悪の舞台   作:ユリオ

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15話 裏切りの知らせ

 ウルベルトがナザリックに戻ったら連絡をくれるようにと言っていたのだが誰からもその連絡がこず、アインズはふらふらと街を歩いていた。

 デミウルゴスから、八本指とかいう組織を討伐するとの連絡は来ていたが、内容は話半分に聞いて了承した。

 その作戦がどういう意味があるのか今一よく分かっていないのだが、デミウルゴスが立てた作戦ならばきっと間違いがないだろうし、何よりウルベルトは文句を言わないだろうと思ったからだ。

 

 謝れば済む問題なのだろうか。

 謝るにしても、今回の件はどう話を切り出せばいいのだろうか。そんな事を考えていたら、時間はあっという間に過ぎていく。

 答えは出ない。

 

 アルベドの件については、もはやどうする事もできないが、今回のセバスの件はどうするのが良かったのだろうか。セバスを許したことが悪かったとは思わないが、やり方が悪かったのか。

 とはいえ、嫌疑がかかったセバスをそのままにする事は出来ず、明確な形でナザリックに対する謀反の意思はなかったと示してもらう必要があった。あの形でそれを正すのは手っ取り早い手段ではあったし、ウルベルトだってそれには同意していた。

 その先のウルベルトの考えまで見抜けていなかったアインズが悪いと言えばそうかもしれないが、そうであれば先にそれを言って欲しかった。

 とはいえ、ウルベルトがセバスと相性が悪いであろう事はアインズだって流石に最初から分かっていた。セバスが無断でツアレニーニャを助けた時点で、ウルベルト的にはアウトだったという事なのだろう。

 

 このままウルベルトが帰って来なかったらどうしよう。

 他のギルドメンバーに再び会える保証はどこにもない。

 であれば、この世界に一緒に来たウルベルトを失うなんてことはしたくない。

 彼を失わずに済むためにはどうすれば良いのか。

 いくら考えても答えは出ない。

 

 いっそ、ナザリックから出られないようにしたら良いのでは、なんて馬鹿みたいな事も頭をよぎるが、そんな事をすればウルベルトはアインズを今度こそ本当に嫌うだろう。

 ウルベルトがセバスに向けたようなあんな目線を、自分に向けられたらと思うと、とてもじゃないが耐えられる気がしない。

 

 嫌われる事は恐ろしい。

 

 それが嫌で、自分はいつだってどっちつかずの人間だった。

 意見が対立しても、どちらかに肩入れする事も出来ずその真ん中にいた。

 ウルベルトとたっち・みーの様な両極端なタイプがいる場合は、そんなアインズの性格がうまく働いていたように思う。

 人が減っていくごとに、自分の立ち位置が崩れていくような感覚が、ゲームをやっていた当時あった。

 それが、一人になって逆にここにしか自分の居場所はないのだと今まで以上にしがみついていた。

 

 この世界には現状、ウルベルト以外のギルドメンバーがいないのだから、そのウルベルトに合わせれば良いとやってきたつもりだったのだが、どうやら自分はそれに失敗したらしい。

 ある程度、ウルベルトについては分かっているつもりだった。

 彼がゲームを辞めてから長らく会っていなかったが、それでも、アインズ・ウール・ゴウンを作る前から無課金同盟などと言って仲良くやっていた相手だ。うまくやれると思っていた。

 

 自分はウルベルトについて何も知らなかったんだなと、当たり前な事実にようやく気付く。

 ウルベルトがゲームを辞めている間、彼が何をしていたかなどについては、全く知らない。知ろうとも思わなかったので尋ねる事もしなかった。

 鈴木悟にとって、ゲームをしていないリアルにいる時の自分というのはただの社会の歯車に過ぎず、機械と何ら変わらない物だという認識だった。ユグドラシルにいる時だけが、本当の人間として生きている時間だった。

 友とくだらない話をして、作戦を練ってダンジョンを攻略する。愚痴を言ったり、笑ったり、泣いたり、誰かと触れ合ってコミュニケーションをとる場所は、そこしかなかった。

 リアルでの自分は生きていないただの物でしかなかったから、これだけ固執しているギルドメンバーの事であってもリアルの彼らがどうしているかは、あまり深くは気にしたことはなかった。オフ会をしてリアルの彼らと触れ合う事があったが、今一実感が持てなかったのを覚えている。

 ユグドラシルで再会した際の話のネタにと、ホワイトブリムの漫画を読んだり、ぶくぶく茶釜がまたアニメの声優に抜擢されたんだなぁなどと確認をする程度はしていたが、一度やったオフ会以降、リアルの彼らに会おうとは考えなかった。

 他のゲームに誘ってくれる人たちもいたが、自分はユグドラシルでの生き方しか知らないから、他の場所に行こうだなんて考えもしなかった。

 

 結果、一人取り残された。

 

 当たり前の話だが、鈴木悟と違って、他のメンバーたちはリアルでもきちんと生きていたのだろう。歯車の様に働いていたとしても、リアルで友人を作ったり、ユグドラシルでしていたのと同じような他愛ない話をしたりもして、誰かときちんと向き合って生きていたのだろう。

 だとするならば、数年会っていなかったウルベルトが変わってしまったとしてもそれは当然の事だ。ゲーム時代だって、毎日会うわけでもなく、たまに数時間会うだけの付き合いだ。その程度の付き合いで、相手の事を分かったと思うのがそもそも間違いだ。

 ウルベルトが悪に拘っているのは、両親を殺した社会への憎悪からであろうが、知っているのはその程度だ。本当にそれだけが理由なのかもよく分かっていない。

 

 今更、話し合ってどうにかなるものなのだろうか。

 そんな事を考えて歩いていると、夜だというのに人だかりが見えた。よく見れば、見知った顔も何人かそこにはあった。

 そういえば、八本指とか言う組織をどうにかするためにセバスとプレアデスを出撃させているとか、そんな話だったなと思い出す。いるのはプレアデスの内の4人で、ソリュシャンとシズとセバスの姿はない。

 彼女たちは、アインズと同様にこちらに気づいている様子だが、それを周りにいる人間にも知らせて良いのにもかわからずどこかよそよそしい態度をとっていた。

 申し訳ないが、今あの輪の中に入る気分にはなれない。デミウルゴスからも、もし可能なら顔を出すだけでもして欲しいと言われてはいたが、絶対という訳ではない。

 幸い、周りにいる他の人間たちはこちらに気づいた様子がないので、引き返そうとした時、後ろから声をかけられた。

 

「ゴウン殿ではないですか! 今日の作戦には来られないと伺っていたのですが、来ていただけたのですね。ただ、生憎ともう全て終わった後ですが、せっかくですから一緒に祝杯でもどうですか?」

 

 そう声をかけてきたのはガゼフ・ストロノーフであった。

 快活な裏表のなさそうな笑顔が眩しく見える。

 

「あっ、いやっ、あの、私は結構です。作戦が成功したのであれば、良かったです」

「そうですか? 遠慮なさらなくても良いのですよ。ところで、オードル殿はどうされたのですか?」

 

 一番聞かれたくない問いだ。

 何と答えれば良いのだろうか。

 喧嘩した、とは少し違う気がする。ウルベルトがあそこまで怒っていたのはアインズに対してではなくセバスに対してであった。いや、そのセバスを許したアインズに対してもやはり怒ってはいるのだろうけれども。

 

「おい、あんたがセバス様の主だっていう、アインズ・ウール・ゴウンか?」

 

 アインズが返答に困っていると、別の方向から現れた男がそう声を投げかけて来た。

 知らない男だ。

 ボサボサの髪に無精ひげが生えた男で、腰に差した武器からして剣士といったところか。

 

「そうだが、君は?」

「俺はブレイン・アングラウス。まぁ、ただの雇われ兵みたいなもんだ。少し前にセバス様と出会って、一緒に娼館を潰すのも手伝っていた男だ。それで、あんたはまぁ、セバス様を許したって言ってたから良いが、ウルベルトって奴は今どうしてるんだ?」

 

 セバスが今回の件を喋ってしまったという事か。

 とはいえ、なんで彼はこんな風に腹を立てたような態度をしているのだろうか。

 ブレインの様子に、プレアデスが臨戦態勢に入りそうになっているのが目の端で見えたので、伝わるか分からないが、手で大丈夫だとアピールする。

 

「どうしたんだ、ブレイン。何かあったのか?」

「セバス様が辛そうな顔をしているから話を聞いてみれば、ウルベルトって奴から今回、娼館の前で女を助けた行為を悪だと言われ、それを気にしているようだった。俺は、あんな強い人があんな弱弱しい姿を見せるのが我慢ならねぇんだよ。だから、そのウルベルトって奴に一言文句を言ってやりたいと思ったんだ」

 

 第三者がそんな事を言っても話がこじれるだけではないだろうか。

 そもそも、このブレインという男はウルベルトの事を何も知らない。だからこそセバスに肩入れしているのだし、余計にウルベルトを怒らせるとしか思えない。

 そんな事を考えていると、その言葉にガゼフが笑っていた。

 

「はっはっはっ。それはなんともオードル殿らしいな」

「笑いごとじゃねぇよ。今にも死にそうなくらい落ち込んでたんだぞ、セバス様」

「それは、セバス殿が気にしすぎなのではないのか? 何を隠そう、この俺も先日オードル殿には村人を助けようとしたのは悪だと言われたからな」

「はぁ? なんだそれ」

「あの方の言葉はある意味で正鵠を射ているからな、中々に堪える。自分の中でこれが正しいという軸がなければ折られてしまいそうになるほどな」

 

 ガゼフは、まるでウルベルトの事であれば自分は良くわかっているというように喋る。

 彼らが会って言葉を交わしたのなんてほんの短い間であったはずなのに。

 

「なんだよ、セバス様の心が弱いっていうのか?」

「まぁ、俺はその場にいなかったし、どういう状況であったのか詳しくはわからないので何とも言えないし、相手が自身の主であるならば反論が出来ないのであろうから仕方ないとは思うが、セバス殿はオードル殿の言葉に自分の行動は間違いだったのかと悩んでおられるのだろう」

「確かに軽率な行動だったかもしれないが、それは正義だったと俺は思うぞ」

「そうだな。俺もそう思う。だから、セバス殿もはっきりとオードル殿にそう言ってやれれば良かったのではないかと思う。それでも口論にはなるだろうが、はっきりとそれを示せば、その考えを否定したとしても、ある程度の理解はしてくれる方だと、少なくとも俺は思っているよ」

 

 どうしてこんな、ウルベルトを信頼していると言ったような言葉を彼は紡げるのだろうか。

 その姿に、ついさっきまで喧嘩していたはずなのに、ウルベルトであれば大丈夫だろうとろくに作戦も立てずに連係プレーをしてみせるたっち・みーの姿を連想させた。

 自分の方がウルベルトとの付き合いは長いのに。

 嫉妬と、自分のふがいなさで押しつぶされそうになる。ガゼフの言った事は間違いがないと思うのだが、だからと言って今後どうすれば良いのかが分からない。

 

「なーに、そんなところで立ち話してんだよ」

 

 そう言って、いきなり割り込んできたのは、先ほどまでプレアデスたちと一緒にいた集団にいた人物だ。体格が良かったので遠目からでも目立っていた。

 

「てか、お前その全身鎧、アインズ・ウール・ゴウンか。俺は青の薔薇のガガーランってんだ。今日はお宅のメイドのエントマと一緒に組んで戦ってたんだが、あんまりにも強くてびっくりしたぜ」

「はぁ」

 

 青の薔薇の名前は聞いた事がある。王国のアダマンタイト級冒険者で女性だけのチームだったはずだが、この目の前の人物は、本当に女なのだろうか。とても女には見えないが、だからと言って確認するのは失礼だろう。

 というより、早くこの場から出て行きたい。

 

「お前、童貞だろ」

「へっ!?」

「あんな可愛いメイド侍らせてるっていうからどんな奴かと思ってたんだが、まさか童貞だったとはな。一発俺とやるか?」

「えぇ……?」

 

 プレアデスで一番沸点が低いのはナーベラルであったのか、彼女を他のメンバーが押さえつけている。ただ、他のメンバーも良い顔はしていない。

 話半分にしか作戦内容は聞いていないのだが、確か今回はなるべく人間に友好的に接し、こちらを味方だと思わせるとかそんな内容だったはずだ。

 アインズも好戦的な態度をとっていない事もあり、アインズから直接、もう人間に対して友好的にしなくても良いという命令が下されない以上、この場はそのまま耐えるべきだという判断をしているのだろう。

 再度、手で大丈夫だからと主張する。デミウルゴスの作戦をダメにしたら、ウルベルトに怒られる。

 

「ちょっと、ガガーラン失礼でしょ。いきなりごめんなさい。私は青の薔薇のリーダー、ラキュースです。この度はご協力、本当に感謝しております」

 

 こちらは、まともそうな女性だと安心する。

 プレアデスを含めた他のメンバーも全員こちらに集まって来てしまい、さらにこの場から離れるのが困難になってしまう。

 

「ところで、何の話をしてたんだよ」

「いやなに、セバス殿はあまり元気がない様子だったのは、作戦前に会っていたのでみんな存じていると思うが、それがどうやら、ゴウン殿の相方であるオードル殿をあの御仁が怒らせて、それで考え込んでいたという事らしくてな」

 

 その言葉に、動揺したのは当然プレアデスだ。

 許した以上、円滑に作戦を遂行させるためには仕方がなかったのだろうが、彼女たちはその事を知らなかったようだ。自分の直属の上司がミスを犯していたと知って冷静でいられるはずもなかった。

 

「申し訳ございません、アインズ様。そのような事があったとは存じておらず」

「いや、良いんだ。私はセバスの行いを許した。だから、お前たちがセバスを怨むような事は絶対にしないでやってくれ」

 

 そうは言ってもあまり納得していないようで、皆一様に申し訳なさそうにしていた。

 

「それで、具体的には一体何があったんだ。ああ、私はイビルアイ。青の薔薇のメンバーだ」

 

 青の薔薇にはこんな子供もいるのか。とは言え、彼女もアダマンタイト級冒険者の一人だ。子供扱いはするべきではないのだろう。

 アインズは、事の顛末をできれば話したくなかったのだが、結局ブレインが先ほどしたのと同じ説明をしてしまう。

 こちらの事を知らぬ者は、ブレインの様にツアレニーニャを殺そうとした事で疑いを確認しようとしたこと、あれほど善であるセバスを許す事をしなかったウルベルトに嫌そうな顔をしていたが、報告、相談、連絡がないのはやはり問題であり、意見の食い違いなどはある程度しょうがないだろうと言った感じであった。

 

 それに対してプレアデスは、セバスの行動を聞いた時点で皆一様に顔面蒼白であった。アインズやウルベルトに報告せず、勝手な行動をしていた時点でセバスの罪はあまりにも大きい。それによってウルベルトの怒りに触れてしまったと聞き、明らかにセバスへの憎悪を露わにした。

 至高の御方に仕える事が彼女たちの使命。せっかく戻ってきたウルベルトが、またいなくなってしまうなど、とてもじゃないが彼女たちにとっては耐えられないのであろう。それは分かる。だが、出来る事であるならばその感情は自分に向けて欲しいと思う。

 

 NPC同士の仲が悪くなるのを見たくはない。

 何とか、セバスは悪くないと取り繕い、表面上は彼女たちもそれを納得していないようだが、ウルベルトが今どこに行ったのか分からないという今の状況を伝えると、その表情は悲痛に包まれた。

 きっと戻ってくるからと言っても、完全にその不安が晴れることはない。何より、その言葉を吐くアインズが一番疑っているのだからそれもしょうがないだろう。

 

「大丈夫ですよ。オードル殿はきっと戻って来ますよ」

 

 不安そうなアインズに、ガゼフが声をかけて来る。

 その優しい声に、どうしてだから苛立ちを覚えてしまう。

 

「何も知らない人が、そんな事言わないでください!」

 

 思わず荒げた声を上げてしまう。

 自分が、ウルベルトの帰還を信じられないのに、それほどウルベルトを知りもしないはずのガゼフが確信持って帰ってくると信じているのが耐えられなかった。

 ウルベルトを信じてあげられない、ウルベルトの事を何も理解できていない自分自身に腹が立っていた。

 

 そんな時、頭の中でいきなり声が響いた。

 

『突然の〈伝言〉(メッセージ)失礼いたします、我が師よフールーダ・パラダインです。今、少しお時間よろしいでしょう』

 

「えっ、あっ、ちょっと待て」

 

 いきなりの〈伝言〉(メッセージ)に慌てる。

 周りの人たちも、怒りの声を上げたアインズが、いきなり慌てたような声を出したのだから何があったのかと不思議そうな顔をしている。

 しかし、フールーダからの話したい事とはなんだ? 全く見当もつかないが、だからこそよほど緊急な案件かもしれない。

 少し彼と話をしたところ、この世界の〈伝言〉(メッセージ)の魔法は信用性がかなり低いのだという。フールーダもなるべく緊急時に参考として聞く程度で、〈伝言〉(メッセージ)だけの情報は信じられないと言っていた。ならば、それだけ緊急の要件という事になる。

 

「すいません、ちょっと〈伝言〉(メッセージ)が入ったので出て行きます」

 

 そう言って、心配そうな表情をする人の輪から抜け出して、一人で会話できる場所に移動する。

 

「それで、一体何の用なんだフールーダ」

『はい、それなんですが、あの、あくまで私からではなくジルからどうしても我が師にお伝えして欲しいと言われただけでして……。私は決してそのような事はないと思うのですが』

「ジルクニフから?」

『はい、単刀直入に申しますと、ウルベルト様が、我が師であるアインズ様とナザリックを裏切っていると、そういう事を言っておりました』

 

 は?

 何だそれは。

 なんで、ジルクニフがそんな事を言うのだろう。

 彼とは仲良くなれていたと思う。彼だって、ウルベルトの事を友だと言っていたはずだ。

 それがどうしてそんな事を言うのか。

 

「そんなはずはない! ありえない!」

『はい、私もそう思うのですが、どうしてもその事をアインズ様に伝えて欲しいと言われまして……』

 

 例え喧嘩をしていたとしても、ウルベルトが裏切るだなんてそんな事があるはずがない。

 そんな事、あって欲しくない。

 事実であって欲しくない。

 ああ、でも、ジルクニフはナザリックがどれだけ脅威であるのかをきちんと理解していた。そんな彼がアインズにそんな事を言えば怒りを買い、自分や帝国がろくな目に合わないであろう事は分かっていたはずだ。

 ならば、とも考えるがどうしてもそれを肯定する事が出来ない。

 勝手にアルベドの設定を変え、すぐにそれを伝えなかった事で未だにアインズに対してウルベルトは不信感を抱いているのか。セバスという、自分と意見の合わない物を許容している事でナザリックに嫌気がさしてしまったのか。

 

 裏切る理由ならいくつも考えついてしまうのが口惜しい。

 それでも、その言葉を信じる事はどうしてもできなかった。

 ずっと、待っていたのだ。

 他のギルドメンバーが戻ってくるその日を。

 そして、また別れる日の事などもう考えたくはない。

 ここはゲームの時と違ってログアウトをする必要がない。ナノマシンが減ったからと強制的に追い出される事もない。やっと見つけた居場所なのだ。ここでならずっとちゃんと生きていける。リアルの様なただの物ではなく、ちゃんと自分が生きていける場所なのだ。

 

 そして、そこには仲間がいないといけない。

 一人は寂しい。

 一人は辛い。

 楽しい思い出をくれた彼らが、自分を傷つけるような事をするはずがない。

 

「ありえない、そんな事は絶対にありえない!」

 

 そう言って、まだ何か言いたそうにしていたフールーダからの〈伝言〉(メッセージ)強制的に終了させた。

 どうすれば良い。

 ウルベルトが今どこにいるのかアインズには見当がつかない。

 ジルクニフがこのタイミングでそう言ってきたという事は少し前までウルベルトはそこにいたのかもしれないが、〈伝言〉(メッセージ)を使ってきた以上、今はもうそこにはいないのだろう。そんな内容を本人がいる前で言えるわけがないのだから。

 ならば、一体どこにいるのか。

 他に行きそうな場所の心当たりはどこにもない。

 

 ナザリックの者全てに、ウルベルトの捜索をさせようかとも考えたが、先ほどのプレアデスの表情を思い出すとそれも躊躇われる。

 流れ的にセバスが完全に悪者になってしまう。出来るならば、ウルベルトが穏便にナザリックに戻る形にしたい。そうしないと、まずい事になる。

 デミウルゴスに聞けば分かるかもしれないが、教えてくれるだろうか。彼は何か気づいているようだったが、それは一体何だったのか。

 あの時デミウルゴスは自分が責められているわけでもないのに青い顔をしていた。

 フールーダの言っていた通り、ウルベルトがナザリックを裏切ろうとしているのに気づいたが故に、デミウルゴスはあんな顔をしていたのではないかと言う考えが頭をよぎる。

 

 そんなはずはない。

 そう思いたいのに、そうとしか思えなくなってきてしまっている自分が憎い。

 ガゼフが、真っすぐにウルベルトならば大丈夫だろうと信じていたように、自分もウルベルトを信じたいのに、それが出来ない。

 再び〈伝言〉(メッセージ)が入る。

 またフールーダからだろうと、相手を確認せずに荒げた声を上げてしまう。

 

「いい加減にしろ! その様な戯言は断じて信じない!」

 

「えっ、あっ、申し訳ございません、アインズ様。既に、ご承知だったのでしょうか……」

 

 女の恐縮しきった声に我に帰る。

 聞いた事ある声でナザリックの者である事は間違いないのだが、名前まで出てこない。

 

「いや、すまない。別の者と間違えたようだ。えっと……」

「桜花領域守護者、オーレオール・オメガです。重要な案件でした為、アインズ様がまだ存じておられないのでしたら早急に知らせねばと〈伝言〉(メッセージ)をさせていただきました」

 

 予想外の相手にアインズは動揺する。

 間違いなく、彼女はアインズが言って欲しく無い言葉を言う。聞きたくはないが、聞かなくてはならない。

 

「ウルベルト様が、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを持ってナザリックを出て行かれてしまいました」




 ジルクニフは、今頃フールーダから、やっぱりアインズ様怒ってたよって言われて頭を抱えていると思われます。あともうちょっとの辛抱なので、毛根には耐えてもらいたいところです。

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