戦姫絶唱シンフォギアBLACK   作:土紋

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第十七話 嘆きの先

 

 

 

 

 

 

「何をしてるんだあたしは・・・」

 

とある沿岸部の倉庫街の路地裏で雪音クリスはぼやいていた。

 

すっかり雨は止み、夜空が見渡せる。星と月が見えるほどの夜空だった。だが、雪音クリスの心が晴れやかになったわけではなかった。

 

(らしくねぇな。何であいつから逃げた。怖い? いや、そんな筈は・・・)

 

何であいつはあんなにあたしを構う?

 

何であいつは飯をもってきた?

 

何であいつはあたしに優しくしようとしたんだ?

 

何で、何で・・・

 

答えのでない疑問に悶々としながら路地裏を歩く。当てはない。ただひたすらに歩く。何処へいこうか。

 

そういえばと、ふと思いだす。

 

(あのおにぎり、うまかったな・・・)

 

あの時食べたおにぎりを思い出す。何故あのおにぎりをうまく感じたのだろう。あんなのより、フィーネのところで食べた料理の方がうまかったはずだ。

 

素材も味も高級だった。あんな普通のおにぎりよりもよっぽどうまかった。だけど、あのおにぎりはなんというか、“暖かかった”。おにぎり自体は冷めていたが、いや、冷めてうまいおにぎりはあるとおもうがそうじゃない。いずれにしても、

 

「また、食ってみてぇなぁ・・・」

 

おもわず口にしてしまった言葉にハッ! となる。あたしは何を考えてるんだ。おにぎりに絆されるほど食い意地が張ってる訳ではない。断じてだ!

 

壁に拳を叩きつけ頭を振る。余計なことを考えてる暇があればこれからのことを考えるべきだ。

 

背後から物音がした。

 

ドサリ、と何かが落ちた音だった。瞬間、臨戦態勢に移る。後ろを振り返るが、何もない。

 

いや、“何か”あった。

 

暗くてよく見えない。月が雲に隠れて一時的に暗さが増したが、それも一瞬。再び月明かりが夜道を照らすと、

 

「なっ!?」

 

人が倒れていた。

 

「おい! 大丈───」

 

倒れている人へ向かおうとしたが、足が止まった。

 

妙だ。

 

倒れている人は女性だ。歳は二十代くらい、スーツを着ていることからOLさんだと思う。だが、注目すべきところはそこではない。

 

肌が異様に白かった。それどころか異常に痩せこけている。着ているスーツがぶかぶかだ。まるで、血を抜かれたように皮と骨しかのこっていないようだった。

 

「いったい、なんだよ、これ」

 

心臓の鼓動が早くなる。この人は死んでいる。死んでしまっている。こんな死に方、普通じゃない。

 

イヒヒ

 

「ッ!」

 

声が聞こえた。振り返るが誰もいない。だが、嫌でも聞き覚えのある声がした。

 

「どこだ! 出てこい! 何で、何でこんなことをした!」

 

無音。自身の叫びだけが木霊する。だけど、“いる”。間違いなく“奴”がいる。

 

あらゆる場所に視線を向け、全神経を総動員させ、姿を見せない敵を探す。

 

どこだ、どこだ!

 

早くなる心臓の鼓動がうるさくなる。見つからない。奴は何処にいる!?

 

「キィヤアアアアア!!」

 

「が、あああああ!?」

 

おもわず、いや、強制的に耳を塞いでしまうほどの奇声が自分の上空から響いた。嫌悪感が増す声で頭が割れそうだ。背後に気配。気力を振り絞って振り返る。

 

悪魔のような卑しい笑みを浮かべた怪人がいた。

 

「がはっ!?」

 

「こんなところをウロウロしてるとはなぁ。探す手間が省けたぜ」

 

首を掴まれ壁に押し付けられる。どうにか振りほどこうともがくが振りほどけない。ふざけた力だ。

 

「イヒヒ! さてさて、邪魔が入るまえに楽しもうとするか!」

 

「がっ!?」

 

乱暴に投げられ、地面を転がされる。掴まれた首が痛むが関係ない。手を離したというならチャンスだ。

 

「Killiter Ichaival ───ぐあッ!?」

 

「ざ~んねん、させるかよ」

 

現れた怪人、コウモリ怪人に蹴り飛ばされる。聖詠を紡ぐ間もなかった。

 

蹴り飛ばされた先で何かにぶつかる。何だ? とおもい、ぶつかったものを見れば、それは、先ほどの死体だった。

 

「ッ! ・・・なんでだよ」

 

「あん?」

 

「なに無関係なやつに手を出してやがる! お前の狙いはあたしだろ! 」

 

「・・・イヒ、イヒヒ、イヒヒャハハハ!」

 

「なに笑ってやがる!」

 

「イヒヒ、無関係? まぁ、そいつは確かにお前とは関係ないかもなぁ。だが、そいつが死んだのはお前のせいでもあるんだぜぇ」

 

「・・・は? なに、言ってやがる」

 

「俺様はフィーネ様の命令でお前を殺しにきた。そんときになぁ、言われたんだよ。俺様の自由にしていいってなぁ。」

 

コウモリ怪人は大袈裟に翼を広げながらクリスに語る。

 

「5人だ。そいつもはめて5人殺した」

 

「───」

 

「イヒヒ! いやぁ楽しかったぜ、久しぶりの殺しは! お前にも見せてやりたかったぜ。そいつらの死に様をよぉ!」

 

「なんで、なんでそんなことを!」

 

「んふ~・・・。暇潰し、空腹、あと目についたからかな? イヒヒ!」

 

「な、な・・・」

 

意味が分からなかった。目の前の人の言葉をしゃべる異形が何を言っているか理解できなかった。

 

「まぁ、つまりだ。お前がさっさと死んでくれなかったからそいつらは死んだんだよ」

 

「ち、ちが」

 

「違わねぇよ! 用済みになったお前が生きてるからこうなった! イヒヒ! フィーネ様の言う通りだな。お前は何もできない半端者。戦争の火種を消すぅ? フィーネ様の役にたてなくなったお前は周りを不幸するだけなんだよ! あ~あ、かわいそうなやつらだ。お前が死んでればこいつらは死なずにすんだかもしれないのになぁ!」

 

「あ、ぁ・・・」

 

触れた死体からは何も伝わってこない。あるのは冷たい感触だけ。この人は死んだ。何故?

 

・・・あたしのせい?

 

「あぐ!? かはっ!?」

 

「イヒヒ! 安心しなぁ。用済みの人形でも、俺様が遊んでやるからよ。そうすれば、こいつらも死んだかいがあるってもんだからよ、イヒヒャハハハ!」

 

背後からまた首を掴まれ、持ち上げられる。息ができない。キリキリと首を締め付ける力が強くなる。

 

あぁ、結局あたしは何をできたんだろう。

 

そもそも、何であたしは、ここまで頑張ってきたのだろう。

 

戦争の火種をなくしたい。そう思った。だから、フィーネに声をかけられた時に迷いなく協力することにした。大嫌いな歌を唄うことになっても、“痛み”が広がれば、あたしの望む世界がくるかもしれないと思ったんだ。

 

でも、何で、戦争の火種をなくしたいなんて思ったんだっけ・・・。

 

───人助け!? 音楽で!? そりゃあすげぇ!

 

・・・あぁ、そうか。あたしは・・・、

 

絶望していたはずなのに、無理だなんてわかってたのに、それでも、パパとママは毎日一生懸命だった。音楽で平和を広げようとしていて、あたしは、その姿がとても輝いて見えたんだ。

 

そして、あたしも、パパとママと同じようになりたかったんだ。いつか、また会えると信じたみんなに会ったときに、誇りに思える自分であるために。

 

だけど、もう、ダメかな。

 

「イヒヒ! ようし、決めたぜ。殺してから遊ぼう!死んだお前をさらにぐちゃぐちゃにしてフィーネ様に見せよう。イヒヒ、フィーネ様どんな顔をしてくれるかなぁ」

 

呼吸ができない。意識が遠のいていく。力が入らない。戦う為の歌が唄えない。

 

このまま死ぬのかな。死んだらパパとママに会えるかな? いいや、きっとあたしはパパとママと同じところににはいけないだろう。だって、悪いことをしてしまった。たくさんたくさんしてしまった。あたしのせいで人が死んだ。だからこのまま惨めに殺されるんだろう。

 

タツコちゃん、エーにぃ、

 

ヨーにぃ・・・、

 

みんなは今頃どうしてるだろう。結局、あの頃は呼びやすい名前で呼んでいたから、本当の名前を知る機会はなかったな。

 

それでも、それでも、今あの頃の楽しかった風景を思い出すのは間違っているのだろうか。

 

───クリスが呼ぶなら何処へだって助けに行くぜ!

 

・・・どうせこのまま死ぬのなら、

 

「た、す、けて」

 

か細く、誰の耳にも届かない呟きが漏れた。

 

「そんじゃ、死ね」

 

首を締め付ける怪人にすらその呟きは聞こえなかった。1人の少女の命はここで潰える。その死体も獣欲にまみれた怪人に貪られるだろう。

 

これは、それだけの話なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む~、むむむ~ん」

 

「どうしたの響? 通信機とにらめっこして」

 

「あ、未来。・・・いや~せっかく未来と仲直りできたのに、ヨウさんと全然連絡つかなくてちょっと心配で・・・」

 

「ふむ、やはり黒山さんとは連絡がつかんか」

 

「あわ、翼さん!」

 

「お疲れ様です翼さん。ライブすごかったです」

 

「ありがとう小日向。楽しんでもらえたならなによりだ」

 

「む~」

 

「・・・それで、立花は何故そんなに唸っているのだ?」

 

「あ~、お気になさらず、ここ最近陽介さんと全然会えなくてふてくされてるだけなんで」

 

「ちょ!? 未来!? わ、私は別にふてくされてなんか」

 

「ことあるごとに、『ヨウさ~ん、ヨウさ~ん』って言ってたくせに?」

 

「ぐ、ぐぬぬ」

 

「ふむ、まるで主人が大好きな子犬のようだな」

 

「子犬というには少し大きすぎると思いますが」

 

「ふふ、そうだな」

 

「も~! 翼さんまでなに言っているですか! 私、そんな犬みたいにヨウさんに付きまとってなんかないですよ!」

 

「「え?」」

 

「え?・・・え?」

 

「まぁ、そんなことより」

 

「うぇ!? 流された!?」

 

「黒山さんと連絡がとれないのは私も気になるが・・・、そういえば、黒山さんを最後に見たのは小日向だったな」

 

「はい。陽介さんは、クリスを助けに行って、それっきりですね」

 

「となると、黒山さんは雪音クリスを追っているまたは、共に行動している可能性があるということになるか・・・先日のブリーフィングで今までの雪音クリスのことをいろいろと確認したが、黒山さんは何か思い詰めた顔をしていたな」

 

「知り合い、だったんですかね? 陽介さんとクリスは・・・」

 

「わからん。いずれにしても2人の行方が気になるところだが、小日向はその、落ち着いているな。心配ではないのか?」

 

「え? もちろん心配はしてますけど、あんまり気にしすぎてはないというか・・・」

 

「ほう? それは?」

 

「陽介さんとは“約束”しましたし、それに、困ってる誰かをほうっておくような人ではないですからね。だから、たぶん大丈夫ですよ」

 

「・・・・・・」

 

「どうしました?」

 

「いや、信頼、しているのだな」

 

「フフッ、はい! 陽介さんですからね!」

 

「ね、ね、未来。約束ってなに~?」

 

「ウフフ、それはちょっと、ないしょかな♪」

 

「え~!? そんな~!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲハッ!?」

 

「ッ! げほッ!? えほッ!?」

 

いったい何が起こったのか雪音クリスは理解が追い付いていなかった。怪人に首を締め付けられ、意識が遠くなり自分の命運はこれまでかと思った。

 

だが、聞こえてきたのは怪人の悲鳴。一瞬の浮遊感のあとは誰かに抱き締められる感触。解放され、確保された気道から酸素が一気に肺を巡ったためむせてしまった。

 

ぼやけた視界がやがて正常に戻っていく。

 

「え?・・・な、んで?」

 

視界の先にいた者は、

 

「助けに来たよ。クリス」

 

ニッコリと優しく笑うお人好し、黒山陽介がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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