悪の舞台   作:ユリオ

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19話 最後の舞台

 なぜジルクニフや帝国兵が来ているのか、アインズはそれを不思議に思いながらも今はそんな事を考える余裕はないとウルベルトに向き合う。

 隙を作ればやられてしまう。

 

 ナザリックのシモベ達には、あまり強すぎる力を見せては人間達を怖がらせるだけだろうから、いざという時は構わないが、なるべく守り以外では最低限の力で戦うようにと言っている。

 ウルベルトがアイテムで召喚した悪魔は数が多いだけで威力としては大した事がないので、このままであれば特に問題はないはずだ。

 

 ウルベルトに勝つ為だけであれば一斉に畳みかけるようにするべきなのだろうが、ウルベルトに勝機がない状態にしてしまうと、スタッフを盾にしてくる可能性が出てくる。

 向こうにとっては、恐らく出来れば壊したくないという程度の物だろうが、こちらとしてはそれをやられてしまえば敗北が確定したも同然になるので、それだけは避けなくてはいけない。

 どちらにせよ、まずは会話による説得を試みる予定であるし、それなら一対一の方が良い。

 とはいえ、会話にすらならない状況になれば一緒に連れてきたシモベ達と一緒に、ウルベルトを叩く必要が出てくる訳で、そんな状況になれば最低限の力で、なんて言っていられないので全力で戦う事になる訳だが。

 

 そうやって、現状はシモベ達には力を抑えさせているがウルベルトと対峙するアインズだけはそうはいかない。こちらは対話がしたいと言っても、向こうはそうではない。当然戦闘は避けられないし、相手が相手なので本気で行かなくてはいけない。

 アインズがウルベルトとのPVPに勝ったのは数えるほどしかない。それも、本気の試合とは程遠い。彼がいつもロールプレイの一環でする無駄なセリフを決めている最中の不意打ち。それ以外にアインズがウルベルトに勝つ隙はどこにもなかったからだ。

 攻撃特化のガチビルドのウルベルトにアインズが勝とうとするならば、長期戦に持ち込むより他にない。彼の持つワールドディザスターという職種は通常よりも攻撃力を高める代わりに燃費が悪い。特に、彼の一番攻撃力の高い魔法であるワールドディザスター専用魔法の大災厄は、MPの60%を消費するものだ。

 だから、本来であれば逆に大災厄を序盤に撃たせるように仕向けるのが正しいのであろう。初手でそれを使わせ、それをしのげたのであれば勝機を見出す事が出来る。

 

 しかし、それは出来ない。

 大災厄を防げないから、ではない。

 人間を守ると、そう決めたからだ。

 

 超位魔法すらしのぐ力を持つそれは、ゲーム上ではフィールド全てを覆いつくすほど広範囲に破壊をもたらす大技だ。

 アインズとシモベ達だけがそれを避ける手段は一応ない事もないのだが、この位置から魔法を使われて聖王国を守る事はまず不可能。

 それ故に、大災厄を使わせる訳にはいかない。

 

 ウルベルトとしても、戦闘中使えるのが一度きりしかない技でない以上、避けられる可能性がある場面では使ってこないはずだ。

 ゲームの時の様に大災厄を放つ時にまた無駄な詠唱をしてくれるのであれば話は別だが、この状況でそんな事をしてくれると期待する方が愚かだろう。

 なるべく速攻で、隙を見せずに戦う。課金アイテムも出し惜しみなく、全部ぶつけるしか勝ちの目はない。威張れる事ではないが、課金の額は圧倒的にアインズが上回っており、ウルベルトが引退してから出た彼の知らないマジックアイテムも所持している。それでどうにかするより他にない。

 しかし、いくら途中で引退していたとはいえ一時期はユグドラシル内でもかなりの上位に食い込んでいた相手。ワールドチャンピオンであったたっち・みー相手に勝利こそしなかったが五分の戦いをする相手に、致命傷と言えるほどの攻撃を与える事はなかなか出来ない。

 

「アインズさんは、人を殺した事はありますか?」

 

 戦闘のさなか、ウルベルトがそんな事を問うてきた。

 

「何を。この世界に来て、カルネ村に来た時に、俺もあなたも人を殺したじゃないですか」

「あれは虐殺っていうんですよ。強者による弱者の蹂躙。結果としては確かに生きていた人間が死ぬだけなんだから変わりはないんでしょうが、殺す側は相手を人間だと認識していないのだから、あれは人殺しとは違う」

「何が言いたいんですか」

 

 確かに、特に殺した相手の事はアインズも気にしていない。アンデッド故、人間という種族に興味がないからと言うのもあるが、ゲーム感覚がまだあるから、と言うのが大きいように思う。

 話しながらもお互いが魔法を出すのは止まらない。油断をするとやられるが、元より会話をしに来たのだ。だから、話の内容はさておき向こうから話しかけてくれた事に、少しほっとする。

 

「俺は、リアルで人を殺したかったんです」

「……それが、リアルに戻ろうとした理由ですか」

「そうです。俺にはどうしても殺したい奴がいた。どうしても、殺さなきゃいけない悪があった」

「それが、あなたのなりたかった悪、なんですか」

「それ以外に道はなかった。それをしなくては、あの世の両親に会わせる顔がないと、悪を殺し己も悪になる日を夢見て来た」

 

 あまりにもいびつ。

 ウルベルトの悪に対する執着心が強い事は理解していたが、それで本当に救われると思っているのが異常だ。

 その殺したい相手と言うのはきっとウルベルトの両親が死ぬきっかけになった存在なのだろうが、それを殺して両親が戻ってくるわけでもなし。

 確かに相手は憎いかもしれないが、リアルで富裕層を殺そうとした人間がどのような末路を辿るか分かっていないはずもないだろうに。

 

「復讐なんで馬鹿らしい、そう思いました?」

「ニニャの時も思ってましたけど、復讐自体は別に構わないと思うんですよ。でも、それは今の楽しそうに過ごしているこの生活を壊すほど重要な事なのかなって。そりゃあ、自分を苦しめた相手が良い思いをしていたら腹が立つのは分かりますけど、今の幸せを壊す方が俺は怖い」

「まぁ、そうでしょうね。理解してもらえるとは思ってません。ただ、俺は別にその相手が憎いわけじゃない。憎いのは自分自身。あの時あの場であの男に言い返す事が出来なかった幼い頃の俺。悪に言い負かされ、臆病者とののしられた、そんな俺なんて不要でしょう」

「それで、人間だった頃の感情を捨てて悪魔になると、そう言うんですか!」

 

 具体的に何があったのかは分からない。

 アインズだって、鈴木悟として、ただの物として生きている頃の自分というのは徐々に薄れている感覚がある。

 それでも、覚えている光景はある。

 料理を作る母の背を、今でもはっきりと覚えている。

 結局それによって死んでしまったが、自分の為にと頑張っていた母の事は今でも忘れることはないし、忘れたくはないと思う。

 だから、忘れてしまうのはしょうがないかもしれないが、人間であった頃の事をあえて忘れようとは考えない。

 ウルベルトにだってそんな記憶の一つや二つあるはずだ。人間であった頃を捨てるというのはそれも捨てる事になる。

 

「別にあなたには関係ない話でしょう。何を言っても分かり合えない。それが分かっていたから今まで言わなかった。別に、俺だってナザリックを壊したいわけでもない。そちらがデミウルゴスを受け渡してくれるなら、大人しく引く事だってやぶさかじゃない」

「嫌です。俺は、みんなでただ平穏に暮らしたい。その中には、もちろんあなたも必要だ。だから、この場で決着をつけるし、あなたがデミウルゴスに執着する以上彼を引き渡す事はない」

「それが、ただ平穏に暮らすというのが、あなたの望みですか」

「そうです。それ以上の望みは俺にはない」

 

 そんな当たり前の事が難しい。

 マナエッセンスによりウルベルトのMPを確認するがまだかなり余裕がある。

 HPにしたって、半分も削れていない。

 

 ウルベルトがゲームを辞めたユグドラシル末期に出た属性の攻撃であれば耐性を備えているはずがないと、アイテムによりそういった攻撃を中心にしているはずなのにダメージがそれほど入らない。

 確実に対策を取っている。

 ウルベルトがそんなアイテムを持っているはずがないし、魔法で作成するにしても知らないアイテムは出来ないはずだ。

 

 図書館で調べた?

 いや、それならば司書などの目撃証言があるはずだが、そう言った事はなかった。あそこには何人もNPCがいるのだから、誰もそれを知らせないわけがない。

 ならば他のギルドメンバーの部屋から持ってきたのかとも思うが、そんなピンポイントで必要なアイテムを見つけられるとは到底思えない。

 だとするならば、残りはあと一か所。

 しかし、そんな事がありえるのか。

 

「ああ、でもデミウルゴスは来てくれたみたいですよ」

「えっ?」

 

 遠くでアルベドが何かを叫んでいる声が聞こえた。

 恐る恐るそちらに目を向ければ、最初に目に入ったのは、ナザリックに残してきたはずのシャルティアの姿であった。

 その後ろに、デミウルゴスの姿がある。

 なぜだか分からないけれど、いつも着ている緋色のスーツではなく、黒を基調とした服を身に着けている。

 どうやってあの場から逃げたかなんて、シャルティアが明らかにデミウルゴスの護衛をするような形で現れた以上、彼女がデミウルゴスを牢から出したという事だろう。

 いや、彼女だけではないだろう。よく見れば、アルベドの傍にいるのは同じくナザリックに残してきたはずのパンドラズ・アクターだ。

 

 裏切り、という言葉が脳裏をかすめる。

 

「よく来てくれたな、デミウルゴス」

「遅くなり、申し訳ございません、ウルベルト様」

「いや、丁度良い頃合いだ。もう、迷いはないんだな」

「はい。私はウルベルト様の望みを叶える為にここにいるのです」

 

 まずいと、そう思いながらもデミウルゴスを止める事が出来なかった。

 このままシャルティアも敵に回るという事であれば、アインズに勝ち目はない。シャルティア用の対策など何もしていないのだから。

 他のシモベ達と共闘するにしても厳しい状況になるし、一緒に連れてきたシモベ達もこうなってしまえば信用していいのか怪しくなってしまう。

 

「デミウルゴス。俺が作り上げた理想の悪魔。お前が俺の望み叶える事を選んだというのであれば、もはやここに何の未練もない」

「待ってください! ナザリックを本気で捨てるんですか! みんなで作り上げた大事な物を、あなたは本当に捨てられると言うんですか!」

「それを後生大事にしているのはあなただけでしょう。だからこそみんな離れて行って、あなた一人が残った。自分が大事な物が、相手も大事だと勝手に思い込んでいただけでしょう」

 

 確かにその通りだ。

 その通りなのだが、やはり納得ができない。

 

「俺は悪になる。その為ならなんだって捨てる。本当に大切な物以外を全部捨てることで、俺はやっと悪になる。ナザリックも、モモンガさんも、全部!」

 

 ウルベルトがそう言い切る前に、アインズは何かが光るのが見えた。

 それがナイフの刃が日の光に反射したのだと気づいたのは、その刃がウルベルトに刺さった後であった。

 たった一刺しの攻撃。

 それだというのに、ウルベルトのHPは一気に減っていくのが見えた。

 刺した本人の表情は俯いていて良く見えない。

 何か二人が話している様だが声が小さすぎてここまでそれは届いてこない。

 呆然とその光景を眺めていると、最後の力を振り絞るようにウルベルトが顔を上げた。

 

「すいません、モモンガさん。あと、よろしくお願いいたします」

 

 最後にそう言い残すウルベルトの声も表情もモモンガのよく知るウルベルトそのものであった。

 先ほどまでの殺気は嘘のようで、なんだか舞台を降りた俳優の素顔を見たようなそんな感じがなぜだかした。

 

 突如、ウルベルトの体から炎が上がり燃えていく。

 炎耐性のある悪魔の体は中々燃え尽きることはないが、そこで彼は死亡した。

 先ほどまで、アインズと熾烈な戦いを繰り広げていたにもかかわらず、あまりにもあっさりと死んでいく様をただじっとその場に立ち尽くして見ている事しか、アインズにはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたんだい、シャルティア。こんなところにやって来て」

 

 デミウルゴスのが捕まっている牢屋に神祖の吸血鬼がやってくる。

 

「別に。ただ、アインズ様からデミウルゴスを逃がさないようにとご命令されているから、様子を見に来ただけでありんす」

「では、もうアインズ様は行ってしまわれたのかな」

「そうなるでありんすね」

 

 投獄されたままでは、デミウルゴスはウルベルトの望みを叶えることが出来ない。

 しかし、牢を破りシャルティアを撃退してナザリックの外に出るという芸当はデミウルゴスには不可能だ。事前に準備をしているなら話は別だが、現状自分一人でここから逃げ出す術を何も持ち合わせてはいない。

 

「このままで良いでありんすか?」

「良いも何も、ここから出られないのだからどうしようもないだろう」

「抵抗すらしてないじゃあありんせんか」

「そんな事をしても無駄だと分かっているからね」

「創造主が自分を待ってくれているのに?」

 

 シャルティアが、こちらを不思議そうな瞳で見ている。

 

「わらわは、ペロロンチーノ様が望まれるなら、その為ならなんだってする。いつも私を見て可愛いと言ってくださったから、毎日身だしなみにも気を付けて、いつ再会しても良いように可憐な自分であるように日々自身を磨いていんす」

「…………」

「ペロロンチーノ様が、アインズ様とナザリックを捨てて自分と一緒に駆け落ちしようと言ってくれるならどこへでも行く。わらわは、別に頭が悪いというわけではありんせんけど、デミウルゴスほどは良くないでありんす。だから、その後がどうなるかなんて何も考えず、ペロロンチーノ様を選ぶ」

 

 ああ、彼女はとても真っすぐだ。

 それがとても羨ましい。

 

「デミウルゴスは、本当にこのままで良いでありんすか? この後ウルベルト様がどうなるか分からないのに、足掻くこともなくこんなところに留まって、それで後悔はないんでありんすか?」

「良いわけがない。きっと私はその事を一生後悔する」

 

 そんな結末になったのならば、自分は自分を決して許す事はないだろう。

 分かり切っていた。

 それでも、ウルベルトの願いを叶える事が恐ろしかったのだ。

 デミウルゴスが本来彼の頭脳であればすぐに導き出せたはずの答えを出すのに時間を要してしまったのは、結局のところそのせいであった。

 それをしたくなかったから。

 他の結末を模索してしまったが故に、答えに辿り着くのが遅れた。

 きっと、あのラナーとか言う女はデミウルゴスよりも先にその答えに辿り着いていただろう。

 

 しかし、いつまでも逃げてもいられない。

 確かにそれはやりたくない事ではあったが、ウルベルトはそれを望んでいる。その大役をデミウルゴスに任せようとしているのだから、それに応えるべきだ。

 

「どうしたいか、決まったでありんすかえ?」

「ああ、大丈夫だ。迷いは完全に晴れた。しかし、まさか君に諭されるとは思ってもみなかったよ」

「失礼でありんすね。私はただ、ペロロンチーノ様なら、仲間が困っていたらその背中を押すだろうなと、そう思ったからこうして様子を見に来ただけでありんす」

 

 そう言いながら、シャルティアが牢のカギを開ける。

 

「良いのかい、アインズ様のご命令を背いて」

「わらわはデミウルゴスほど頭が良くありんせんから、頭の回るデミウルゴスに上手い事のせられて鍵を開けてしまっただけ。そうでありんしょ?」

「はははっ。そうだね。悪いのは全て私だ」

 

 デミウルゴスが牢を出る。

 もう、後戻りはできない。

 その時、こちらに向かってくる足音が聞こえ、シャルティアが身構える。

 

「おんやぁ、もうすでに牢から出られていらっしゃいましたか」

「パンドラズ・アクター!」

 

 彼を視認すると攻撃に移ろうとするシャルティアの前にデミウルゴスが立つ。

 

「大丈夫だ。別に彼はこちらの邪魔をしに来たわけじゃない。そうだろう?」

 

 意味が分からないとシャルティアは混乱した表情になる。

 

「ええ、その通りですとも。此度の舞台の主役をお連れ仕様としに来た、ただの裏方でございます。そのご様子ですと、すでに役割は把握しているご様子ですね。結構」

「舞台? 一体何のことでありんすか?」

「全部ウルベルト様の筋書き通りに事が進んでいるという事だ。いつからかは知らないが、パンドラズ・アクターもその協力者だという、それだけの話さ」

 

 そう言われてもまだ、シャルティアは今一話についていけていないようであった。

 彼女では、こんな事をウルベルトがやる理由に辿り着けるはずがないのでそれは仕方がないだろう。

 

「とりあえず、パンドラズ・アクターは味方なんでありんすね?」

「そうですとも。シャルティア嬢もこちらに加わるとは思っておりませんでしたが。おかげで手間が省けました」

「つまり、わらわが何もしなくても、デミウルゴスは牢を出てたんでありんすか?」

「そうなるね。とは言え、君の言葉で決心が固まった。感謝しているよ、シャルティア」

 

 本当に、心の底から感謝していた。

 どちらにしろ牢は出ていただろうが、途中でシャルティアと戦闘になり、己の行動を否定されたならば、迷いはきっと晴れなかっただろうから。

 

「では、デミウルゴス殿。こちらがウルベルト様を殺すための武器になります。背中からでしたらダメージ入りますから、思いっきりぶすっといっちゃってくださいませ」

「えっ!?」

 

 これからのデミウルゴスの行動を分かっていなかったシャルティアが驚きの声を上げる。

 

「ウルベルト様を、殺すんでありんすか?」

「おや、知らなかったのですか」

「えっ? えっ? デミウルゴスは、それで良いんでありんすか? 本当に?」

「私だって迷ったさ。だからこそ、牢屋で大人しく捕まっていた。でも、私はやはりあのお方の理想でありたい。だからもう、迷わない。私はこの手でウルベルト様を殺す。あのお方は、それを望まれている」

「でも、さっき舞台と言っていたし、本当に殺すわけじゃ……」

「いいや、殺す。すべてはその為に行われてきたことなのだから」

 

 “りある”で死のうとしていた御方が、“りある”への帰還方法がなく考えた結果のこの舞台。

 元よりウルベルトの願いは、悪になる為に死ぬ事。

 帰れぬならば、こちらの世界でそれを為そうとそう考えただけだ。

 きっと、”りある”へ戻る手段がこのまま見つからないのであれば、死によって“りある”に戻る事は出来ないかと確認する予定は元からあったのだろう。

 その上で、アルベドの件と、悪魔になって自分の考えや思考が変わってきた事により、完全に意識が変わる前に事を起こさねばとという流れになった訳だ。

 

「今からでも私たちと敵対するかい、シャルティア」

「いや、良いでありんす。ちゃんと考えてそう決めたんなら、ウルベルト様の元まで連れていきんす。それに、ウルベルト様もそれを望まれているというなら、それを止める理由もありんせん。本当にそれで良いのか、あまり自信はありんせんけど」

「そうか、ありがとう」

 

 フッフッフッフと、そのやりとりを見てパンドラズ・アクターが笑う。

 

「なんでありんすか、いきなり」

「いえなに、このメンバー。無課金同盟の再来、とでもいったところでしょうかね!」

「無課金同盟?」

「なんでありんすか、それは」

「いえ、私も父上から前に聞いた事があるだけで詳しくはないのですが、アインズ様とウルベルト様、ペロロンチーノ様のお三方は、まだギルドアインズ・ウール・ゴウンが設立する前に無課金同盟なるに組していたと聞き及んでおります」

「初めて聞くが、それは一体どういう同盟なんだい?」

「課金アイテムを使わず、己の力を高める事を目的とした同盟という程度しか存じておりません。しかし、至高の御方という強大な敵を倒しに行くのに、丁度良いメンバーであるなと、そう思ったのです」

「なるほど。いい話を聞いた」

 

 普段集まる事がない三人の組み合わせだが、確かに創造主であった御方達は特に仲が良かったように記憶している。

 たまたまではあったが、だからこそ運命的だ。

 

「しかし、そんなナイフで至高の御方が殺せるでありんすか?」

「御方が着用されている装備に細工をしてあります。特定の場所に、特定のアイテムであれば大ダメージが入るようになっておりますので、問題ございません。ウルベルト様ご本人の協力で、さらにダメージが入るように改良しておりますので、一回突き刺すだけでHPをほぼ削り取れることでしょう」

 

 なるほど、その辺りもきちんと準備しているのだなと感心して聞いていたのだが、気になる言葉があった。

 

「ちょっと待ってくれ、今、さらにと言ったか」

「ええ、言いました。元より、場合によってはウルベルト様を始末する事も考えておりましたので、最初から細工を施した装備を渡しておりましたので。その時点では、気づかれないように刺す場所が一点のみでしたが、改良した今でしたら、背中の大体の部分に刺していただければ問題ありませんので、失敗する事はございませんよ」

 

 自信満々に自身の仕事を語る。

 パンドラズ・アクターがウルベルトに加担するのが、これが結果的にアインズにとって悪くない未来をもたらすからだろうとデミウルゴスは思っていた。

 だから、流石に元より御方を殺そうとしていたとは思ってもみなかった。

 アルベドの件もそうだが、どうも自分は身内に対しては少し考えが甘くなっているなと、己の弱点に気づかされる。

 

「今はもう、他の御方を殺そうだなんて考えておりませんよ。自分で死ぬと決められたウルベルト様は別ですがね」

「それはまた、なぜ」

「アインズ様、いえ、モモンガ様は他の御方の事を信じたがっている。なら、私も信じようと。その結果どうなろうと、それをモモンガ様と一緒に受け止めようと、そう決めただけなのです」

 

 ウルベルトとパンドラズ・アクターの間でどんな会話があったのかは分からない。

 だが今後、彼がどんな考えを持つ至高の御方が現れようと暗殺という形でその御方を殺すという事は間違いなくないだろう。その事実だけで今は良い。

 シャルティアもあきれたという顔をしているが、今は特にそれについて言及はしない。話の内容についていけてない、というのが大半の理由であるようにも思えるが。

 

「それじゃあ、行きましょうか」

「いや、ちょっと待ってくれ」

「何かまだ準備が必要でしたか?」

「ああ、少し衣装を着替えてくる。それまで待っていてもらえるか」

「はっはー。なるほど、なるほど。ラストステージに出る前の衣装替えですね。良いですとも」

「身だしなみは重要でありんすからね」

 

 ウルベルトと買い物に行った日に買ってもらった服。

 あれは、この時の為の物だ。

 魔法の服ではないので、着用者に合わせてサイズが変わるわけではないのだがピタリとデミウルゴスのサイズに合う。

 

「さて、では行きましょうか。主役殿」

 

 シャルティアとパンドラズ・アクターに先導される形で、デミウルゴスは壇上に立つ。

 その登場にいち早く気づいたアルベドをパンドラズ・アクターが制する。

 これから行うのは親殺しという大罪。

 いくら本人の願いと言えど、至高の御方を殺すなど、ナザリックのシモベを全て敵に回す所業。

 それでも、迷いは一切ない。

 

「それじゃあ、しっかりやりなんし」

 

 いや、全てではない。

 後から知ったにも関わらず、それを許した彼女もいる。だから、大丈夫だ。

 

「ありがとう、シャルティア」

 

 シャルティアに見守られる形で、モモンガとウルベルトの前に立つ。

 何も知らないモモンガは、今は恐らく裏切りの可能性に動揺している事であろう。

 

「よく来てくれたな、デミウルゴス」

「遅くなり、申し訳ございません、ウルベルト様」

「いや、丁度良い頃合いだ。もう、迷いはないんだな」

「はい。私はウルベルト様の望みを叶える為にここにいるのです」

 

 そう。

 ウルベルトに死んで欲しくないという願いより、ウルベルトの理想の悪魔となる事を選んだ。

 背を向けたその背中にナイフを突き刺す。

 パンドラズ・アクターが用意したそれは、彼の言った通り通常ではありえないほどウルベルトにダメージを与えているのが分かる。

 刺したその背中から血が滲んでくる。

 

「俺のわがままに付き合わせちまって悪いな」

 

 デミウルゴスにしか聞こえないようなそんな小さな声で、ウルベルトがそうささやくのが聞こえた。

 その言葉に、自分は間違っていなかったのだと安堵する。

 以前にもウルベルトがデミウルゴスに言ったのと同じセリフであったが、今はまるでその逆だ。あの時は、デミウルゴスを殺す事にウルベルトがその言葉を告げていた。

 

「そんな事はございません。私は、あなた様のわがままに付き合いたいのです」

 

 あの時と同じ返答をデミウルゴスもする。

 最後の御方の晴れ舞台なのだから、涙は流すまいと必死に耐えながら、背中から溢れる血を眺めていた。




 タイトルに舞台ってあるように、ウルベルトさんが主演監督している、ただの舞台のお話です。
 主演のウルベルトさんが舞台上で言ったセリフは、本音は混ざってても全部演技なんで、当然舞台を降りて、演じていない素の本人の気持ちとは別物です。
 前回、悪“役”って言っていた通り、ただの役です。

装備品いじれるかどうかは、正直難しいと思ってるんですが、パンドラとアルベドがギルメンをこっそり殺るにはこれくらいできないときついかなぁと思って、この話での捏造設定でご了承お願いしたい。プラスな効果追加は無理でも、マイナスな効果ならできないかなぁって。
 全員の装備をいじってたわけじゃなく、一々装備品の鑑定とかしなさそうな性格で尚且つかなり初期からいなくなってたウルベルトさんの装備をたまたまいじってたって感じです。

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