鈍感マグスと病んでるエルル~愛いっぱいの図書館らいふっ!~   作:聖華

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この小説は下記の内容を含みます。あらかじめご注意下さい。

・独自設定、過去捏造
・キャラ崩壊
・ブロマンス~軽めのBL
・シロマンス~軽めのGL
・暴力表現(少な目)


第一話『鈍感マグスと病んでるエルル』

「悪いがな、マグス」

 

 そこはエキゾチックな雰囲気漂う一室であった。といっても、部屋の主の嗜好からラグやクッションも過度な装飾は――ましてや金糸の刺繍なんかは――なされておらず、家具もそう多くはない。部屋明かりも照明用の簡素なランプが二個あるだけである。

 さて、ベッド兼用のソファに背中を沈めていたジーンは、机挟んで向かいに居るマグス・クラウンに視線を向ける。こちらは小さな丸椅子に長身痩躯を座らせているので、なかなか窮屈そうな見た目になっていた。

 元々、この部屋をジーンは碌に使っていない。放浪生活が長かったジーンは『自分の個室』というものにどうしても馴染めず、さらにいえば夜は専ら誰かしらと酒を引っ掛けていたので、わざわざ毎晩部屋に戻ったりはしていなかったのである。図書館という場所柄、良い雰囲気になった女性を引き入れることも出来ない。結論として、この部屋には必要最低限の家具しか置いていなかったのであった。

 

「さすがにその願いは、俺と魔神ちゃんでも無理ってモンだ。それに、分かってるはずだぜ?」

 

 同じ、空色をした瞳が交錯する。室内というのもあって、ジーンは帽子を脱いでおり、マグスは帽子どころか仮面まで外している。ここは完全な楽屋裏、二人しか居ない空間だ。

 だからこそ、『どんな内容であっても』話せるというもの。

 

「仮に出来たとしても、そんなコト図書館が許さねぇってな」

「ああ、そうだろう。たしかにボクの提案は無謀だし、実現できたところで明らかな違法だ」

 

 珍しい光景であった。言葉と共に目を伏せた人、その手は固く握られて机に置かれている。手袋がなければ、筋張った手に血管が浮かぶところが見られたであろう。

 常に人を喰ったような態度をしている軽薄な道化師が、ここまで感情を露わにすることがあり得るのだと、果たして図書館の何人が知っているだろう? ジーンもこの性質を知ったのはここ最近のことで、見る度に「こいつにもちゃんと欲望あるんだなぁ」などとなるのであった。

 

「それでも、ボクはどうしても見たかったんだ。あの子たちの笑顔が」

「……見たかった、ってことは諦めはついてるんだな。そーいうとこはホント優秀だと思うぜ」

「ただの我が儘なのは自覚していたしね」

 

 ふぅ、と長く息を吐くと、握り拳を和らげた。今度は両肘を机に置いて、指を組んで前傾。いかにも深刻そうなジェスチャーをして、続けた。

 

 

「本当に、見たくはあるんだよねぇ……みんなを遊園地に連れていった時の顔」

「まぁ、俺も興味がないってワケじゃねぇけどさ。さすがに現実世界に干渉するのはマズいって」

「子どもがリン一人だけだったのが救いかなぁ。他の子も行っていたら、絶対もっと大変なことになってる」

 

 ジーンは「あー……」と同意しているのかどうか分からない返答をして、グラスに入れた酒をぐいっと飲んだ。今のマグスの持つ雰囲気のそれはどちらかというと「娘が一緒に洗濯しないで言ってくるんだ……」と語る可哀想なお父さんのそれに近く、ジーンはどうして自分がそんなもんの相手してるんだと思わないでもなかったのだが、結局乗り掛かった船で今の形に収まっていた。

 最初に持ちかけられた話は、たしか「それって、コツとか意識していることはあるのかい」だった。ジーンが魔人のランプを蹴り上げながら降り立った試合でのことだ。その場でバク宙を決めるような男が何を、とは思ったが、まぁ道化の気まぐれだろうと普通に答えた。

 

『まさか子どもに玉蹴りを教える参考にしただなんてなぁ……』

 

 ジーンがどこか遠くに意識を放り出している内にも、マグスは話を続けていたらしい。あまりに話半分なのはさすがに悪いので、一旦気を取り直す。

 

「今はまだ、みんなリンの話を聞いて、想像を膨らませるのが楽しいみたいなんだけどね。何かのお祝いで『それじゃあ、あそこに行きたい!』なんてなったらどうしてあげるべきか」

「似たような場所ならあるだろ? ほら、最近開放された、あの汽車が走ってる……」

「ああ。アレ、なかなかの出来だろう? 進言したかいがあったというものさ」

「え?」

「ん?」

 

 「何か変なところでも?」と目をパチクリと瞬かせるマグスに、「別に」とジーン。二人の交友が始まってそこそこである、このマグス・クラウンの性質は大体理解できているのだが、いまだに『マジかぁ……』の種は尽きなかった。

 マグス・クラウンというキャストは、大体の個体が子ども好きである。好きの表し方や度合いはもちろん個体差があるが、とにかく物語の由来からそういうものとして定義されている。その中でもこのマグスはどちらかといえば、好きの度合いが強かった。それが表立って知られていないのは――

 

「おっと、もちろんコレも内密に頼むよ。ボクはあくまであしながおじさんの立場で居たいんだ。偶にお土産を持ってくる、いざという時に『もしかしたらあのおじさんなら』と頼られる大人って奴が、一番いい関係だからね」

「はいはい、分かってる分かってる」

 

 こういうカラクリであった。本人曰く「悪いことをしたら叱るし甘やかしきるつもりはないが、だからといって常時おねだりなどされようものなら一線超えそうで怖い」らしい。文面そのままではなく、以前聞いた時にこの内容を数時間ほどかけて話された。なんなら日を跨いで数回触れられた。面倒な男である。

 

「それで、ここからはちょっとした雑談になるのだけれど」

 

 『ようやく本題か』とジーンは思う。先程当人が口にしていた通り、このマグスは優秀だ。故に持ち込まれる頼み事は大抵「無理」「だよねぇ」か、「日程と報酬はこれくらいで」「いいぜ」の二択である。今回は前者であり、こういうものが寧ろ雑談に値する。

 逆に雑談と前置かれる物の方が、本人にとっては深刻なのだ。これは恐らく、自身で解決できない難しい問題を、他人に背負わせる訳にはいかないと思っているからだろうと、少なくともジーンはそう推測している。放浪の旅で多くの人に出会った彼は、ジーン本人が思う以上にこの手の観察眼に優れていた。

 そういう訳で、ここで一つ、ジーンは気持ち背筋を伸ばす。

 

「キミ、エルルカンには会ったかな」

「お前のアナザーキャストだろう? まぁ、試合で一緒になったことなら何回か。話も……まぁ、したな」

 

 言葉を濁すジーン。このキャストとの初対面での会話は、目の前の人にする気にはなれなかった。

 エルルカン、アタッカーロールの遠距離型のキャストだ。マグス・クラウンと同様に音を操り、これを障害物に反射させることで攻撃を行う、かなりトリッキーな戦法の持ち主である。そして、その見た目は完全に小さな男の子であった。

 ともすれば、次の言葉には大体予想はつく。

 

「どう思う?」

「どうってお前……まぁ、歳相応って感じじゃねぇか。歳相応に生意気で、歳相応に大人を見下してて、歳相応に感情的で」

「そうなんだよ。とても等身大の子どもなんだよ、彼は」

 

 マグスは深く、それはもう「いかにもそうなんです」と言いたげに深く頷いた。

 

「今まで居た男の子のキャストは悪童の二人だっただろう。いや、これはもちろん差別しているとかではなくて、子どもには子どもそれぞれの良さがあって、だから『この子はこうだからこの子より優れている』ということは一切ないのだけれどね」

「ああうん」

「ほら、ピーターはロストボーイズたちが居る分、彼らの兄貴分で居ようっていう感じだろう? そういう点では背丈相応に大きな子だとボクは思うんだ。ナイトメアについても、彼にとってのカッコいいものっていうのは少し大きくなった子が『これはカッコいいぞ!』と目を輝かせる類のものなんだ。彼らはたしかに子どもで男の子だけれど、ちょっとだけ背伸びした子どもなんだよね。分かるかな? いや、もちろんそれで彼らの子どもらしさを否定するつもりはなくて、寧ろ子どもであるということを踏まえての成長比較だから、これは逆に子どもらしくて大変よろしいのだけれど」

「よく分からねぇけど、多分脱線してるぜ。マグス」

 

 さすがに耐えられなくなってツッコんだ。このまま行くと、『悪童と、彼らに見られる子どもらしさについての考察』という名目の論文が只管読み上げられて終わる可能性があったからである。人の話の途中で寝るのは礼儀がなってないとは分かっているが、酒も入っているし爆睡する自信がジーンにはあった。

 

「エルルカンってね。とても男の子なんだよ」

「そうだろうな」

 

 それしか言えなかった。

 

「いや、もうこれが、本当に男の子なんだ。天才を自称して得意げにするっていうのは、確かに少し精神年齢が上の子どものやることなんだけれど、なんだろうな……仕草とかの関係なのかな。すごい子どもなんだよ。そもそも何故彼はワンダースキルの結界の中で地団太を踏むんだろうね? いやぁ、下手したら怒った時にほっぺを膨らませそうだし、あれはもう逸材だよ。本当にすごい男の子してる。この『男の子』してるってのがポイントなんだ、子どもらしさとはまた別の男の子らしさ。地団駄はまぁ子どもらしさだけど、そことは別に」

 

 なんか始まった。そうとしかジーンには認識できなかった。そういえば、「火遠理は子どもに入るのか?」と尋ねた時も同じ現象が起こっていた気がする。あの時の結論は『見た目だけで子どもと判断するのは火遠理さんに申し訳ないのでやめよう』だったか。さんという敬称をつける辺りにも、マグスの本気が伺えた。それにしても、この男はつくづくこの状態になると語彙力が乏しい状態で哲学をする。頻出しているその『男の子してる』という言葉はなんだ。

 ジーンはある程度話が落ち着いたところで――十が八くらいになったところで――言葉を挟んだ。ちなみにここまで来るまでに酒が一本とつまみが一袋消えた。

 

「まぁ、良いことじゃねぇの? ソイツとも仲良く出来そうで」

 

 その言葉に、ぴたっとマグスが止まった。今まで停止ボタンの壊れたラジオか何かの如くだった人が、急にである。ジーンもこれには『あっ、なにかやっちまったか?』という気になった。

 

「そこなんだよ」

「そこって、どこだ?」

「仲良く、って言っただろう」

「それがどうしたんだ?」

 

 深い溜め息。目鼻立ちが整った、中性的な顔の人が物憂げにしているのは実に絵になる。

 

「なんだかあの子、ボクを警戒しているみたいなんだよねぇ……」

 

 内容がこれなので、非常に残念なことになっていたが。

 ジーンとしてはもう「はぁ」というしかない。いろんな意味で。

 

「ボクのアナザーキャストである以上は、ボクがやっていたことも知っている訳だし、多少は仕方ないんだけどね。実際に、男の子にああいう対応を取られると……」

「取られると?」

「しょんぼりする」

「しょんぼり」

 

 やはり語彙力が貧弱になっている。ワンダースキルの時も感極まって「もっと根源的な何かだ!」と言っているので仕方ないかもしれないが。断っておくと、全てのマグス・クラウンが語彙力が乏しくなった結果この口上を口走っている訳ではなく、あくまでこのマグスに限った話である。

 

「そんな訳だ、ジーン。これから少しの間、こうやって飲む回数が増えるかもしれない」

「あー、まぁ、構わねぇけど……」

 

 ジーンは言い淀む。普段ならば「考え過ぎじゃねぇか?」と幾らかフォローを入れる程度には人間が出来ている彼だが――そもそもある程度良心的な人間でなかったら、こんな風に話を聞いたりしない――今回ばかりは、そう軽々しく口には出せなかったのである。

 話は、数日前に遡る。

 

 *

 

 それは吉備津彦と酒を飲んだ帰りでのことだった。深夜と早朝の狭間、ジーンは噛み殺せない欠伸を漏らしつつ、昼間で少し寝ようと部屋まで歩いていた。時間も時間である。普段は賑わう図書館の廊下もしんと静まり返っている――デスフックだの闇吉備津だの、一部の夜型のキャストは寧ろこの時間に活動をしているが、その時その手のキャストは居なかったのだった。

 さて、ジーンが気付いた時、その人は既に行く手を塞ぐように立っていた。最低限のダウンライトだけがある中、薄暗い月の光に照らされて、背の低いシルエットがじっとこちらを見据えていた。

 

「なんだ、お前も夜ふかしか? エルルカン」

 

 全身黒色に橙と水色と白を差し色にしたもの。そこに居たのはつい最近図書館にやってきたキャスト、エルルカンに違いなかった。ジーンにはもちろんその手の趣味はないが、同じキャストの仲間である、名前くらいはきちんと覚えていた。

 言葉への反応はなかったが、ジーンはさして気にしなかった。大人に反抗するのは子どもによく見られる行動だ。ジーンは「早めに寝ろよ」とだけ言って、足取りを緩めることなく、そのまますたすた隣を通り過ぎようとした。

 

「ッ!」

 

 さて、治安の悪い地域では擦れ違いざまのスリなんかは日常茶飯事である。なればこそ、ジーンは咄嗟に手首に巻いた腕輪で『それ』を受け止めた。金属と金属が噛み合って、ぎゃりぎゃりと音を鳴らす。

 恐らく本気ではないということは、振るわれた鎌の角度から分かった。しかし、今の一瞬自身に向けられたのは、明確過ぎる程の――

 

「何の真似だ」

 

殺意。あるいは、それに類する物。

 鮮やかなカシスピンクを見開いて、その子供は無表情に刃を押し付けていた。しばしの沈黙。

 

「お前さ」

 

 口を開く。心なしか声音は低い、『うるさいな、ボクは子どもじゃない!』とぴぃぴぃ言っている時が嘘のような、鋭利に尖った言葉だ。

 ジーンは相手の一挙一動を見張りながら、脳みそをフル回転させる。今までのエルルカンとの交流は、試合の中でぐらいだ。酒が飲める年齢でもないし、軽く挨拶をしても非友好的な反応である、わざわざ近付く理由がなかった。だからジーンとしては、どうしてここまでの感情をぶつけられているのか、全くもって理解できなかったのだった。

 相手の言葉の続きを、神妙に待つ。

 

「マグス・クラウンのなんなの?」

「……………………は?」

 

 予想外の言葉に、腕の力が無意識に緩みかけた。ずいっと首に近付く金属の冷気に、慌ててそれを押し返す。

 冷静になって、今し方投げかけられた言葉を噛み砕く。やっぱり出て来る言葉は「はい?」だった。

 

 エルルカンはこの反応をよくは思わなかったようで、ジーンを睨みつける。

 

「マグス・クラウンと自分の部屋で何してるのか、って聞いてるんだよ」

「……」

 

 ここに至って、ジーンはようやく理解した。

 

「何って、別に普通に酒飲んでるだけだけど」

「酒。おにい――マグス・クラウンを夜遅く部屋に連れ込んで?」

「アイツ、意外と酒好きだし飲める方だしな」

 

 今お兄さんかお兄ちゃんか言いかけたな……とは思えど、状況が状況なので触れないことにした。ノリが軽いという自負はあるが、流石にここで相手をからかうようなメンタルはしていない。彼はどちらかといえばかかる火種は避けて通るタイプである。

 エルルカンは再びいくらか黙り込んだ。しばらくして、また一言。

 

「……好きな酒の種類は?」

「ビールはよく持ってくるけどなぁ。アイツの好みについて、そこまで深く話したコトはねぇし」

 

 いつも聞くのは好み(子ども)の話であった。思えば、ジーンはマグスの子ども以外の嗜好については詳しくない。別に世間話ができないという訳ではないとは思うのだが、それ以上に子どもの話をする時の熱が凄すぎるのだった。

 エルルカンは続ける。

 

「好きな酒の肴は?」

「チーズ……っていうよりかはクラッカーかな、ありゃ。この前何も乗せずに食ってたし」

「マグス・クラウンとの交友期間は?」

「そこまで長くねぇなぁ。割と話すようになったのは最近だ」

「他に仲が良いキャストは?」

「えーっと、マグスがってことだよな」

「僕がマグス・クラウン以外のキャストを気に掛けるワケないでしょ」

「あっはい」

 

 とても雑な返答になってしまったが、仕方がないというものである。こうも畳みかけられて分からない方がおかしい。このエルルカン、事情は知らないがどうにもマグスを非常に好いている。しかも、よりによって方向性が危ない。

 まだ女性と遊んで男に睨まれるならともかく、今回については野郎の聞き役をしていただけである。それでこんなドロドロに巻き込まれるのは、ジーンとしては大変不本意であった。

 故に、逃げる。

 

「まぁ、ともかくだ。俺とアイツはただの酒飲み仲間だよ。別にそれ以上でも以下でもねぇ。なんなら今後は回数減らしても――」

「お兄さんを一人にする気?」

「落ち着け。急に力を強めるな。ガチでアイツ一人になるぞ」

 

 子どものことを話す相手が居なくなると言う意味で、なんて心の中で付け足しながら言う。というか、こいつ遂にお兄さんって言い出したな。

 ジーンの言葉を聞くと、エルルカンはどういう訳だか素直に鎌を引いた。相変わらず無表情を貫いてはいたが、鎌を虚空に消し去るのを見るにこれ以上襲い掛かるつもりはないようだ。このエルルカンがマグスに執着している理由と恐らく関係があるのだろうが、ジーンにはそこを聞き出す気力はなかった。早く部屋に入って気持ちよく酔い直すことを考えていた。

 

「まぁ、そういうことなら認めてあげるよ。お前はマグス・クラウンの友達だ」

「認めるってなぁ……」

 

 ため息と共に、ジーンは頭を掻く。

 

「そこまで言うなら、お前がアイツの傍にずっと居て監視でもしてりゃいいじゃねぇか。わざわざこんな闇討ちなんかしなくてもさ」

 

 一秒、二秒、三秒、飛んで十数秒しても返答がない。いくらなんでも会話のスパンとして長すぎると、不思議に思ったジーンはエルルカンに視線を向ける。……何やら俯いてぷるぷるとしている。

 

「そ、」

「そ?」

「じじじじじぶんから傍になんてずうずうしくて恥ずかしいこと出来るかバカ! へんたい! はれんち! えっち!」

「ええ……」

 

 少年らしく丸っこく白い顔を真っ赤に染めたエルルカンは、それだけ言うと正しく脱兎の如く夜の闇へと消えていった。具体的にはフードのうさ耳と尻尾をぴょこぴょこさせながら全速力でどこかに走り去った。

 ジーンはその後ろ姿を呆れた様子で眺めながら、自身が滅茶苦茶厄介なことに巻き込まれているのではないかという予感を、ひしひしと感じるのであった。

 

 *

 

「いつかあの子の笑顔も見てみたいなぁ。ああいう子ほど、案外笑うと良い顔をするんだよ。いや、子どもの笑顔に良し悪しなんてものを付けるつもりはないんだけれどね」

 

 どんな風に仲良くなろうかなぁ、なんて吞気に語るマグス。ジーンの視点から見れば、マグスが言った『警戒されている』というのは十中八九エルルカンが無駄にマグスを意識しているが故の誤解である。もしかしたら、他の連中との態度の差を知られるのを恐れて、敢えて避けているのかもしれないが。

 ともかく、ジーンの思うところは一つである。

 

 

『こいつら最高にめんどくせぇ……ッ!』

 

 

 この程度、今後巻き起こる擦れ違いの数々に比べれば可愛いものなのだが、ジーンはそんなことも露知らず、ただただなるべく早く収束してくれることを祈っていた。

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