雨が降る。
明け方の曇天の中、雨が降っていた。人通りの少ない路地裏で戦闘している複数の影があった。
1つの影は少女だ。赤い装甲を身に纏い、両手にはボウガンのような弓を持ち、光の矢を放ち、自分を追ってくる別の影、人の天敵たる異形、ノイズを撃ち抜いて煤に還していた。
何でこんなことになってしまったのだろう。
少女、雪音クリスは、先ほどおこってしまった事を思い出していた。
「フィーネッ! いるんだろ!」
自分達が拠点にしている豪邸に帰ってきたクリスは扉を勢いよく開けた。
「あたしが用済みってなんだよ! もういらないってことかよ! あんたもあたしをモノのように扱うのかよ!」
「・・・・・・」
部屋の奥にいる女性、フィーネに向かって叫ぶ。誰か電話しているようだったか、そんなことを気にしている余裕はクリスにはなかった。
「頭ン中グチャグチャだ! 何が正しくて何が間違ってるかわかんねぇーんだよ!」
「イヒヒ! そりゃあお前が間違ってるんじゃねーの?」
「ッ!? だれだ、お前は!?」
そこにいたのは見知らぬ男だった。
サングラスを描けた茶髪の男。見るからに“チャラい”と表現できるような男だった。
「フゥ・・・どうして誰も、私の思い通りに動いてくれないのかしら」
謎の男に気をとられ、フィーネが反応したかと思えば、フィーネはノイズを操る杖、“ソロモンの杖”を取り出し、クリスの周りにノイズを召喚した。
「さすがに潮時かしら」
「な、なにがだよ!?」
「そうね。あなたのやり方じゃ争いを無くすことなんて出来やしないわ。せいぜい1つ潰して、新たな火種を2つ3つばらまくくらいかしら」
「あんたが言ったんじゃないか! 痛みもギアも、あんたがあたしにくれたものだけが───」
「私が与えたシンフォギアを纏いながらも、毛ほどの役に立たたないなんて・・・、そろそろ幕を引きましょうか」
失望と落胆、呆れたように言うフィーネは光を纏う。
「・・・その光は、ネフシュタンの・・・!?」
「私も、この鎧も不滅。未来は無限に続いていくのよ」
光が晴れると、ネフシュタンの鎧を纏ったフィーネが現れた。ただし、クリスが着用していた時とは色や形状が変化していた。
色は白銀から黄金に、形状も身体の局部だけを守るような形状になり、鎧と言うにはあまりにも攻撃的な印象になった。
「カ・ディンギルは完成しているも同然。もう、あなたの力に固執する理由はないわ」
「カ・ディンギル・・・? そいつは・・・?」
「あなたは知りすぎてしまった・・・フフッ」
フィーネは怪しく微笑むとソロモンの杖を構える。ノイズがクリスに襲い掛かった。
なんとかノイズの攻撃を回避。攻撃を止めさせようとフィーネの顔を見るが、その顔はかつて自分を痛めつけた“大人”とそっくりだった。
目頭が熱くなった。
「ちきしょぉ・・・、畜生ぉぉぉぉぉッ!!」
クリスはその場から逃げることしか出来なかった。
「っだぁ!」
最後のノイズを撃ち抜く。息苦しい、体が重い。一晩続いたノイズとの逃走劇がひとまず落ち着く。
「お~お~、頑張るね~」
「ッ!?」
上から、建物の屋上からクリスを見下ろす影が1つ。フィーネの豪邸にはいた男がいた。
「おまえは・・・」
「あれだけのノイズを1人でやっちまうなんて、さすがはシンフォギア装者ってところか」
「なんなんだお前! フィーネとどういう関係だ!」
「イヒヒ! あのお方は俺様の新たなご主人様でね」
「なんだと!?」
「イヒヒ! ノイズだけで事足りるかと思ったが、俺様の出番があるようだな」
男の体が膨れ上がる。膨張し、人の体が別の何かに変わる。
動物的な黒い体毛、大きな口に、そこから伸びる牙。長い耳と豚のような面構え、両腕を広げれば大きな膜が広がった。
「か、怪人?」
「イヒヒ! そうとも! この俺様! コウモリ怪人のミナガ様が、お前の命を食ってやるよ!」
「くっ・・・、このぉ!」
堂々と名乗りを上げる怪人にクリスは矢を撃ち込む。コウモリ怪人はその場から空へ飛んで回避。
空を自由に飛び回るコウモリ怪人に狙いをつけようとするが、建物の影に隠れて見えない。建物の屋上へ飛び上がり、遮蔽物がない状況にして再び狙いを定める。
「・・・くそッ、 狙いが・・・」
頭が痛い。視界がぼやける。
ほぼ一晩、休むことなく戦い続けたせいでクリスの疲労は限界に到達していようとしていた。
「んなろぉぉぉぉぉッ!」
だが、泣き言を言っている場合ではない。
なんとか力を振り絞り、アームドギアをボウガンからガトリングに変形、腰部の装甲を開きミサイルを準備、ありったけの弾幕をコウモリ怪人に放った。
ガトリングで動きを制限させ、追尾するミサイルで墜とす。それで終わりだと思った。
「イヒヒ! カァアアアッ!」
「なっ!?」
動きの制限はできた。だが、ミサイルは当たらなかった。
コウモリ怪人は奇声を上げながら口から爆音の衝撃波を放った。それに包まれたミサイルはコウモリ怪人に命中することなくすべてが空中で爆散した。
空が爆煙で包まれる。爆煙を突き抜ける影があった。コウモリ怪人だ。
両足の爪を大きく広げクリスに掴み掛かろうとする。クリスはその場から飛び退く。建物の屋上が陥没する。屋上に着地したコウモリ怪人に銃口を向ける。コウモリ怪人が再び跳躍、クリスの目の前にまで接近した。
「イヒヒヒャア!」
「がっ」
コウモリ怪人が跳び回し蹴りをする。クリスはガトリングを盾にしガードするが、ガードごと押しきられ、蹴り飛ばされてしまう。
別の建物の壁に激突し、そのまま地面に落ちた。
そこまでだった。
クリスは遂に気を失ってしまった。
シンフォギアが解け、クリスを守る鎧も失くなってしまった。
怪人が舞い降りる。
「イヒヒ! 死んだ? 死んだ?・・・ いや~残念。まだ死んでないよこいつ」
うつ伏せに倒れているクリスに近づく。倒れているクリスを足で仰向けに変える。
「イヒヒ、イヒヒ!」
薄気味悪い笑い声をだしながらコウモリ怪人はクリスの体を見る。なめ回すようにじっくりと。
「ガキの割には旨そうな肉付きだな。ヘッヘッへ」
舌舐り。薄汚い獣欲がクリスに迫る。
「待てッ!」
「あ゛あ゛ん゛!? なん───ッ!?」
怒声と共にコウモリ怪人の視界の隅に何かが写った。
ポリバケツだ。
自身に迫ってくるそれだが、コウモリ怪人にとってはなんの脅威にもなりえない。
虫を払うかのようにポリバケツを腕で払いのける。
次の瞬間、拳が顔面にめり込んだ。
「ゲハッ!?」
痛覚が脳髄を駆けた。
「チッ・・・・・・テメェは」
自分を殴り付けた正体に目を向ける。黒髪で宝石のような紅い目をした男がそこにいた。
「テメェは・・・、黒山陽介。何故ここに?」
「それはこっちのセリフだ。爆発音が聞こえて、来てみたら・・・」
男、黒山陽介は周辺を見る。
目の前には怪人。かつて自分が戦ったゴルゴムの怪人コウモリ怪人に似ているが、細部か違う外見をしていた。
自分の後ろには少女が1人倒れている。
(この子は・・・)
倒れている少女は雪音クリス。つい数時間前に二課でこの少女についての情報を確認したばかりだった。
失われたと思われた第二号聖遺物イチイバルの適合者であり、完全聖遺物であるネフシュタンの鎧を纏ってクモ怪人を引き連れ、響と翼を襲撃した少女でもある。
その彼女が何故、怪人に襲われてるのか。あのフィーネとかいう女の仲間ではなかったのか。疑問がつきなかった。
「お前、この子に何をした?」
「イヒヒ! お前には関係ないよ。そこをどきな!」
コウモリ怪人がその場から飛び上がる。
「変・・・」
「させるか! キィイイイイイイッ!!」
「がぁ!?」
仮面ライダーに変身しようとした陽介だったがその行動は阻まれた。
コウモリ怪人が発した奇声は、思わず耳を塞いでしまうほどの音だった。生理的に嫌悪感を抱くような音、例えるなら黒板に爪をたてた時のような音だった。
耳を塞ぎ、完全に無防備になってしまった陽介は、次の瞬間にはコウモリ怪人に蹴飛ばされる感覚が伝わった。
腹部を蹴られ、建物の壁が少し凹む程の衝撃。肺の中の空気が全て吐き出される。
「かはっ・・・」
「イヒヒ! お前の相手などをしている暇などない。サラバだ!」
壁に打ち付けられ、膝をついた陽介のことなど眼中にないのか、コウモリ怪人はクリスの胴体の辺りを両足で掴むと、その場飛び立った。
建物よりも高く飛び、これからクリスをどう弄ぶか、下衆な妄想を巡らせる。
(あぁ、楽しみだぁ。始末した証拠として、首は持ち帰るとして、そうだなぁ・・・、足からイクか、手からイクか、ゲヒ、ゲヒヒ!)
飛んでる自分に不意の衝撃が襲った。
「行かせるか!」
「イヒ!? テメェ!」
コウモリ怪人の膝に仮面ライダーBLACKが飛び付いた。
コウモリ怪人は飛び去った時に、陽介からは完全に目を離した。人1人掴んでいるとはいえ20メートル以上も上空に飛び立てば、只の人間なら為す術はない。
だが、陽介は改造人間であり仮面ライダーだ。目を離したその隙に変身し、勢いをつけ建物の壁を走り、コウモリ怪人へジャンプした。
その結果、コウモリ怪人に追い付くことができた。
「離せ! テメェ!」
「離す、かよぉ!」
「ゲピッ!?」
クリスを掴み、仮面ライダーBLACKにしがみつかれ、重さに耐えきれず、高度を落とすコウモリ怪人。
何とか落ちないように激しく翼を動かす。BLACKを振り落とそうするが、今、バランスを崩せば地面に落ちてしまうので怒鳴ることしか出来ない。
BLACKはコウモリ怪人の膝を掴みながら振り子のように体を動かし、コウモリ怪人の顔面につま先を叩きこんだ。
コウモリ怪人の態勢が崩れ、クリスが空中に投げ出される。
BLACKはコウモリ怪人から手を離し、クリスを追う。落ちるクリスに追い付き、しっかりと抱き寄せ、地面に着地した。
「大丈夫か!?」
返事はない。
クリスは気を失ったままだった。
「テメェ・・・よくも・・・」
「むぅ・・・」
「この俺様の顔面に2発も入れやがって・・・許さねぇ・・・テメェも殺してやる!」
クリスを奪い返され、己のプライドを傷つけられたコウモリ怪人の怒りのボルテージが上がる。
BLACKとしてもこの怪人を放っておく訳にはいかないが、自身の腕の中にいる少女の安全をまず確保したかった。
このまま彼女を抱いたまま戦う訳にはいかない。しかし、BLACKの事情などコウモリ怪人にはどうでもいいことだ。
BLACKに襲い掛かろうと空中から攻撃を仕掛けようとしたコウモリ怪人だが、その動作を途中で止めた。
「・・・・・・チッ」
視線をあらぬ方向に向けたかと思うと、舌打ちをし、コウモリ怪人は何処かに飛び去っていった。
「何だ・・・?」
コウモリ怪人が急にこの場を離れたことに疑問を抱く。建物の隙間から光が射し込んで来た。朝日だ。
「夜行性か、太陽が苦手か、どっちにしろ奴は逃げたか・・・」
周囲に敵意などを感じず安堵する。変身を解除した。
「さて、この子の応急手当をしなきゃな。先ずは、何処か雨風をしのげる場所に」
「陽介さん?」
「ッ!─── 未来、ちゃん?」
「こんなところで、何、してるんですか?」
「え~と・・・」
傘をさし、こちらを見つめる1人の少女、小日向未来がそこにいた。その笑顔には、何故か有無言わさない迫力があり、陽介は思わず強ばった。