戦姫絶唱シンフォギアBLACK   作:土紋

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第十九話 じゃあ行こうか

 

 

 

 

夜が明け、太陽が顔を覗かせようとしている時間帯。2人の人物が公園のベンチに座っていた。

 

黒山陽介と雪音クリス、港でコウモリ怪人を撃破した彼らはその場から移動、とりあえず落ち着こうということで2人は公園にやってきた。

 

「・・・なぁクリス、そろそろ」

 

「やだ」

 

「まだ何も言って」

 

「やだ」

 

「・・・・・・」

 

クリスは陽介の服の袖を摘まんで離そうとしなかった。港から公園までの移動中の間ずっとだ。戦いが終わったあとしばらく抱きついていたのだが、ハッ!と我に返り、陽介から一旦離れるが離れすぎることなくちょこちょこと近寄り彼の服の袖を摘まみ今に至る。

 

ベンチに座り多少の時間が経過したが2人の間に会話はなく少し重苦しい空気が流れる。クリスは陽介の服の袖を摘まみながらチラチラと陽介の様子を伺っていた。

 

そんなクリスを横目で観ながら陽介はコウモリ怪人との戦闘を思い出していた。

 

(妙な感覚だったなぁ)

 

右手をグッ、パッ、と開いたり閉じたりしながら振り返る。コウモリ怪人との戦いでクリスが歌を唄っている間何だか調子が良かったのだ。

 

とはいえ感覚的な問題だ。もしかしたら気のせいだったかもしれない。だけど、あの時クリスの歌がキングストーンを通じて全身に力を巡らせたような感覚を受けたのは間違いない。

 

以前、櫻井了子からキングストーンはシンフォギア装者の歌を増幅するスピーカー的な役割をしていると聞いた。実際、対ノイズ戦の際、響や翼が唄っている近くにいると、キングストーンフラッシュを使うことなくノイズに攻撃が行えた。

 

しかし、先のコウモリ怪人戦は何かが違った。何だかクリスの想いも背負って一緒に戦ったような、クリスの歌に“ノって”戦えたような、なんとも言えないが陽介は気分が、戦意が高揚して戦えたのは事実だと確信した。

 

(まぁ、なんにせよ)

 

チラリとクリスに視線を集める。

 

(クリスを守れたからいいか)

 

「・・・な、なんだよ」

 

「・・・いや、クリス、綺麗になったなぁって思ってな」

 

「な!? バッ!? こ、こっぱずかしいこと言うな!」

 

「いやいや、昔から綺麗だと思ってたけど、ますます綺麗になってお兄さんは嬉しいのです」

 

「なんだよその喋り方。あんたはあたしの兄貴ってわけじゃないだろ」

 

「そうか? 俺にとっちゃクリスはもうひとりの妹みたいなものだけどなぁ。子供の頃はタツコちゃんと一緒に『ヨーにぃ、ヨーにぃ』って後ろをついてきてたのに」

 

「子供の頃だろ。それにあれはついていったんじゃなくて、後先考えず爆走するあんたを止めようとしてたんだよ!」

 

「あれ? そうだっけ?」

 

「そうだよ。無闇出鱈目に騒動に突っ込んでくんだから、それを見せられるこっちは状況についていくのに必死だったんだからな」

 

ジトーっと陽介を睨むが、当の本人はたははと誤魔化すように笑う。子供の頃からあまり雰囲気が変わってないように見えるがクリスには1つ気になる点があった。

 

「なぁ、その目、どうしたんだ?」

 

「ん? ああ、この目か」

 

「子供の時は、その、普通の黒目だっただろ。カラーコンタクトってわけでもなさそうだし、そんな紅くなって」

 

「俺もよく分からないんだが、いつだったかなぁ・・・・・・、あぁ、ゴルゴムとの戦いが終わったあたりかな? 不意に鏡みたらなんか紅くなってたんだよね」

 

「大丈夫なのか?」

 

「うん、別になんともないよ。普通に生活できてるし、まぁ前より視力がちょっとよくなったくらいかな」

 

「ゴルゴム・・・・・・、あのさ」

 

「うん?」

 

「タツコちゃんやエイにぃは今何してるんだ?」

 

「・・・・・・」

 

「あの2人があんたが仮面ライダーになったことを知らないはずないだろ? 2人はどこに? 元気にしてるのか?」

 

「いや、もう、いないんだ」

 

「え・・・」

 

「俺が仮面ライダーになったあの日、あいつは、月海影太(つきうみえいた)はシャドームーンになったんだ」

 

「な・・・」

 

「俺は、ゴルゴムからあいつを取り返す為に戦った。タツコちゃんもそれをサポートしてくれた。ほんとは巻き込むつもりなかったんだけど、タツコちゃん、結構頑固でね。俺の方が丸め込まれちゃって一緒に行動することになったんだ。・・・だけど、今思えば無理矢理にでも引き離せばよかったよ・・・」

 

「ちょ、ちょっと待てよ。シャドームーンがエイにぃだって言うんなら、ゴルゴムが壊滅したってことは」

 

「あぁ、シャドームーンは俺が倒した」

 

「そんな・・・」

 

「・・・そして、ゴルゴムとの決戦でタツコちゃんは、命を落とした」

 

「ッ!? 」

 

「情けないよなぁ。奪われた家族を取り戻せず、守らなきゃいけない大切な家族を守れず、クリスが言ってたとおりちゃんと守れなかったよ」

 

「そ、そんなことねぇよッ!」

 

「クリス・・・」

 

「あたしは、あたしは助けてもらった! 子供の時も、さっきも、助けてくれた! もう誰もあたしのことを気に掛けてくれる人はいないんだって思ってた! でも、ヨーにぃは来てくれた! 助けてくれた! あたしは嬉しかったんだ! だから、だからよ、そんな悲しい顔すんなよ・・・」

 

失ったものは取り戻せない。自分を助けてくれた青年が沈んだ顔をしている。体を人外に改造され、異形の集団から奪われたものを取り返す為に戦い、異形の集団から人々を守るために戦い、そして打ち勝った。しかし、彼は本来の目的、大切なものを守れなかった。きっと大きく傷付いた筈だ。

 

巨大な悪を倒しても彼の戦いは終わっていなかった。休む間も無くノイズという人類の天敵と戦い、そして今、自分を助けるために戦った。

 

戦って、戦って、戦い続けてきたそんな青年の為に自分は何ができる? 上手く言葉にできない。伝えることができない。

 

でも、だからこそ、

 

「───~♪」

 

「クリス?」

 

その口から歌がこぼれたのは自然だったのかもしれない。

 

子供の頃に唄った歌。人を励ます歌。そんな歌をクリスは唄った。

 

静寂の公園でクリスの歌が響き渡る。朝焼けに照らされながら唄う少女の姿に陽介は思わず見惚れた。銀髪が煌めき、透き通る歌声が自分を貫いていく。

 

しばらくして、歌が終わる。

 

「・・・あたし、なんで・・・」

 

唄い終わってから自分の行動に驚く。歌は嫌いだ。自分の歌はもう壊すことしかできない筈だとそう思っていた。たけど、今のは迷いなく唄うことができてしまった。何故、どうしてと困惑しているさなか

 

拍手。たったひとりの観客が拍手をしていた。

 

「やっぱり綺麗な歌だな。・・・うん、そうだな。うじうじしたってどうしようもないしな、ありがとなクリス。励ましてくれて」

 

そこにあるのは笑顔。自分の歌を聴いて嘘偽りのない感想がとんでくる。そこで、クリスは思い出した。かつての光景を、父と母が音楽で人々を笑顔にしていた光景を。

 

(ああ、そうか)

 

音楽で平和を作るなんて叶う筈のない無謀な夢だと思ってた。だけど、父と母はそうは思ってなかったんだ。笑顔になってくれる人がいる。音楽で心を救う。いきなり世界を平和にできなくても1人1人を笑顔にできれば、いつかそれが平和に繋がると信じたのだ。

 

だから、諦めなかった。危険な場所に飛び込もうとも音楽で必ず平和を掴むと希望を捨てなかったのだ。

 

(あたしの歌でも誰かを救えるんだ)

 

目の前の青年の笑顔。子供の頃から変わらぬその笑顔に少女の心は暖かくなった。

 

雪音クリスは希望を持てた。

 

「よし! やるぞ!」

 

「んお!? どうしたクリス?」

 

「やりたいことができた! だけど、その前にケリをつけなきゃいけないことがある!」

 

「それは?」

 

「ああ! それは」

 

クゥ~とクリスのお腹から可愛らしい音が鳴った。

 

「・・・」

 

「・・・・・・」

 

「えっと、まずはゴハンかな?」

 

「ち、ちが!? あたしは、別に腹が減ってるわけじゃ」

 

ググゥ~と陽介の腹も鳴った。

 

「あ~。俺も何だか腹が減ったし、とりあえずゴハンにしよぜ、な?」

 

「し、仕方ねぇな! 腹が減ってはなんとやらだしな!うん!」

 

安心したからか緊張の糸がほつれ両者の腹が主張しだす。せっかく決意を固めたクリスだったが腹の音が恥ずかしかったのか顔が若干朱く染まる。腹の音を誤魔化すように声を上げ、2人はその場から移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガツガツッ!」

 

「ああ、ほらクリス。慌てなくてもゴハンは逃げないから」

 

「へふにはわへへへぇほ」

 

「うん、しっかり飲み込んでから喋ろうな? 口周りにご飯粒ついてるし」

 

「~~~ッ!!?」

 

「ああ! ちょ!? 服の袖で拭わないの!」

 

「ほっほっほ。元気じゃのう」

 

場所は移り、陽介とクリスは喫茶店ストーンに訪れていた。周りを警戒し、陽介の後ろに隠れながら店内に入るクリスの姿を微笑ましそうに見つめながら。

 

店内にはおやっさんこと店長の石田さんがおり、事情を話せる範囲で説明、おやっさんは特に深く詮索することなくいつもように仏のような笑みを浮かべ陽介達を迎い入れてた。

 

カウンター席にクリスを座らせ陽介は奥の厨房に消える。ニコニコと笑う老人の生暖かい視線にむず痒い思いをしていると、おにぎりとお茶を運んで陽介が帰ってきた。おにぎりを2人で食べるがやけにがっつくクリスに陽介は驚くのだった。

 

「すいませんおやっさん。急に来てキッチンまで貸してもらって」

 

「気にせんでよい。この店も物好きな常連くらいしかこんからな。たまの来店ぐらいがちょうどええわい。それにしても、えらい別嬪な娘さんじゃの。あの子ら以外にそんな可愛らしい娘さんと知り合いだったとはのう」

 

「・・・別嬪・・・」

 

「まぁ、この子は家族みたいな友人、って感じですかあだだ、どうして俺の脇腹を小突くんだクリス?」

 

「う、うっせぇ!」

 

「ほっほっほっ、仲が良いようで何よりじゃ。さて、食器は儂の方で片付けよう。おぬしらはゆっくりしていくとよい」

 

空になった皿を持ちキッチンの方へ石田は向かい、陽介とクリス、2人の間に一瞬、間ができるが、さて、と陽介が口を開いた。

 

「これからどうする? 俺としてはこのまま二課に向かおうと思うんだが」

 

「・・・わりぃけど、まだあたしは二課には行けない。決着をつけなきゃいけない相手がいる」

 

「それって、例のフィーネってヤツかい? 何者なんだ?」

 

「フィーネは・・・、フィーネのことはよく分からない。あたしが日本に帰ってきた時に会って、あたしの力が必要だって言ってくれた。バルベルデから帰って来ても、パパとママはもういない。帰ってきたところであたしの帰る場所はもうなかった。だがらフィーネの言葉に乗った。争いの火種を消す、そのためにあたしは戦った。・・・戦ったつもりでいた。けど結局、あたしはフィーネに見捨てられた」

 

「クリス・・・」

 

「でも、でもフィーネは言ってたんだ『痛みだけが人を繋げることができる』って! あたしとフィーネの間に絆なんて確かなものはなかったと思う。役目を全うできなければお仕置きもされた。だけど、繋がってたんだ。糸みたいにか素朴てもひとりぼっちになったあたしはフィーネと繋がっていたんだ! なのに・・・」

 

その繋がりは家族や友人と結ぶような絆ではないのかもしれない。だが、クリスにとっては違うのだ。家族を失って独りになったクリスには唯一の繋がりだった。だから思うのだろうフィーネのことを憎みきれない。バルベルデで自分を虐げた『大人』とは違うと、だけど、この胸のもやもやを上手く表現できない。自分はフィーネをどう思っているのか、どうしたいのか。

 

「よし、そんじゃ行こうか。フィーネのところに」

 

「へ・・・?」

 

「クリスがフィーネに対して複雑な思いを持ってるのはわかった。なら会いに行こう。もしかしたら顔を会わせればなにかハッキリするんじゃないか?」

 

「でも」

 

「大丈夫だって、癖がありそうな人っぽいけと根っからの悪人ってわけじゃなさそうだし。それに俺もフィーネには一言お礼も言わなきゃならないしな」

 

「お礼って、何でだよ」

 

「だってさ、フィーネがクリスを保護? してくれたから俺とクリスはこうしてまた会えたんだ。あんまり誉められたやり方じゃないと思うけど、それでも言いたい、クリスを助けてくれてありがとうってね」

 

「・・・ハァ・・・、どんだけポジティブ思考なんだよあんたは」

 

「なはは。おやっさ~ん! おにぎりとお茶代、ここに置いときますね~!」

 

「お~」

 

「待てよ! 何か行く気満々だけど、フィーネがどこにいるのかわかんのかよ」

 

「わかんない」

 

「おい!」

 

「だけど、クリスならわかるんじゃないか? フィーネがいそうなとこ」

 

「ぬ、ぐ・・・」

 

なにやらトントン拍子で物事が進んでいく。そういえば、子供の頃からこんな感じだったなぁと改めて思い出す。

 

「変わってねえんだな、ヨーにぃは」

 

「ん?」

 

「あ~もう! わかったよ! 案内するよ! だけどな、そこにフィーネが居るかはわかんねぇぞ!」

 

「おう、まずは行ってみようぜ!」

 

警戒心のないこちらを信じきった眩しい笑顔。雪音クリスという個人を信頼するその笑顔に一瞬戸惑うが呆けている場合ではない。

 

2人は店を出る。いつの間にか呼んでいたロードセクターに2人は乗り、フィーネがいるとおもわれる場所へ走りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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