた。他のシモベたちにも“りある”の手掛かりを探すようにはしていたが、出来る事ならばデミウルゴスか、ウルベルトのどちらかが一番にそこに辿り着くのが理想的だ。

 あの時点であれば、戦士長に口約束をした程度であったのだし、多少怪しまれる可能性もあったが、別行動をするようにアインズに口添えをする事は可能だった。それなのに、楽しそうなアインズを見て安全策を選んだ体で、その考えを口に出す事をしなかった。

 

 二人の意見がかみ合うようにと、対立が起きないようにとそういう方向に話を進めてきてしまっていた。

 ウルベルトが、デミウルゴスよりも先に“りある”について情報を得たのではないかという時に感じた焦りも、自身の無能さ故だけではなく、このまま情報が見つからなければ今のままの日常が続くのにと、そんな愚かしい思いがあったせいだ。

 

 だから、設定に縛られずウルベルトを選ぼうと、そう決めていた。

 決めていたはずだが、それはどちらのウルベルトなのか。

 そもそも、デミウルゴスがそのような言動をしたのは、ウルベルトが設定した理想の存在でありたいという思いにより、自然とそう動いてしまっていたからだ。ウルベルトが与えてくれた設定だからこそ、気づいた後ですら思い悩んでいた。

 

 思い出すのはあの休日の一日。

 あの日の人間の姿をしていたウルベルト。

 過去の話をする時のあのどこか切なくも幸せそうな顔。

 今のウルベルトを選ぶという事は、あの日のウルベルトを捨てるという事か。

 そう思うと、本当にそれを捨ててしまって良いものなのか、何も選択できずに、思考がぐるぐると回転するばかりで答えを出す事が出来ない。

 

「迷ったな、デミウルゴス」

 

 その言葉に、びくりと体を震わせる。

 迷うなど、それは一番やってはいけない事だとわかっていたはずなのに。

 どちらのウルベルトを取るにしろ、ウルベルトの理想とする悪がやってはいけない事がそれだと、知っていたはずなのに。

 

「この地に来たばかりの人間の残滓が多かった頃の俺は馬鹿な事をしたものだな。俺を含めた41人の総称たるアインズ・ウール・ゴウンの名を一人の男に許すなど。それはただの気まぐれか、はたまたお前につけた設定故に、悪魔になった俺を選ばないようにとした行動だったのか」

 

 そうなのだ、そう考えてしまうと、今のウルベルトに素直に従うのが正しいのかが分からなくなる。アインズ・ウール・ゴウンをモモンガが名乗る事を許可していたのはウルベルトなのだから。

 

「どちらを選んでも良いんだぞ、デミウルゴス。お前がどちらを選ぼうとそれを許す。その意見は、どちらの俺も賛同している。少なくとも、俺がお前を捨てる事はない。お前が今の俺を選んでくれるのであれば、このままセバスの言動や正義を為すナザリックの動きが気にいらないというそんな理由で奴らに敵対し、お前がアインズにつくというならば、お前を取り返す名目でナザリックに攻勢を仕掛けるだけだ。大して変わらない」

 

 どちらにせよ、ウルベルトとナザリックが敵対する事は免れない。

 

「今回だけその迷いを許そう。一度ナザリックに戻ってじっくり考えるんだな」

「……かしこまりました」

「次に会うとき前にはきちんと答えを出しておけ。間違っても、どちらも選べないとずっと立ち尽くし続けるような臆病者にはなるなよ。もしそうであるならば、お前は俺の理想と遠い存在になり果てたとしれ」

「心得ております。次にお会いする時までに、必ずやウルベルト様の求める理想の悪として行動を示します」

 

 そう言ってその場を立ち去るのだが、頭の中は未だもやがかかったようで、正解の道筋が見えて来ない。

 一度こうして恩情を与えられたわけだが、きっとすぐに答えを出せなかったデミウルゴスに対してウルベルトは失望しているに違いない。

 

 そんな重い足取りのデミウルゴスに〈伝言〉(メッセージ)が入る。

 しかも相手がセバスだというのだから思わず舌打ちの声が漏れ、相手はそれに委縮している様子だ。

 なんとも間の悪い男だ。いや、実際のところはウルベルトとの会話の途中ではなかった辺り、タイミングは良いというべきなのだが、聞きたくない声を聞かされる事に苛立ちが募る。

 ツアレニーニャがちょっとした隙に攫われたという内容で、場所はよくよく聞けば元より襲撃予定の場所だ。別にそのまま行動してもらってもよかったのだが、この前の事を反省して報告をきちんとして確認を取ろうとしているのだろう。実際、どんな些細な事でも報告する事は大事なのだが、それぐらい自分で判断しろと言いたくなる。

 

 セバスに、襲撃の手伝いをする際はセバスがそこに行き、ツアレニーニャを助ければそれで良い、今回はナザリックを正義と思わせる事が目的なのだから、セバスが好きな正義を勝手にやってくれと言い捨てて〈伝言〉(メッセージ)を切る。

 ナザリックに戻ったデミウルゴスは、普段は睡眠が不要のため使っていなかったベッドに横になった。

 疲労というバッドステータスとは無縁のはずなのに、明らかに疲れを感じていた。答えの出ない堂々巡り。ショートしそうになる頭を冷やすため、悪魔は少しだけ眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジルクニフ、お前はデミウルゴスが今後どう動くと思う?」

 

 奴の息子たる悪魔が部屋を後にし、ウルベルトがそう質問を投げかける。

 今まで置物として身動きも取らず部屋の隅で成り行きを見守っていたジルクニフだが、余計な事に人を巻き込みやがってという思いが頭を占めていた。

 ウルベルトがモモンガと事を構える為に動いているとは読んでいたが、よもや自分が過去に取り決めた設定故に、彼の息子が自分とモモンガどちらかを選べない状態であるから、あえて対立してどちらか選ばせようとしているだけとは思わなかった。ただの自業自得ではないか。

 もちろんそんな事は口に出さないが、ウルベルトに振り回されているデミウルゴスには多少同情する。

 

「設定、というのがどれほどの効力があるのか知らないが、消えてしまう人間としての君よりも、今の君を選ぶんじゃないか。そうでなくても、君の息子は悪魔なんだろ。それならば、最終的に悪魔の君の在り様の方が彼にとっても良いのではないかな」

 

 デミウルゴスがどっちを取ろうがジルクニフにとっては変わらない。どちらにせよ、ウルベルトはナザリックに戦争を仕掛ける気であり、ウルベルトをとるか裏切るかの二択なのは、変わりはしない。

 しいて言うならば、ジルクニフがウルベルトを選んだ場合、デミウルゴスがこちらについてくれるのであれば、今こうしているようにウルベルトの話相手をしなくても済むので、そうであれば良いという程度だ。

 自分以外の者に対して、息子が敬意を払うのが嫌ならばそう命令してしまえばいいのに。

 いや、そこを本人の意思で決めさせたいというのが奴の考えであることは先ほどの会話で分かりはしたが、甚だ迷惑な話だ。

 

「そういえば、ナザリックではこの世界の素材を使って羊皮紙を作っているんだが、それが何の素材か分かるか?」

 

 そう言って、ウルベルトが魔法の込められた羊皮紙を投げてよこす。

 意図が読めない。

 なぜ今、羊皮紙の話になる。生産するのに、帝国の力を貸してくれとでも言うのだろうか。

 

「羊皮紙というくらいなのだから、羊ではないのか? 普通のものより確かに質は良いようだが、普通の羊皮紙にしかみえないが」

「モモンガはキメラか何かと勘違いしていたな。どうもこの世界の通常の羊皮紙では私たちの高度な魔法を込めることができなくてね、いろいろ試した結果、これが一番都合良かったんだ。俺は、聖王国両脚羊と呼んでいるんだがね」

「……両脚?」

 

 いやな汗が流れる。

 両脚で歩く羊など見た事も聞いた事ない。そんなものが、聖王国にいるとは到底思えないし、ただの亜人の類であればこの悪魔がこんな風に話を振るわけがない。

 となれば、答えは一つ。

 

「今俺の前にも、聖王国産ではない両脚羊が一匹いるわけだが、この地でも牧場経営をするのも悪くないんじゃないかと思ってね」

 

 やられた。

 最初から、自分の側につかせる気など毛頭もなかったという訳か。

 

「1回皮を剥いだ程度では人間は死なない。ちゃんと回復をしてやればまた皮を剥ぐことができる。こちらだって、家畜の数や質が落ちるのは困るからね、きちんと面倒を見るとも。おとなしく皮を剥がされていれば、あとは今まで通り普通の生活をしていてもらって構わない」

 

 そんな状態で、普通の生活など送れるものか。

 悪魔を裏切ってモモンガにつくか、家畜として生きながらえるかの二択。

 モモンガがこちらの要請に応えてくれる可能性は薄いが、それでも可能性が零ではない以上そちらにつく以外には、もはや人類が人類として生きる道はない。

 

「そう不安そうな顔をするなよ。痛いのは一時だけ。試しにやってみるか」

 

 そう言って蹴り飛ばされて床に叩きつけられる。

 今から皮を剥ぐなど正気か? いや、悪魔であればこの程度は大したでは事はないという事か。

 服を破られ、背中の部分がさらけ出される。

 悪魔が何かを取り出している様だが床にうつ伏せになった状態では確認できないが、恐らく刃物を取り出したのだと思われ、そんな事を考えていると痛みが走る。

 

「せっかくだから、今回取れた皮には、お前の好きな魔法を込めてやるよ。と言っても第三位階までしか込められないんだがな」

 

 そう言葉を紡ぎながらも、ウルベルトはその手を動かし背中の肉が徐々に剥がされていく。

 

「……メッ、メッセージの魔法を……込めて、くれないか……」

 

 痛みと恐怖でパニックになりそうになるが、何とか声を振り絞り、ウルベルトの言葉に答える。

 この場で奴が自分を殺すと言う事はまずあり得ない。それは分かっているのだが、もしかしたらと言う考えが頭をよぎる。

 

「そうか。了解した」

 

 そう言うと、先ほどまではゆっくりだった手つきが荒々しくなり、急激な痛みにジルクニフはそのまま意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると平然と悪魔がソファに腰を掛けているのが目に入る。

 服は破れたままの為、背中はずいぶんと涼しいが痛みは一切なく、触れてみれば特に外傷はないように思われた。

 だが、あの時の痛みと恐怖はしっかりと記憶には残っている。

 

「君の皮でできたスクロールだ。大事に使いたまえよ。この世界の〈伝言〉(メッセージ)の魔法と違って信頼できるものだ」

 

 そう言って投げてよこすのは、先ほど見た物と瓜二つであった。

 

「こんなにすぐに出来るとは驚いた」

「そちらが寝すぎていたの間違いじゃないのか」

 

 そう言われて時計を見るが先ほどから10分程度しか時間は経っていない。

 材料さえあれば、魔法ですぐに完成させる事も可能という事か。

 

「何てことなかっただろう」

 

 そう言って、悪魔がにんまりと嗤う。

 

「ああ、そうだな。こうも完全に治療してもらえるとは思わなかったよ」

 

 あんな経験は一度で十分だ。何度もやられれば気が狂う。それでも、こうも綺麗に治るのであれば、それが何度も何度も地獄の様に続く事になるのだろう。

 元が人間だと言うが、これは間違いなく悪魔の所業。

 人間性の残滓が残っているのではと期待などできはしないし、だからこそのデミウルゴスとのあの会話になる訳だ。

 もはや、人間とは別の者になり果てた存在は、きっとジルクニフの皮を剥ぐ時も喜々とした様子であったに違いない。

 

「さて、そのスクロールで一体誰に〈伝言〉(メッセージ)をいれるのか」

「……それは、君に教えなければいけない事なのかな?」

「いいや、君に上げたものだ。自由に使ってくれて構わないとも。それでは、私は用事があるので出て行くよ」

 

 悪魔がさっと部屋から消えるようにいなくなる。

 それを確認すると、どっと疲れが襲う。

 完全に相手の予定調和で動く事になるのは癪だが、他に選択肢はない。

 〈伝言〉(メッセージ)を使う相手は当然モモンガだ。だが、スクロールはもらったが、直接ジルクニフが使う事が出来ない事がもどかしい。とは言え、今からナザリックに行くのでは遅すぎる。

 顔も知らぬ相手には〈伝言〉(メッセージ)を使う事は出来ないため、先日ナザリックに行ったメンバーの誰かでなければいけないが、ジルクニフも、バジウッドもレイナースも魔法を使う事が出来ないため、スクロールを使う事は出来ず、二度手間ではあるが帝国の魔法詠唱者に現在ナザリックに滞在しているフールーダに連絡を取り、フールーダからモモンガに〈伝言〉(メッセージ)をしてもらう必要がある。

 この場面でフールーダに頼まねばならぬというのはなんとも恐ろしいが、それ以外に今は道がない。

 

 あの悪魔の息子はどういう行動に出るのか。

 できる事なら、モモンガの方についてくれればウルベルトを倒す事も容易いだろうにと思ったが、こちらでどうこう出来る案件ではないなと、自身に出来る事をするため、ジルクニフは扉の外にいるはずの衛兵に声をかけるのだった。

 




 デミウルゴスは、何があってもウルベルトさんにつくんだろうなと思っていた方、すいません。

 一応、1話でデミウルゴスの態度を見てアインズ・ウール・ゴウンに絶対の忠誠を誓っているって書いたからかなっていうシーンがありまして、その文言についてはすでに書いているから、後出しじゃないんです。
 改名前に、1回その時点でのデミウルゴスの心境書いて、その後は本文中でデミウルゴスが言った通りですが、若干アインズ様を気にしている風に、分かりにくいけど書いてました。


 そういえば、異世界かるてっと2期始まりましたね。
 実は、オバロはまったきっかけがいせかるだったんで、もう2期が作られるほど時間が経ったんだなぁって思いながら1話を観てました。相変わらずちゃんとキャラがしっかりしていて面白い。
 いせかるなかったら、この話も書いていなかったので、ありがとういせかる。

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