悪の舞台   作:ユリオ

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14話 王国の夜

 罰を与えて欲しかった。

 だが、それは叶わぬ願いである。

 再びツアレを助ける事となったセバスは、悲痛な表情を隠す事もできないまま、与えられた任務を遂行していた。

 

 ツアレを助けた事は間違いだったとは言いたくない。

 セバスの創造主であるたっち・みーであれば、あの場面で必ず彼女を助けたであろうし、自分も同じような行動をしたかった。そうする事で、たっち・みーの理念は正しいものだと実感し、少しでも敬愛する創造主に近づきたかった。

 ナザリックのシモベの行動として間違っているという事は理解していた。

 だからこそ、御方に報告する事が出来なかった。

 それでも、自分であれば人間の女一人、何とかする事が出来るとそう思っていた。自身の能力を驕っていたとしか言いようがない。なんともおこがましい事だ。

 ウルベルトが怒るのも無理はない。

 

 かの御方が悪を理想としている事は知っていた。セバスにとってそれは理解できるものではないが、それを良しとするウルベルトが、正義の行いを忌み嫌うであろう事は簡単に推察できる。セバスの無責任な人助けをウルベルトがあまり良い顔をしないであろう事は分かっていた。

 分かっていて黙っていたのだから、これはもう弁明のしようもない。

 

 自分にとって大事なのは、たっち・みーの理念か、それともナザリックか。

 当然、後者であるべきだ。

 

 ナザリックにとって不利益になるような行為は、自分だけで済まされる問題ではない。他のナザリックに所属する者達にも迷惑になる。

 現に、たっち・みーの理念に基づきツアレを助けた事によってウルベルトの反感を買い、御方は出て行ってしまわれた。

 頭を冷やしてくると言っていたが、このまま帰って来ないのではないかという不安を拭う事がどうしてもできない。

 自分の行いのせいで御方を失う事になるなど、どうやったって償う事も出来ないほどの大罪だ。他のシモベたちからも非難されるはずだが、アインズがセバスの行いを許してしまっているが故に、表だって罵声を浴びせてくれる者は誰もいないだろう。

 

 ウルベルトの被造物であるデミウルゴスであれば、怒りをぶつけて来てくれるのではないかと思ったがそれもない。むしろ、彼に助けられたという事実が余計に自分を惨めにさせる。

 ウルベルトを怒らせるだけでなく、アインズが保護するといったツアレまで攫われ、もはやこの落ち度を挽回する事は不可能だろう。

 せめて、今度こそはきちんと報告するべきだと、デミウルゴスにツアレが攫われた事を〈伝言〉(メッセージ)で伝えたが、セバスの声を聞くなり舌打ちをしてきた辺り、当然ではあるがかなり内心では怒っている様子であった。

 

 それでいて、どうすれば良いのかしっかりと説明してくれる辺り、公私を弁えている。

 普段は気が合わないと嫌っている相手だが、その辺りの線引きがきちんとできている彼を、今はうらやましく思う。人を貶める事を好む彼だが、仕事となれば別にそれを拘る事はきっとないのだ。現に、セバスにこのまま正義の行いをするように指示をしてきた。

 今回の作戦は、アインズの許可を取っているとはいえ完全にデミウルゴスの発案だ。悪を好む彼が、ナザリックの為になるならと人間の正義になる作戦をとっているのだから、セバスだってナザリックの為ならば正義に反する行いも是とするべきだったのだ。

 

 それが、本来のナザリックのシモベとしての正しい在り方。

 それが出来ない自分は、欠陥品なのかもしれない。

 

 だからこそ、出来るのであれば自害がしたかった。それが逃げの判断なのは理解できたが、とてもじゃないが耐えられなかった。今でも、同じ場面でツアレ見つけ彼女が助けを求めたならば、助けてしまいそうな自分を捨てきれる自信がなかった。

 罰を与えられない事が一番の罰だというように、この傷は永遠に癒える事はないのだろう。

 

 淡々と向かってきた敵を倒し、ツアレの元へ向かう。

 一度は殺そうとしていた男に、泣きじゃくりながらツアレは飛び込んでくる。それが、余計に罪悪感をセバスの胸に与える。

 こんな風に慕われるいわれは自分にはない。

 守ると約束したにも関わらず、殺そうとした自分には彼女を抱きしめる資格はない。

 

 一緒に来たクライムやブレイン達と合流するも、ツアレを連れても尚その表情が晴れないセバスの様子に彼らは不安そうな面持ちになっている。

 先ほどまでは、あくまでツアレを心配しての事だろうとあまりその事に触れていなかった彼らを心配させてしまった。

 正義を行う事が仕事なのだから、ここは胸を張るべきなのだが、どうも自分は演技が下手なようでどう取り繕おうとしても、思った通りの表情をする事が出来ない。

 

「大丈夫ですか、セバス様」

 

 全てが終わったのを確認して問題なくことが済んだことを知らせる狼煙を上げた後、今回捕まえた者を連行する者と、上司に報告しに行った者、証拠品などの確認のために襲撃した屋敷の捜査に当たる者が、それぞれ別の場所へ向かう。

 そんな者達がいなくなり、クライムとブレイン、セバスの3人になったタイミングで、クライムが、セバスに声をかけてきた。

 

「心配をおかけし申し訳ございません。しかし、問題はございません。ちょっと、私事で少し考え事があるだけですので、皆様には関係のない事です」

「そうですか。ですが、もし私で力になれる事があれば遠慮せず仰ってください」

「ありがとうございます」

 

 優しい青年だ。真っすぐで、ひたむきで好感が持てる。そんな彼が、ひどく眩しく見える。

 ナザリックに不満がある訳もなく、そこで至高の御方にお仕えする事が出来る事は何よりも幸せな事だ。その思いは今も変わらない。

 だがもし、自分のこの性とナザリックの方向性がかみ合っていたならば、自分も彼のように真っすぐでいられたのだろうかと、そう思わずにはいられなかった。

 不敬な考えだ。合わないのであれば合わせるのが本来のシモベとして正しい在り方だ。ナザリックの方が自分の性と合っていたらなど、ナザリックの在り方を定めた至高の御方々にあまりにも失礼だ。

 

「……セバス様は、この後どうなってしまわれるのですか?」

 

 ツアレが不安そうな声を上げる。

 

「普段通り、何も変わりませんよ。主が私の行った事を許された以上、お咎めを受ける事はないのですから」

「でもっ、でも、あの方は凄く怒っていらっしゃいました。戻ったら、セバス様は酷い目に合わされるのではないのですか?」

 

 そうであるならばどれれだけ良かった事だろう。

 より一層、気が重くなる。

 どうすれば、自分の罪は償えるのか。

 

「あの、それはどういう事なのでしょう。セバス様の主というのは、冒険者のアインズ・ウール・ゴウンさんと、ウルベルト・アレイン・オードルさん、ですよね。今回の作戦にも協力していただいた立派な方だとお伺いしているのですが」

 

 セバスの様子があまりにも悲痛に満ちていた事もあり、クライムが詮索をしてくるが、それも仕方がないだろう。

 ここはなんと言って乗り切るのが正しいのだろうか。

 二人の御方が正義であると思わせるのが仕事であったはずなのに、これでは彼らを不安にさせてしまう。これ以上の失敗は重ねられない。

 とは言え、嘘を吐いてどうにかなるだろうか。自分に演技力がないのは、先ほどから身に染みて分かっているので、下手に隠そうとすれば逆に怪しまれる可能性もある。

 

「悩みがあるなら聞くぜ。何なら今から話しやすいように酒場にでも移動するか? こういうのは、誰かに話した方が楽だったりするもんですよ」

 

 ブレインがそう提案してくる。

 話したところで楽にはならないだろうが、このまま妙な疑惑を与えたままよりは、はっきりと言うべきかとセバスは口を開いた。

 

「私が、主の一人を怒らせてしまったのです。なるべく面倒事を起こさぬようにと言われていたにもかかわらず、路地裏に捨てられた彼女を助けて、厄介ごとに首を突っ込んでしまった」

「それは、非難されるような事柄ではないでしょう。セバス様の行いは、正しいものです」

 

 正義というものを真っすぐ信じるその目で、クライムがセバスを肯定する。

 

「正しい行為だとしても、それは主に与えられた命と違う行動です。それだけでも問題だというのに、私はそれを報告する事もしなかった。それによって、主たちの知らない間に話が大きくなってしまった。彼女がいた娼館を潰せば良いなんて甘い考えをして行動をしていたのです」

「報告は大事ですしそれを怠ったのは確かに問題かもしれませんが、結果的にツアレさんは助かり、おかげで今夜八本指を壊滅する事が出来たのです。現に、セバス様の主も八本指の壊滅を望まれていたのだから、それほど気に病む事はないのではないですか。先ほど、許されたと仰っていましたし、気にしすぎなのではないのでしょうか」

 

 セバスがツアレを助けたから、本来はそんな予定はなかった八本指を倒す流れになったのだが、正義を示す事を目的としている為、アインズとウルベルトは、最初から王国の闇である八本指をどうにかするべきだと考えていたというシナリオになっている。

 そのため、セバスの行動によってそれがなしえた事は、主人にとっても喜ばしい事だと勘違いしても仕方がない事だ。

 正直、それによる効果がどれほどのものか、セバスは理解していないが、当初のアインズとウルベルトの予定にはなかったものなのだから、本来やらなくてもいけない仕事を増やしたのは間違いない。

 

「主の命に反する行いをした私は、ツアレを殺すように主に言われ、その言葉通りツアレを殺そうとしました」

「えっ!?」

「殺そうとしたって、生きてるじゃないか」

「はい。主はあくまで私がどういう行動を取るか試す為にそのような事を言っただけで、彼女を殺させる気はなかったのです。私の攻撃は、彼女に当たる事はありませんでしたが、そこで、主への忠儀への偽りはないと、アインズ様よりお言葉を頂き、私は許されてしまった」

「ひっどい事させるな。しかし、それならば気にする事はないんじゃないですか」

 

 ブレインは、本当に殺す気がなかったにしろ、ツアレを使ってそんな風に試す事を良く思っていない様子だ。

 

「主への忠義の証明はされましたが、私の正義は、彼女を殺そうとした事により否定されました。彼女を救うと誓っておきながら、殺そうとした私をウルベルト様はそれを悪だと、断じて正義などではないと仰られた」

「それでは、どちらを選んでもダメだという事になるではないですか?」

「いいえ、ツアレを殺すように言われた時、御方の考えが分からずその言葉通りに行動した私に責があります。御方が、彼女を殺すつもりがないと見抜き、彼女を助けたことによる利を私が提示できていたのであれば、ウルベルト様の逆鱗に触れる事もなかった。私は、間違ってしまったのです」

 

 ウルベルトがナザリックに戻ってきたと知った時、セバスは本当に嬉しく思っていたのだ。

 もちろん、出来る事であれば自身の創造主であるたっち・みーに再び会いたいとは思ってはいたが、もう戻ってくる事はないと諦めていた御方の帰還は、他の御方もいずれまた戻ってくる可能性を示唆するかのようにも思われた。

 たっち・みーとウルベルトがどういう間柄だったのかは、セバスは知らない。たまたま二人が言い合いをしている現場を目撃した事があり、傍から見れば仲が悪く喧嘩をしているようにも思えたが、たっち・みーはどこか楽しそうにしているようにも見えた。

 自分も、たっち・みーのようにウルベルトに言い合うような事が出来ていたのであれば、あそこまでウルベルトが怒る事はなかったのではないかと今になって思うが、もはや時間を戻す事が出来ない以上、どうしようもないし、至高の御方を相手にそんな物言いをする事は、セバスにはできない。

 セバスでは、たっち・みーの様にはなれない。

 

「話をしたら少し楽になった気がします。私の愚痴を聞いていただき、ありがとうございます。それでは、私は彼女を今度こそ安全な場所に連れて行きますので、失礼いたします。今回、私と一緒に来た者たちにも、私は彼女を連れていくため、先に戻ったと伝えておいて下さい」

 

 実際、楽になどは全くなっていない。

 むしろ、自分の行いがどれほど愚かなものだったかを再認識させられただけだ。

 それでも、アインズとウルベルトの行いに不信感があったのは恐らく消えたはずだし、これで良いだろう。あくまで悪いのは選択肢を誤ったセバスだけだ。

 不安そうな面持ちのツアレを連れて、セバスはその場を後にする。

 背後にいる彼らは、まだどこか納得していない様子ではあったが、これ以上彼らに言う言葉はないし、うまく取り繕える自信がない。

 ウルベルトがナザリックに帰還している事を祈りながらも、ウルベルトはもう帰って来ないのだろうという確信があった。

 それでも、自分に今できる事は、これだけだ。

 与えられた仕事を全うするべく、夜の王都を歩いて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、マジですげぇな。ちっこいのによくやるぜ、お前」

 

 がしっと、大柄な人間が肩を叩く。性別は女らしいが、ぱっと見では男と見間違えてもおかしくはない体躯をしている。

 王国のアダマンタイト級冒険者青の薔薇の一人、戦士ガガーラン。そんな彼女からの賛辞は、本来であれば喜ぶべきものであるが、言われた当人にとっては酷くどうでも良く思われていた。

 

「別にぃ、これくらい大したことないですぅ」

 

 ナザリックの戦闘メイドプレアデスが一人、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータは、御方から賜った自身の衣服に気安く触れるその態度を不快に感じてはいたがそれを顔に出す事はせず、ガガーランの言葉に受け答えをした。というより、仮面上の虫を顔に見立てている彼女の表情は変わらない。

 

 コキュートスの命を受け、八本指なる連中を取り押さえる為に、彼女は人間に加勢していた。

 エントマの他には、セバス、ユリ、ルプスレギナ、ナーベラルが別の場所で同じように行動をしている。

 ソリュシャンは我儘なお嬢様役をしていた為、戦闘をするのは不自然だという理由から。シズはナザリックのギミックを全て熟知している為、万が一の事を考えれば外には出せないと今回はナザリックに待機している。

 

 強いなどと人間の尺度で褒められたが、ウルベルトが第3位階までの魔法しか使えないという体になっている為、それより下の第2位階までしか使わないようにしている。あまりにも強すぎると不審がられると、とにかく手加減しての戦闘。

 服装も、普段着用している物とは違うタイプのランクが下のメイド服を着用している。

 

 ガガーランという人間は、ずいぶん美味しそうだが、人間に我々が安全な存在だと知らしめる役目を仰せつかっている以上、それを思っても口に出す事はしない。

 至高の御方の為であれば、食料と行動する事も耐える事は出来る。

 

 ただ、しいて言うならば直接アインズかウルベルトから命令を受けたかったが、今は別途で行動をしているとのことでそのお姿は見ていない。とは言え、直接御方からご命令を承るなどあまりにも贅沢すぎる。

 こうして、御方の為の仕事が出来ているというだけで幸せなのだから、それ以上は高望みという奴だ。

 でも、出来る事ならばこの任務が終わった後にそのお姿を見る事だけでも叶えば良いなとは思う。最近、二人の御方に会うことが少なかったため余計にそう思う。

 特に、休暇と言ってナザリックを一時期不在にしていたウルベルトの顔は、休暇が終わった後もお見掛けしていない。たまに見かけたというメイドも、何やら慌ただしくしていて、声をかける事も出来なかったと言っていた。

 

 御方々の動向が変わったのはシャルティアの洗脳事件の後だが、敵対する存在が確認された以上それに伴う変化があるのは当然だろうとは思っているが、それだというのに特別命令を下される事もなく、いつも通りの仕事をこなすしかできない事を寂しくは思っていた。

 それが、やっとこうして栄えある仕事を任されたのだ。失敗は許されない。

 

 ただ、気になるのはセバスの態度だ。

 この作戦の前に何かあったのは間違いないが、それがどういった事だったのかまではエントマには知らされていない。

 人間の女を保護する事になったという事は知っているし、セバスとソリュシャンが目を離した隙にその女がつい先ほど攫われた事までは知っているが、攫われる前からセバスの様子はおかしかったので、女を保護するまでの経緯の中で何かあったという事なのだろう。

 セバスと共に行動していたソリュシャンは知っている様だが、尋ねれば彼女もその件について話したくはないようで過ちを犯したセバスをアインズが許したとだけ言ってそれ以上は教えてくれない。気にはなったが、青ざめたソリュシャンの顔を見れば、それ以上は誰も問いただせなかった。

 

 とても許されたという様子ではなかった。

 セバスのせいで御方に何かあったというのであれば由々しき事態であり、それは例えセバスであろうとも許す事は出来ない。セバス本人だって、許されたとは思っていないはずであり、だからこそのあの表情なのだろうとは思う。

 しかし、セバスは許されているのだと言う。

 間違いを犯しておきながらも許されたのだとすれば、そこにあるのは苦痛だろうか。

 とはいえ、これはただの憶測だ。本当にただ、セバスやソリュシャンが必要以上にその失敗を気にしているというだけの話かもしれない。

 

 今回の作戦が成功して、御方々が喜んでくれればいいのに。

 そう思うが、今一自信が持てない。

 言われた通りの行動はきちんとできてはいるが、本当に人間なんかの為に行動する事が御方の為になるのかと不安になる。

 それでも、今はそれを為すしかない。

 

 別れていた他のメンバーとも合流すれば、他の姉妹たちも同じことを思っている様子であった。

 それでも皆、不安になりながらもしっかりとアインズが許可をしたという作戦を言われた通りに実行する。それしか、今出来る事は何もないのだから。

 

「しっかし、見事に美女ばっかりだな」

 

 並んだ姉妹を見て、ガガーランがそんな感想を漏らす。

 当然だ、至高の御方に創造されたのだから下等な人間とは違う。その見た目を褒めてくるのは当たり前ではあるが、最初に顔を合わせた時から何度もそう言うので聞き飽きたセリフでもある。

 

「とても良い趣味をしている」

 

 双子の忍者の片割れが目を輝かせてそういった。

 なんだか嫌な目線だ。

 とはいえ、忍者という職業は本来レベル60に達しないとなれないものだ。どうにも、双子の動きを見るにとてもレベル60とは思えないのだが、何か偽装している可能性はあるので用心は必要だろう。

 

「これだけの力を持った者をメイドにして侍らすなど、どうかしていると思うがな、そのアインズとウルベルトって奴は。そもそも、どうやってこんな人材をこれほど集めて、普段どこで何をしているのやら」

「ちょっと、イビルアイ。お二人の事を詮索しないっていうのが今回の作戦を手伝ってもらう条件だってラナーも言っていたでしょ」

 

 イビルアイという子供を、青の薔薇のリーダーであるラキュースが窘める。

 どうにも、このイビルアイという少女は一番こちらを警戒しているようだ。戦闘能力も、直接見たわけではないので分からないが、この中で一番高いように思われる。

 仮面越しではっきりとは分からないが、しかし確かにこちらを怪しむようなそんな視線を感じる。

 至高の御方を侮辱するような発言も混じっているが、怪しんでいる相手に攻撃的な態度をとればさらに状況は悪くなる。今は耐えるより他にない。

 ナーベラルが耐え切れず何か言いそうになっているが、ユリがそれを止めている。

 

「クライム君と一緒に娼館を壊滅していただいたセバス様の件もあるし、それに、アインズさんとウルベルトさんの噂は結構入ってくるけど、悪い噂は全然ないのよ。まぁ、やりすぎてどうこうってのはあるみたいけど。私は、信頼できる方だと思うわ」

 

 なるほど、さすが至高の御方。

 見事に人間を信頼させる事に成功している。

 今自分たちが怪しまれれば、至高の御方の功績を無駄にする事になる。

 一応、すべての作戦完了の狼煙が上がったのは確認しているが、それでも、別れたチームの責任者が集まり、どんな様子であったか話をまとめるようになっている。そのため、別れたあと2チームが戻ってきたら今回の任務は終了だが、最後だからと油断せず引き締めて任務に当たらなければ。

 

「あっ、でも、詮索って訳じゃないんだけど、もしよかったらウルベルトさんの装備品ってどこで手に入れられたとか、教えてもらえないかしら? この前人相書きで見たんだけど、凄い素敵な衣装で、ぜひ私も取り入れたいのよ!」

 

 確かにウルベルトの装備品は人間に合わせてランクが下の物を冒険者としては使っているが、それでも一級品だ。

 こっちの、青の薔薇のリーダーだという女は多少は他の奴よりはましで、見所があるというべきか。至高の御方本人ではなく、装備の方に重点を置いている辺り、他より少しマシという程度ではあるが。

 

「申し訳ございません、私どももそこまでは把握しておりません。もし、ウルベルト様にお伺い出来るタイミングがありましたら、聞いておきますね」

 

 ユリがラキュースの言葉に返事を返す。

 流石というべきか、人間相手でもきちんとした受け答えをする姉を尊敬する。

 

「ぜひお願いします! ところで、この後の報告会が終わった後の打ち上げには本当に参加されないんですか?」

「はい、任務が終わったら帰還するように仰せつかっておりますので、またの機会がありましたら、その時よろしくお願いします」

 

 人間どもと仲良くするという作戦上、打ち上げとやらにも出るべきなのかと悩んで、隙を見てコキュートスに確認を取ったところ、参加できるならその方が良いのかもしれないが、アインズとウルベルトが不在のため、何があってもすぐに動けるように、あまり長居もするべきではないという事になり、打ち上げには参加しない流れとなった。

 正直、これ以上人間どもに付き合わなくても良いのはありがたい。

 

 とはいえ、すぐに動けるようにとはどういう意味なのか。

 また別の任務がすぐに入る可能性があるという事か。

 もちろん、御方の為に働けるのであればそれは喜ばしい事だ。

 いつ、どんなタイミングであれすぐに駆け付けて仕事にあたる。それ以上に大切な事などないのだから。

 しかし、今まで日替わりのログハウスでの仕事以外は動く事がなかったのに、なぜ今になってそう言う動きになったのだろう。

 やはり、御方から直接説明を受けていない為、不安になる。

 本当にこれで正しいのか、何度目かになる迷いを頭の中に浮かび上がらせながら、残り2チームの帰りを待つのであった。




 ウルベルトさん初期から残るルートでは、ラキュースと楽しく中二談義するシーンを書きたい。

 読み返してたら、なんかこの話動きあまりないなぁと思ったんで、普段より一日早く上げて、明日には次の話を上げようと思ってます。
 というか、読み直して訂正してないだけでもう、ほとんど書き終わってるので、更新ペース上げようと思うので、よろしくお願いいたします。

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