戦姫絶唱シンフォギアBLACK   作:土紋

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第二十二話 そのころの二課地下

 

 

 

 

小日向未来は現状を整理しようと必死だった。

 

現在、彼女はリディアンの地下にあるとあるシェルターの一室にいた。この部屋には同級生で仲の良い3人の友達、板場弓美、安藤創世、寺島詩織がいた。彼女達が避難していたこのシェルターに入り込む形で未来は彼女達と再会した。

 

他には、二課司令、風鳴弦十郎、その二課のオペレーター、藤尭朔也と友里あおいが、あと他の場所の様子を確認しに部屋を離れている緒川慎次もいる。

 

チラリと未来は弦十郎の方へ視線を向ける。視線の先は彼の腹部、包帯が巻かれ血が滲んでいた。

 

何故、こんなことになってしまったのだろう。小日向未来は先ほどまでの出来事を振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは突然だった。

 

なんの前触れもなくノイズが現れ、リディアンを襲撃した。パニックに陥る生徒達、彼女達の避難誘導を自衛隊の人と一緒に手伝い、他に逃げ遅れた人がいないか探している時に私もノイズに襲われてしまった。

 

間一髪というところで緒川さんに助けてもらい何とか二課行きのエレベーターに乗り込みノイズから逃げることができた。

 

だけど、エレベーターの天井を突き破り金色の鎧を纏った女の人が現れ緒川さんに襲いかかった。2人の会話から信じられないことに一連の騒動の黒幕は、目の前の女の人、櫻井了子さんだった。

 

混乱してしまうが、私も、私に出来ることをしようと思った。どうにか了子さんを止めようとはしたけどなんの力も持たない私では何も出来ず、プロの緒川さんも追い詰められてしまう。

 

そんな私達のピンチに現れたのは二課司令の風鳴弦十郎さんだった。これまた天井を突き破って現れた弦十郎さんは了子さんを止める為に拳を握った。そこからは圧倒された。

 

弦十郎さんはその驚異的な身体能力で了子さんを追い詰める。天井を握り潰して足場にしたり、床を足で砕いたり、砕いた床の破片を蹴り飛ばしたりと、とてつもない光景を見せられた。この場にとあるクラスメイトがいれば“アニメじゃあるまいし”とツッコミを入れているだろう。それほどまでに弦十郎さんは凄まじい人なんだと実感しました。

 

ネフシュタン? という超常の力を纏った了子さんを翻弄し、その岩山のような拳を了子さんに叩き込む。勝負あったと思った次の瞬間、弦十郎さんが了子さんの鞭に貫かれていた。

 

何がおこったかわからないまま事態は進行していった。お腹から血を流し倒れる弦十郎さん。それを踏みつけて弦十郎さんから端末を奪う了子さん。

 

「・・・殺しはしない。そんな救済をお前達に与えるものか」

 

吐き捨てるように言うと了子さんは背をむけた。

 

銃声。私達の後ろから聞こえた突然の発砲音。了子さんの背中に銃弾が命中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や~れやれ、やっとノイズから逃げきれたかと思えば、これはまたえらい状況ですね~」

 

この場の緊張感を崩すような気だるげな声と共にその者は現れた。

 

緒川と同じ黒服に身を包み、胡散臭い笑みを浮かべながら歩みよってくる細目の男が、

 

「貴様ッ・・・」

 

「蛇川さん!?」

 

「はいは~い。みなさん無事・・・というわけではなさそうですね」

 

緒川が男の名を呼ぶ。未来はほぼ初対面だが緒川の様子から見て味方なのだと思った。

 

「ん~、司令がやられてるなんて驚きですが、仕方がありません。もう一仕事するとしますか」

 

「ふん、貴様に何ができ───」

 

銃声。フィーネの口の中に弾丸が放り込まれた。

 

「ッ!! そんなものぉ!」

 

「ほいっと」

 

「な・・・、グッ!?」

 

喋りかけた途中で問答無用で弾丸を撃ち込まれる。思わぬ衝撃でのけ反るが、ネフシュタンの鎧を纏ったフィーネには通じなかった。 しかしフィーネが体勢を戻すと蛇川は閃光グレネードを投げる。その眩しさに視界を失う。

 

視界を失った一瞬、蛇川はフィーネをソバットで蹴り飛ばした。首を狙った一撃。フィーネは壁際に叩きつけられた。しかしフィーネにダメージはない。蹴りを首に直撃しながらも弦十郎ほどの威力はなかった。

 

「貴様程度が私を止められると───」

 

「これ、な~んだ?」

 

蛇川はぽ~ん、ぽ~んと手のひらで何かお手玉していた。それはフィーネが弦十郎から奪った端末だった。

 

「ネフシュタンの力で無理矢理扉を破壊しないのは、まだその力を制御できていないのか、あるいは破壊する為の力は、扉の先にあるものを傷つけてしまう恐れがあるからか、ですかね~」

 

チッ、と内心フィーネは舌打ちする。癪だがこの男の言うとおりだった。扉を先にあるもの、完全聖遺物デュランダルを万が一傷つけ、何らかの不備がおこってしまえば、ここまで進めてきた計画が台無しになってしまう。

 

この扉を破壊するのはネフシュタンの力を使えば可能だが、便宜上セキリュティの関係で頑丈な作りをしている為、無理矢理破壊するのはためらう。

 

そのため櫻井了子か、二課司令風鳴弦十郎の端末でのみ扉のロックを解除する仕組みになっているのだ。自身の端末は緒川の銃撃で破壊された為、今蛇川が持っている弦十郎の端末がどうしても必要なのだ。

 

「さてさて、緒川さん、小日向さん、今のうちに司令を連れてここから離れてください。いくら司令でも止血させなきゃまずいでしょ?」

 

「蛇川さんは?」

 

「彼女、どうやらこれ(端末)が必要なようですからね。私が足止めしときますよ」

 

「危険です。避難するなら全員で」

 

「ん~、それを彼女が許しますかね~」

 

言葉の終わり際にネフシュタンの鞭が蛇川に迫る。ヒラリ、と身を捻り結晶が連なったような鞭を避けた。

 

「ほら、議論している暇はないですよ」

 

「・・・・・・わかりました。お気をつけて。・・・未来さん、すいません。手を貸してください」

 

「は、はい」

 

いろいろと勝手に事態が進行しプチパニックに陥っていた未来だが、緒川の声にハッ! となり2人で弦十郎を担ぐ。銃撃と鞭が振るわれる音を聞きながらその場から離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、行ってくれましたか」

 

「貴様、どういうつもりだ」

 

「はい?」

 

「ここで私と事を構えても貴様に得はあるまい。今さら正義に目覚めた訳でもないだろう、多重スパイの貴様が」

 

「んふふ、そうですね~。まぁ確かに、“正義”なんて大層なものを私は持ち合わせてないですよ。しかし、仕事仲間を見捨てるつもりもありません」

 

「フッ、仲間か、どの口が言うのか」

 

「ええそうですね。あなたと米国政府のパイプを繋いだり、広木大臣の移動ルートをうっかり漏らしたり、暇人を勧誘したりと、みなさんに知られてしまったら私、嫌われてしまうかもしれませんね~」

 

自分が行った行為を悪びれる様子もなくケラケラと笑いながら蛇川は語る。

 

 

「・・・さっさとその端末を此方に渡せ。そうしたら見逃してやる。貴様に構っている時間はないのだ」

 

ここで時間を無駄にすることはフィーネには耐えられなかった。何よりこの男とこれ以上会話するのは嫌悪感が増す一方だった。

 

「え~、そんなこと言わないでくださいよ~。私はもう少しあなたと遊びたいんですよ~」

 

しかし蛇川は、そんなフィーネの内情を知ってか知らずかからかうように言葉を続けた。

 

ため息をこぼしフィーネは鞭を振るう。蛇川はまだ何か言いたそうだったが、そんなことはしらんとばかりにフィーネは蛇川をさっさと排除して端末を取り返すつもりだった。

 

「おやおや、せっかちですね~」

 

「な!?」

 

だが蛇川はフィーネの目の前にまで来ていた。2人の距離は3~4メートル離れていた距離だったが、フィーネが振るったネフシュタンの鞭を蛇川は鞭の側面を這うように移動した。

 

常人離れした動き。先ほどの弦十郎のような理不尽な動きに驚きを隠せない。いや、それにしてはあまりにも人間離れした動きだ。これではまるで───

 

「あら、こんな時に考え事ですか」

 

口内に銃口を捩じ込まれる。抵抗は間に合わず、引き金が引かれる。3発、撃たれた。

 

衝撃はあった。だが、痛みはない。ネフシュタンと融合したフィーネの体はその内部も超常的な防御力を発揮していた。ニヤリと笑い、鞭を振るう。

 

「あらら、やっぱりダメですか」

 

ひょい、と鞭を躱し蛇川は軽口を叩く。弾切れになったのか手にしている銃をポイッと投げ捨てた。

 

「無駄なことは止めておけ。どうあがいても貴様に勝ち目などないぞ」

 

「まぁまぁ、そう焦らず。もう少し付き合ってくださいよ~」

 

フン、と軽く鼻をならし鞭を振るう。今度はスピードもパワーも上げて蛇川に襲いかかる。これならば仕留められる。奴もそれなりに身体能力に自信があるようだが、風鳴弦十郎ほどではあるまい。この一撃で奴の体は貫かれる───

 

蛇川の姿が消えた。鞭が虚空を突く。

 

「んふふ♪」

 

背後から声。ふりむ、脇腹から痛みと衝撃が走った。

 

「ぐ、が!?」

 

なんだ!? このパワーはッ!?。

 

脇腹を蹴られ壁に叩きつけられる。嫌らしく笑う男を忌々しく睨みつける。

 

「おやおやおやどうしました? そんなに怖い顔をして、なにかおかしいことでも? クフフフフ!」

 

「貴様、何者だ!」

 

「何者? 貴女も知ってるじゃありませんか。私の名前は蛇川悟。二課所属のエージェントですよ。まぁ、知ってのとおり多重スパイでもあるんですけどね、ウフフ!」

 

腹が立つ。仕留める筈の攻撃は当たらず、風鳴弦十郎の拳に匹敵するのではないかと思う蹴りの一撃。そして何よりもあの笑い声が無性に腹が立つ。

 

「・・・いいだろう。付き合ってやろう貴様の遊びに、代償はその命だがなぁ!!」

 

「アハハッ! ではでは、少しの間ですが楽しんでいきましょうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼェゼェと少しばかり荒くなった息をフィーネは整える。フィーネは握りしめた端末を目にして少し安堵する。続いて廊下にある煤の山を見て深呼吸をした。

 

「最初からこうすればよかったのだ」

 

馬鹿な事に付き合ったと軽い自己嫌悪に陥る。だが、頭を振り直ぐ様次の行動に移るのだった。

 

蛇川悟は死んだ。完全聖遺物ソロモンの杖によって呼び出されたノイズによって煤と成り果てた。

 

フィーネが繰り出す攻撃を蛇川は余裕を持って回避していた。鞭を振るえど当たる気配はなく、逆に距離を詰められ蹴りを入れられる始末。しかし、蛇川の攻撃は明らかに手加減されていた。

 

蹴りを頭、胴体などに受けてもさほどダメージはなく、此方をおちょくるだけのヤル気のない攻撃。それがまたフィーネの怒りを昂らせる。勢いを増すフィーネの攻撃、縦横無尽に振るわれるネフシュタンの鞭だが、肝心の蛇川にはカスリもせず、床や壁を砕くだけだった。

 

薄気味悪い笑い声も相まってフィーネの怒りが頂点に達しようとした時に、フィーネは思い出した。自分が人間に対する絶対抹殺兵器を司る完全聖遺物を所有していることに。

 

ソロモンの杖を取り出し、ノイズを召還。あれま、こいつは不味い、と顔が強張る蛇川を見れたのは優越だった。どれだけ超人的な身体能力を持っていようと蛇川も所詮は人、ノイズに対抗できる手段など持ち合わせてはいなかった。

 

襲いかかるノイズから必死に逃れようとする蛇川の姿は実に不様だった。動きが緩慢になった蛇川の右手首をネフシュタンの鞭で切断。右手に持っていた端末を奪い返す。

 

右手首を斬られ、苦痛の悲鳴をあげる暇もなく蛇川はノイズに押し潰され、煤へとなった。その現物、蛇川だったものが目の前にある。

 

「あっけないものだ。ここに来なければ少しは息長らえたものを」

 

そう呟きフィーネはデュランダルが保管されている部屋へ向かう。もう彼女を止められる者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

避難した一室の生きている電源を利用し外の状況をモニターで見る。荒い画質の映像を食い入るように小日向未来は覗き込む。

 

目に映るのは崩れたリディアン学院の映像。響と過ごした大切な日常がもう見る影もなくなっていた。その中で一際目立つ巨大な“塔”。そして、黄金の鎧を纏った了子さん。

 

彼女があそこにいるということはあの場に残ったあの人はどうなったのだろか。嫌な想像が膨らむが今は無事を祈るしかない。

 

彼女、了子さんに相対するかのように3人の少女が現れ、戦いが始まった。響と翼さん、それにあの子はクリスだ。みんな了子さんを止めるために戦ってる。だけど、

 

「・・・いない・・・」

 

いない。あの場に、こういう場面に駆けつけて来てもおかしくないとある青年がいない。何故?

 

(陽介さん・・・)

 

両手を握りしめ祈る。今の彼女にはそれしかできない。彼女達の、彼の無事を祈る。モニターに映る激化する戦闘を見ながら小日向未来は祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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