戦姫絶唱シンフォギアBLACK   作:土紋

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第十八話 蝙蝠をうて!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助けに来たよ。クリス」

 

「・・・・・・」

 

「どうした? どこか怪我でも」

 

「・・・で」

 

「ん?」

 

「なんで来たんだよ。なんで来れたんだよ。・・・なんでお前は、あたしを助けるんだよ・・・」

 

「・・・君はもう忘れてしまったのかもしれないけど、俺と、いや、俺達と君は昔、一緒に遊んだ時があるんだぜ」

 

「え?」

 

抱き留めていたクリスを陽介はそっと地面に降ろす。クリスはそのままぺたんと地面に座り込む。陽介はクリスの前に出た。

 

「長い時間を一緒にすごしたわけじゃないけど、あの日々は楽しいものだった。昔交わした“約束”もあるけど、君をほうっておけるほどの薄情者でもないつもりだ。・・・まぁ、なんだ、いろいろ理由はあるけど、ようはシンプルなことなんだ」

 

ガシガシと頭をかきながら黒山陽介は言葉をつなぐ。

 

「俺はクリスを助けたい。そんで、君はさっき言ったろ? “助けて”って。だから助ける。なら、そんだけで充分さ」

 

聞こえてた。聞こえるはずのない小さな叫びはこの青年に聞こえていた。都合が良すぎるのかもしれないけど、不思議と嫌と思わなかった。むしろ、どこか懐かしい感じが・・・。

 

「あ・・・」

 

疑問という名のばらけたパズルに確信というピースが当てはまっていく。

 

懐かしく感じる背中はかつて出会った少年を思い出せ、その言動はうっとおしいと感じながらもこちらを気遣う優しさがあった。だけど、なにより彼がこれまでしてきた行動はあの少年を思い起こさせるには充分だった。

 

何故、この青年はこんなに自分に構うのか。

 

わかった。わかってしまった。この青年は、

 

「ヨーにぃ?」

 

「おう、なんだい?」

 

「ッ!・・・」

 

こんなことがあるのだろうか。子供の時に仲良くなった友人とこうしてまた出会うことができるなんて、胸の奥からいろんなものが溢れてくる。

 

喜びと悲しみと疑問。

 

また出会えたという喜び。友人に対して行ってしまった粗相。そして何故彼が仮面ライダーになってしまったかの疑問。

 

言葉が、想いがまとまらない。クリスはただこの状況に対して混乱するしかなかった。

 

「・・・さて、いろいろ話したいことがあるけど、まずは・・・」

 

黒山陽介は視線を前に向ける。クリスを護る為に前に出で視線の先にいるコウモリ怪人を睨み付ける。

 

クリスを救出するために背後から後頭部を蹴り飛ばしたコウモリ怪人は既に立ち上がっていた。色黒な肌は怒りからくる興奮からか若干赤くなっていた。

 

「テメェ、良いところで邪魔しやがって、このお邪魔虫が!」

 

「お前と問答するつもりはない。ここで倒す」

 

「ハッ! 調子にのりやがって! その小娘は俺様のモノだぞ!」

 

「黙れッ!」

 

「ッ!?」

 

「モノだと? ふざけるなッ! クリスを痛めつけるだけじゃなく、人の命をおもちゃにするお前を許すわけにはいかない! ・・・変───」

 

構える。拳を力の限り握り締め、ギチギチと音をたて全身の筋肉が引き締まる。黒山陽介の体が変わろうとする。

 

「させるか! キィィィィィィィ!!

 

「あぐ!?」

 

陽介の変身を阻止するべくコウモリ怪人は大音量の奇声を上げる。

 

コウモリ怪人ミナガ。この怪人が上げる奇声は只の奇声ではない。この奇声は生物が本能的に嫌がる超音波を同時に発している。本来の超音波は人間には聴くことができないが、この怪人はそれができるのだ。

 

生物が本能的に嫌がる音を出すことで獲物は思わず耳を塞いでしまう。その隙を突くのがこの怪人の常套手段だ。

 

目の前のお邪魔虫の後ろにいるクリスは耳を苦悶の声と共に耳を塞いでいる。こいつも以前にこの音を聴き耳を塞いでいた。だから焦ることはない。今回もいつもと同じように隙ができた獲物を弄ぶだけだ。

 

その筈だった。

 

「───身ッ!!」

 

「な、なに!? ごえっ!?」

 

黒山陽介は変身した。

 

怪人が発する音などまるで気にする素振りを見せず陽介の体は変わる。ベルトが形成されそこから放たれる強烈な閃光にコウモリ怪人は思わず悲鳴を上げた。

 

「仮面ライダー・・・ブラッ!!」

 

「ほんとに、ヨーにぃが・・・」

 

「バカな!? 何故、俺様の超音波が聞かない!?」

 

「トォワ!」

 

「ゲアッ!?」

 

コウモリ怪人の問いに答えることなくBLACKは怪人を殴り飛ばす。

 

別にコウモリ怪人の奇声が聴こえなかった訳ではない。むしろ改造人間として強化されている聴覚は普通の人間よりも鮮明に聞き取れることが可能である。

 

ならば陽介はどうしたか? 答えは単純だ。聴こえていたが聴いていなかったのだ。

 

コウモリ怪人の奇声だけをピンポイントで聴こえないようにするといった器用な芸当をしたわけではない。コウモリ怪人の奇声は確かに聴こえていた。バッチリ聴こえていた。しかし、音に対する嫌悪感よりもクリスを助けたいという想い、クリスを傷つけ、人の命を弄んだコウモリ怪人に対する怒りが嫌悪感を塗りつぶしたのだった。

 

「さぁ、覚悟しろ」

 

得意の戦法をあっさり破られたコウモリ怪人は恐怖した。今は夜で辺りは真っ暗だがコウモリ怪人の目にはハッキリと見えていた。紅い瞳をギラつかせながらこちらに迫ってくる黒い戦士が。

 

そして、コウモリ怪人が次にとった行動は、

 

「あ!」

 

声を上げたのはクリス。

 

コウモリ怪人は自分を多い包めるほどの翼を広げると勢いよく羽ばたき空へ飛んだ。

 

(付き合っていられるか。奴の相手はあのいけ好かないビルゲニアがやることになってんだ。俺様が戦う必要はねぇ)

 

自分が与えられた命令は“雪音クリスの抹殺”。それを完了するまで戻ってはくるなと言われている。ならば、ここで仮面ライダーと戦う必要はないとコウモリ怪人は判断した。その為、なんの迷いもなく逃走という手段に打って出た。

 

相手は小娘と改造人間。翼を持ち空を自由に飛べる自分に追い付ける筈がない。しっかりと高度をとって、また、その辺の人間で遊んで次のチャンスを待てば

 

「逃 が さ ん」

 

「ゲェー!?」

 

驚愕している間にコウモリ怪人は地面に叩きつけられた。

 

彼等がいた場所が倉庫街でなければコウモリ怪人はまんまと逃げることができただろう。彼等がいた倉庫街の通路は人が2、3人が通れる広さがあった。倉庫と倉庫の間隔もその程度である。

 

仮面ライダーBLACKがコウモリ怪人を追い、ジャンプしても、1回のジャンプでは飛び上がり続けるコウモリ怪人には届かない。

 

ならば、1回ではなく2回のジャンプをすればいいとBLACKはそう判断した。

 

つまり、BLACKは壁に向かって飛び、壁を蹴って更に高く跳んだのだった。結果、コウモリ怪人に肉薄し、その顔面に拳を叩き込んだ。

 

ぐぎぎと唸りながら顔面を押さえ地面に倒れ伏すコウモリ怪人を追うように着地する。

 

(飛ばれると面倒だ。直ぐに決着をつけなければ)

 

「テメェ!」

 

怒りの形相でBLACKに怒鳴るコウモリ怪人。だが、そんなものを気にする素振りもなくBLACKはダッシュ、すぐさまコウモリ怪人に接近する。

 

右ストレート、コウモリ怪人は身を仰け反らせて回避、踏み込んで左ストレート、しかしこれも避けられる。

 

「ハハッ!」

 

コウモリ怪人が嘲笑う。しかし、BLACKの勢いは死んでいない。振り抜いた左ストレートの勢いを利用、回転しながら更に踏み込む、がら空きの腹に右肘を捩じ込む。

 

「グェ!?」

 

右の裏拳を胸に当て少し間合いをあける、左の正拳を再び腹に叩き込む。コウモリ怪人は腹を押さえながら後ずさる。

 

「ガァァァァッ!!」

 

痛みを押し殺すかのように獣のような叫びを上げるコウモリ怪人。両手の爪をギラつかせ乱雑に腕を振り回す。BLACKを引き裂こうと爪を振るうがその攻撃はひょい、ひょいと木の葉が舞うにようにBLACKは回避した。

 

「こいつ!」

 

「シッ!」

 

大振りの右手、BLACKは踏み込む、顔面の右を爪が滑り抜ける、右膝が怪人の腹に吸い込まれた。

 

「ゴッ・・・ガ・・・」

 

フラフラとよろめく怪人。

 

「ハァッ!」

 

力を込めた右回し蹴りが怪人の顔面に叩き込まれコウモリ怪人は錐揉み回転しながら倒れた。

 

「すげぇ・・・」

 

始まった仮面ライダーと怪人の戦いを見て雪音クリスが漏らしたのは感嘆の言葉だった。戦況は仮面ライダーの優勢、いや圧倒だろうか。的確に攻撃を加え、相手の攻撃は最小限の動きでかわしている。

 

少なくともクリスにはそう見えた。そしてその戦いぶりから嫌でもわかってしまった。あの少年、いや青年は本当に仮面ライダーなのだと。

 

きっと多くの戦いを経験してきた筈だ。ゴルゴムという組織といったいどんな戦いをしてきたのだろう。自分が知っている彼は元気いっぱいで明るい少年だった。それが今やまるで戦闘マシーンのように的確に冷静に戦っている。

 

確実に、無駄なく、そう思わせる戦い方だった。その背中から感じる怒気は恐らく自分を思って怒っているのだろうと感じた。それに関してはちょっとうれしい。彼の中で雪音クリスという存在は確かにいるとわかった。だけど、淡々と戦うその姿はなんだか少し怖く感じた。

 

「ハァ・・・ハァ・・・」

 

「・・・」

 

BLACKとコウモリ怪人は互いの肩を掴み、ガッツリ組んだ状態になった。コウモリ怪人は息も絶え絶え、対するBLACKは無言でコウモリ怪人を睨み付ける。BLACKはコウモリ怪人を逃さまいと強く肩を掴み、コウモリ怪人は逆にBLACKを引き剥がそうとする。ギリギリと互いの体が悲鳴を上げていた。

 

「・・・イヒ、イヒヒヒヒ! ・・・まったく厄介な奴だな、仮面ライダー! だがなぁ!」

 

狂ったように笑いながらコウモリ怪人が口を開いた。なにか仕掛けてくる。そう直感したBLACKはコウモリ怪人の口を塞ごうとした。

 

自身の顔面を重い衝撃が襲った。

 

「ぐッ!?」

 

鈍器で殴られたような衝撃だった。その衝撃でコウモリ怪人から引き剥がされる。いったい何が? と思考しながら立ち上がる。

 

「イヒヒ! カァ! カァ!」

 

「ぐあ!?」

 

答えはすぐにわかった。コウモリ怪人はナニかを吐き出した。目に見えないナニかを。BLACKは上半身に、胸にまた鈍器で殴られたような衝撃を受けた。受けた感触はあった、だが視認できなかった。ならば答えは、

 

(奴め、空気を弾丸みたく吐き出してるのか)

 

空気砲。コウモリ怪人が行っている攻撃をそう思考しているとコウモリ怪人はまた連続してカァ! カァ! と吐き出す。視認はできなくても吐き出すタイミングに合わせれば、

 

「ッ! ダメだ!」

 

BLACKはその場を動かず腕を交差させる。コウモリ怪人が吐き出す空気弾が次々とBLACKに襲いかかる。

 

「イヒヒ! スゥーーーバァッ!!」

 

コウモリ怪人は大きく息を吸い込んだ。肺に溜まる膨大な空気はコウモリ怪人の胸部を膨張させる。ぱんぱんにに膨れ上がった風船のように。そして、その溜まった空気を吐き出した。BLACKは動かない。

 

「お、おい! 避け」

 

「うっ!?」

 

ドンッ! とまるで爆発がおこったような音がなった。その場から動かずにいたBLACKはコウモリ怪人が吐き出した大型の空気弾、大砲のごとき一撃をモロに受けた。その衝撃に耐えきれずクリスの近くまで吹き飛ばされた。

 

「なにやってんだよ! 棒立ちで、アイツにいいようにやられて・・・」

 

倒れたBLACKに駆け寄り思わず強めに言葉を投げ掛ける。だが自分で言いながらBLACKの行動の意図を察してしまった。

 

自分達がいるこの場は倉庫と倉庫の間の通路。人が2、3人は通れる広さがあるが、逆に言えば2、3人しか通れる広さがないとも言える。

 

その中でコウモリ怪人は手当たり次第に空気弾を乱射した。例え、見えない弾丸でも射線がある程度予測できれば物陰に隠れたり射線から外れることができる。

 

だがBLACKはその場を動かなかった。

 

「あたしを庇って・・・」

 

「いつつ、大丈夫だよこれくらい」

 

クリスに空気弾がいかないようにBLACKはその身を盾にした。BLACKの身体を見てみると、その黒い装甲には幾つかの凹みが見えた。特に目を引くのは腹部にあるサッカーボールほどの大きさの凹み、それがBLACKを吹き飛ばすほどの空気砲だった。

 

「イヒヒ! じゃあな!」

 

「クソッ! 待て!」

 

こちらを見下すように笑いコウモリ怪人は翼を広げ飛び立つ。BLACKもすぐにその後を追った。

 

クリスは離れていくBLACKの背中を見つめていた。

 

(このままでいいのか?)

 

考える。

 

(あの頃から変わってねぇじゃねぇか)

 

走っていく背中はあの時のままだった。守る為に無茶を押し通す。いつだって全力で突き進んでいく。そんな背中であった。

 

なら自分は?

 

あの頃と同じで守られているだけなのか?

 

(いや、違う)

 

胸のギアのペンダントを握り締める。胸の内から溢れてくるモノがある。

 

(あたしは変わったんだ。壊すことしかできない歌でも出来ることがあるはずだ!)

 

クリスは走る。

 

不思議と体が軽く感じた。心身共に疲弊していたのに何故か体が、いや体だけではなく心も軽くなった気がした。

 

だがそんなことはどうでもいい。今はやるべきことがある。あの怪人は放ってはおけない。

 

(やるんだ。あたしが、あたしたちがやるんだッ!)

 

「Killiter Ichaival tron───」

 

決意を胸に少女は唄い、戦場へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奴は何処に・・・、マルチアイ!」

 

倉庫街の通路を抜けると見渡す限りの海、波の動きは穏やかであった。仮面ライダーBLACKは自身の視力を限界まで駆使し、夜空に消えたコウモリ怪人を探す。

 

「・・・・・・・・・いた!」

 

翼を羽ばたかせ悠々と飛行する黒い影を捉えた。海面の上を飛んでいるコウモリ怪人の背中が見える。ここからでは届かないと悪態をつく。

 

ここでコウモリ怪人目掛けてジャンプしても追い付くことは不可能。なら見過ごすか? それは出来ない。ここで奴を逃せばまた犠牲者が出てしまう。それだけはなんとしても阻止しなければならない。

 

(遠回りになるが陸路で迂回するしかないか)

 

空を飛べない自分ではこのまま追跡することは出来ない。なら、遠回りでも確実に追跡するしかない。せめて、“足場”があればと思うが、と無い物ねだりをしてもしょうがない。

 

「ロードセク───」

 

自身の相棒を呼び出そうした瞬間、BLACKの頭上を飛んでいく複数の物体と歌が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲヒヒ! 所詮は虫。飛べないヤツでは俺様を追ってはこれまい」

 

コウモリ怪人は上機嫌だった。一時はどうなることかと思ったが、自分は今、空の上。いかに仮面ライダーが強敵だろうが空は自分のフィールドだ。高くジャンプが出来るだけのヤツには何もできまいと鼻高々だった。

 

「あぁ?」

 

自身の耳が何かを捉えた。自身に猛スピードで迫ってくるモノがある。それも複数。

 

後ろを振り替えれば、大量のミサイルが迫ってきた。

 

「チィッ! あの小娘が!」

 

小癪な追撃を放ってきたクリスに対して怒りのボルテージが上がる。だが、慌てる必要はコウモリ怪人にはなかった。

 

加速。追ってくるミサイルから少し距離をあける。ミサイルは自身目掛けて追尾してきた。

 

「スゥ───カァアアアアアッ!!」

 

息を吸い空気弾を吐き出す。空気弾はミサイルの横を通過した。すると、一部のミサイルが姿勢を崩す。姿勢が崩れたミサイルは別のミサイルに接触、それが引き金となりミサイルは次々と誘爆していった。クリスが射ったミサイルはコウモリ怪人にとってはなんの脅威にもなり得なかった。

 

「ハッ! 今さらそんなもので!」

 

余裕をかますコウモリ怪人。爆発したミサイルの煙で周囲の視界が悪くなるがコウモリ怪人にはさほど関係なかった。この怪人も動物のコウモリ同様、超音波の反響によって周囲の地形を把握するエコーロケーションを行うことができる。煙の向こうから近づいてくる複数の物体、ミサイル郡が再び迫っていることがわかった。

 

「無駄無駄ァッ!」

 

空気弾をさらに発射。ミサイルに直撃させる必要はない。空気の流れを変えるだけでミサイルは正常に動けないのだ。煙の中で爆発が起きる。耳障りな歌が聞こえるが自身を脅かすほどではない。

 

このまま逃げ切れる。コウモリ怪人は確信した。

 

「・・・あん?」

 

爆煙が濃くなるなかでコウモリ怪人は何かを感知する。ミサイルか? いや、それにしては大きい。だが何かが迫ってきてる。

 

煙から現れたのはミサイルだった。

 

「ッ!? チィ!」

 

身をよじりミサイルを避ける。目にしたのは間違いなくミサイルだ。だが、その大きさは今まで撃ち落としてきたミサイルより大型のものだった。

 

今までのミサイルがサッカーボールほどの大きさだったのに対してあの大型ミサイルは軽自動車並の大きさのだった。

 

(思わず避けちまったが、あの一発で終わりなわけねぇよな)

 

本能的に避け、空へ登っていく大型ミサイルを見送り爆煙を見る。大型の物体を感知。数は5つ。またもや大型ミサイルだった。

 

「デカブツをぶつけりゃ倒せると? 甘いんだよ!」

 

空気弾を連続で発射。大型になったことで命中させやすくなった大型ミサイルに空気弾が直撃。大型ミサイルはその姿勢を崩し他の大型ミサイルに接触、爆発した。

 

その爆発はコウモリ怪人に向かっていた5発すべてに引火していた。大型だけあって先ほどよりも爆発が大きい。爆風で自身も少し体勢を崩すがすぐに直す。

 

周囲を覆っていた爆煙もその爆発で吹き飛び空は晴れ渡った。コウモリ怪人はミサイルが飛んできた方向を見る。

 

「イヒヒ!」

 

いた。

 

赤い装甲を身に纏う少女の姿を発見。堤防の端でガトリングを両手に構えこちらに銃口を向けている。

 

無駄なことだと内心嘲笑う。こちらを見上げ、睨み付けているようだが、構えたガトリングは射程外、ミサイルをいくら撃とうが自身の前ではカトンボも同然。なんのつもりか耳障りな歌を唄いつづけているが、あの小娘は自身に対する有効な手段など持ち合わせていないのだ。

 

「・・・ん?」

 

そこでコウモリ怪人は違和感を感じた。

 

「仮面ライダーはどこだ?」

 

自身を痛めつけてくれたあのお邪魔虫が見当たらない。エコーロケーションによる探索も行うが反応がない。

 

「イヒヒ! 逃げたか、 イヒヒャハハハ! 飛べない虫じゃ何もできないもんなぁ!」

 

高笑い。気分が高揚する。もう自身を邪魔する者はいない。後はこのまま飛び去るだけだ。

 

「あ?」

 

上空から轟音。振り向き見上げれば大型ミサイルが1つ向かって来ていた。

 

「そういや堕とし損ねたのが、ひと、つ・・・」

 

何だ? と、妙な違和感があった。迫ってくる大型ミサイルに何か張り付いている影が見えた。

 

影が伸びる、いや影が立ち上がった。

 

「ッ! あの野郎ッ! ミサイルに張り付いていやがったのか!?」

 

影の正体は仮面ライダーBLACKだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡る。

 

「クッソ、やっぱミサイルはダメか」

 

「クリス!? どうして?」

 

「どうしても何もねぇ。このままやられっぱなしの私様じゃねぇってことだよ!」

 

放ったミサイルがコウモリ怪人に撃墜されるも、再びミサイルを発射。爆煙に突入してその先にいるはずのコウモリ怪人に向かっていくがミサイル郡はまた爆発した。

 

「イチイバルでも届かないのか」

 

「・・・なぁ、あたしに考えがあるんだが・・・」

 

「考え? 何かあるのかい?」

 

「むかっ腹が立つが、私の弾はアイツにはまだ届いてない。だけど、私の全力はこんなもんじゃない。だから・・・」

 

「全力って・・・、まさか!? 絶唱を唄うのか!? ダメだぞ! そんなことをされる訳には」

 

「話は最後まで聞けって! あたしの命をあんなゲスにくれてやるつもりはない! ・・・あたしの弾は届かねぇが、よ、・・・ん゛ん゛、あんたを届けることはできるかもしれねぇ」

 

「俺を?」

 

クリスの作戦はこうだ。

 

仮面ライダーのジャンプ力を当てにし、ミサイルをとにかくばらまく。コウモリ怪人に届くまでばら蒔きまくる。そのミサイルを“足場”にしてコウモリ怪人に迫るというものだった。

 

「・・・・・・いや、それだけじゃダメだ」

 

「な、なんでだよ!」

 

自分の提案を否定され思わず声が荒ぶる。やはり、自分では役に立てないのか。何も救えないのか。この人の助けにはなれないのか。そんな思考がグルグルとクリスの頭をかき乱していく。

 

「クリス、絶唱を使わなくても全力を出すことができるかい?」

 

「え?」

 

「唄うんだ! クリス!」

 

「は、ハァッ!?」

 

仮面ライダーBLACKも策を考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「虫が! この俺様を見下すか!」

 

大型ミサイルに張り付いていた影は仮面ライダーBLACKだった。

 

唄うことによるフォニックゲインの上昇。それによるシンフォギアの出力の上昇によるギアの形状変化。BLACKはそこに目を付けた。

 

シンフォギアは唄うことでその力を発揮する。ノイズとの戦闘の折り、自身のギアを状況によって変化させて戦う少女を彼は知っていた。

 

その少女は歌姫であり自身を防人又は剣と称する少女、風鳴翼。

 

その戦いぶりは戦場を舞う剣姫と呼ぶに相応しく“剣”を振り、飛ばし、果ては巨大化させノイズを切り払う彼女は自分と違って器用だな感心していた。

 

クリスもシンフォギア装者であるならば、同じようなことができるはずだとBLACKは思った。唄ってくれ! と、いきなり言った時は彼女は困惑していたが、作戦を伝えれば、戸惑いつつも了承してくれた。

 

最初に放った一発の大型ミサイル。それにBLACKは張り付いた。その一発に力を注力し、残りの大型ミサイルは全てコウモリ怪人の注意を逸らす為に使った。まんまと作戦は成功。BLACKはコウモリ怪人の頭上をとることができた。

 

空を高速で飛行するミサイルの上にBLACKは立つ。決して安定した足場ではないが、それでも立つ。眼下にいる怪人を逃がすわけにはいかないから。

 

バイタルチャージ。右拳にキングストーンエネルギーを集中させる。

 

「俺様を見下すなぁッ!!」

 

仮面ライダーに上を取られたことがそんなに気にさわるのか怒気を撒き散らす。コウモリ怪人は大きく息を吸った。

 

(調子にのりやがって! だが! あのミサイルを撃ち落としてしまえばあいつは海に真っ逆さまよ!)

 

ミサイルの上で必殺の構えながら接近してくる仮面ライダー。この状況はコウモリ怪人にはピンチであったがチャンスでもあった。

 

ミサイルに乗りコウモリ怪人よりも高い高度をとり一足飛びで仮面ライダーがその拳を振るえばコウモリ怪人はその拳に沈むだろう。

 

だが、まだ距離がある。自分にも反撃のチャンスが残っているのだ。そして、自分は仮面ライダーを狙う必要はない。仮面ライダーが足場にしているミサイルを撃ち落とせばいいのだ。

 

そうすれば空を飛べない仮面ライダーはそのまま海へ落ちていく。

 

勝ったッ! そう確信した。

 

翼に激痛が走るその瞬間までは。

 

「ア、ギャッ!?」

 

何がおきた!?

 

吸っていた空気が吐き出されバランスを崩す。飛んでいたはずの自分がどんどん堕ちていることがわかった。痛みの元、左翼に目を向ける。翼膜に1つ、穴が空いていた。

 

この穴はなんだ?

 

痛みに耐えながら必死に羽ばたき高度を保つ。そこで目に入った。堤防の上で長身の銃を構えていた赤い少女の姿を、その少女、雪音クリスは不敵に笑っていた。

 

「あの小娘がああああッ!!」

 

自分は撃たれたのだ。その事実に憤慨し意識をクリスを向ける。その時点でコウモリ怪人の運命は決まった。

 

ドガギンッ! と激しい金属音が響いた。音は上から、音に反応し上へと体を向ける。

 

「何をッ!?」

 

仮面ライダーが足場にしているミサイルを殴り付けていた。その左拳はミサイルの装甲を穿ち、手首が埋まるほどだった。

 

自らの足場を自分で破壊しているその行動に理解ができなかった。

 

そして、仮面ライダーBLACKはミサイルから飛んだ。背後のミサイルが爆発する。仮面ライダーBLACKは加速した。

 

「は───」

 

コウモリ怪人の喉に赤熱化した右拳が突き刺さる。

 

「ラ゛イ゛ダ ー ───」

 

ミサイルの爆風を利用し加速、勢いが増した拳がコウモリ怪人を捉えた。

 

「パァンチッ!!」

 

右腕を振り抜く。

 

凄まじい勢いでコウモリ怪人は殴り飛ばされた。爆発的な衝撃を響かせコウモリ怪人は堤防の地面に沈んだ。

 

「ア・・・ア・・・、(いでぇ、いでぇ、いでぇいでぇいでぇいでぇいでぇいでぇいでぇいでぇいでぇいでぇいでぇいでぇいでぇいでぇよぉッ!!)」

 

軽いクレーターができた中心でコウモリ怪人は悶える。自身の喉を自ら絞めるように押さえる。いや、実際に押さえていた。全身に痛みが走るが、それ以上に仮面ライダーに殴られた喉が一番痛かった。喉を押さえなければこの激痛でどうにかなってしまいそうだった。

 

満点の星空に一際目立つ紅い光が視界に入った。コウモリ怪人は発見してしまった。此方に向かって落ちてくる紅い瞳の黒い戦士を、

 

(くるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなッ!!?)

 

動けない、体が言うことをきかない、喉が痛い、いたい、ニゲナキャ・・・、

 

ああ、ああ!

 

ヤツがくる!

 

ベルトのキングストーンが輝く。右足にエネルギーが集中していく。空中から地上へ落下、いや自分から落ちるスピードを早めていく。

 

「ラ゛イ゛ダ ー ───」

 

体を丸め高速回転、赤熱化した右足を付き出し天から降り注ぐ稲妻と化す。それが、コウモリ怪人ミナガが見た最期の光景だった。

 

「キックッ!!!」

 

堤防にできたクレーターに黒い稲妻が落下。凄まじい爆発が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ・・・ハァ・・・」

 

走る。爆発が起きた地点へ雪音クリスは急いだ。

 

「どうなった? ・・・・・・おーい! 仮面ライダー!」

 

コウモリ怪人が墜落し、後を追うように追撃をした仮面ライダーBLACK。彼等がいるであろうその場所は爆煙で何も見えなかった。

 

どうなったか? あのクソコウモリは倒せたか? 彼は無事なのか?

 

不安を隠せないでいると煙の奥から影か近づいてきた。

 

思わずアームドギアを構えるがそれは杞憂に終わった。

 

「お、いたいた。やったぜクリス!」

 

煙から出てきたのは(ヨーにぃ)だった。

 

仮面ライダーから人間の姿に戻っておりこちらへ笑顔を向けながらサムズアップしていた。

 

その笑顔は子供の時に見た太陽のような笑顔だった。

 

「~~~ッ!」

 

「うおっと、クリス?」

 

ギアを解除し、クリスは何も言わず陽介に抱きついた。陽介の胸に頭を押しつけ、腰に回した腕にも力が込められていた。

 

「どうしたんだクリス?」

 

「・・・うるせぇ」

 

「・・・クリス」

 

「ちょっと・・・、ちょっとでいいから・・・、このまま・・・」

 

「・・・そっか・・・」

 

クリスの顔が見えない。だけど、この少女は今ここにいる。そのクリスの頭に優しく手を置き、ゆっくりと撫でる。

 

頭に触れた瞬間、一瞬クリスはビクッとするが特に拒否するわけでもなく陽介の手を受け入れていた。

 

少女は安心した。

 

再び出会えた“大切な人”を抱きしめる。

 

少女は久方ぶりに感じる人の温もりをじっくりと感じるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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