戦姫絶唱シンフォギアBLACK   作:土紋

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第十三話 揺れる弾丸

 

 

 

 

 

(・・・・・・ぐはっ!? ・・・なんて、無理筋な力の使い方をしやがる。この力、あの女の絶唱に匹敵、いや、それ以上の馬鹿力か)

 

意識が一瞬とんでいたが、痛みにより覚醒する。響の渾身の一撃はネフシュタンの鎧の少女を捉え、確実に穿った。

 

その威力は直撃した部分の鎧が砕け散り、拳大の穴が空き少女の肌が見えてしまうほどだった。だが、

 

(・・・ぐがっ!? ・・・食い破れる前に、片を付けなければ・・・!?)

 

完全聖遺物であるネフシュタンの鎧には、無限の再生能力が備わっている。例え、鎧が粉々に破壊されようと再生してしまうのだ。

 

一方で鎧が粉砕され装着者が負傷した場合、ネフシュタンの組織が装着者の傷口に侵入したまま再生し、装着者の肉体を食い破り乗っ取ってしまうという危険性がある。

 

体の内側から伝わる不快感に耐えながら鎧の少女はふと思った。

 

何故、あいつ(立花響)が追撃してこない?

 

答えは直ぐに分かった。響は歌っていた。追撃をするわけでもなく、残心をしているかのように、ただ、歌っていた。

 

響は鎧の少女を倒したいのではないのだ。彼女はあくまでも戦いを止めさせたい。言葉が通じるなら戦う必要はないと思っている。

 

だが、鎧の少女にとってはそれは傲慢以外の何物でもなかった。

 

「お前、バカにしてんか! あたしを、“雪音クリス”を!」

 

「そっか、クリスちゃん、ていうんだ。・・・ねぇ、クリスちゃん、こんな戦いもうやめようよ。ノイズと違ってわたし達は言葉を交わすことができる。ちゃんと話をすればきっと解り合える筈、だって私達、同じ人間だよ!」

 

「・・・お前、くせぇんだよ、ウソくせぇ、青くせぇ!」

 

うっかり本名を口にしてしまう。響は鎧の少女の名前を知れて少し嬉しくなったが、雪音クリスは更に怒りを燃やす。

 

鎧は再生中だが、そんなことはおかまないなしに響に襲い掛かる。

 

感情の赴くままに力を振るう。回避に徹する響。鎧の再生稼働が鬱陶しい。

 

そこでクリスは次の手段に打って出た。

 

「吹っ飛べよ! アーマーパージだッ!」

 

「うわあッ!?」

 

アーマーパージの言葉通り、クリスは纏っていたネフシュタンの鎧を豪快に脱ぎ捨てた。パージされたネフシュタンの鎧は弾丸のように射出され、地面や周りの木に突き刺さる。

 

そして・・・、

 

「Killiter Ichaival tron・・・」

 

歌が響いた。

 

「この歌って・・・」

 

クリスが光に包まれる。そして彼女は赤い装甲を身に纏い姿を現した。

 

「見せてやる、“イチイバル”の力だッ!」

 

「クリスちゃん、私達と同じ・・・」

 

響はその姿は驚く。その姿は自分や翼と同じシンフォギアに他ならなかったからだ。

 

「唄わせたな・・・」

 

「え?」

 

「あたしに歌を唄わせたな! 教えてやる、あたしは歌が大っ嫌いだッ!」

 

「歌が嫌い?」

 

クリスが叫ぶ。ネフシュタンの鎧の時とは違い、今度ははっきり顔が見える。

 

歌が嫌いという彼女の発言とその表情に怒りと悲しみを感じた響はどうしてかと理由を聞こうした。

 

しかし、クリスは有無を言わさず行動に移した。

 

アームドギアらしき弓、いやボウガンを取り出す。そして赤い光の矢が形成され射出される。弓を引く動作などなく、光の矢は次々と生成され即座に発射される。

 

弾幕と言われるレベルの数の矢が次々と射たれ、響は逃げるように回避することしかできなかった。だが、クリスの攻撃は止まらない。

 

ボウガンらしきアームドギアをガトリングのような重火器に変形させ次は弾丸を撃つ。さらには、腰部の装甲が横に開くと、ズラリと大きな弾頭が並んでいた。

 

ミサイルだ。矢、ガトリング、ミサイルとクリスの感情の高ぶりに合わせるかのように攻撃の意思が上昇する。そして、ミサイルが一斉に発射された。

 

「いいっ!?」

 

回避を許さぬ弾丸の嵐が響を包みこみ爆発が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

高揚とした気分が少し落ち着く。これだけの弾丸を撃ち込めば、あのすっとろいのをぶっ飛ばしたはずだ。

 

そう思うクリスは爆発で起きた煙が晴れるのを待つ。煙が晴れるとそこには巨大な壁があった。

 

「・・・盾?」

 

「剣だ」

 

声がした方に視線を向けると、クリスを見下ろすように風鳴翼がいた。

 

翼はアームドギアを巨大な剣に変形させ、地面に突き刺したのだ。盾と見間違うほどの大きさだ。その剣の柄に翼は立っていた。

 

「はっ、死に体でお寝んねと聞いていたが、足手まといを庇いにでもきたか」

 

「もう何も、失うものかと決めたのだ」

 

「翼さん・・・?」

 

「まったく、いきなり無茶してくれちゃって」

 

「ヨウさん!? 2人ともどうしてここに?」

 

「連絡を受けてね。響ちゃんも大丈夫かい?」

 

「は、はい。大丈夫です」

 

剣の盾から姿を出し、仮面ライダーBLACKは雪音クリスと相対する。

 

「あの子は?」

 

「えと、雪音クリスちゃんです。ネフシュタンの鎧の・・・」

 

「ネフシュタンの? だけどあの姿は?」

 

「それが、私にも、なにがなんだか」

 

「・・・彼女が纏っているのは、恐らくイチイバルのシンフォギアです」

 

「イチイバル?」

 

「簡単にいえば北欧神話に登場する弓のことです。何故、彼女がそれを持っているのか、それも疑問ですが・・・」

 

「ハッ! 雁首揃えてゾロゾロと! 飛んで火に入るってやつか」

 

ジャキ! っとクリスはガトリングの銃口を仮面ライダーBLACK達に向ける。

 

「待った! 何故、響ちゃんを狙う? 君の目的はいったい───」

 

「うらぁあああッ!!」

 

BLACKの問いに答えず、クリスはガトリングを放つ。それに合わせてミサイルも再び発射した。

 

固まっていた3人は散開、辺りに爆発が起こる。翼が突出した。

 

「翼ちゃん!」

 

「無力化して、捕らえます!」

 

「ナメるな! 病み上がり!」

 

翼を迎撃する為にクリスは弾幕を貼る。翼は真正面からクリスに突っ込む。迷いなく突き進み、弾幕を掻い潜る。

 

翼が剣を振るう。クリスは一度後ろに飛び退く。ガトリングを構える隙を与えまいと更に踏み込む。それに対してクリスは翼を飛び越える。

 

「なッ!?」

 

「まとめてぶっとべぇッ!」

 

空中で乱回転し弾幕をばらまく。ガトリング弾だけではなくミサイルも着いてくるオマケつきだ。

 

「ハァアアアッ!」

 

「あわわ!?」

 

「むん! せい!」

 

翼は剣で切り払い、響は慌てながらも全力で回避、BLACKは地面に手刀をし地面を盛り上げ即席の壁を作り防ぐ。壁は直ぐに破壊されたが、BLACKは無事だった。クリスは着地し、ガトリングを構える。

 

「テメエは念入りだ!」

 

「くっ・・・ッ!?」

 

BLACKに狙いを定め、ガトリングを撃つ。BLACKは走り回り避ける。

 

しかし、回避していたか思えば急にクリスに突進しだした。

 

「ハッ! 観念したか!」

 

直進してくるBLACKに弾幕を集中させる。BLACKは腕で顔を防ぎながらダッシュする。弾に対して回避をせずひたすらに進む。体に弾を受けてもお構い無しだ。

 

「このおおおおおッ!」

 

突っ込んでくるBLACKに恐怖を覚える。最初は狙う手間が省けたと思ったが、何故こんな無理矢理向かってくる? 弾は当たってる。命中させた箇所からは火花が散る。

 

なのに、何故止まらない?

 

「おおおおおッ!!」

 

「うわぁあああああ!?」

 

弾幕を突き抜けBLACKは跳ぶ。クリスは自分に襲い掛かるであろう衝撃に思わず目を瞑ってしまった。だが、次に感じたのは妙な衝撃だった。

 

確かに、クリスに衝撃は襲った。全身に伝わる衝撃だ。BLACKはクリスにタックルを仕掛けた。だけど、そんなに痛みはない。目を開けると、目の前には赤い瞳があった。

 

「───ッ! 離れろ! この!」

 

「うお!?」

 

「どういうつもりだ、テメエ・・・!」

 

組み付かれていたことに驚き、BLACKを蹴飛ばし距離をとりガトリングを構える。

 

クリスは困惑する。何故、あんなことをしたのか。攻撃と言うにはお粗末なタックル。理由を問い詰めようとしたら嫌な光景が見えた。

 

自分がさっきまでいた地点に異形が陥没していた。その異形はノイズだった。

 

「・・・な、何で・・・?」

 

「また来るぞ! 上だ!」

 

「な!?」

 

BLACKの言葉に反応し、とっさにその場なら飛び退く。空からノイズが襲ってきた。間一髪、直撃は避けられた。

 

「・・・まさか、お前」

 

BLACKが何故、あんな中途半端なタックルをしたのか分かった。分かってしまった。

 

BLACKはクリスからの攻撃で最初は回避に徹しようした。だが、クリスの背後にノイズが現れたのが見えた。

 

声をかけて危険を伝える時間がないと判断したBLACKはクリスをノイズから守るために突貫したのだ。イチイバルの銃弾を受けながら。

 

「ヨウさん!」

 

「黒山さん! あなたも無茶しないでください!」

 

「だ、大丈夫だよ、これくらい」

 

「・・・・・・」

 

「あだだだだ!? 翼ちゃん、アームドギアでツンツンしないで!?」

 

現れたノイズを素早く殲滅し、響と翼はBLACKの元へ駆け寄る。クリスをノイズから守ろうとした彼の行いは良いものだと2人は思う。

 

しかし、そのために直ぐに体を張るのだ。平気だと宣う彼に響はじど~っと見つめ、翼はアームドギアの剣先で僅かにBLACKの体をつつく。

 

銃弾を受けて痛いですむのはおかしいのだ。いくら、改造人間としての強固な肉体を持っている彼でも、身近な人が銃撃を受けている姿を見て、2人の少女は内心ヒヤヒヤしていた。

 

それでも、なにかを守る時の彼の行動力には敵わないとも思うのだった。

 

「なんでだよ・・・」

 

だけど、その行動を理解できない少女もいた。

 

「バカかおまえは! あたしは敵だぞ! 敵を守ってダメージを受けるバカがどこに───いるなぁ! 目の前に! クソ!」

 

怒ればいいのか、呆れればいいのか、渦巻く感情にクリスは困惑する。

 

「いまさらまもったっておせぇんだよ・・・」

 

「・・・君は敵じゃないよ」

 

「ッ! ふざけんな! あたしは!」

 

「命じたこともできないなんて、あなたはどこまで私を失望させるのかしら・・・?」

 

緊迫する状況の中で、この場にいる全員に声が聞こえた。

 

全員が声の主を探す。いち早くその主を見つけたクリスはその人物の名を口にした。

 

「フィーネ!?」

 

(フィーネ? 何者だ?)

 

海が見える堤防に、1人の人物がただずんでいるようにそこにいた。

 

黒いサングラスを装着し、着ている服や帽子も黒で統一している。体型や長い金髪が見えることからその人物は女性だということが分かった。

 

「こんな奴らがいなくったって、戦争の火種くらいあたし1人くらいて消してやる! そうすれば、あんたの言うとおり人は呪いから解放されて、バラバラになった世界は元に戻るんだろう!?」

 

「ふぅ・・・、もうあなたに用はないわ」

 

「な、なんだよそれ!?」

 

クリスの言葉など聞く気がないのか、黒い女性は一方的に会話を打ち切る。

 

女性は手を広げると、その中に光の粒子が集まる。何かを集めているようだ。光が集まり終えると、もう片方の手に持っていた杖を取り出した。

 

以前、クリスが持っていたノイズを召喚する杖だ。女性は大量のノイズを召喚した。

 

「今日のところはノイズが相手をしてくれるわ。また会いましょうね、ガングニールの装者さん」

 

「待てよ、フィーネェェェッ!!」

 

ノイズを召喚するとこの場から去る謎の女性、クリスは叫びながらその女性を追いかけていった。

 

「待って、クリスちゃん!」

 

「落ち着け立花、この大量のノイズを放っておくつもりか?」

 

「それは・・・」

 

「今はノイズの方をなんとかしよう。あの子のことはそれからだ。いいね?」

 

「・・・はい」

 

仮面ライダーと装者はノイズ殲滅のために動きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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