冒険者の登録は、ガゼフが約束通り話を通してくれていたおかげですんなりとできた。
規則だからと、もらったプレートは銅の物であったが、魔獣討伐の実績から冒険者として仕事の依頼を達成したら近いうちに上の位になるとの事だ。
この世界の金銭価格が分からないが、魔獣討伐報酬とガゼフから冒険者組合に預けられたお金はそれなりの金額のようであったが今後の事を考えれば節約をするべきだろうと、ウルベルトとアインズは安い宿屋を教えてもらいそこへ向かう。
そこで多少の諍いが起こり、ポーションがダメになったと喚く女とウルベルトが喧嘩になりそうになるも、アインズが自分のポーションを渡すことで何とか納めた。
冒険者としての初仕事を探していると漆黒の剣というチームに声をかけられ、一緒にモンスター討伐をしないかと誘われたのでそれを了承した。戦士であるペテルをリーダーに、レンジャーのルクルット、魔法詠唱者のニニャと、森祭司のダインというバランスの良い銀プレートを付けたチームだ。
この世界の冒険者の基準がどの程度のものか興味もあったので丁度良かった。
ところが、ンフィーレアと名乗る薬師の少年からカルネ村への護衛の依頼を受け、話し合いの結果、漆黒の剣と共にモンスターを討伐しながらカルネ村へ行く事となった。
「まさか、こんなにすぐにカルネ村に行くことになるとは思わなかった」
モンスター討伐とも併用してこなせるだろうと依頼を受けたが、たった数日前に盛大に別れをしたばかりなので、こんなにすぐに現れたらなんと思われるだろうか。
向こうは別に悪くは思わないのだろうけれども、ただ何となく気恥ずかしい気持ちがあった。
「僕も驚きました。まさかお二人がカルネ村を救ってくださっていたとは。本当に、ありがとうございます」
「いえ、たまたま通りかかっただけですから。それに、初仕事が知っている場所への護衛ですと、こちらも少し気が楽ですし」
アインズがそう言うが、漆黒の剣のメンバーも含めてそんな謙遜しなくても良いと、立派な行為だとそれを褒め称えてくる。それが嫌で、その話題の間だけ、ウルベルトは話の輪から外れていた。
ガゼフに対しては、その姿を見た時から気にいらないとそう思ってしまった故に言い合いをしてしまったが、あと数日は依頼の為に一緒にすごす彼らと諍いを起こすわけにはいかない。
次第に話題が逸れて来たので、ウルベルトも会話に参加する。タレントについての話題などは、陽光聖典からその存在は聞き出していたものの、実際に本人から聞く話は中々に興味深いものであった。
ただ、現地ならではの能力は確かに珍しいし警戒すべきものではあるが、リアルへの帰還方法に繋がるとは思えない。いや、もしかしたら逆にそういうところに手掛かりがあるのかもしれないが、今のところはなんとも判断がつかない。
そこからさらに話が飛んで貴族についての話になる。
「でも貴族様はいい身分だと思いますよ。住民を絞り上げて、自分の欲望のままに行動して良いと国で定められてるんですから」
ニニャの微笑みの下のドロドロしたものには見覚えがあった。自身にも同じ感情が常に燻っており、それは身近なものだ。
ルクルットが、それをなだめようとわざと軽い口調でそれをなだめるように声をかけるが、ニニャからその感情が完全に消える事はない。
「一部の貴族がまともなのは知っているんですけどね。姉を豚に連れて行かれた身としてはどうしても」
「わかる」
「えっ?」
ダインが話を逸らそうと何か言いかけていたが、その前にウルベルトが口を挟んだ。
「やっぱどこの国でも、権力者って屑だよな。人を見下すのが当たり前だと思ってやがる。いや、そもそも人を虫けら程度にしか考えてないんだよ、あいつら」
「そうですよね! ウルベルトさんも、貴族に虐げられてきたんですか?」
「まぁ、俺はそこまでじゃないし、もっと酷い奴はいくらでもいるんだろうけど、両親は酷い場所で働かされて、死んでも遺体も返してくれないのな。人が死んでも関係ないって職場は改善しねぇし。連れていかれたっていうと、俺の職場の同僚が、車にぶつけられてこっちが怪我したってのに、車が汚れたから慰謝料よこせとかいうんだよ。意味わかんねぇだろ? それで、払えないってなってそのまま連れて行かれちまったんだよ。数日後ボロボロになって帰ってきて、あー、思い出しただけでもむしゃくしゃする」
「それは酷いですね。やっぱり、貴族なんてどこもろくな奴がいないんですね」
分かってはいたが、やはりどこの世界も貴族だとかそういう権力を持った奴は同じなのだ。
もう、それが当たり前だと思ってしまっているのだ。使う者と使われる者、踏みつぶす者と、踏みつぶされる者。上位者にはその権利があるとばかりに、いくらでも非道な事を行う。
絶対にああはなるまい。
ウルベルトは、政治的な意味では権力を持ってはいないが、力という意味ではこの世界における上位の存在になっているかもしれない状態だ。気づかないうちに、あんな連中と同じ所に落ちてしまわないように気をつけねばと、ニニャと貴族ディスりをしながら強く思った。
「あの、ウルベルトさん、盛り上がっているところ悪いんですけど、話題、変えません?」
「共通の話題は、仲良くなるための一番の近道なんですよ」
「できれば、他の話題で仲良くなって欲しいです」
アインズの言い分もわからなくはないが、この会話によってニニャとの距離は確実に近くなっていた。敵が同じだとわかると、皆安心するものだ。
「アインズさんの言う通りでもあるんですが、でも少しほっとしました。お二人はお名前やその立派な装備から、もしかしてどこかのお偉いさんなんじゃないかと思っていたので」
「そうそう、アインズ・ウール・ゴウンに、ウルベルト・アレイン・オードルなんて、大仰な名前なんで正直ちょっと名前にビビッてたんだよ」
その言葉に、やはりアインズではなくウルベルトの方が名前を改名するべきだっただろうかと少し考えたが、もう今更だ。
名乗った以上、この世界ではウルベルト・アレイン・オードルだ。
「まぁ、名前はかっこいいからという理由で、自分で勝手につけただけですからね。良いでしょう、ウルベルト・アレイン・オードル」
「そうであったか。冒険者には、故あって偽名を使う者も多いであるからな」
そう言って、本名が何かなどは聞いてくることは特になかった。きっと、それが冒険者としての礼儀なのであろう。
「実は、僕の名前も本名じゃないんですよ。連れて行かれた姉の事を忘れないようにと、姉の名前の一部を使っているんです」
「じゃあ、その姉さんを見かける事があったら、そこにいる貴族をぶん殴っといてやるよ」
「ははは。その時は、できれば僕にもぶん殴らせて欲しいです」
「そりゃそうだ。やっぱそういう復讐っていうのは、自分でやらなきゃだな。まぁ、でも、見つかるといいな。姉さん」
「はい」
そう返事をするニニャはいい笑顔をしていた。
復讐は何も生まないなんて、正義面をして言う奴がいるが、復讐を考えなければ前に進めない人間もいる。それを生きる糧にしている人間がいる。復讐が良いものだとは言わないが、だが、良い事じゃないからと言ってそんな事は復讐をしない理由にはならないだろう。
復讐でしか癒すことのできない傷というのは、確かにあるのだ。
そうこうしていると、森の方からモンスターが現れたのをレンジャーのルクルットが確認した。
漆黒の剣はチームワークの取れた戦いをしていたが、やはりというかかなりレベルは低い。そして、出てきたゴブリンもオークもこれまたレベルが低い。
レベル30にまで落ちたウルベルトや、戦士職を取っていないアインズですらあっさりと倒せてしまうほどだ。
戦闘が終わると漆黒の剣のメンバーもンフィーレアも称賛の声を上げる。
「皆さんでしたらこの程度軽くこなせるようになりますよ」
賞賛の声に対してアインズはそんな事を言うが嫌味に思われたりしないだろうかと不安に思うほど、レベルに差がありすぎる。
この世界の人間も、ゲームの時のようにレベリングすればもっと強くなれたりするのだろうか。とはいえ、レベル上げをするにも倒すモンスターが低レベルすぎるので、かなり戦闘をこなす必要がありそうだ。
逆に言うと、明らかにレベルが高い人間がいれば、自分たちと同じプレイヤーである可能性が高いと見て良いという事か。
夕食の時間になると、アインズが気まずそうによそわれた食事を見ていた。
顔は幻術で何とか誤魔化していたが、アンデッドである彼には食事をする事が出来ない。
宗教的な理由だと説明すれば納得はしてもらえたが、命を奪った日の食事は四人以上で食べなくてはいけないというのは、もうちょっと他の案にできなかったのだろうか。特に誰も殺していない日に食事に誘われた際が困るんじゃないだろうか、とは思うがもうアインズがそう口に出した以上それに乗っかるしかない。
人間化状態のウルベルトは空腹状態だったので、メンバーに断りを入れてアインズを引き連れて早々と離れた位置に移動した。
「それ、美味しいですか?」
「正直、めちゃくちゃうまいです」
ナザリックで食べたクッキーには劣るが、しかしリアルで食べてきた粗悪な食事と比べれば何倍も美味しかった。そもそも、こんな温かい食事をとるのも稀だった。
「こういう時、アンデッドを選んだ自分を恨みたくなります」
「ギルメンの部屋漁れば、一つくらい飲食可になるアイテムとか、人間化のアイテムとかあるかもしれませんよ」
「いや、人の部屋勝手に漁るのはちょっと……」
「そんな気にしなくていいと思いますけどね。あとから謝れば許してくれますよ」
「いや、でも、やっぱり悪いですよ。それに、確かに興味はありますけど、食べれないからって困る事はないですし」
気遣いができるのは良い事だが、アインズの場合必要以上に気を配りすぎている。
「もうちょっと、踏み込んできても大丈夫なんですよ。みんな、ギルドマスターにはかなりお世話になったんだから、部屋を漁るくらいなら誰も怒ったりしませんから」
「そうかもしれないですけど、でも、出来る限りはそのままの状態で残しておきたいんですよね。皆さんがいつ帰ってきても良いように」
そうやって、ゲームの最終日になるまで彼は待ち続けていたのだろう。
アインズから送られて来た、最終日に集まらないかというメールの文面を思い出す。
ナザリックの現状や、引退した人がどれだけいるという情報は一切なく、ただ、最後の日なのでみんなで集まらないかという提案をした内容だった。
もっと素直に寂しかったとか言えば良かったのに。まぁ、そうだったとしても、ウルベルトの行動は変わらないわけだが、それでも何人かは来てくれたりしたんじゃないだろうか。
「それにしても、ウルベルトさんは凄いですね。すぐにニニャさんとかみんなと仲良くなれて」
「あの時も言いましたけど、共通の話題があれば話が弾みますからね」
「俺、ユグドラシル以外に何もないんですよね。好きな小説もアニメも特に思い浮かばないし、好きなアイドルとかバンドもない。スポーツも興味がなくて、ウルベルトさんみたいにこれだっていうような信念もなくって。今まで、仕事かユグドラシルのどちらかしかなかったんですよね」
それ故に、彼はユグドラシルと、そこで出会ったギルドメンバーに固執しているという事か。
彼の世界はあまりにも狭い。そして、そこに閉じこもっている。
「ユグドラシルは、説明すらろくにない糞ゲーで、探しても、探しても出てくる未知なるものを求めて冒険するゲームでした。だから、そう、そのユグドラシルが好きだったモモンガさんは、そういう冒険が好きなんですよ。だから、大丈夫です。この世界にはたくさん冒険者がいて、まぁ、正直ただの傭兵みたいな仕事でしたけど、でも、そういうモモンガさんと同じような事を思っている人もたくさんいるはずで、漆黒の剣のみんなもそういうタイプのはずです。だから、モモンガさんだって、たくさん友達作れますよ」
「そう、ですかね」
「そうですよ。他のギルドメンバーが戻って来ても、異世界に来たのに誰とも親しくなれなかったなんて言ったら恥ずかしいじゃないですか。それよりも、数えきれないほどの友達を紹介して、出会うまでにあったいろんな冒険の話をした方が良いと思いませんか。あと、そうだモモンガさんはアイテムコレクターですし、この世界だけのアイテムを探して回るのも良いかもしれませんね。弱い装備とかばかりですけど、この世界にしかない物はまだまだたくさんあるでしょうし、そうやって冒険していけば、自然と色んな人と仲良くなれますよ」
「そう言われると、なんだか本当にそんな気になりますね。ナザリックと、ギルドメンバーのみんながいればそれでいいと思っていたけど、そうですね。戻ってきた皆さんに話せるような何かは欲しいですね」
アインズは未だ、ナザリックと言う名の殻に閉じこもったままだ。
これを完全に外に出すのはまだもう少し時間がかかるだろう。
でも、少しくらいは出てもいいかと思ってくれたのならそれでいい。
モモンガの分の食事もウルベルトが食べきり、みんなが待つ場所へ二人で戻っていった。
カルネ村に着くと、少しばかりであるが防壁になるように柵を作っていた。騎士団に襲われたり、魔獣が近くまでやってきたりしたのだから当然だろう。森に近い方は、モモンガがあげた魔獣除けの御守りが括り付けられている様だ。
村に近づくと、ウルベルトとアインズの姿を確認した村人がすぐに寄って来た。騎士団が現れた時に加勢してきた男だ。
「オードルさんに、ゴウンさん! こんなにも早くお二人と再会できるとは思っていませんでした」
「我々もその予定だったんですが、冒険者としての初の依頼が彼の依頼でして」
そういってンフィーレアの方に目線を向ければなるほどと納得し、村長にウルベルトとアインズが来たことを報告すると言って、こちらがそんな必要はないと言うのも聞かぬまま去って行ってしまった。
そんな中、こちらに敵意の目線を向ける存在がいた。
村人全員の顔を覚えているわけではないものの、全く見覚えのない顔だ。
「あんた達が、この村を救ったっていう旅人?」
「そうだが、それが何か?」
「なんで私の村を救ってくれなかったのっ!」
女のヒステリックな声が村中にこだまする。
その声に、慌てて村人の一人がこちらにやってくる。最初に、腕を斬りつけられていた女だ。
「申し訳ございません、彼女は先日の騎士団に村を滅ぼされ生き残った住人なんです。村が壊滅状態だったため、カルネ村に移住してきたばかりで……。元はこんな風に言う方じゃなかったんですが」
つまり、八つ当たりだ。
この件に関係ない漆黒の剣はどうすればいいのかわからず顔を見合わせていた。
アインズは、何とか穏便に事を済ませたいと思っているようだったので、ウルベルトが彼の前に出た。
「それで、あなたは一体私たちに何をして欲しいと?」
「あんた達が助けに来てくれさえしたら、私の村はあんな風にはならなかった、旦那も、息子も死なずに済んだのよ! それなのになんで、なんでこの村だけを助けたの! 私の村や、他の襲われた村を助けず、どうしてっ!」
そういう女は、死んだ家族の事を思い出してかその目から大粒の涙をこぼしながら悲鳴のような声を上げた。
この女は、自分の発言がどれほど愚かな事か分かっているのだろうか。もし、分かっても尚同じ言葉を言えると言うのならば、その望みを、その悪を叶えてやりたいと思った。
「なるほど。つまり、この村だけを助けたことが不満だと」
「そうよ!」
「わかりました。じゃあ、あなたの望みを叶えましょう」
そういうと、女の涙は止まった。
信じられないという表情の女をしり目に、ウルベルトは懐から短剣を取り出すと、先ほど割って入ってきた女めがけて突き刺した。
「何をしようとしているんですか、ウルベルトさん!」
ペテルが理解できないというように声を上げる。
漆黒の剣のメンバーに守られた彼女は、間一髪のところで難を逃れたが、若干前とは違う位置に少しばかり傷がついて血が流れている。
「この女がこの村だけを助けたのが不満だというから。時間を戻せない以上、彼女の望みを叶えるなら、この村が騎士に襲われたのと同じ状態にするしかないじゃないですか」
そう言いながら、今度は魔法を放とうとしていると、先ほどまで抗議していた女がその腕を掴んできた。
「なんですか、せっかくあなたの望みを叶えようとしているというのに」
「ちっ、違うの……ごめんなさい……そんなつもりじゃなかったの。私は……私は……」
そういって縋りつく女を蹴り上げる。
女が嗚咽を漏らし泣いているのは、蹴られた痛みからだけではなさそうだ。
きっとあの女は善寄りの人間だ。ウルベルトの行動の意図を察してからの行動は早かった。
「そんなすぐに意見変えるくらいなら、最初っから突っかかってくるんじゃねぇよ。八つ当たりにしても、相手を間違えすぎだろ。あいにく俺は正義ではなく悪だ。元々、何かを救おうなんて高尚な事は考えちゃいねぇんだよ」
つい、両親の遺品を求めて職場まで行った昔の自分を思い出して馬鹿な事をやってしまった。
ウルベルトは、先ほど傷つけた女の元へ向かうと手持ちのポーションを手渡した。
「悪かったな、巻き込んで」
「いえ、大丈夫です。オードルさんが本当に殺してくるとは思っていませんでしたから。でも、すごく驚きました」
彼女はそう言うが、ウルベルトは女が止めに入らなければ実際に村人を襲う気でいたのだから、そんなに信頼されても困ってしまう。
皆、今までのウルベルトの行動が演技だったのかと納得してしまっている。
「もう、すごい驚きましたよ。いきなり女の人攻撃するから」
「演技ならもっと傷つけないようにしてあげてくださいよー、可憐な女性に傷をつけちゃって」
「でも、おかげでさっきの女の人の怒りは収まったみたいですね」
「うむ、これくらいしないとあの手の輩は間違いに気づかないのであるな」
「あれっ、演技なんですか? ウルベルトさんの事だから本気かと」
モモンガの言葉に、流石にそんなわけないだろうと笑いあう漆黒の剣のメンバーに適当に相槌を打つ。
ウルベルトはただ見てみたかったのだ。それが理不尽とわかっていながらも、間違っていると気づいてもなおそれをして欲しいと懇願する悪を。
だから明らかに間違った八つ当たりではあったがそれでも、その道を選ぶのであれば、そうしてやりたいと思ったに過ぎない。
ただまぁ、見込み違いですぐさま意見を変えるようなそんな奴だったため村は救われたという、それだけの話だ。
本当に馬鹿な事をした。そう思っていると、ンフィーレアが興奮した様子で少し話があると、ウルベルトとアインズを村の少し外れた場所に案内する。
何かと思っているとポーションについて知りたくて、近づく手段として今回の依頼をしていたのだと彼は告げ、そのあと盛大に謝られた。別に何かこちらに不具合があるわけでもないのだから謝る必要はないのだが、執拗なほど下手に出て謝られた。
同じ系統の魔法を使っているのだし、ポーションも同じだと勝手に思っていたのが悪かった。どうやらこの世界のポーションは青い色をしているそうで、効果もユグドラシルのポーションよりもかなり劣るようで、時間経過で劣化していくような代物のようだ。
謝罪が終わると、ンフィーレアはそのポーションはどこで手に入れ入れたのか、作り方を知っているのかなどと矢継ぎ早に質問してくる。
とりあえず、ポーションはとある遺跡で発掘して、それなりの数はあるがそれでも数には限りがあると伝えた。
そんな貴重品をこうも簡単にあげるなんて、お二人は本当に良い人達なんですねと言われてしまったが、この状況ではそれを否定する術もなく、その言葉を甘んじて受け入れた。
どうしても、赤いポーションを作りたいので、1本だけでも買い取らせて欲しいと言う言葉に了承し、ただしこの事は口外しないようにと約束させた。また、赤いポーションが完成したならば、アインズにまずその事を伝えるようにした。
消耗品であるポーションは、今後のナザリックの事を考えれば必要な物だ。もし、本当に完成できたならナザリックで独占するのが良いのだろうが、その辺は今後ナザリックに残るアインズの判断に任せる。人間とも仲良くやっていく気があるのなら、広く技術を発展させるのも、ありと言えばありだろう。
とはいえ、他のプレイヤーがいた場合、同じミスを犯すかもしれない。そうなった場合、赤いポーションが一般に流通するものになってしまっているとそれに気づく事ができないので、今は流出させる訳にはいかない。
話が終わって村に戻ると、村長もやってきて盛大に歓迎されてしまう。
さっきの泣き喚いていた女からも改めて謝罪をされてしまい、これではまるで自分が正義みたいじゃないかとウルベルトは頭を抱えるのだった。
「……ウルベルトさんも乗ってもいいんですよ」
「いえ、歩きたい気分なので大丈夫です」
アインズの言葉を、ウルベルトは顔も向けずに断った。
そちらを見れば絶対に笑い声を上げずにいる自信がなかったからだ。
今は、ンフィーレアの依頼を終わらせ、みんなでエ・ランテルへの帰還途中だ。
薬草を採取するために森へ入った訳だが、森の賢王の話を聞き、そんな魔獣なら何か詳しい情報を知っているかもしれないのと、そうでなかったとしてもそれほどの魔獣をどうにか出来たなら、冒険者としての名も挙がるのではとアウラに探してもらった結果、ジャンガリアンハムスターのような姿をした、ハムスターとしては賢いが、そんなに賢そうでもない魔獣がアインズに服従して、一緒についてくると言ってきたのだ。
そして今、アインズはそのハムスターの上にまたがっていた。
なぜだか、現地人たちからは恐ろしい魔獣に見えるようで、そのつぶらな瞳も英知を感じさせると言われ、これを可愛いというお二人は流石ですねと言われてしまった。
今までこの村はこの魔獣によって守られていたらしいが、その魔獣が、アインズが村にあげた魔獣除けの御守りがあって村に近づく事は難しいと発言した事から、なら別に今更こいつがいなくても問題ないのかと、本人がどうしてもとせがむこともあり連れて行く事になった。
村人からは、アイテムの効果が実際に確認できて、さらに恐縮とお礼の言葉を述べられてしまった。
それにしても、巨大ハムスターの上に乗る全身鎧の男の姿はなんともシュールであった。完全に、ウルベルトの美的センスから外れている。アインズに押し付けた結果、彼はこのハムスターにハムスケという、なんとも言えぬ名前を付けたが、ウルベルトが名前を付けようとすれば主人の座を渡すと言われそうだったのであえて何も言わなかった。
町についてからもその目立つ姿は注目の的であった。
知り合いだと思われたくない。
その目線は、尊敬や畏怖を抱いたものであったが、ハムスターに乗った姿を尊敬されたくはない。
「では、アインズさんは組合で魔獣の登録をして来て下さい。薬草を下ろすなどの雑務はこちらでやっておきますから」
ペテルがそう言ってアインズを残して別れようとするので、当然ウルベルトも漆黒の剣とンフィーレアの方について行く。
「えっ、ちょっ、せめてウルベルトさんはついてきて来ません?」
「大丈夫ですよ、アインズさん。ゆっくり魔獣の登録をしていて下さい。力仕事などの雑務はこっちでやっておきますから」
「その心は?」
「一緒に行って、奇異な目で見られるのは、ぜったいに嫌」
こうなっては何を言っても無駄かと諦めたアインズがハムスケと一緒に遠ざかっていく。
やはりシュールだ。
「良かったんですか、アインズさんだけで。なんだか寂しそうでしたが」
「良いんだよ。ずっと一緒だと思われても困るし」
その言葉に皆が驚いた表情をする。
「お二人は仲が良いように思われたんですが、いつかチームを解散するつもりなんですか?」
「どうしても殺しておきたい奴がいてな。そいつまでの道のりが見つかれば、俺は今持ってる全部を捨てて、そこに行く予定だ。ああ、アインズさんには今のところ黙っておいてくれよ。今は何言っても納得してくれない気がするから」
復讐心を抱いた仲間を持つ漆黒の剣はその件についてそれ以上は問うてこなかった。
ニニャも、場面によってはこのチームを抜けて復讐にひた走る事になるかもしれない。そうなった時の事を考えているのかもしれない。
一行はンフィーレアの家の裏手に馬車を止めると薬草の荷運びを行った。
それが終わり、母屋の方に歩き出した時、向こう側から扉が開かれた。
「はーい。お帰りなさーい」
そこに、まるでネコ科の動物を思わせるような瞳を持った金髪の女の姿があった。
ンフィーレアの知り合いというわけではないようで、彼もその女の出現に驚いている。
女は、とあるアイテムをンフィーレアに使わせて、第七位階の魔法を使おうとしているのだとそう言った。
第七位階とか、すごく微妙だが先日陽光聖典から奪った魔封じの水晶の事も考えると、もしかしたらこの世界ではそれが使える限界だったりするのだろうか。その第七位階でどや顔できる彼女は、プレイヤーやユグドラシルとは関係がないと見て良いだろうか。
とはいえ、現地人の中では割と強そうな方だ。どう考えても、漆黒の剣では力不足。ウルベルトも、負けるとは思わないが、タレントや武技のようにこの世界特有の技を使うという事があるのであれば、弱体化したままの姿では少し不安が残る。
「こいつの狙いはンフィーレアみたいなんで、皆さんは彼を連れて逃げてください」
「そんな、ウルベルトさんを置いてなど」
「狭い場所で魔法を使うと、周りを庇ってられないんですよ。こんな話をするよりも、早くアインズさんを連れてきていただける方が助かる」
その言葉に、皆が外に出ていくが女はにやりと笑う。
「んー、お涙ちょうだいだねー。でも、魔法詠唱者ごときが残ったところで私に勝てるはずがないじゃん。スッといってドス! これで終わり」
「おーおー、ずいぶんな自信だな。それで、実際問題お前は一体どの程度強いんだ。ガゼフ・ストロノーフよりも強かったりするのか」
「そうねー、実際に戦ってみないとわからないけど、良い勝負にはなるんじゃないかなー。まぁ、勝つのは私だけどねっ」
その言葉を言い終わる前に、女は手に持ったスティレットを思いきりこちらに突き刺そうとしてきたのをかわす。
確かに、ガゼフの攻撃は直線的であったから、こういった不意打ちを得意とする彼女であれば隙をついてガゼフから勝利をもぎ取る事も可能に思われた。
だが、その程度だ。
何かを感じ取ったのか、女が距離を取る。
今、この家の中は二人きりだし少しくらならは羽目を外すのも良いだろう。
ウルベルトは、自身にかけていた〈未熟な人間化〉を解く。
「えっ……うそっ……あく、ま?」
「特別に、お前には私の真の姿を見せてやろう。我が名はウルベルト・アレイン・オードル。災厄の魔にして、お前を絶望の淵に落とす者だ」
魔獣の登録を終えたアインズは、たまたま出くわしたンフィーレアの祖母のリイジー・バレアレと一緒に、彼の家へ向かっていた。
二人で、どういう旅路であった出来事などを語りながら歩いていたのだが、バレアレ家が近づくにつれ、周りが騒がしくなる。
「何か、あったんですか?」
不審に思ったアインズが、近くの人に話しかける。
「さぁ、よくわからないんだが強盗みたいだ。ただ、何をやったのかわからないが家がボロボロになってるみたいで、あればバレアレの薬品店じゃないかな」
その言葉に、年配とは思えぬ速さでリイジーが家に向かって走りだし、アインズも慌ててそれを追いかけた。
近くに行けば、確かに家は半壊状態となっているのが確認できる。
そして、見知った人間の姿が目に入ってしまう。
先ほどまで、ハムスケと一緒にいるのが恥ずかしいとウルベルトに避けられていたアインズであるが、今その立場が逆転していた。
知り合いだと思われたくない。
何をやったのかはわからない。だが、役人に説教を受けているウルベルトと、その近くに下着同然のようなそんな軽装の女が縛り上げられた状態で横たわっている。
何が何だかサッパリわからない。
「あっ、アインズさん! ちょっとこっちに来て説明してくれませんか!」
ウルベルトの言葉に、周りにいた人たちの目線が一気にこちらに向く。
他人のフリをしたい。そう思いもしたが、しかし、どんなことがあろうと友人を見捨てるわけにはいかないと、意を決してアインズはウルベルトの元へ向かった。
「えっと、何がどうなっているんでしょうか」
「あんた、こいつの知り合いか? こいつがいきなり家に押し入り、爆破したあと、あまつさえ女性にこんな格好にして縛りあげて」
「違うんですって。いや、調子乗って魔法を使ったら思ったより威力が高くて。なので家を爆破したのは俺ですけどね、でも、その女は最初っからその格好だったんですよ! 上から羽織ってたのが爆破の勢いでどっかいっただけなんだって! そもそも、不法侵入っていうならその女の方だからなっ! 目を覚まして逃げられるとマズいかなって思って縛ってたら人が来て」
一旦、人間化していたのを解いて、それなりに高位な魔法を使ったという事だろう。
それは、まぁ、わからなくはないが、この女は一体誰なのだろうか。
「ンフィーレアは! 私の孫はどうしたんだいっ!」
「ンフィーレアなら、漆黒の剣に逃がして……って、アインズさん皆には会ってないんですか?」
「いえ、会っていないですね」
「あー、じゃあ他に仲間いたのか。いや、そうか。あっさり外に出したのはそういう事だよな。ミスったな」
そのまま逮捕されそうになったウルベルトだが、リイジーが、孫が雇った冒険者だと説明してくれたことにより何とか釈放。
漆黒の剣のメンバーが路地裏で倒れているのが見つかる。ボロボロになっていたが命に別状はなく、彼らの証言によりウルベルトは完全に無罪放免となった。
「やっぱ役人とか糞だわ」
「いや、あの状況は役人の人悪くないと思います」
半壊の建物の中で、無傷な男と半裸で傷跡の残る女性が縛られるという状況。役人の人はきちんと仕事をしていただけと言えるだろう。
ただ、女の服装はよく見れば冒険者プレートを張り付けた物であり、身元は未だわかっていないがかなりやばい人間ではないかという事だ。
「むしゃくしゃするから、ちょっとあの女の仲間をぶちのめしに行きましょう」
そう言ってからのウルベルトの行動は早かった。
意識が戻った女にアジトの場所を聞けば、怯え切った女は教えるから殺さないでくれと懇願しながら墓地でズーラーノーンという組織がやろうとしている事をペラペラと話し出した。
場所が分かると一直線にそちらに向かう。すでに大量のアンデッドが召喚されていたがそんなのお構いなしである。
他の人に見られるとマズいと、アインズは墓地には近づかないようにと警告し、誰からも見られていないかを確認した。途中、エントマから
元の姿に戻ったウルベルトの魔法の威力はすさまじく、流石に超位魔法や、大災厄の魔などといった破格なものは使わなかったが、それでもあまりの圧倒的な戦力差にやりすぎじゃないだろうか、とアインズは思ったが口に出さなかった。
首謀者の男を殺さない程度にいたぶった後、叡者の額冠なるアイテムをつけられていたンフィーレアを助けたのち、墓地を後にした。
アンデッドを倒し、ズーラーノーンという組織を壊滅させた二人の帰還を町の人達は讃えた。
「なんで俺こんな英雄みたいな扱いを受けてるんですか?」
「ウルベルトさんは、もっと自分のやっている行動を客観的に見た方が良いと思います」
ウルベルトは未だ怪訝そうな顔をしていたが、一段落着いたアインズはそう言えばエントマから
確か、折り返すときはアルベドに連絡するように言っていたよなとアルベドに
『――アインズ様。シャルティア・ブラッドフォールンが反旗を翻しました』
ごめんよ、クレマンとカジっちゃん。名前すら出てないね。
なるべく、死ぬ必要のないキャラは生かそうとしてるんですが、この二人は今後の登場予定もないし、さくっと終わらせようと思ったらギャグ展開になってすまない。
以降が割と真面目な話とかばかりで、ネタ的なのを挟める唯一のタイミングだったんでこんな事になってしまった。
あと、ウルベルトさんの悪は、自分の中に定義があってやりたい事をやっているだけなんで、結果助けられた人や助けられなかった人から何を言われようが、知るか。の一言で終わらせられるから良いですね。
たっちさんの話も書きたいなぁって思って構想を練ってるんですけど、いつもその辺で詰まって鬱っっぽかったり、バッドエンドじゃねぇか。みたいな話ばかり思いつくので、その辺の折り合いがついたらいつか書きたいなぁ。正義って難しい。