「うえ~ん、やめてよ~」
「いいじゃんか! 先っちょだけだよ」
「おい、あんまり暴れんなよ」
とある何処かの公園に子供達がいた。だが、彼らは仲良く遊んでいるようではなかった。
1人の少女を数人の少年が囲んでいる。少女は幼いながらも整った顔立ちをしており、おさげにした銀色の髪が彼女を幻想的な雰囲気に仕立て上げている。
だが、その少女は泣いていた。
「なぁなぁ、ほんとうなのか? こいつの髪の毛を持ってくれば小遣いがもらえるなんて?」
「へへ、ほんとうだよ。この前から噂になってる“髪おじさん”に会ったんだ。こいつの髪を持ってけば1万円もらえるんだぜ!」
「マジかよ! 大金持ちじゃん!」
「やだ! やめてってば!」
「いいからおとなしくしろ! 髪なんて、放っておいても勝手にまた生えるだろ」
「やだぁ、やだぁ!」
少年達の勝手な言い分に少女は必死に抵抗する。しかし、幼い少女の力では背丈も年齢も上の少年達に対抗できるわけがなかった。
リーダー格と思われる少年がハサミを持ち少女の髪の毛を切ろうとする。
少女は自分の両親が大好きだ。父は日本人で、母は外国人だ。ハーフであり、母の血を濃く継いだ彼女は将来は母親に似た美人になるだろうと、両親に言われていた。
少女も自分が母親のような綺麗な大人になれると、未来に希望を抱いていた。しかし、そんな彼女の希望は今、切り裂かれようとしていた。
たかが髪の毛と思うかも知れないが、少女にとってはとても大切なことであった。
(あぁ、いやだ、いやだ)
体を押さえつけられ身動きがとれない。髪の毛を掴まれる。身の毛がよだつほどの嫌悪感が少女の全身を駆け巡る。迫るハサミが物語に出てくるような死神の鎌に見える。
(助けて、誰か、助けてぇ・・・)
怖くて、悔しくて、涙が溢れる。最早少女は誰かが助けに来るのを祈るしかなかった。
だが、そんな都合よく助けがくるなど───
「オオオリャアアアッ!!」
「へぶぅ!?」
「ああ!? ゴウリくんが!?」
「・・・ふぇ?」
少女の目の前に迫っていたリーダー格の少年が何者かに蹴飛ばされた。
「オマエラ、何してんだ!」
「ヒェ」
突然現れた少年。黒い髪と黒い瞳の少年、少女よりも年上だと思われる少年だった。
少年の睨みに少女を押さえていた少年達は後ずさる。解放された少女を素早く抱き抱えてその場から少し離れる。
「大丈夫か?」
「・・・・・・グスッ」
「やいやいオマエラ! この子に何したんだ!」
「ま、まだ何もしてないよ」
「なんだと!? なら何でこの子は泣いてんだよ!」
「そ、それは」
「どんな理由があろうと、誰かを泣かせるなら、俺が相手ニブッ」
意気揚々と喧嘩腰になる少年の脳天に辞書が叩き込まれた。
「落ち着け、このバカ」
「ぐお~~~ッ!? ナニするんだ! エイタ!」
「落ち着けと言った、このバカ」
「2回も言うな!」
辞書を片手にツンツンと刺々しい髪の少年が現れた。何だか落ち着いた雰囲気のある少年だと少女は思った。
「ったく、急に飛び出したと思ったら、また、面倒事に首突っ込みやがって」
「だってよ、あの子が泣いてたから」
「だからといって問答無用で相手を蹴飛ばすなよ。・・・見ろ、あちらさんもヒートアップしちまってる」
「いてて、何しやがるんだオマエラ!」
「あ~すまん。このバカが先走ったことは謝る。だが、こちらも理由が知りたい。あの子をどうするつもりだったんだ?」
「うるせぇ! ウニ頭! 先にそっちが手を出したんだろうが!」
「あ」
「・・・すまない。今、何て言ったんだ?」
「あん? 先に手を出した」
「もっと前」
「・・・・・・ウニあた」
「誰が海産物だゴルァ!」
「ぐわぁ!?」
「うわぁ!? ゴウリくんの顔面に辞書が!?」
「自前の剛毛だ、クソッタレ!」
「おおおおお!? こいつらゆるせねぇ! お前ら、やっちまえ!」
「へへ、かかってこいや!」
「・・・・・・・・・」
あれよあれよという間に少年達の乱闘が始まってしまい、少女はポカーンと置いてけぼりになってしまった。
そんな時、ツンツンと少女は肩をつつかれる。びっくりしつつ後ろを振り向くと、自分と同じくらい背丈の少女がニコニコしながらそこにいた。
「ねぇねぇ、あなた、大丈夫?」
「え、あ、うん」
「そっか、・・・じゃあ、ちょっとこっちに来て」
「え? うわわ」
なんだかふわふわしている印象を受ける少女に手を引かれ、穴が空いているドーム状の遊具の中に2人の少女は移動する。
穴からヒョコっと顔を出し、乱闘の状況を見守る。5対2、自分を助けに入った少年達は人数差の不利に屈することなく立ち向かっていた。
「ねぇねぇ、あなた、お名前は?」
「え? ・・・クリス」
「そっか~、クリスちゃんか~。あ、ワタシはね~、タツコっていうの。よろしくね~」
ふわふわの少女はタツコと名乗り、ニコニコと笑みを浮かべながら少年達を指差す。
「えっとね~、あっちのツンツン頭が“エイにぃ”で、あっちの元気なのが“ヨーにぃ”なの」
タツコが少年達それぞれの名前を教えてくれる。その中でクリスは、“ヨーにぃ”と呼ばれた方の少年に視線を集めた。
「なんで、・・・なんで助けてくれたの?」
「ん~? ヨーにぃのことだから、あんまり深く考えてないと思うけど、そうだなぁ・・・」
「・・・」
「ヨーにぃは助けたいから助けようとしたんじゃないかな。だって、ヨーにぃは“ヒーロー”だからね」
「ヒーロー?」
「うん! そう!」
タツコは笑顔でそう言った。
クリスは再び“ヨーにぃ”に視線を集める。
いつの間にか相手側の人数が増えているが、そんな中でも少年は堂々としていた。
逆境に対しても臆しないその姿はクリスの心に焼き付く姿だった。
この日、雪音クリスは不思議な少年少女達と出会った。
☆
「ん・・・」
目が覚めた。少女、雪音クリスは体を起き上がらせる。
何だか懐かしい夢を見たような気がするが、もう思い出せない。
「ここは・・・?」
自分の状況を確認する。
何処かの民家なのか畳が敷かれた部屋。その中央に布団が敷かれ、自分はそこで眠っていたようだ。
さらに周りを見渡せば、対面して正座している男と少女がいた。
「・・・はぁ?」
妙な光景にクリスは思わず声をあげた。
☆
時は少し遡る。
コウモリ怪人が撤退し、雪音クリスを保護した陽介だったが、小日向未来と遭遇した。仮面ライダーBLACKから人間に戻る瞬間を見られたので、もはや、言い訳のしようがなかった。
しかし、未来はまず、陽介の腕の中で眠るクリスの様子を心配し、ひとまずクリスの手当を優先することになった。
お好み焼き店である“ふらわー”のおばちゃんに軽く事情を説明し一室を借りて、クリスをそこに寝かせることが出来た。
クリスの衣服は雨で濡れ、汚れてしまっていたので寝ているクリスの着替えを未来に任せた。
そうして、一息ついた時、
「陽介さん、お話があります」
「・・・うん、わかった」
真剣な顔で未来は陽介に詰め寄った。
未来は知りたかったのだろう。自分が知らない所で何がおきているのか、知らずにはいられなかった。
一応、未来は先日、響がシンフォギア装者であることを知ってしまい、そのことについての守秘義務などの話は二課から受けていた。しかし、未来は自分の知りあいから直接聞きたかった。
床にちょこんと未来が正座し、陽介もそれに合わせ正座する。
「さてと、何が聞きたい?」
「じゃあ、まず・・・、陽介さんは仮面ライダーなんですね」
「うん」
「・・・そうですか」
「あんまり、驚かないんだね」
「驚いてますよ。響もシンフォギアっていう力を持っちゃったと思ったら、陽介さんが、まさか仮面ライダーだったなんて・・・私だけ、蚊帳の外だったんですね」
「それは・・・」
「最近、陽介さんだけじゃなくて、響の様子もおかしいと思ったら、まさか、2人ともノイズと戦ってるなんてね」
「未来ちゃん・・・」
「これも人助けですもんね。ノイズと戦えるなんて凄いことですね。私も友人として鼻が高いですよ・・・・・・でも・・・でも、やっぱり私は、嫌だなぁ・・・」
「・・・」
「2人がノイズと戦って、人々を護ってくれること。それはとても立派なことだと思います。だけど、それを秘密にしてたこと。心配もさせてもらえないこと・・・。ううん、そうじゃない。私が一番嫌なのは、私が何も出来ないこと」
「未来ちゃん、それは」
「わかってますよ。私は響や陽介さんみたいな特別な力なんてない。何も出来ないのは当たり前なのに、それでも、何かしてあげられることがあると思うのに、それも思い付かなくて・・・ほんと、何も出来ない自分が嫌になりますよ・・・」
「そんなことはないさ」
「いいですよ、慰めなんて」
「・・・未来ちゃん、難しい事情があって君に秘密にしていことは本当にすまないと思っている。だけどね、君が何も出来ないなんてことはないよ」
「何で、そんなこと」
「君がいてくれる。それだけでいいんだ」
「それだけって・・・、何もするなってことですか?」
「違う違う。う~ん、何て言ったらいいか・・・。前に響ちゃんが言ってたんだ『未来は私の陽だまり』って」
「・・・それが、どうかしたんですか?」
「響ちゃんが頑張れるのは未来ちゃんが帰る場所に居てくれるからだと思うんだ。・・・戦いで疲れた心を癒せるのは、帰れる場所、待ってくれている人、それがあるだけで人は頑張れると俺は思ってる。だから、信じて待っててほしい。響ちゃんが未来ちゃんの所に帰ってくることを」
「・・・・・・なら、陽介さんは?」
「え?」
「陽介さんにはあるんですか? 帰る場所」
そう言われ、陽介は少し考える。そして、少し気恥ずかしそうに答えた。
「俺さ、未来ちゃんの笑顔が好きなんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふぇ!?」
ボッ!と、未来の顔が赤くなる。
「あのあのあのそう言ってもらえるのは正直嬉しいですけど私には響がいますしいや陽介さんが嫌ってことでは───」
「未来ちゃんが響ちゃんと楽しそうにしている時の笑顔が好き。響ちゃんがゴハンを美味しく食べてる時の笑顔が好き。ストーンで、穏やかにしているお客さんの笑顔が好き。俺は、人が笑顔が好きなんだ」
「───あぁ、そういう・・・」
「? どうしたの?」
「い、いえ、なんでも!? んんっ! どうぞ」
咳払いを1つし、未来は続きを促す。
「まぁ、つまり俺は、人々が笑ってすごせる場所を、その自由と平和を守りたい。その場所が俺の帰れる場所だと思うんだ」
「・・・はぁ~~~」
「あれ? 何故そこでため息?」
「いえ、陽介さんはお馬鹿さんだなって」
「ひどくない!? 」
「だけど、陽介さんは陽介さんなんですね」
出会った時から変わらぬ青年の在り方に未来は感心しつつ、呆れた。守る為に戦う、そのためだったら平気で無茶をする。
そんな彼に自分が出来ることは・・・
「よし! 陽介さん、指、だしてください!」
「ん、こう?」
未来は小指を突きだし陽介に向ける。彼女の意図をなんとなく察した陽介も小指を突きだす。2人の指は結ばれた。
「約束してください」
戦う力のない少女は告げる。
「私は待ちます。帰る場所で待っています。だから、必ず帰ってきてください。でないと、赦しませんから」
「未来ちゃん・・・」
「いいですね?」
都合のいいことを言っていると未来は内心自覚する。だが、自分に出来ることは“待つ”だけだ。自分にも戦う力があればと思うが、それは叶わぬ願いだ。
なら、このくらいのわがままは言おう。このお人好しの帰れる場所くらいには自分もなれるはずだから。
「・・・わかった。必ず帰るよ。約束だ」
「ええ、約束です」
陽介は少し困ったような顔しながらも未来と約束を結んだ。彼女の願いを無下にはできない。
「・・・え~と・・・」
指切りを終え、2人は正座したまま見つめあう。なんとも言えない時間が流れた。
気まずい、というより気恥ずかしい。
(あれ・・・?)
そこで、小日向未来は自分の発言した言葉を思い出す。約束を交わした言葉はまるで、
大切な人を、恋人を待つようなニュアンスを含んでいるのではないか?
「あ・・・」
そう思ってしまった瞬間、顔が熱くなるのを感じた。
チラリと彼の顔を見る。出会った頃から変わらぬ黒い髪に宝石のような紅い瞳。さっき触れた指も、響や自分のとは違いゴツゴツしていた。
でも、イヤな感じではなかった。むしろ、暖かくてもっと感じていたいような・・・
「・・・はぁ?」
そこで、眠っていたはずの少女の声が響いた。
☆
雪音クリスが目を覚ました。
どうやら、こちらが思っているより元気そうで安心した。
クリスが元々着ていた衣服も洗濯が終わったので、今は未来に任せ、陽介はふらわーの台所を借りて、おにぎりを握っていた。
陽介が勤務している喫茶店ストーンのメニューにおにぎりがある。そのおにぎりは陽介が作っているのだ。元々、おにぎりを作るのが得意で、お客さんにも好評だったので、今ではすっかりストーンのメニューになっている。
起きたクリスのお腹があいさつしてきたので、彼女の為におにぎりを作っているというわけだ。
「よし、こんなものかな?」
とりあえず、三個、おにぎりを作った。
それぞれ、具なし、鮭入り、ごま塩と分けている。彼女の好みがあればいいが・・・、
けたたましいサイレンが鳴り響いた。
「この警報はッ!?」
外から店の中まで鳴り響く大音量を聞き、急いで外に出る。外に出れば、町の住人達が急いで避難していた。
陽介に続いて未来とクリス、ふらわーのおばちゃんも店から出てくる。
「な、なんだよこの騒ぎは!?」
「ノイズが現れたの! 警戒警報を知らないの!? とにかく、急いで逃げようッ!」
「ノイズが・・・? くッ!」
大慌てで逃げる人々の様子を見て、クリスは表情を歪める。そして、彼女は人々が逃げる方向とは逆の方向に向かって走り出した。
「あ、クリス! どこに行くの!? そっちは───」
未来の呼び声は届かず、クリスは人混みの中に飲まれていった。
「・・・未来ちゃん、君は、おばちゃんと一緒に避難するんだ」
「・・・陽介さん・・・、行くんですね?」
「ああ」
「ッ・・・わかりました。クリスのこともお願いします」
「任せて」
「約束、守って下さいね」
「うん、行ってくるよ」
陽介はクリスの後を追い、人混みの中へ消えていった。未来は消えていく背中を少し見つめると、ふらわーのおばちゃんと一緒に避難し始めた。
走る。人混みを掻き分け、先に走っていった少女を追う。やがて、人混みから抜け出す。さっきまで人が溢れていたとは思えないほどの静けさに町は包まれた。
少女、雪音クリスを探すため更に加速する。すると、ノイズが群がっているのが見えた。ユラユラと揺れるノイズ達の隙間から見える人物、雪音クリスの存在が確認出来た。
「変身ッ!!」
ノイズに囲まれている少女を救うためにその身を変える。
走る勢いを殺さず、勢いよくノイズ達を飛び越える。雪音クリスとノイズの間に割ってはいる。
クリスは目の前に現れた仮面ライダーに驚く。ノイズ達は仮面ライダーが現れたことを気にするわけもなく自分達に与えられた命令をこなす為に突撃する。
通常ならばノイズの突撃に仮面ライダーも少女も諸とも炭化する。だが、
「デェエエイイヤァッ!!」
仮面ライダーBLACKが蹴りを振るう。鎌のような一撃はノイズ達を凪ぎ払った。
変身した時、BLACKは素早くキングストーンフラッシュをノイズ達に浴びせていた。一定時間とはいえ、位相差障壁を無力化できればノイズを屠ることは可能なのだ。そうなれば、仮面ライダーBLACKに砕けぬものはない。
「大丈夫かい?」
とりあえず、目の前にいたノイズ達を殲滅した。クリスの安全を確認すべく振り向く。クリスに近寄るが、彼女は両手をつきだし仮面ライダーBLACKを押し退けた。
「余計なことすんな! お前に助けられる覚えはない!」
「俺は、ただ・・・」
「うるさい! 何がヒーローだ! お前が本当にヒーローなら、何で・・・、何で!? パパとママを助けてくれなかったんだよッ!!」
「ッ!・・・・・・」
「・・・ぁ、・・・ちくしょう」
息を荒げながらクリスは叫んだ。ハッキリとした拒絶の意思、自分の中にあったヒーローに対する怒りを爆発させた。それを叫んだところで意味がないとわかりつつも、
クリスはすぐさまシンフォギアを纏うと逃げるようにその場から離脱していった。
仮面ライダーBLACK、黒山陽介はその場で立ち尽くしてしまった。離れる少女の背中を目で追うことしか出来なかった。
こういうことは今までも何度もあった。
ゴルゴムとの戦いでも、ノイズとの戦いでも、間に合わないことがあった。助けられない命があった。
『どうしてもっと早くきてくれなかったの』
『化物同士の戦いに巻き込むな』
『お前がいるからこんなことになったんだ』
被害にあってしまった人々の怨嗟の声を何度も受けた。
だけど、それで止まることはできない。止まることは許されない。なによりそれは、自分が許さない。
悲しそうな顔をしていた。泣きそうな顔をしていた。
そんな子をこのまま放っておく?
否、そんなことはあり得ない。
自分が仮面ライダーだからだけではない。
ただ、単純に黒山陽介は助けたいと思った。雪音クリスには余計なお世話かもしれないけど、放ってはおけない。ならば、ここで立ち尽くしている場合ではない。
「よし!」
決意を固めクリスを追いかける。
これは我儘だ。
助けたいと思ったから助ける。実に身勝手な想いかもしれない。だけど黒山陽介は走り出す。この想いを止められない。もう、悲しい想いはしたくないし、させたくないから。