悪の舞台   作:ユリオ

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17話 悪の聖騎士

 デミウルゴスは、第六階層に監禁されていた。

 どうしたって勝ち目がないのが分かっていたからという事もあるが、特に抵抗もなく連行されその場にいた。

 その牢獄に来客が現れ、デミウルゴスは頭を下げた。

 自身が忠誠を尽くすべき相手である、アインズ・ウール・ゴウンの姿がそこにはあった。

 

「デミウルゴス、お前の知っている事を教えてはくれないか。そして、お前はこれからどうしたいのかを」

「……かしこまりました。しかし、すでにアインズ様が承知の事ばかりだとは思いますが」

 

 話して良いのかどうかは分からないが、しかし忠誠を尽くすべきと定められた相手からそう問われてしまえば答えるしかない。

 外で何が起こったのかは把握していないが、状況から察するにすでに事は起こっており、それを言ったところで何かがあるでもなし。アインズにとっても、確認の作業でしかないだろう。

 とはいっても、一から十まで全てを話すつもりもないが。

 

「ウルベルト様は、リアルへのご帰還を望んでおられました」

「やはり、そうか」

「具体的に何をなさろうとされていたのかは私も存じておりませんが、仇討の様なものであったと理解しております」

「それは、ウルベルトさんの両親を殺した社会に対して、と言ったところか。まぁ、あの人らしいか」

 

 アインズの言葉は間違っているとも言えないが、正しいものではない。

 しかし、デミウルゴスはそれをアインズに伝えなかった。ベルリバーが死んだという事実はすでに傷ついたアインズの心をさらに痛めるであろうし、それすらただの表向きの理由で、ただのウルベルトの自己満足だと言っても、それを理解はしてもらえないように思えたからだ。

 

「黙っていたお前を咎めるつもりはない。気づかなかった落ち度は私にもある。それに、きっとお前が私とウルベルトさんとで忠義を迷っていなかったならば、もっと早くにあの人はここからいなくなっていただろうからな」

 

 いっそこの場でアインズから断罪された方が良かった。

 あれは、どちらも捨てられないデミウルゴスがとった半端な言動だ。忠義には程遠い、ただ、御方二人がこの場に残ってくれればという、そんな願望によるものだ。

 自分の願いと、アインズの願いが近いため、若干そちらよりの言動になってしまっていたという、ただそれだけの話だ。

 

「ウルベルトさんがどこにいるか、わかるか?」

「おそらく、いえ、間違いなく聖王国かと」

「根拠は?」

「以前、ウルベルト様から、聖王国についての情報を教えて欲しいと言われておりました。そして、それは “りある”への帰還とか関係ない案件だと。それと、悪魔と対峙するには似合いの名前ですから」

 

 そう言った事を気にする方だった。

 悪と対峙するのは、やはり正義が似合いだろう。その点では、聖王国が名前や国の在り方から一番合う。

 

「それで、お前はどうするつもりなんだ。やはり、ウルベルトさんの方につくのか?」

「私は、ウルベルト様が望まれた私でいたい、ただそれだけです」

「そうか。そうだな。だが、悪いがお前をここから出すわけにはいかない。お前が向こうに行ってしまえば、あの人がこの地に残る理由がなくなってしまう」

「それは、当然の判断かと」

「……正直、お前はもっと取り乱しているかと思っていた。素直に受け答えをしてくれるとは、思っても見なかった」

「私は、ウルベルト様よりアインズ・ウール・ゴウンに絶対の忠誠を誓うようにと定められております。ですから、その名を冠するあなた様に、無様な振る舞いや、虚偽を伝える事はしたくはないのです」

「設定、か」

 

 忌々しいというように、アインズが言葉を漏らす。

 まるで、デミウルゴス以外にも設定に関する事で何か嫌な事でもあったような、そんな口ぶりであった。

 

「ただ、勘違いはしないでいただきたいのです。私は、設定に書かれたことを実行するだけの機械ではございません」

 

 断言するようにそう言うと、アインズは少し驚いたような表情になる。

 

「ウルベルト様に答えを出しておくように言われ、考えたうえで今このようにアインズ様にお話をしているのです。設定していただいた通りの私でいたいと思い、自分で決めた上での今の私だと、それだけは分かっていただきたいのです」

「そうか。わかった。だが、どちらにせよ、ウルベルトさんと決着をつけるまでお前を出す事は出来ない。すまない、デミウルゴス。お前にはもう少し設定について聞きたいが、今はあまり時間がない」

 

 そう言い残してアインズが去って行く。

 一人、脱獄不可能な牢獄に閉じ込められたことに安堵してしまう自分に腹が立つ。

 ウルベルトの思った通りの自分でありたい、その気持ちは紛れもなく本物だが、それをしたくないと思っている自分がいるのも確かだ。

 だからこうして、逃げ出せない理由がある場に閉じ込められている事に安心感を覚えてしまう。それがいけない事だと分かっていても。とはいえ、わざと捕まったわけではないし、ナザリックの防衛は完璧だ。デミウルゴス一人では、どうする事も出来ないのも事実だ。

 

 しかし、アインズが設定を気にしていたのはなんだったのだろうか。

 アインズが設定したシモベというと、パンドラズ・アクターだ。彼も、何か現状では困るような設定をされていたのだろうか。そう考えるがなんだか違う気がする。

 他のシモベの設定をアインズがしたという話は聞いた事がないが、もしかしたらギルド長であったアインズであれば勝手に他の御方が設定した上から、さらに設定を足すというような事が出来たりするのだろうかと、そこまで考えてようやく気付く。

 

 なるほど、アルベドか。

 そうなると、ウルベルトの行動の分からなかった部分も綺麗にピースが埋まる。

 こうも焦って行動に移していたのはこれが理由かと合点する。

 とはいえ、今更それに気づいたところで今はどうする事も出来ず、デミウルゴスは一人牢獄に囚われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれこそが正しい正義だと、ネイア・バラハは涙を流しながらその光景を目に焼き付けていた。

 聖騎士と悪魔の戦いは、圧倒的なまでに悪魔の方に軍配が上がっていた。

 勝てる見込みは微塵もなく、戦場に立つ聖騎士もそれは分かり切っていた。それでも、一歩も引くことはなく、恐れる事無く己が死ぬその時まで剣を振り続けた。

 その光景が、とても美しかった。

 本人は出陣前にそれを否定したが、しかしあれは紛れもなく正義であると、ネイアは強く思ったのであった。

 

 

 

 

 

 亜人たちが聖王国に向けて押しかけて来た。

 最初はそれが、いつものように亜人達の進行であると思われたが違った。彼らは、自らの土地を追われ逃げて来た者達であった。

 いくら亜人とはいえ、無抵抗で涙を流しながら助けを乞う存在に、剣を向けるのははばかられた。

 それに、亜人を追い出したというその存在の情報は必要だ。彼らを殺しつくして探索するより、彼らに直接聞いた方が良いだろうという判断により、とりあえず数人の亜人を招き入れ、話を聞く事となった。

 

 皆一様に悪魔が現れたのだという。

 それにより、命からがらここまで逃げ延びたのだと。どうか、他の仲間も城塞の中に入れ、助けて欲しいと懇願してきた。

 

 罠である可能性もある。

 亜人を助けるなど、城壁を担当する者だけで決めて良い案件ではない。上に情報を伝え、今後の方針を仰いでからでないといけないはずだったが、彼らはすんなりと城壁内部へと案内された。

 聖王国王女、カルカ・ベサーレスがそれを許した。

 王都を守護していたはずの聖騎士団を引き連れ、聖王女は城壁の街へ来ていた。神託を賜り、この地に災いが起こる事を予期した上での行動であると王女は言う。

 もちろん、聖王女が許したと言え、それに反発する者は多くいた。

 当然だ、亜人に家族を殺された者だった数多くいるのだから、彼らを助けるという道理が分からない。

 

「今まで私は、誰も泣かない国にしたいとそう願っていました。現実の見えていない愚かな夢です。誰もと言いながら、こちらを攻撃してくるのだからと、自国民を守るためにと多くの亜人を殺してきました。その戦いで聖騎士が犠牲になった事も当然あります。それでも、その私の夢は間違いなく正義だったのです。私如きで救えるのはそこまでだった。だから、私は、今までの私が間違っていたとは思いません。それは、正しい在り方だった」

 

 聖王女が何を伝えたいのか、誰もその時点では理解していなかった。

 誰も泣かない世界。それは確かにとても綺麗な理想であり、同時にそれが不可能だと誰もが知っていた。知っていてなお、その美しさに憧れ、聖騎士は剣をとるのだ。

 

「だから、私がこうして亜人達を助けるという行為は、以前の正義を掲げる私が行わなかった事、つまり悪なのです。ですが、私は今までの私を捨てそれを選びます。聖王女カルカ・ベサーレスは悪を為す者になったと今ここに宣言いたします」

 

 悪とはなんだ。

 そうはいっても、困っている亜人を助けたというそれが、悪なのだろうか。確かに以前であれば、許す事はしなかったかもしれないが、あまりにも飛躍しすぎている。

 一緒にやってきた聖騎士すら、その言葉を正しく理解している者はほとんどいない。半数以上は、いきなり神託がどうのと言って騎士団を連れてここまでやって来た聖王女に不信感を覚えていた。

 そもそも、なぜ今それを言うのか。

 

 遠くで悲鳴が聞こえた。

 城壁の上から、悪魔の群れが現れたとの報告が上がる。

 

「聖騎士の皆さんは、まだ逃げ遅れている亜人の方々を誘導して下さい」

 

 まだ、悪魔の進行がないタイミングにやって来た亜人ならまだしも、今襲われている者を助けるとなると話がまた別になる。

 この距離ならば、まだ弓や魔法で攻撃が出来る。亜人もまとめて掃討するのであれば問題ない。

 だが、救うとなると戦いの最前線まで行かないといけなくなる。魔法も、亜人に当てないようにするとなると、遠距離からではなかなか厳しいものがある。

 

「我々に、亜人の為に死ねというのですか!」

「その通りです」

 

 王女の言葉に迷いはなかった。

 

「亜人だから全て助けるというわけではないのです。今まで敵対してきた私たちに助けを求めてきた彼らを、私は救いたいのです。それによって、我が聖騎士達が血を流すことになると分かっていても」

 

 犠牲を恐れないと、彼女は言った。

 今までの彼女であれば絶対に言わなかった言葉だ。自国民の為ならば多少の犠牲を覚悟しなくてはいけないと理解していても、なるべくならばそれがないようにと祈っていた今までの彼女とは違う。

 その時、地面が揺れた。それと同時に城壁の向こうからさらに大きな悲鳴が上がる。

 城壁の向こうで、何か大きな魔法が行使されたようだ。

 

「ウルベルト・アレイン・オードルと名乗る、恐らく悪魔の親玉と思われる者が現れ、城壁前の平野を焼け野原にしてしまいました。そして、この国で一番強い騎士を出せと……」

 

 報告してきた男の目線がカルカの隣にいるレメディオスに行く。

 聖王国聖騎士団団長レメディオス・カストディオ。この国で強い騎士と言えば、聖王国の神宝である聖剣サファルリシアを持つ彼女を置いて他にない。

 だが、報告する男は彼女ではあの悪魔には敵わないであろうと気づいていた。

 そもそも、あれほどの破壊力のある魔法を簡単に放つことが出来る存在に勝てる者など、存在するはずがない。

 

「レメディオス」

「はい、カルカ様」

「行ってくれますか」

「当然です。私はあなたの剣。あなたが悪となるならば私は悪として剣を振るい、あなたの為にこの命を捧げます」

 

 眩しいほどの笑顔で、何の迷いもなくそう告げるレメディオスの言葉に、他の聖騎士たちもそれが正しい騎士としての在り方かと、文句を言う声は小さくなる。

 

 だが、戦況の報告が来るたび、それがどれほど絶望的であるのかを理解していく。

 100を超える悪魔。

 亜人達を城壁内に匿う事が出来たとして、その後この城壁を死守できるかどうか。

 逃げのびてきた亜人達だって、魔法などは使えないものの人間よりも個人個人の力は強い。そんな亜人達が逃げるしかないと判断した相手に、果たして勝つことはできるのかどうか。

 しかし、悪魔を倒さなければ、聖王国は崩壊する。戦うしか道はないのだが、どうしたって不安を拭う事が出来ない。

 

 そんな中、レメディオスだけはそんな報告を聞いても表情を変える事はなかった。

 どんな戦況であれ、自分の為すべき事は変わらないと、そんな様子であった。

 聖騎士団の団長がそのような態度をしている以上、表立って弱音を吐くことも憚られた。

 

「お一人で行くなどあまりにも無茶です」

 

 戦場に向かうレメディオスに、騎士の一人がそれを止めようと声をかける。

 

「なら、大勢で行けば勝てるのか?」

「いえ……しかし、今後の事を考えれば、あなたは生き残るべき人材だ」

「それで?」

「ですから、我々が他国の援軍が来るまで持ちこたえます。せめてそれまで」

「カルカ様は私に死ねとおっしゃられた」

「えっ?」

「亜人の救助と、他国の助勢が来るまであの悪魔と戦い、そしてその果てに死ぬようにとご命令された。ならば私のやる事はただ一つだけだ」

 

 そう言い残して、レメディオスは悪魔の前に立つ。

 助太刀しようとする者は、彼女の直属の部下や彼女の妹であるケラルトによって阻まれた。

 身内がそれに了承してしまっている以上、外野がとやかく言ういわれはない。しかし、完全に納得していないであろうことは、そのケラルトの表情から容易に分かる。納得はしていないが、この決断を受け入れているといった様相である。

 

 聖騎士の誇りにかけ、カルカの命に従い死ぬと決断したレメディオスの犠牲を無駄にする訳にはいかない。

 悪魔の親玉を彼女が引き付けてくれている間に、他の悪魔を倒し、こちらに避難してくる亜人達を助けることしか、聖騎士達にはできなかった。

 ここで、亜人だからとないがしろにしてしまえば、レメディオスの決意が無駄になる。それだけはさせる訳にはいかないと、本来敵であったはずの相手を助ける。

 

 それは、正しい事なのかどうか分からない。

 亜人達はいずれ助けた恩を仇で返す事もあるかもしれない。そもそも、悪魔とグルである可能性だってあるのだ。信じるに値する相手ではない。

 聖王国の民の事を考えれば、これは正しい行いではない。

 だが、間違ってはいないと誰もが信じた。

 信じたかったと言った方が正しいか。

 

 カルカはこれを悪だと言った。だが、涙を流し感謝の言葉を述べる亜人を見て、これを見捨てる事が正義だと思える者はほとんどいない。

 彼らの命は、レメディオスの命をかけるほどのものだと、むしろそうでなくては困る。

 剣戟の音が遠くまでこだまする。

 聖騎士と悪魔との戦いを、聖王国の民も、亜人も同じようにそれが尊いものであるというように眺め、目に焼き付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「剣と言うのは今までろくに使った事はなかったんだが、こうしてつばぜり合いをしてみると、中々どうして面白いな」

「そうか、それは良かった。お得意の魔法は使わなくても良いのか?」

「使えばすぐに終わってしまうだろう」

「まったく、その通りだ、なっ」

 

 レメディオスが言葉の終わりに一気に相手に詰め寄るが見事に避けられる。

 悪魔が剣を使った事がないというのは事実だろう。

 剣の太刀筋は素人同然。型という物が全くないのだが、それでいてどこかで見て覚えたというような妙に鋭い太刀筋をたまにするので油断がならない。

 

 剣の技量のみで見ればレメディオスが上をいっているが、圧倒的なまでに速度と力が違いすぎる故に、彼女に勝ちの目は一切ない。

 レメディオスは、その剣を受けるだけで腕がしびれて剣を落としそうになる事が何度もあった。その為、なるべく回避するしか他にないのだが、相手の方が速度は速いのだから、いつもそう上手く避けられるわけではない。

 いったん距離をとり、息を整える。

 ポーションを体にかけ、まだ体は動くことを確認する。

 

「死ぬのが怖くないのか、レメディオス」

「お前がそれを問うか、いや、お前だからこそそれを問うのか」

 

 レメディオスが剣の切っ先をウルベルトに向ける。

 

「主の為に戦い戦場で死ぬ、騎士としてこれ以上の誉れはない。ならば、それを恐れる必要などどこにもない」

「根っからの騎士だな、お前は」

「他の生き方を知らないだけだ」

 

 カルカとケラルトの言葉の通りに動くだけの彼女は、本当の意味での騎士道は理解してはいない。

 何が正しいだとか、悪いだとかは二人が決める事だ。 

 いわれた通りの戦場で剣を振るう事しかレメディオスには出来ない。

 

「お前が死んだあと、カルカも、ケラルトもお前のいない世界で幸せに暮らし、そうしているうちにお前の事など忘れてしまうかもしれないぞ」

「良い事ではないか。二人が幸せに暮らせるのであれば、私も死んだかいがあったという物だ。例え忘れ去られようが、それが二人の幸せの結果であれば私はそれでも構わない」

「お前はあきれるほど馬鹿な奴だな」

「ああそうさ。私は大馬鹿だ」

 

 再び二人の剣が交わる。

 レメディオスが先に動いても、ウルベルトはその動きを遅れて見た上で少しの動作で見事にかわし、逆にウルベルトの明らかな大ぶりな攻撃であっても技があまりにも早く強力であるが故にレメディオスは全力でそれをかわす。

 はたから見れば、猫が鼠をいたぶっているような、そんな光景だ。

 

「だが、それはお前も同じだろうが、ウルベルト!」

 

 外から見た情景とは別に、当の二人はどこか楽しそうであった。

 レメディオスの方は、いつ倒れてもおかしくない状態だというのに、その表情は明るい。

 

「ああその通りだ、まったくその通りだとも」

 

 まるで旧知の仲のように。

 笑いあいながら剣を交える。

 

「しかし、私は悪になったはずなのに、この聖剣が使えるというのは、なんとも不思議な事だな」

「なんだ、今更自分はやはり正義だったというのか」

「まさか! そして、カルカ様が私を悪だと言った。ならば私は紛れもなく悪だろう。そもそも、最初に私を悪だと言ったのはお前ではないか」

「その通りだ。お前こそが俺が理想とした悪であるからこそ、俺はこうしてお前と刃を交えているのだからな」

 

 悪になりたかった男と、その男が悪と定めた者の戦いは続く。

 レメディオスは何度目かのポーションを使うが、傷が深すぎてその効果は薄い。

 それでも、剣を握り勝てぬと分かっている相手にその刃を向ける。

 地面はもう、彼女の血で真っ赤に染めあがっていた。

 どれほどの痛みを与えられようと、彼女に迷いはなく、ただ主に命じられた通りに己の全てをウルベルトにぶつける。

 

「ああ、楽しかったチャンバラごっこもここで終わりの様だ」

「そうか。ならば、最後にこの聖剣の力をお前に見せてやろう。相手が悪であるほど威力が増す技だ、もしかしたら、お前を消し炭に出来るかもしれないな」

「だとするならば、それは俺が悪になれたという証。それはそれで構わないが、まぁ、無理だろうな」

「後悔しても知らないぞ」

 

 レメディオスは剣を構え直す。

 一日に一度しか使う事の出来ない必殺技。

 それを放とうとする聖剣は今まで見た事のないほどの光を放つ。

 だが、その攻撃が悪魔に届くことはなかった。

 

「さようならだ、レメディオス。お前の出番は、ここで終了だ」

「では、一足先に地獄に行っているぞ。あとは上手くやれよ、ウルベルト」

「大丈夫だ。俺の息子は、俺と違って優秀だからな」

 

 力を出し切ったレメディオスはもう剣を振り被る力も残ってはいなかったが、それでも膝を屈する事はない。

 その彼女の首を、ウルベルトは切り落とした。

 ぼとりと、彼女の首が赤く染まった大地に落ちる。

 死して尚、その表情には恐怖はどこにもなく、安らかな物であった。

 

「なるほど、これが人を殺すという事か」

 

 すでに数多くの人間を殺してきたはずの悪魔がそう呟いた。

 だが、その声を拾う者は、どこにもいない。

 悪魔は魔法によって炎を出し、死した騎士の亡骸を灰と化す。

 戦いに身を殉じた騎士の死を嘆き悲しむ声が遠くから聞こえてくるのであった。




 レメディオスが、好きでしてね。彼女を活躍させるにはどうすればいいのかなと悩んだ結果、戦場で死ぬしかないな、という悲しい結論に至りました。
 原作は、生き延びちゃったせいで逆に不安な未来しか想像できないので、辛い。

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